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課題解決より、課題発見!No.1

現場の超リアルな課題は、地球の課題につながっている

2021/06/14

日本NPOセンターと電通で設立した「課題ラボ」。

日本NPOセンターのネットワークを通じて全国から集めた最前線の課題を、異なるスキルや業種の人たちで集まって考える。そんな、“ありそうでなかった”課題発見のシンクタンクです。

本連載では「子ども」「食」「シニア」など、さまざまなテーマにまつわる、ちょっぴり意外な、でも、つい解きたくなるような「課題」を見つけて、解決のヒントを模索していく予定です。

初回は「課題ラボ」立ち上げメンバーである日本NPOセンター事務局長の吉田建治氏、元電通でクリエーティブプロジェクトベース代表取締役の倉成英俊氏、電通の田中直樹氏による鼎談をお届け。なぜ「課題ラボ」をやるのか?何を目指しているのか?立ち上げ当時のエピソードから振り返ります。

吉田氏、倉成氏、田中氏

全国5万のNPOネットワークは、課題の宝庫!

田中:話の発端は2017年のこと。10年以上、協働プロジェクトをご一緒してきた日本NPOセンターの年次総会に初めて参加した際、壇上の吉田さんとNPOの参加者の方々がとても白熱した議論を交わしている光景に、衝撃を受けました(笑)。

吉田:当時はまさに転換期の真っただ中でした。2015年にSDGsが国連で採択され、企業も「本業を通じた社会課題解決」を意識し始めていましたし、NPOでもビジネス的な手法をより積極的に使って課題解決に取り組もうという団体が増えていました。その結果、営利/非営利の境界が曖昧になり、「NPOならではの取り組みは何か?」「自分たちは何を大切に活動するのか?」を再確認する必要に迫られていたのです。

田中:総会に参加したNPOの方が「我々はどこに向かうのか!」と発言されていたことが非常に印象に残っています。その後、吉田さんに詳しく話をお聞きするうちに、社会の大きな変化に企業もNPOも戸惑っているけれど、一方でこれは何か新しい変化が生まれるチャンスだと思い、倉成さんに相談しました。

倉成:よく覚えていますよ。「大好きな組織が困っているから知恵を貸して欲しい」と言われて、打ち合わせの場に連れていかれたんです。そこで組織のことをいろいろと教えていただく中で、特に驚いたのが「日本NPOセンターには全国5万のNPOネットワークがある」ということでした。

NPOは世の中の課題を解決するために存在していることを考えると、1つのNPOは少なくとも1つの課題と向き合っているわけで、つまり日本NPOセンターは「5万の課題を知っている組織」だと気付いたんです。しかも日本は課題先進国と言われる。世界最先端の現場の課題が集められるなんて、すごい、と。

田中:「矢印を反対向きにしませんか?」という提案をしてくれたよね。

倉成:そうです。つまり、企業のCSR部門や行政の依頼をNPOにつなげるのではなく、NPOの方々が現場で向き合っているリアルな課題を収集し、それらを企業や行政につなげる仕組みを作りたいと考えました。

なぜなら、僕がお付き合いしている各社の新規事業部界隈では「課題解決より課題発見が大事!」と言われ本もたくさん出ているけど、課題発見のいい仕組みはほとんどなかったからです。

吉田:まさに「課題ラボ」が生まれた瞬間でしたね。

課題ラボの仕組み
「課題ラボ」の仕組み。上の点線の矢印の逆で、下の矢印の流れを作る。

コピーライターが、ネーミングで課題を“見える化”

倉成:「課題ラボ」のスタートにあたって、二つのアイデアがありました。一つは、NPOの現場にある最前線の課題を収集すること。これは全国5万の素晴らしいネットワークを持つ日本NPOセンターにしかできないことです。

もう一つが、課題に名前を付けること。例えば「海洋マイクロプラスチック問題」とか「ゴミ問題」とか社会課題は名前がついて初めて認知される。だから、「〇〇問題」とネーミングすると、顕在化していない最先端の課題が認識されたり、自分ゴトに感じられて、より多くの人たちに理解を広げられると。

日本NPOセンターに集めていただいた課題に、電通のコピーライターが「〇〇問題」と名付ける。それが最初のコアとなるアイデアでした。

「…問題」の例

田中:早速、企業10数社の新規事業開発部署やCSR部署の方々に集まっていただき、「子どもの課題」をシェアしたら何が起きるかを実験しました。それが予想以上にすごく盛り上がって、これは絶対に面白くなる!という確証が得られましたね。吉田さんは印象に残っている課題ありますか?

吉田:神奈川県で子どもや若者の支援活動をしているNPO法人「パノラマ」代表の石井さんのお話から生まれた「教育困難校のキャリアのきっかけがない問題」。家庭環境などの都合で文化的な体験に触れられないことが、キャリアをつかむチャンスに影響してくるという話をされていて、そんな視点があったのかと驚きました。

倉成:学校や職場などのコミュニティーで何かの話題になったとき、それに関連する体験をしているかどうかで、その後のコミュニケーションや人間関係、ひいては人生にも影響するという話でしたね。例えば、自分が住んでいる県から出たことがない子がたくさんいる。出たことがないと他の県の話についていけない。それは経済の格差の影響です、と。

その経験は簡単なことでいい。例えば、豆から挽いたコーヒーを飲んだことがあるか、それだけで、会話のキッカケや幅が拡がる、とおっしゃっていて、非常に分かりやすいと思いました。

吉田:石井さんが文化的な体験を自分の中に作ることを「文化のフック」と表現されたことで、一気に頭の中にイメージが湧いてきました。

田中:セッションでは、文化的な体験を作ることは企業でもできるから、「株式会社フック」を作ろうという話も出ていました。課題ラボとしては、企業とNPOが、支援する/支援されるという関係性ではなく、共に社会課題の解決を目指す共同体と位置付ける。お互いに専門性を持ち寄り、面白いものを生み出していく活動を続けていきたいですね。

 

NPO法人「パノラマ」代表 石井様インタビュー 〜文化のフック(校内居場所カフェ)〜の一コマ。課題ラボセッションでは、このような現場の動画を流し、課題のリアリティーを伝えている。


全人類が有識者。一個人の課題に光を当てよう

吉田:もう一つ印象的だったのは、組織の肩書きで参加しながらも、一個人としての課題を語ってくれる方が多かったことです。

田中:自分の気持ち、血が通った思いを話してもらうことはとても大切ですね。

倉成:以前、企業の方と大学生を集めて「課題ラボ」のミニセッションを行いました。それは新しい試みで、日本NPOセンターさんが集めた課題じゃなく、その場の参加者が感じている自分が気づいた問題に名前をつけてシェアするというものだったんですが、女子大生から「東京のゲロ問題」という強烈な課題を頂きました(笑)。ネーミングは奇抜ですが、朝の登校中、道に吐瀉物が放置されているけれど、あれはだれも片付けなくていいの?という至極真っ当な疑問から生まれた課題です。

これについて、鉄道会社の方は、ホームの端に置いてある“おがくず”で処理しているとプロの実体験を話すと、身体活動データを蓄積している企業の方が「ウェアラブルを使って、人が吐く前にアラートを鳴らすことができるかも」と重ねてきて、ビジネスのアイデアがどんどん広がっていきました。

社会課題は、つい大きな組織や有識者の意見に注目が集まりがちですが、本来は個人が日常的に肌で感じている課題も対等に認知されるべきだと思うんです。「有識者が言う課題が偉いと思っちゃってる問題」が発生していますよね。

田中:現場のリアル感、個人の強い思いやワクワクする気持ちも大切ですね。NPOのみなさんが発見して自発的に向き合っている課題を知ると、知らなかったことを反省したり、何かやらなきゃという気持ちになります。なぜなら、誰かが本気で取り組んでいることが伝わるから。

倉成:僕は、世の中の人「全員有識者」だと思っています。みんな、この世界で仕事を持ち、納税して、生活している。全員がこの社会についての有識者なんです。それを互いにシェアして、みんなで解き合う社会にするといいと思いません?

吉田:解決が難しい課題の多くは、いろいろな問題が複雑に絡み合っているので、その構造を知っている人、つまり実際に現場で課題と向き合っている人と対話しながら考えていくことが大切です。と、こうやって私たちが話していることも厳密には現場の声ではないので、「勝手に代弁していいのか問題」がありますけれど。

自社だけで解決できない課題こそ、「課題ラボ」にぶつけて欲しい

田中:日本NPOセンターとして、今後「課題ラボ」に期待することや注力していきたいことはありますか?

吉田:さらに対話の場を広げていきたいです。「課題ラボ」に参加した企業の方から「社内でもやりたい」という声を頂くこともあるので、ラボから派生した活動を生み出していけるといいですね。

それから、今後は課題発見の先にあるNPOの現場と企業とのつながりも、もっと創出していく必要があると思っています。

田中:最近の活動では、フルリモートでセッションを重ね、課題ブックの作成まで導けた事例もあります。コロナ以前と比べて、地方など離れた現場にもアクセスしやすい環境が整いましたから、協働の可能性も広がります。

倉成:まだスタートしたばかりの活動なので、この先いろいろなカタチに発展していく可能性があると思います。例えば、組織を変革するために「課題ラボ」のワークショップを活用していただくなど、僕らでも想像していなかった使い方に出会えるとうれしいですよね。

田中:すでに企業・団体からご相談いただいている案件も多様です。一つの課題に複数の組織で取り組むことで解決策を目指しているケースもあります。自社だけで解決することに限界を感じたときは、ぜひお気軽に「課題ラボ」にお声がけいただければと思います。

次回以降、毎月のテーマを決めて、「課題」と「解決例」をたくさん紹介していきますので、今後の連載にもこうご期待ください!


課題ラボ

課題ラボ
電通と日本NPOセンターが協働し、 2018年に設立。NPOと企業が「支援される側、支援する側」の関係でなく、「ともに社会課題の解決を目指す協働体」となることを目指し活動するラボ。

「課題解決の前に課題発見あり。会議室でなく現場にヒントあり」をコンセプトに、全国の社会課題に対して、最先端の現場と接続できることを特徴とする。

コンサルティングサービスと事業開発の両面で、サービスを提供中。

  1. コミュニケーション/ブランディング(サスティナブル+現場の視点)
  2.  商品・事業開発/プラットフォーム開発(ダイバーシティ&インクルージョンをテーマにしたサービス開発など)
  3. 「課題発見」志向の人財開発プログラム
     

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