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課題解決より、課題発見!No.2

コロナ禍で居場所を失う子どもたちに、大人ができることとは?

2021/08/24

日本NPOセンターと電通で設立した「課題ラボ」。

日本NPOセンターのネットワークを通じて全国から集めた最前線の課題を、異なるスキルや業種の人たちで集まって考える。そんな、“ありそうでなかった”課題発見のシンクタンクです。

本連載では、さまざまなテーマにまつわる「課題」を見つけて、解決のヒントを模索していきます。

連載第2回のテーマは「子ども」。2018年に実施したイベントで取り扱った課題を振り返りつつ、コロナ禍で子どもたちが新たに直面している課題について、日本NPOセンターの上田英司氏と電通の鳥巣智行氏が語り合いました。

上田氏と鳥巣氏


 

「修学旅行をきっかけに問題?」

鳥巣:課題ラボでは、他業種の人々が混ざり合ってディスカッションする「QROSS SESSION」というイベントを開催しています。その記念すべき第1回のテーマが「子ども」でした。これは上田さんからの提案だったと記憶しているのですが、どうして「子ども」を選んだのですか?

上田:私は日本NPOセンターで企業とNPOの協働事業を担当しているので、さまざまな企業の皆さまから社会貢献に関するご相談を頂いていました。その中で業界問わず最も問い合わせが多かったのが、実は「子ども」に関するテーマだったのです。

鳥巣:その背景にはどんな理由があったのでしょうか?

上田:まず、企業が社会貢献活動に参加する際は、多くのステークホルダーからの理解を得る必要があります。その点、「子ども」は共通理解を作りやすいテーマだったのではないかと思います。また、当時は子どもの貧困問題が報道で大きく取り上げられ、社会からの注目が一気に高まった時期だったことも要因のひとつだと考えられます。

鳥巣:そうでしたね。さまざまな角度から数多くの課題を集め、最終的にイベントでは8つの課題を取り扱いましたよね。

子どもの課題

上田:課題ラボの特徴として、エビデンスやファクトなどの裏付けが確かな課題だけでなく、最前線の現場にいるNPOの方々が感じている課題も扱うようにしています。

鳥巣:正直、全然認識していなかった課題がたくさんあって驚きました。「修学旅行をきっかけに問題」なんかは、まさに現場ならではの気づきですよね。

上田:修学旅行の持ち物(カバン・パジャマ・小物など)は自己負担なので、家庭の経済環境が明るみになってしまったり、また地方の旅館には個室シャワーがなく集団で温泉を利用するケースが多いので、LGBTの子どもたちにとって大きなハードルになってしまう、という問題です。

鳥巣:私は修学旅行の温泉で無邪気にはしゃいでいた子どもだったので、この視点はなかったとドキッとさせられました。

コロナ禍でSOSを出せなくなった子どもたち

鳥巣:もうひとつ、印象に残っているのが「読み書きができない問題」。この課題が議題に挙がった時、新宿区の新成人の半数近くが多文化を背景に持つ方だと聞いてびっくりしたことを覚えています。

上田:新宿に限らず、日本に暮らす外国籍の方は増加しています。例えば、15歳を超えて来日した子どもは義務教育を受けることが制度上難しいため、日本語を学ぶためにはNPOがやっている日本語教室や夜間中学校に通うなど、機会が限られています。加えて、外国にルーツを持つ保護者が日本語を読めないケースもあります。学校から配布されるプリントひとつとっても、その方々にとっては非常にハードルが高く、子どもに対して十分な準備やサポートができなかったりするんです。その結果、本当は教育熱心なのに、語学や情報伝達の壁で「教育に関心がない」とレッテルを貼られてしまい、ますます学校教育への参加が難しくなるという悪循環が生じています。

鳥巣:そもそも学校教育のシステム自体が、外国にルーツを持つ保護者や子どもが増えているという現実に即していない、という課題があるかもしれませんよね。上田さんが気になった課題はありますか?

上田:「遊び場減少問題」ですね。公園自体は増えているのですが、それが本当に子どもたちにとって遊びやすいものになっているかというと、必ずしもそうではないと感じています。

鳥巣:ボール遊び禁止、大声禁止など、禁止事項やルールが多くて逆に子どもたちのストレスになっている、という指摘がありましたよね。

上田:それから、地方では学校の統廃合が進んだ結果、遠方からスクールバスなどで学校に通う子どもが増えたので、放課後にみんなで遊ぶ機会が減っているようです。外遊びには「アポイントを取る」「集合場所や時間を調整する」「何をして遊ぶか決める」といった基本的な社会スキルを身につける役割もありますから、大事な成長プロセスが失われてしまうのではないかと危惧しています。

鳥巣:「遊び場減少問題」や「夜間の居場所がない問題」は、コロナ禍でも改めて浮き彫りになった課題ですよね。

上田:おっしゃる通りです。1回目の緊急事態宣言で行政が管理している公園が閉鎖され、ただでさえ遊び場が少ない子どもたちが、いよいよ居場所を失ってしまう事態に陥りました。品川区で子どもの居場所づくりをしているNPOの方に話を聞くと、「コロナ禍で大人が大騒ぎしていると、やがて子どもは黙ります。苦しさを誰にも言えなくて、子どもたちの心はギューっと抑圧されている」と言っていて、これは本当に深刻な状況が続いていると痛感しました。

鳥巣:家庭にも子どもたちの居場所がないのでしょうか?

上田:子どもへのケアが足りていないシーンは増えていると思います。例えば両親がリモートワークで同時に会議が入ってしまうと、子どもは騒ぐと怒られるから静かにしないといけないし、親にも十分に構ってもらえないですよね。コロナ禍で親が感じているストレスが、子どもにも影響を与えている可能性も少なくありません。

鳥巣:なるほど、本当はSOSを出したいけれど言いにくかったり、自分自身も何が苦しいのか分からないこともありそうですよね。

上田:コロナ禍で、ファーストプレイスである家庭や、セカンドプレイスである学校に自分の居場所が見いだせない子どもたちにとって、先述した品川区のNPOのようにサードプレイスだった居場所が、子どもたちのファーストプレイスになっているケースもあるようです。子どもたちのSOSをキャッチするのが“居場所”の役割のひとつになっています。

鳥巣:ちなみに、品川区のNPOではどのような工夫をされているのでしょうか?

上田:彼らは「社会的点呼」と呼んでいるのですが、子どもたちに電話をかけて「元気?」とか「困っちゃうよね」といったコミュニケーションを取っていたようです。この声かけの仕方はポイントのひとつですね。「困っていることはありますか?」と聞くと、「大丈夫」と返されたり、いざ困りごとを聞いても自分たちでは対応できないことだと、結果的に不信感につながってしまいます。

鳥巣:それは興味深いお話ですね。マーケティングの調査でも、「どんな商品が欲しいですか?」と質問されても、その人自身が本当のニーズに気づいていないこともありますよね。

特定非営利活動法人教育サポートセンターNIRE代表 中塚史行氏   

 

まずは課題を知ってもらうことから。企業連携の可能性

鳥巣:今はちょうど夏休みの時期ですが、夏休みならではの子どもの課題はありますか?

上田:長期休暇で給食がなくなることが、子どもに十分な食事を与えられない家庭にとって大きな問題になっています。

鳥巣:極端な話、1日の中で十分な食事を取れるのが給食一食だけという家庭もあるのでしょうか?

上田:実際にそのケースを聞くこともありますし、3食食べていても量や栄養バランスが適切でない場合もあるのです。

鳥巣:周囲のサポートで改善できることもありそうですよね。そこは行政やNPOだけでなく、企業も取り組むべき領域だと感じています。

上田:同感です。実際に先駆的なチャレンジや社会的ニーズを捉えたアイデアを提案する企業も少しずつ増えています。「遊び場減少問題」についてハウスメーカーの方とディスカッションした際も、「家づくりの段階から、子どもが思いっきり体を動かしたり、騒音を出しても大丈夫な設計ができるかもしれない」というアイデアが出てきました。

鳥巣:家やスマホなど、生活者との身近な接点を活用して企業が発信できるものはいろいろとありそうですよね。

上田:課題ラボもTikTokと連携し、「障害のある方への配慮」に関するテーマや、若者たちがデジタル性被害に巻き込まれないためのメッセージ動画を作成しました。

TikTokの課題ラボの動画

鳥巣:TikTokのような若者に波及力のある媒体でメッセージを発信することは非常に大きな意義があると思っています。「子ども」の課題は深刻なものも多いので一朝一夕で解決できることではありませんが、まずは課題の存在自体を知ってもらうことから始めるのがとても大切ですよね。

上田:私もそう思います。そして、課題への取り組みは単なる社会貢献にとどまることではなく、例えば多文化背景を持つ方が増えているということは、ビジネス的にも新たなマーケットの可能性が生まれていると捉えることもできます。私たちも企業の皆さんと積極的につながることが重要だと思っているので、「子どもをテーマに何かしたい」というふんわりしたご相談でも歓迎いたします。

鳥巣:ぜひ新しい課題解決の方法を一緒に考えていきたいですね。本日はありがとうございました。


課題ラボロゴ

課題ラボ
電通と日本NPOセンターが協働し、 2018年に設立。NPOと企業が「支援される側、支援する側」の関係でなく、「ともに社会課題の解決を目指す協働体」となることを目指し活動するラボ。

「課題解決の前に課題発見あり。会議室でなく現場にヒントあり」をコンセプトに、全国の社会課題に対して、最先端の現場と接続できることを特徴とする。

コンサルティングサービスと事業開発の両面で、サービスを提供中。

  1. コミュニケーション/ブランディング(サスティナブル+現場の視点)
  2. 商品・事業開発/プラットフォーム開発(ダイバーシティ&インクルージョンをテーマにしたサービス開発など)
  3. 「課題発見」志向の人財開発プログラム
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