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課題解決より、課題発見!No.3

地方創生の「若い人が期待されすぎ問題」をどう解くか?
課題発見からはじめる地域の仕事のつくりかた

2022/02/01

日本NPOセンターと電通で設立した「課題ラボ」。

日本NPOセンターのネットワークを通じて全国から集めた最前線の課題を、異なるスキルや業種の人たちで集まって考える。そんな、“ありそうでなかった”課題発見のシンクタンクです。

本連載では、さまざまなテーマにまつわる「課題」を見つけて、解決のヒントを模索していきます。

今回取り上げるテーマは「地域」。地方共創ベンチャーのFoundingBaseと課題ラボが実施した島根県津和野(つわの)町でのプロジェクトを事例に、FoundingBase坂和貴之氏と、課題ラボメンバー(日本NPOセンター:三本裕子氏、電通:鈴木雄飛氏、高橋窓太郎氏)が地域の課題を発見し、活性化させる方法を語り合いました。

坂和氏、三本氏、鈴木氏、高橋氏
坂和氏と鈴木氏はもともと地元の知り合い。課題ラボの話を聞いた坂和氏が、「ぜひ津和野町でもやってみたい!」と依頼したことからプロジェクトがスタートした。
<目次>
地域の仕事をつくる前に、人間関係をつくる
定年退職した高齢者を“マイスター”として捉えると?
地方創生にありがちな「若い人たちが期待されすぎ問題」って?
見せ方・伝え方の工夫で、「課題解決」はずっと面白くなる

 

地域の仕事をつくる前に、人間関係をつくる

鈴木:今回は課題ラボ×FoundingBaseのプロジェクトメンバーに集まってもらいました。みなさんは普段から地域の課題解決に取り組んでいる方々でもあります。まずは簡単にご自身の活動内容と、地域の活動を始めたきっかけを教えていただけますか?

三本:日本NPOセンターは全国各地のNPO団体の活動を下支えする役割を担っています。私はもともと環境系のNGOで働いていたのですが、国際会議などで海外の方から「日本はどうして変わらないんだ?」と言われることがよくありました。やはり、日本を本気で変えるには地域の皆さんと一緒に活動することが重要で、私自身もそこに向き合って勉強していきたいという思いから、日本NPOセンターにたどり着きました。

高橋:僕は電通で働きながら、宮城県石巻市雄勝(おがつ)町で一般社団法人を立ち上げて、アートを切り口にした地域活動を行っています。きっかけは、地方創生の事業を考えるワークショップに参加したことでした。実際にフィールドワークとして雄勝町に足を運び、住民の方々にヒアリングを行い、最終的に事業を提案するところがプログラムのゴールだったのですが、提案するだけで実行しないのは無責任な気がしたので、同じ思いを持ったメンバーと一緒にスモールスタートで取り組んでいます。

坂和:私はFoundingBaseという全国に13拠点を持つ地方共創ベンチャーで、島根県津和野町の第一次産業の支援や教育インターンプログラムの考案などを、地域の方々と一緒に行っています。もともと東京出身なのですが、大学のサークルで地域のフリーペーパーを作る活動に参加したことがきっかけで、地域ならではのコミュニティの絆の深さや小規模経営者の方々の生き方に魅了されました。その後、サークルの先輩からFoundingBaseの前身となる津和野町のプロジェクトに参加しないかと声をかけてもらい、当時大学生だった私は休学して島根に飛び立ち、今に至るという感じです。

鈴木:ありがとうございます。三人とも地域の魅力を日々体感されていると思いますが、逆に地域ならではの難しさを感じることはありますか?

高橋:そうですね、例えば何かを提案したい時に、誰にどういう順番で話をすればいいのかが分からなかったり、どのくらいの人数と合意形成を得られたら次に進めるのかが見えにくかったりするところが、ふだんの事業活動と違うと感じています。

坂和:分かります。やっぱり地域はコミュニティのつながりが強いので、そこに対するバランス感覚は求められますよね。単純に合理的であれば必ずしも物事が進むとは限らず、郷土愛であったり、長年の人間関係の中で育まれたルールなどを考慮しながら進める必要があると思います。

定年退職した高齢者を“マイスター”として捉えると?

鈴木:お話しいただいたような地域特有の難しさもある中、今回津和野町で課題ラボ×FoundingBaseのプロジェクトを実現できたのは、ひとえに坂和さんの素晴らしい働きかけによるものだと思っています。

【島根県津和野町での課題ラボ×FoundingBaseプロジェクト】

津和野プロジェクト
島根県津和野町で活躍する地域のプレイヤーの方々を集め、普段の活動の中で感じる身近な課題を収集。日本NPOセンターの知見を掛け合わせながら、集めた課題にキャッチーなネーミングを施す「課題カード」を制作した。

鈴木:実際、どのような方法で地域の方々に話を通したのでしょうか?

坂和:やはり企画段階では地域の方々もどんな結果が生まれるのか分からないので、もちろんプロジェクトの意義や企画内容は丁寧に説明しますし、予算の作り方もコーディネートします。その上で、やはり大切なのは「僕が最終的には必ず良い方向に着地させます」と言った時に、皆さんから賛同を得られる状態をつくること。その意味では、これまでの活動の中で貯めてきた「信頼残高」が大きかったのかもしれません。

高橋:なるほど、信頼残高。勉強になります……!

鈴木:地域の方々と信頼関係を築いてきた坂和さんのおかげで課題ラボ×FoundingBaseのプロジェクトがスタートし、まずは津和野町の課題を集めてみようということで、津和野町で地域活動を行っている約15名の方に日ごろ感じている課題をヒアリングしました。収集した課題の中からいくつか紹介しましょうか。

三本:私が共感したのは、「マイスターはたくさんいるのに活用してない問題」です。津和野町の高齢者の中には植木職人として活躍されていた方や、おはぎ作りで有名な方など、素晴らしいスキルを持っている人たちがたくさんいます。そのような“マイスター”が活躍する機会が増えれば、津和野町の新しい魅力が開花するかもしれません。この課題は、津和野町に限らず全国の高齢化率が高い地域に共通するものだと思いました。

マイスターはたくさんいるのに活用してない問題

鈴木:高齢者の方々を登録した「シルバー人材センター」という場所があるそうですが、名称を「マイスターセンター」変えてみるのもアリですよね。ウェブサイトでマイスターたちのカッコいいポートレートが並んでいて、「植木のことはこのマイスターにお任せください」と書かれているだけでも相談してみたくなります。

坂和:地方創生は若い人たちが取り組むケースが主流ですが、町の人口比率で圧倒的に多いのは高齢者です。その方々が特技を発揮して活躍すると、町にもたらすインパクトはとてつもなく大きいだろうなって思います。

鈴木:それから、当日一番盛り上がったのが「津和野栗をモンブランにしがち問題」。名産品の津和野栗の使い道がモンブランなどの王道レシピばかりなので、もっと新しい視点で捉えてみたら思わぬ名物が誕生するのではないか?という問いかけですね。

津和野栗をモンブランにしがち問題

坂和:津和野栗はもともと和菓子に使われていた食材だったこともあって、なかなか地域の方々が携わりにくいというか、食のプロじゃないと企画できないというハードルの高さがあるのかなって思いました。

三本:一方で、最近は特産品のブランディングに地域の若い方など食のプロではない方が携わっているケースも増えてきているように感じます。

鈴木:ハードルを下げるアプローチは良さそうですよね。例えば、飲食店やカフェに地域の方々が集まり、モンブランを食べながらみんなでブレストして、いくつかのレシピを試作する。それを地域の方々が審査員になって、名産品として認められるかを審査するイベントがあったら面白そうですよね。

地方創生にありがちな「若い人たちが期待されすぎ問題」って?

高橋:僕がハッとさせられたのは、「定住を強いると逆に人は離れてゆく問題」。定住って大きな決断なので、いきなり定住するのはハードルが高いと僕自身も感じています。でも、実際に空き家とか遊休不動産はいっぱいあるので、まずは特定のシーズンとか定期的に住める“半住”からスタートできる場所があるといいのかなって思いました。

地域に溶け込む上で、やっぱり“アドレス”って重要だなと感じています。昨年の秋、事業の一環で雄勝町で滞在制作展示をした時に、アーティストが雄勝町でキャンプ場のロッジに1カ月住んでいました。僕も毎週末東京からロッジに泊まりにいっていたのですが、それでも「キャンプ場の高橋さん」として地域の方々に認知してもらえて、再び訪れると「おかえり」って言ってもらえるんですよね。

定住を強いると逆に人は離れてゆく問題

坂和:地域のコミュニティで自分の役割が生まれたり、人間関係が育まれたりといったプロセスを経て、結果としてその土地に定住することになると思うので、最初から定住一択しかないのはハードルが高いのかもしれませんね。

一方で受け入れる側からすると、長く住み続けてくれる人と一時的な人では、やっぱり関わり方の違いはあるのだろうなと感じます。ですから、“半住”であっても毎年決まった期間は必ず住んでくれるとか、熱量を持って地域と関わってくれる人だと、住民も受け入れやすいのかなと思いました。

三本:逆に地元出身の方々の課題として「“このまちにいたい”のに“なにしたらいいかわからない”問題」が挙がっていましたよね。津和野町の高校生の5人に1人が就職組という中で、地元に残って働くのは全体のたった4%。地元に愛着を持っている子はたくさんいるのですが、何をすればいいのか分からないから県外に行ってしまい、起業する環境も整っていないからUターンも難しいという現状があります。

“このまちにいたい”のに“なにしたらいいかわからない”問題

坂和:津和野町は学校教育の魅力化に積極的に取り組んでいて、津和野高校の生徒のうち4割が県外から来ています。近年は地域教育や、地域に根ざしたワークショップもさかんに行われているのですが、それをどう次につなげていくかが課題です。大学進学や就職でいったん町を出たとしても、その先に戻ってくるきっかけや余白のようなものを作れるといいなって思っています。

高橋:雄勝町も限界集落と呼ばれていて、小中学校は全校生徒32人程度。地元に住み続けてもらえるのがベストですが、どうしても離れざるを得ない時もあるでしょう。その時に、「離れ方」をデザインするのは一つの手だと思うんです。

雄勝小中学校は外部のデザイナーを呼んで、生徒と一緒に架空の会社を作りました。みんなで事業を決めて、ロゴもちゃんと作って。すると、その会社は架空の存在ですが、その地域にずっと残り続けるんです。このように、離れた町に自分が作ったものが残り続けていることは非常に大事なんじゃないかって思います。

鈴木:すごく面白い視点ですね。記憶を形に残すことで、地元との手触りのあるつながりを持続させる。

坂和:なるほど。確かに、地域のワークショップに参加してくれた高校生が、大学の夏休みにまた戻ってきて参加してくれることもあります。継続的な関わりを持つためのアクションや仕掛けを作ることが大切なのかもしれませんね。

三本:また別の視点ですが、「なにをしたらいいかわからない」という悩みの背景には、「なにかをしなきゃいけない」というプレッシャーがあると思うんです。でも、そんなことは決してなくて、ふつうに暮らすだけでもいいですし、地域で面白い取り組みをしている人を応援するだけでも、すてきな地域との関わり方ですよね。私は地域の課題解決に関して「若い人たちが期待されすぎ問題」もあると感じているので、もっと気軽に住めることを発信できるといいなって思います。

見せ方・伝え方の工夫で、「課題解決」はずっと面白くなる

鈴木:ここまで皆さんにお話しいただいたように、今回のプロジェクトでは津和野町の課題に名前を付けて、地域の方々に興味を持っていただけるように「課題カード」という形でアウトプットを作りました。坂和さんは「課題カード」の意義をどのようにお考えでしょうか?

坂和:「課題」ってネガティブに捉えられがちで、実際に解決するのも大変なので、どうしても取り組める人と取り組めない人が出てきてしまうんですよね。でもこうやって、自分たちの地域の課題を良い意味で面白く見える化することで、これまで関わってこなかった人が興味を持ってくれたり、今までにない新しいつながりが生まれるきっかけになると思うんです。

僕自身、ふだん感じている課題感をそのまま編集会議で提示しましたが、課題ラボのメンバーからネーミングを含めたコミュニケーションのアイデアや、全国のNPOの事例などをフィードバックしていただき、「なるほど、こんな見せ方・伝え方があるのか」と大きな刺激を受けました。

鈴木:今後、「課題カード」はどのように活用されていくのでしょうか?

坂和:今、学校現場に「課題カード」を持ち込んで、生徒たちと解決方法を考えるワークショップを検討する動きが出ています。また、FoundingBaseとしても津和野町に課題解決の拠点を作りたいと思い、大正時代からある古民家を改修してオフィスやコミュニティラウンジを持つ施設「まちのオフィスQ+」をオープンしました。

三本:課題カードを見ながらみんなで意見を出し合うと、また新しい課題を発見できそうですね。

坂和:今回のプロジェクトはリモート環境で進めていたので、いつか「まちのオフィスQ+」に地域住民や学生を集めて「リアル課題ラボ」をやりたいです。

鈴木:すてきですね。ぜひ、課題ラボのメンバーで遊びに行きたいです。本日は、ありがとうございました。
 


課題ラボロゴ

課題ラボ
電通と日本NPOセンターが協働し、 2018年に設立。NPOと企業が「支援される側、支援する側」の関係でなく、「ともに社会課題の解決を目指す協働体」となることを目指し活動するラボ。

「課題解決の前に課題発見あり。会議室でなく現場にヒントあり」をコンセプトに、全国の社会課題に対して、最先端の現場と接続できることを特徴とする。

コンサルティングサービスと事業開発の両面で、サービスを提供中。

  1. コミュニケーション/ブランディング(サスティナブル+現場の視点)
  2. 商品・事業開発/プラットフォーム開発(ダイバーシティ&インクルージョンをテーマにしたサービス開発など)
  3. 「課題発見」志向の人財開発プログラム
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