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課題解決より、課題発見!No.4

パタゴニアと課題ラボが提案する、環境問題へのアクションを増やすための“入り口”の作り方

2022/08/16

日本NPOセンターと電通で設立した「課題ラボ」。

日本NPOセンターのネットワークを通じて全国から集めた最前線の課題を、異なるスキルや業種の人たちで集まって考える。そんな、“ありそうでなかった”課題発見のシンクタンクです。

本連載では、さまざまなテーマにまつわる「課題」を見つけて、解決のヒントを模索していきます。

今回のテーマは「環境」。課題ラボがアウトドア企業のパタゴニアと一緒にSHIBUYA TSUTAYAで実施した展示「課題ラボの課題図書 -環境の課題編-」およびトークイベントの内容を振り返りながら、パタゴニア日本支社(以下パタゴニア)の中西悦子氏と課題ラボメンバー(日本NPOセンター:三本裕子氏、電通:高橋鴻介氏)が、環境の課題との向き合い方について語り合いました。

中西氏、三本氏、高橋氏

【課題ラボの課題図書 -環境の課題編-】
身近なようで遠い「環境の課題」をパタゴニア日本支社とその環境助成先団体の協力のもと収集し、その課題への理解を深める入り口となる「課題図書」をSHIBUYA TSUTAYAで2022年4月1日から4月30日まで展示。4月26日にはパタゴニアの中西氏をゲストに迎えたトークイベント「パタゴニアと課題ラボで、『環境の課題』集めました。」も開催した。
展示の様子

課題をまだ知らない人たちに、知ってもらう“入り口”を作ることが重要

高橋:「課題ラボの課題図書 -環境の課題編-」は、課題ラボメンバーで企画し、パタゴニアさんと一緒に作り上げた展示イベントです。展示では収集した40個の課題の中から約30個の「環境の課題」と、それぞれの課題を深く知るきっかけになる「課題図書」を紹介しました。これらは、パタゴニアが支援している環境団体の方々とも話し合って形になったものです。今回はトークイベントにも登壇していただいたパタゴニアの中西さんを交えて、いくつかの課題を紹介しながら、環境の課題との向き合い方を考えたいと思います。はじめに、中西さん、自己紹介をお願いします。

中西:パタゴニア日本支社の環境・社会部門アクティビズムチームを統括しながら、アクティビズム・コーディネーターとして社内外のステークホルダーの方々と一緒に社会課題と向き合い、その解決に向けてさまざまなキャンペーンやプログラムを実施しています。パタゴニア直営店にはアクティビズム責任者と呼ばれるキーパーソンが1名ずついるため、各店舗が向き合っている地域の課題も常に共有しながら、日本支社全体の活動を前進させています。私個人のスタンスとしては、社会課題の専門家ということではなく、地球に暮らす一人の人間として、また社会の一部として何ができるのかを日々考えながら活動しています。

高橋:とても面白い取り組みですね。また、専門家ではなく一人の人間として考えるという姿勢にも非常に共感します。僕自身、社会課題のことを詳しく知らないからこそ、その課題にまつわる書籍を一緒に紹介することで、深く知るきっかけが作れると思ったことが、今回の展示企画につながっています。そして、環境をテーマにするならぜひともパタゴニアにご協力いただきたいと思い、三本さんの紹介で中西さんにお会いしました。最初にこの企画を提案した時の印象はいかがでしたか?

中西:まず三本さんをはじめとする日本NPOセンターが、私たちが支援する環境団体を別の角度からサポートされていて、実際に社会を変えようと行動されている姿を見てきたので、その方々からの提案であればきっと社会にとって大切なことなんだろうなと思っていました(笑)。

三本:ありがとうございます(笑)。

中西:その一方で、「〇〇問題」と表現すると、人によっては難しく捉えてしまうのではないかと少し心配していました。ただ、詳しく話をお聞きすると、ものの見方を提案することで今よりも半歩先に進めるといいますか、それこそ環境問題にあまり詳しくない人や難しいと感じている人でも関わる入り口を作ってくれそうだと感じて、とても良い企画だと思いました。

実際、環境問題に取り組んでいる方々は、今目の前にある課題を解決する活動に全力を注いでいるので、まだ知らない人たちに関心を持ってもらう活動に時間を割くのは難しいケースが多々あります。その役割を担ってくれる存在はすごく重要だと思います。

三本:その中でも、今回はパタゴニアが助成しているNPOの方と課題を作り上げる時間を設けてくださったことがありがたかったです。本当に一語一句、細かなニュアンスまでアドバイスを頂くことができたおかげで、とても深い「環境の課題」を発見できたと思っています。

課題book
課題ラボがパタゴニア日本支社・パタゴニアの環境助成先団体の協力のもと作成した「課題ラボのQADAI BOOK 環境の課題編」

1冊の写真集から、課題解決に向けたアクションが生まれることもある

高橋:SHIBUYA TSUTAYAで展示した課題の中から、特に印象的だった課題をいくつか紹介したいと思います。三本さんはいかがですか?

三本:「食べるものによって環境負荷が増える問題」ですね。日本の食糧の約60%が輸入されているため、輸送の過程で発生するCO2排出量だけでも膨大になります。また、牛が食べる穀物には水が必要であり、農地拡大や放牧のために森林も大量に伐採されています。つまり、私たちが何を食べるのかを選択することが、環境負荷にも大きな影響を与えているということです。

高橋:その課題に合わせて、展示では「スタジオ・オラファー・エリアソンキッチン」という、現代アート作家のスタジオの共同キッチンで生まれた実験的なベジタブル料理のレシピ本を紹介しました。「食べるものが環境負荷に影響する」とだけ言われてもピンとこないかもしれませんが、この本を手に取ってみると、レシピという身近なテーマを通じて食の選択肢がたくさんあることを知ることができます。

三本:あと、今回は来場者に一番気になった課題に投票してもらったのですが、最も票が集まったのが「ケータイのためにゴリラが殺されてしまう問題」です。携帯電話にはレアメタルの一種であるタンタルという素材が使われているのですが、コンゴではこのタンタルを採掘するために邪魔な野生のゴリラが殺されています。近年、欧州では人権や環境に配慮して採掘された金属を使った携帯電話も販売されています。

投票の様子
投票結果
たくさんの投票が集まった

高橋:「携帯電話」と「ゴリラ」という、一見かけ離れているようなもの同士で課題が生じていることにビックリしました。この課題と一緒に「アフリカ経済の真実」という本を紹介したのですが、いつもはあまり読まないジャンルの本だけど課題がきっかけで手に取ってみた人もいたようです。

中西:本当に切り口が秀逸な課題が多いですよね。私が紹介したいのは「昔の渇水が未来予想を水増しする問題」です。半世紀近く前に持ち上がった長崎県佐世保市が事業者の石木ダム建設計画が、人口減少が進む現在も続いており、住民と行政が対峙(たいじ)している課題です。この課題に合わせて紹介したのが、写真家の村山嘉昭さんがダム建設予定地である川棚町こうばる地区の風景やそこで暮らす13世帯の家族を撮影した「石木川のほとりにて」という写真集です。

高橋:とても美しい田園風景に引き込まれる写真集ですよね。環境問題がテーマの本と聞くと分厚い本や難しい本をイメージしがちですが、今回は写真集や漫画など、親しみやすい“入り口”も用意することを意識して選書を行いました。

中西:実際に、村山さんが撮影した蛍の美しい写真を新聞で見た佐世保市の中学生が、地元の新聞感想文コンクールで入賞したことをきっかけに環境問題に興味を持つようになり、現在は大学で地方創生を学びながら石木ダムにまつわる市民活動「ダムより花を」に参加したりと取り組まれています。最近も、私たちのウェブサイトに素晴らしいエッセイを寄せてくれました。このように、1冊の写真集がきっかけとなって、課題解決のためのアクションが生まれるケースもあります。

社会課題に向き合うNPOとの共創が、企業のソーシャル活動を前進させる

高橋:僕がハッとさせられたのは、「日本の6割が自分の力に気づいていない問題」です。国際比較調査グループISSPの調査によると、「私だけが環境のために何かをしても、他の人も同じことをしなければ意味がないと思う」と回答した日本人が6割に及ぶというもの。確かに、環境改善は目に見えないものが多いからこそ、手応えを感じにくい側面はあるかもしれないと思いました。

三本:たしかに、一人では手応えを感じにくいですよね。そんな時は誰かの取り組みにのってみるのをおすすめします。たとえば、こんな事例があります。ある方がごみの捨てられている川でごみ拾いを始めました。最初は一人でしたが、徐々にその輪が広がり見事に川は再生しました。ごみ拾いに参加していた人々でNPOをつくり、いまではその川でクルージング事業まで展開しています。仲間ができることで、手応えを分かち合い魅力的なアイデアが生まれたのだと思います。 

中西:共通の目的を持った仲間と連携することはとても大切だと思います。例えばライフステージの変化などで動けないタイミングがあったとしても、他に動ける人がいればその活動は続けられるわけです。今はおのおのができるタイミング、無理なくできる範囲で取り組めるプラットフォームが充実していますし、それぞれのタイミングに合わせて一緒に活動したり、別々に活動したりする。そんな緩やかなつながりが、時代的にも合っているのかもしれません。

高橋:なるほど。今回集まった課題を編集していて感じたのは、それぞれの課題が個別に存在しているようで、実はつながっている課題も多いということ。例えば、NPO同士で共感できる部分から新しい切り口の課題を見つけて、一緒に取り組むこともできるのではないかと思いました。

中西:そうですね。課題を編集し直すことで気づくこともあるのだと、今回の企画を通してあらためて学ぶことができました。アフリカの採掘にまつわる問題も「ケータイのためにゴリラが殺されてしまう問題」のように、多くの人が思わずパッと目を向けてしまうような視点で捉え直すと、全く知らなかった人がちょっと調べてSNSで投稿してみたり、寄付で応援してみたりと、新しいアクションを起こす人たちが増えるかもしれません。そこに大きな可能性を感じました。

展示風景

三本:私は今回の活動を通して、NPOの方々がいかに丁寧に、真剣に社会課題と向き合っているのかを改めて実感しました。だからこそ、みんながまだ気が付いていない課題をNPOとともに大きな声にしていくパタゴニアは、すごく大切な存在なのだと思いますし、そういった企業がもっと増えると、社会全体で課題に対する感度が高まり、自分たちで未来を作っていくことができるのではないかと思いました。

中西:社会の課題発見能力に長(た)けたNPOを支援し、共創することは、企業のソーシャル活動を推進する上で有効な一手になり得ると思います。私たちも「真の問題解決は力強い草の根活動を通じてのみ実現しうる」として、環境保護活動に取り組む団体への「環境助成金プログラム」を設けています。2022年度の申請は8月31日が締め切りですので、興味のあるNPOの方はぜひガイドラインをご一読の上、お申し込みいただけたらと思っています。

高橋:すてきな活動ですね。先ほどパタゴニアは声を上げてくれる存在という話がありましたが、課題ラボとしてもNPOの方々の素晴らしい取り組みを集めて、共感してくれる仲間を集めることを目指しています。そういう意味で、今回その先駆者であるパタゴニアとコラボレーションできたことはすごく刺激になりましたし、今後も一緒に活動していけるとうれしいです。本日はありがとうございました。


課題ラボ

課題ラボ
電通と日本NPOセンターが協働し、 2018年に設立。NPOと企業が「支援される側、支援する側」の関係でなく、「ともに社会課題の解決を目指す協働体」となることを目指し活動するラボ。

「課題解決の前に課題発見あり。会議室でなく現場にヒントあり」をコンセプトに、全国の社会課題に対して、最先端の現場と接続できることを特徴とする。
コンサルティングサービスと事業開発の両面で、サービスを提供中。

  1.  コミュニケーション/ブランディング(サスティナブル+現場の視点)
  2.  商品・事業開発/プラットフォーム開発(ダイバーシティ&インクルージョンをテーマにしたサービス開発など)
  3. 「課題発見」志向の人財開発プログラム
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