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ウェルネス1万人調査から読み解くヘルスケアキーワードNo.4

ヘルスケア領域で自治体が求める、民間企業の力とは?

2021/09/28

「ウェルネス1万人調査」の結果を考察し、へルスケア領域の新潮流を専門家との対談でひもとく本企画。今回のテーマは、「官民共創のヘルスケア」です。

ヘルスケア課題を解決するためには、人々の生活の深いところまで関わっていき、中長期的に並走していくことが必要です。そのためには、地方自治体と民間企業の連携が求められることも多く、全国でさまざまな取り組みがされています。兵庫県神戸市は、企業と協業して次々と先進的な取り組みを進めている都市の一つです。

そこで今回は、神戸市役所のチーフ・エバンジェリストとして首都圏で神戸の魅力を発信している栗山麗子氏をゲストに迎え、官民共創のヘルスケアを実現するコツについて、電通ヘルスケアチームの中村祐貴がインタビューを行いました。

栗山氏と中村氏

コロナ禍の生活者のニーズとリンクする、神戸市の魅力

中村:近年、生活者の「健康意識の高まり」や、「都心離れ」「生活価値観や仕事観の多様化」といったキーワードを見聞きする機会が増えています。栗山さんは神戸市の首都圏プロモーションを担当されていますが、都会に住む方々と接する中で意識の変化を感じることはありますか?

栗山:最近は都心離れをテーマにした取材をしていただく機会が増えていますし、実際に地方へ移住したいと考える人も増えていると感じています。昨今世界的に注目されているウェルネスには体だけでなく心の健康も含まれます。そのような視点で「自分にとって幸せを感じられる場所かどうか」が生活拠点を選ぶ上で重要なポイントになってきているのではないでしょうか。

中村:最新の「ウェルネス1万人調査」では、体の健康にとどまらず、ウェルネス視点での質問も手厚く行いました。例えば、“幸せ度”について、自己採点をしてもらった結果が下記です。コロナ禍で人々が求める“都会の利便性⇔自然による癒やし”のバランスと、神戸市の魅力にはリンクする部分があるような気がします。

幸せ度
※小数点第2位で四捨五入

栗山:神戸市の魅力は、都会と自然の双方の良いところがギュッと詰まっている点にあると考えています。中心地である三宮周辺は歴史ある港町で都会的ですが、すぐ北には六甲山、南には瀬戸内海があり、常に自然を身近に感じられます。さらに、車で30分程度行けば、田んぼや畑のある古き良き日本といった里山地地域にもアクセスできます。私は神戸出身の人間ではないのですが、よそから来た人や多様性を受け入れる文化が根付いていることも実感していて、そんな点も神戸の魅力だと感じています。

神戸市風景

中村:神戸と聞くと観光名所やグルメをイメージしがちですが、実は幸せ度の高い生活を送る場所としてのバランスがとても良いのですね。

栗山:もちろん、従来の観光名所やグルメ、都会的なイメージも魅力の一つではありますが、自然やリラックスも求める首都圏の方々のニーズにも同時に応えられる街です。豊かに年を重ねていくには、心身共に健康に暮らしていける環境が欠かせません。地方創生とウェルネスは切り離せないものだと考えています。

パン作りで、シニア男性の社会的孤立を防ぐ!?

中村:神戸市は医療産業都市としても知られ、ヘルスケア分野でも認知症神戸モデルをはじめ、地域課題を解決するための先進的なプロジェクトを多方面で展開されていますが、コロナ禍のヘルスケアという観点ではどのようなことに取り組まれているのでしょうか?

栗山:以前、私は民間の食品メーカーにいてヘルスケア部門にいたこともあるのですが、当時からフレイル(加齢により、筋力や認知機能、社会的つながりなどが低下した状態のこと)は社会問題として取り上げられていました。

外出自粛が続くコロナ禍の影響で、さらにフレイルの問題が深刻化することが危惧されてきましたが、実際に神戸市ではそれを裏付けるデータも取得されており、その問題の大きさを重く受け止めています。
(調査結果:https://www.city.kobe.lg.jp/a46210/press/202108031320001.html)

神戸市ではコロナ禍の早い段階からこの状況を予見し、「KOBE元気!いきいき!!体操」というフレイル予防対策を企画しました。現在もテレビ放映してもらっており、ご好評いただいています。今はYouTubeで好きな時間に好きな動画を見られる時代ですが、毎日決まった時間にテレビで流れることが、高齢の方にとっては習慣化しやすいようです。

デジタル化に注目が集まっていますが、対象年齢と目的に合わせたアプローチの選択は大切です。一方で、スタートアップ企業と組み、デジタル技術を使ったフレイル予防事業も実証実験しており、さまざまな角度からより効果的なアプローチ方法も模索しているというのが神戸市らしさなのかもしれません。

中村:フレイルに関しては、身体的な機能低下だけでなく、社会とのつながりなど精神的な健康面や環境も影響していると認識しています。「ウェルネス1万人調査」では、例えば、「日頃からワクワクすること」が、他の年代に比べて40~60代男性は少ないことが分かっています。

日頃からワクワクすることが多い
※構成比(%)は小数点以下第2位で四捨五入しているため、各割合の単純合算数値と必ずしも一致しない場合があります。

栗山:そうですね、神戸市でもシニア男性のウェルネスという視点で企画したプロジェクトがあります。通称「パンじぃ」と呼ばれているコミュニティ活動でして、シニア男性に社会との接点を持っていただくための取り組みです。これは、神戸のパン職人からパン作りを学んだシニア男性たち=パンじぃが、地域のコミュニティカフェやイベントなどで腕前を披露するというもの。ご自身が熱中できる趣味や技術を磨きながら、地域と関わる機会を増やしていただくことを狙いとしたものです。地域で居場所があるかどうかが、その人の幸せ度にも大きく影響すると考えています。

中村:非常に面白い取り組みですね。神戸市が運営しているのでしょうか?

栗山:「デザイン・クリエイティブセンター神戸」(愛称:KIITO /キイト)という交流拠点の活動の一環として、民間企業(指定管理者)に委託する形で運営しています。KIITOでは、デザインやアートに関するイベント、展示会、ワークショップなどを通して、大人も子どもも学びながら、新しいつながりを創出し、より豊かに生きることを提案しています。

神戸市は「実験都市」を掲げ、民間企業に限らずさまざまな組織・団体と連携して新しいことへのチャレンジを推進しています。その背景には、「新しいことを学んで人とのつながりをつくることが、やりがいや幸せにつながる」というウェルネス視点もあります。

自治体も新しいことに挑戦すべく、民間企業の力を求めている

中村:近年はSDGsの浸透も相まって、ヘルスケア領域に関心を持つ企業が増えてきていると感じます。地域の健康課題に取り組むためには自治体との連携が欠かせませんが、企業側から見ると協業はハードルが高いと感じることも多いと思います。

栗山:私も民間企業時代は、自治体と連携したいと考えても、「これってどこに相談すればいいの?」「どうせ断られそう……」と、なかなかもう1歩踏み出すことができずにいました。でも、実際に職員になってみて分かったのは、新しいチャレンジや民間との連携に積極的な自治体は意外に多いということ。自治体も民間の力を求めているのです。なので、まずはどの部署でもいいので、とりあえず相談していただければと思います。

中村:自治体の中でも、神戸市は先進的な取り組みに積極的な印象があるのですが、その理由はなぜだと思いますか?

栗山:個人的な感覚ですが、神戸市自体に新しいことにチャレンジする気風があると思っています。また、久元市長が神戸のみならず世界的な視点で未来を見据えているので、守りに入らず挑戦する意識が職員にも根付いているように感じます。

中村:官民共創にもいち早く取り組まれていますよね。

栗山:自治体は新規の取り組みが苦手だったり、進めにくい側面があるのは事実なので、民間企業との連携は欠かせないと思います。神戸市ではさまざまな官民協働の取り組みを行っていますが、そのうちの一つに「アーバンイノベーション神戸」(UIK)という、自治体職員と企業が協働し、自治体の課題解決と企業のビジネス成長を目指す共創プロジェクトがあります。神戸からスタートしたこの取り組みは今や全国に「アーバンイノベーションジャパン」(UIJ)として広がっています。

中村:利益を追求する民間企業と公平性や地域貢献を重視する自治体が、うまく共創するために心がけていることはありますか?

栗山:プロジェクトが進むうちに当初の構想から形が変わることは多々ありますよね。そんな中でも「何のためにやるのか」という軸を互いにブラさずに持ち続けることが大切だと思いますし、関係者が多い場合はコントロールセンター(窓口)を設けることが重要だと考えています。そして、これは当たり前のことではありますが、企業と自治体の双方が互いを尊重し、常にWIN-WINの関係を意識しながら進めることが無理なく、かつ成果につながるコツではないかと感じています。

中村:なるほど、勉強になります。でも、これだけプロジェクトがたくさんあると、一つの自治体としての方向性をまとめるのが大変そうですよね。

栗山:神戸市では、5年ごとに神戸市のあるべき姿や目指す未来を示したビジョンを策定しています。今は「神戸2025ビジョン」に基づいて各プロジェクトが動いているので、大きく方向性がズレることはありません。ただ、おっしゃるとおり、神戸市は規模が大きい自治体なので、全ての部署の全ての活動をもれなく把握することは正直難しいと感じています。外から見るとさらに理解しにくいと思います。

そこで重要になるのが、私たちのようなプロモーションチームの活動です。神戸市のさまざまな取り組みの中から、ターゲットが欲している情報と、神戸市としてみせたい情報を合致させ、さらにその情報をバラバラの“点”ではなく“面”で発信していくことがターゲットに的確に情報を伝えるためには必要だと考えています。

中村:ヘルスケア・ウェルネス視点で考えると、広く取り組むべき課題が出てきそうですが、今後、特に取り組みたいテーマはありますか?

栗山:同じウェルネス視点であっても、人によって求める内容は異なりますよね。例えば、子どもがいるか、いないかでは同性同年代でも全く求める環境は異なります。なので、一律に同じことをアピールするのではなく、ターゲットに合わせた取り組みにすることは常に意識しています。また、今後より長く働く時代に向けて、働き方を考える方が多くなってきていると感じていますので、昨年から取り組んでいる副業推進やワーケーション推進など、神戸で働く魅力や、働き方の可能性を広げる取り組みにはチャレンジし続けたいですね。

新たなトライとしては昨年冬からスタートした「つぶやこうべ」というSNSプロモーションにも力を入れています。首都圏と神戸をつなぐことを目的に、民間企業にも参加してもらいながら、ツイッター、インスタグラムなどにおける「双方向」コミュニケーションを通じて、ターゲットの心に残る情報発信を行っています。実はこれも実験的な取り組みで、これまでの結果は10月に発表予定です。今後は、ウェルネス・ヘルスケアにつながる神戸の魅力についてもこの仕組みを通じて発信していきたいと考えています。

中村:今回教えていただいた官民共創のヒントを取り入れながら、私たちヘルスケアチームも民間企業や自治体の皆さまと一緒にヘルスケア課題に取り組んでいきたいと思います。


【第4回の対談を終えて】
ウェルネスは、今後の地方創生を考えていく上で重要なテーマであり、この社会課題に対して自治体だけでなく民間企業や大学・研究機関などと連携しながら本質的に解決と向き合うことが重要だと改めて実感しました。
地域の魅力を分かりやすく伝えること、生活を豊かにするさまざまな取り組みのためにも、リサーチャーとして、日々変化している世の中の価値観やライフスタイルを捉えていくことで、力になっていきたいと思います。
 

【調査概要】
調査名:「第14回ウェルネス1万人調査2020」
実施時期:2020年11月
調査手法:インターネット調査
調査対象:全国20~60代の男女(10000サンプル) 
※性年代、地域構成比を人口構成比(8区分)に合わせて回収
調査会社:電通マクロミルインサイト


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