SDGs達成のヒントを探るNo.9
お笑い芸人・バービーさんが目の当たりにした、地方創生のリアル
2021/02/10
多様な価値観を認め、互いを尊重し合える社会の実現は、SDGs達成のために欠かすことができません。今回は、芸人の活動と並行して地元の町おこしにも奮闘しているバービーさんにインタビュー。実際に活動しているからこそ見えてきた、「地方」と「都市」のギャップや、価値観の異なる地元の人たちとの向き合い方を聞きました。
希望を持って始めた、地元の町おこし
─バービーさんは現在、地元・北海道夕張郡栗山町の町おこしに取り組まれています。始めた理由を教えてください。
バービー:自分の人生を振り返るタイミングで地元に目が向いたこと、甥っ子たちが生まれたことなど、さまざまな理由がありますが、東京と地元の橋渡しがしたいという思いが強かったからです。
私は大学進学で上京し、芸人活動も東京を拠点に行ってきました。約18年間、生活をしてみて、東京の価値というものを十分に感じています。しかし、同時に田舎の良さも離れてみて気づきました。家族や親類が暮らす故郷の栗山町に思いを馳せると、このまま彼らが自分たちの住む場所の魅力に気づかないままでいいのだろうか、と感じていました。
栗山町は炭鉱で発展した町で、1963年には人口約2万4500人のピークを迎えました。その後は流出が進み、2019年には約1万1000人と、ピーク時の半数以下です。
主産業は農業で、米、小麦、じゃがいも、玉ねぎ、大豆、とうもろこし、メロンなどを栽培しています。種類は豊富ですが、隣の夕張市の「夕張メロン」のようにブランド力が高いものはありません。また、観光で北海道を訪れる方は多いですが、道内の他の地域ほど観光客の足を向けさせるものがないのも現状です。
行政では、移住支援や産業活性化を推進しています。私自身も町おこしの力になりたいと、4年前に友人と二人で栗山町の役場を訪れました。
しかし、私が町おこしをしたいと考えたのは、このままでは町が衰退してしまうからというネガティブな理由だけではありません。栗山町には観光名所はなくても、広大な土地や美しい自然がありますし、知名度は低いかもしれないけれど、おいしい食べ物も多くあります。うまくブランディングができれば、きっと町を盛り上げることができると考えました。これは、私が栗山町を出て東京に住んだからこそ気付けたことです。確かに地元の将来に不安はありますが、私はもっと希望を持って町おこしをしたいと思っています。
─現在は、どんな取り組みを行っているのでしょうか?
バービー:達成したいプロジェクトの一つに、「町ごとホテル化計画」があります。空き家をホテルの部屋に見立て、町内の飲食店はそのレストランといったふうに、町全体を一つのホテルにする構想です。栗山町には手入れする人もいないまま持て余している古民家がたくさんあります。地元の人には当たり前のものでも、都会に住む人には魅力的に見えるはず。手始めに現在、空き家となった古民家を購入し、リノベーションを進めています。このような施設を運営しながら、地域の雇用を創出できればと考えています。
この他にも、あまり出歩くことができない高齢者の方たちを雇用し、クラフトバンド(再生紙からつくられた紙ひも)を使ってかばんやペットベッドを編んでもらい、販売する企画を進めています。地元野菜については、もっと多くの人に手に取ってもらえるよう、ECサイトで販売したり、加工品にしたりする活動も始めました。コロナの影響でなかなか進んでいませんが、今はコロナが落ち着いたときを想定して、準備を進める期間だと考えています。
町おこしでは、「バービー」であることに何のメリットもない!
─町おこしで大変だと感じること、想像と違ったところを教えてください。
バービー:ひとつは、地元の人たちとのコミュニケーションです。町役場に乗り込んだ4年前から徐々につながりができ、直接やりとりすることも増えました。ただ、東京に慣れてしまった私からすると価値観やコミュニケーションの取り方が驚くほど違う人たちが多くいて、難しさを痛感しています。
例えばこのコロナ禍では、私が現地へ行って直接会うことは難しい状況です。でも地元の人たちからは、「会って話をしないと何も始まらない」と言われてしまうんです。そこで先日、地元の方とオンラインで打ち合わせをしてみたのですが、画面にご自身の顔が映ることに慣れていないからか、戸惑ってしまい……。普段のような会話にはなりませんでした。
では、先方のITリテラシーが高ければスムーズかというと、そうでもないと思います。「会って話をしないと」という言葉の裏には、東京よりも「信用」を大切にする風土があるからです。地元には、同じ土地で互いの顔を見ながら乗り越えてきた歴史、築いた信頼関係があります。たとえ生まれ故郷だとしても、東京暮らしが長い私がいきなり「町おこしをやりませんか」と呼びかけても、すぐに受け入れるのは難しいんです。この、行動に対する信用というのは、ゼロから築き上げなければいけません。
町おこしはそもそも、町の人と一緒にやっていくものです。こちらの常識を押し付けて進めるわけにはいきません。ある書籍で「地方創生はその地に住んで生活している人でないとできない」と書かれていたのですが、実際に自分が取り組んでみると、その意味を痛感しました。
東京で町おこしの話をすると、「バービーさんほどの知名度があったら何でもできるだろうし、地元の人も大喜びでしょう」と言っていただくのですが、全くそんなことはありません。私が「バービー」であることは、町おこしをするときには何のメリットにもならないんです。知名度があったとしても、お金があったとしても、信用がなければ意味はありません。密にコミュニケーションを取りながら、地道に信頼関係を築いていくしかない、と強く感じています。
とはいえ、私が一人一人と逐一対話をしていては、なかなか進まないのも事実です。地元で信用を得ていて、なおかつ私の町おこしの思いを地元の人に翻訳し、マネジメントをしてくれる存在も必要だと、最近では考えるようになりました。
「今のままでいい」人もいることを理解する
─実際に活動されているからこそ、見えてきたことがあるのですね。考え方や価値観が違う地元の人たちとは、どのように向き合っていけばよいのでしょうか。
バービー:私は町おこしを始める前、とにかく町に大勢の人を呼び込んだり、移住者を増やしたりすれば、皆喜ぶだろうと勝手に思っていました。でも実際に始めてみると、「なぜ東京の価値観に合わせなければいけないのか」という人や、今の生活が変わることを望んでいなくて「今のままでいい」と考える人が少なからずいると分かりました。
むしろ、これまでの生活で十分やっていける人からすれば、町おこしに積極的な人は相当な変わり者に見えるのかもしれません。新しいことに挑戦したい人もいれば、これまでの営みを守っていきたい人もいる。栗山町の中にいろいろな価値観を持つ人がいることを理解して、敬意を持って向き合っていかなければと感じています。
─いろいろ苦労しながらも、町おこしの歩みを止めないバービーさんの思いはどんなところにあるのでしょう?
バービー:私が活動を続けているのは、このままでは都市と地方の分断が進んでしまうという危機感を持っているから。そして自分自身、やりたいことや夢がたくさんあるからです。以前から定年後に地元の山を買って自分好みの庭をつくりたいという夢があったのですが、最近ではそんな先まで待つ必要はないなと思うようになりました。栗山町にある素晴らしいものを生かして、もっと人々に楽しんでもらえる町にしたいです。
そして何より、すでに活動に協力してくれた人たちがいるので、その人たちのためにも、ここでくじけるわけにはいかないという思いがあります。これからも賛同してくれる人たちと一緒に活動を続けていきたいと思っています。
今回のコロナ禍は、地方と都市のギャップを埋めるきっかけになったと思っています。これまでオンラインに縁がなかった地方の人たちが少しずつオンラインを活用し始めていて、ECサイトも注目されてきています。そして、都市の人たちはテレワークなどを経験したことで、わざわざ都市に住まなくても仕事ができると感じたのではないでしょうか。コロナは、地方も都市も変わらない経済活動ができると気づくきっかけにもなったはずです。
町おこしの目的は、町の人たち皆の価値観を変えることではなくて、地元が持つものに光を当てて生かしていくことにあります。地方と都市に住む人たち、さまざまな価値観を持つ人たちが、お互いの良いところを理解し合えるようになることが、町おこしをしていく上でとても大切なことだと私は思っています。
TeamSDGsは、SDGsに関わるさまざまなステークホルダーと連携し、SDGsに対する情報発信、ソリューションの企画・開発などを行っています。
TeamSDGsのウェブサイトでは、ウェブ電通報とは違う切り口でバービーさんのインタビューを紹介。SDGsに取り組む際のヒントになる、バービーさんのマインドについてのインタビューはこちら!