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SDGs達成のヒントを探るNo.8

2020/10/15

次世代の100年企業をつくる、「新SDGs」と「志本主義経営」とは

名和高司先生は、環境ビジネスやCSV経営にいち早く着目し、企業への導入を推し進めてきた、経営のプロフェッショナルです。三菱商事、マッキンゼーを経て一橋大ビジネススクールの客員教授に着任し、多くの企業で社外取締役を務めながら教鞭を執っています。

名和先生が考える、「生き残る企業」「サステナブルな企業」とは、いったいどんなものなのか。これからの時代に必要とされる、「新SDGs」や「志本主義経営」とは…?企業とビジネスの視点から、SDGsやイノベーションについて語っていただきました。

名和高司
一橋大ビジネススクール国際企業戦略専攻 客員教授の名和高司氏。さまざまな企業の次世代成長戦略や構造改革を支援している。

競争戦略の大家が提唱する新しい概念、「CSV経営」に刺激を受けた

―名和先生は、CSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)経営に関する著書や研究を数多く発表していらっしゃいます。まずはCSV経営との出合いについてお聞かせください。

名和:CSV経営は、2011年に、ハーバード・ビジネス・スクール(以下、HBS)のマイケル・ポーター教授が提唱した概念です。ポーター教授は、私のHBS時代の恩師です。もともとは競争戦略の大家として著名な方でした。長年、「人を蹴落としてナンボ」「競争に勝つことがすべて」といった価値観で企業を語り続けてきたはずなのに、突然、パッと目線を変えて、「社会課題の解決と経済活動の両立こそが、企業の目指すべきところなんじゃないの」と言いだした。これは非常に衝撃的な出来事でした。

CSV経営という概念によって、視線が一気に外側に向かっていって、狭い世界での小競り合いのような経済論から脱却した感がありました。なにかこう、突破したというか、レイヤーが変わったというか。「さすがポーター教授だな」と思ったことを覚えています。

ポーター教授が書いたCSV論文との出合いが、私にとっての大きなトリガーになりました。以降、CSV経営の紹介や推進に力を入れるようになり、SDGsを意識するようになって、現在に至ります。

―現在は「新SDGs」という概念を提唱していらっしゃいますよね。名和先生が発案された新SDGsとは、どのようなものなのでしょうか?

名和:SDGsは「Sustainable Development Goals」(持続可能な開発目標)の略称で、2030年までに達成すべき17の項目を示した国際目標です。一方の「新SDGs」は、企業が、2050年を見据えて目指すべき方針を見つけるための方程式のようなもの。Sは通常のSDGsとほぼ同じく「Sustainability」としていますが、Dを「Digital」、Gを「Globals」に置き換えています。そして、「新SDGs」でなによりも大切なのが、3要素をつなぐ、「志」(Purpose)です。これからは、創業時の思いや「なぜ私たちの会社がこの課題に取り組むべきなのか」といったことを追求した、「志」を軸にした経営をしなければならないと考えています。

新SDGsの概念

SDGsから新SDGsへ。そして、資本主義から志本主義へ。長く生き残るためにも、真にサステナブルな企業になるためにも、今こそ、私たちは、変わらなければならないのです。

これからの企業に求められるのは、「志の経営」と「遠近複眼思考」

―志本主義の「志」とは、どのようなものでしょう?

名和:一言でいうと、企業にとっての「北極星」です。北極星とは、企業の原点であり、普遍的なスタンスであり、究極のビジョンでもある、目指すべき道しるべのこと。これが見えていれば迷うことはありませんし、戦略や行動にブレが生じることもありません。

北極星を見つけ出すために欠かせないのが、超長期の視点です。日本の企業は中期経営計画が大好きで、3年後、5年後の目標ばかり立てているなと感じます。しかし、これだけ変化が激しい複雑な世の中ですから、3年後、5年後の予測が当たるはずがありません。もし当たったとしたら、それは、その企業が成長していないということに他ならないと思います。ですから、30年後、50年後の未来を見据えて、普遍的かつ正しいトレンドを考えることが大切なのです。

例えば自動車産業の場合。ガソリンは、いつか必ずなくなります。いつなくなるかなんて誰にも分からないし、いろいろな議論がありますが、「いずれ必ずなくなる」のです。例えば、「石油がなくなるから、石油に代わるエネルギーで動く車の開発を進めなければいけない」というように、超長期の視点でトレンドを捉え、究極のビジョンを考えることが、北極星に近づくための第一歩であるといえるでしょう。

他に、「わくわく・ならでは・できる」に着目し、企業の原点や価値、個性などをあぶり出すことも大切です。会社を始めるとき、入社するとき、多くの人は大志を抱いて、わくわくしながら、自分の会社ならではの事業や社会への貢献を思い描き一歩踏み出すものです。その思いの部分に、損得や利益を超えた究極の「志」が隠れていることも少なくありません。また、過去の危機に着目し、ピンチをどうやって乗り越えたかを紐解くことも重要です。苦しいときに考え抜いて残したものや選んだ道は、企業にとって最も大切な考えや商品であることが多いからです。こうして、その企業ならではの価値ある北極星を見いだしていくのです。

―北極星が見つかった後は、どうすればよいのでしょうか?先ほど、「中期経営計画は必要ない」とのお話がありましたが、長期の目標だけ見据えていればよいのですか?

名和:いえ、それではさすがに対応できません。北極星が明確になったら、今度はそこからバックキャストする形で、デイリーやウイークリーといった超短期の戦略を考えていきます。今回のコロナ禍のように、社会の状況は、刻々と変わっていきます。日々の状況をきちんとウオッチして、そこに自分をアジャストしていくという順応性を持たなければ、到底、戦うことはできません。

超長期と超短期。この視点を組み合わせ、「遠近複眼思考」で、ズームインとズームアウトを繰り返す。この道のりが、企業をサステナブルなものへと変えていくのだと思います。

名和高司

社会課題の解決と経済活動をつなぐのは「イノベーション」だ!

―北極星を見つけ出し、イノベーションを巻き起こした事例として、名和先生が関わったプロジェクトの中で印象に残っているものを教えてください。

名和:たくさんあるのですが…。三菱ケミカルホールディングスグループの取り組みは、非常に素晴らしいと思いました。ポーター教授がCSV経営を発表する前に先んじてCSV的な取り組みを始めていた会社で、まずは1000人近い社員を巻き込んでワークショップを行い、それぞれの現場で志や北極星を再定義する作業を行いました。50回に及ぶワークショップで未来に向けたブランドステートメントを導き出し、さらにブランドステートメントを支える三つの軸として、「サステナビリティー」「イノベーション」「エコノミック・アクティビティー」を設定、全社的に広めています。

注目すべきは三つの軸の中に「イノベーション」という要素が入っているところ。ポーター教授が提唱するCSV経営は「社会課題の解決と経済活動を両立させましょう」という理論であって、そこにイノベーションは入っていませんでした。けれども同社は、「社会課題の解決と経済活動の両立にはイノベーションが必要だ」と早い段階で気付いて、明確に取り入れていたんですよね。

磨き抜かれたビジョンや三つの軸が浸透し、植物由来の生分解性樹脂など、地球と会社の持続に寄与する画期的な新商品が生まれました。他に、「社会と企業の持続的成長には人の健康が欠かせない」として、働き方に関するイノベーションも続々と実現しています。

「新SDGs」のポイントは、D(デジタル)とG(グローバル)にあり

―イノベーションを起こすには、デジタルやテクノロジーの力が欠かせませんよね。名和先生が提唱している新SDGsにも「デジタル」が含まれています。先生は、デジタルの力をどのように捉らえていますか?

名和:イノベーションを起こすために大変有効な推進力であると思います。ただ、例えばアグリテックやフードテックのように、一つ一つの分野に閉じた使われ方をするのは好ましくありません。農業と食をバラバラでテックしても、イノベーションといえるほどの新たな価値を生むことは難しく、それほど大きな意味はない。農業と食、さらに金融や医療や教育など、いろいろなものを結びつけることが、本当の意味でのイノベーションやDXにつながるのではないでしょうか。

そのときに必要なのが、冒頭で述べた「志」の部分です。「自分たちはこれがやりたいんだ」「これがミッションなんだ」、そういう思いが強ければ強いほど、異なるデータが有機的につながるはず。デジタルはあくまでもツールですから。テック系の知識や技術より、どちらかというと、情熱や意志といったアナログ的な信念が、デジタルの価値を上げるのだと思いますね。

―新SDGsのG(グローバル)は、どういったことを意味していますか?

名和:30年後、50年後の未来を見据えて企業を経営していくには、グローバルな視点が欠かせません。問題意識や感性といったものは、国内だけでなく海外の、より多くの組織や人とつながることでより一段と磨かれます。ぜひ、欧米だけでなく、アジアのSDGsやCSV経営にも目を向けてもらいたい。

例えばインドでは、企業は利益の2%を社会貢献に使わなければならないという法律が設けられています。この仕組みのおかげでソーシャルビジネスに取り組むベンチャー企業が増えて、大企業との協業が進んでいます。また、バングラデシュには貧困層に融資を行うグラミン銀行があり、貸すだけではなく貧困層が自立して生活するところまでを支援して、そこから利益を得て再投資するという「新しい資本主義」ともいえるビジネスモデルが広がっています。

他に、孔子が提唱する「義利合一」(正義と利益が両立する)という考え方が根付いている中国では、経済界でも「利益ばかりを追求するのではなく正しさを追求せねばならない」という考え方が広まりつつあります。アリババの創業者であるジャック・マー前CEOが強く言い始め、あっという間に若者を中心にして浸透し、今や多くの企業が追随するようになりました。

新興国には社会課題が山ほどありますから、これからのCSV経営を考える上でヒントとなることがたくさんあると思いますよ。

CSV経営の前、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)経営が流行していた頃は、どちらかというと、大量生産・大量消費の贖罪や、ステークホルダーに対するポーズとして社会貢献活動をやっている企業が多かったように思います。一方のCSV経営は、「社会課題を解決して企業価値を上げる」、経営に直結する取り組みです。SDGsによって、ますます広がり、浸透することは間違いありません。今からでも決して遅くはない。多くの企業、そして経営者に、真剣に取り組んでいただきたいと思っています。

TeamSDGs
TeamSDGsは、SDGsに関わるさまざまなステークホルダーと連携し、SDGsに対する情報発信、ソリューションの企画・開発などを行っています。
TeamSDGsのウェブサイトでは、ウェブ電通報とは違う切り口で名和先生のインタビューを紹介。併せてご覧ください。
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