「クオリティ・オブ・ソサエティ調査」から「人」が生きがいを感じられる「社会」への道筋を探るNo.1
全国12000人に聞く、日本の「個人」と「家族・コミュニティー」と「社会」の現在地
2021/05/13
電通総研と電通未来予測支援ラボは、東京経済大学・柴内康文教授の監修のもと、「クオリティ・オブ・ソサエティ調査2020」を、昨年11月に日本全国1万2000人を対象に実施しました。この調査は、社会に関する人びとの意識・価値観を把握することを目的として、2019年12月に第1回調査を実施。今回が2回目の調査となります。今後も毎年データを収集・蓄積していく計画です。
本連載では、調査から得られた主要なファインディングスから、社会に関する人びとの意識・価値観の現在地と、人が生きがいを感じられる社会の実現に向けた道筋を探ります。
<目次>
▼今問われる「クオリティ・オブ・ソサエティ」
▼「クオリティ・オブ・ソサエティ調査」3つの視点
▼【社会視点】求められる情報の正しさ・信頼性
▼【家族・コミュニティー視点】男性の育児・家事参画に前向きな意識の拡大
▼【個人視点】コロナによって生まれた人びとの未来への眼差し
▼「人」が生きがいを感じられる「社会」の実現に向けた道筋を探る
今問われる「クオリティ・オブ・ソサエティ」
少子高齢化、さまざまな格差、地域の過疎化など、日本社会にはその存続基盤を危うくする課題が山積しています。また、人がつくりだしたICT(情報通信技術)やAIは、人の生活や社会のあり方に、想像を超える速度で大きな変化を迫っています。AIによって人の役割が代替されようとしている中、人はどのように生きるのかが問われています。
こうしたさまざまな課題に対し、社会の未来へつづくオルタナティブ(選択肢)を発見し、人びとが考え、よりよい道を選ぶこと。それは現代に生きる私たちの、次世代に対する責任ではないでしょうか。「人」が生きがいを感じられる「社会」のために、「クオリティ・オブ・ソサエティ」(社会の質)が今まさに問われています。
「クオリティ・オブ・ソサエティ調査」3つの視点
「クオリティ・オブ・ソサエティ調査」では、次の3つの視点で人びとの社会に関する意識・価値観を調査しました。
- 個人視点:人びとは、よりよい人生のために前向きで自律的であるか(個人の能動性・自律性)
- 家族・コミュニティー視点:人びとは、よりよい社会のために協力し合えているか(社会集団の協調性・互助性)
- 社会視点:人びとのよりよい人生のために、社会制度・システムは機能しているか(社会制度の信頼性・耐久性)
「人」が生きがいを感じられる「社会」のために、個人の意思や努力は大切です。一方で、一人一人の力には限界があり、人と人とが支え合っているか、さらに社会システムがどれだけバックアップできているかが、重要な視点となります。
3つの視点から人びとの意識を捕捉することで、個人、家族・コミュニティー、社会のそれぞれのレイヤーにどのような課題があり、どんな解決の糸口があるのかを明らかにします。
少し説明が長くなりました。まずは調査結果を見てみましょう。多岐にわたる調査結果の中から、本稿では、上記の3つの視点からそれぞれ一つずつ、人びとの意識の現在地を象徴する特徴的なデータを紹介します。
【社会視点】求められる情報の正しさ・信頼性
下の図表は、情報源やメディアに期待することについての回答を集計したものです。上位2項目は「常に正しい情報を提供してほしい」84.6%、「信用できる情報を提供してくれることを期待している」78.9%。
以下「お金を払うからには価値ある情報を提供してほしい」72.0%、「世の中の問題や課題を伝えてくれることを期待している」72.0%、「物事を考える情報やきっかけを期待している」71.2%と続きます(数値は「そう思う」「ややそう思う」の合計)。
※グラフ内の各割合は全体に占める回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しています。また、各割合を合算した回答者割合も、全体に占める合算部分の回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しているため、各割合の単純合算数値と必ずしも一致しない場合があります。
未知のウイルスに直面し、社会が大きく変化していく中で、人びとが自ら考え、判断していくために、正確で信頼できる情報が求められています。これは現在の社会にあふれる情報の正確性に対する懸念の表れとも読みとれます。
マスメディアから個人のSNS投稿まで、人びとが得られる情報の選択肢は大きく拡大してきました。コロナ禍が一つの契機となり、今後の情報メディアには、多様性と同時に情報そのものの質の担保が求められていくでしょう。
【家族・コミュニティー視点】男性の育児・家事参画に前向きな意識の拡大
次は、「新しい家族の形」の受容度について、2019年と2020年の調査結果を比較したものです。
2019年に比べて2020年は各項目で受容度が高まりましたが、特に男性の育休取得や主夫に対する社会の受容度の高さが注目されます。「男性の育休取得」を受け入れられると回答したのは78.8%(+6.5ポイント)、「主夫」は70.4%(+8.0ポイント)で(「受け入れられると思う」「どちらかというと受け入れられると思う」の合計)、いずれも2019年に比べて増加しています。
外出自粛やリモートワークが普及する中で、自宅に滞在する時間が増加した男性が増えたことが影響してか、家庭での男性の役割について意識が急速に変化する兆しが見てとれます。
【個人視点】コロナによって生まれた人びとの未来への眼差し
最後に、個人の視点に関連するデータを紹介します。2020年11月調査時点から1年前(コロナ禍前)と比較して、人びとの行動や生活上のさまざまな機会の増減について質問したものです。
1年前と比較して増えたのは「自宅で過ごす時間」61.8%、「自分の将来について考えること」50.0%、「社会について考えること」47.1%、(「増えた」「やや増えた」の合計)。その一方で減ったのは、「人と直接会う頻度」65.8% 、「金融資産」25.3%、「子どもが教育を受ける機会」24.7%(「減った」「やや減った」の合計)という結果となりました。
コロナ禍は対人関係、家計、教育の機会について負の影響があった一方で、人びとに、自分の将来のみならず、社会全体について考える契機を与えたようです。一人一人が社会について考えることは、行政任せになることなく、自律的でよりよい社会の実現に向けた第一歩となります。課題が山積する日本において、これは一つの希望ではないでしょうか。
「人」が生きがいを感じられる「社会」の実現に向けた道筋を探る
2019年と2020年の調査結果を比較したところ、一部にコロナ禍による影響と考えられる意識の変化が見られました。ただし一口に影響といっても、ネガティブなことばかりではないようです。生活の大きな変化を余儀なくされた中で、人びとは自分と社会について考える機会を得て、より正確に世の中を知りたいと願い、新しい価値観のもとに新しい社会のあり方を模索し始めていると言えるでしょう。
個人、家族・コミュニティー、社会の各視点を重ね合わせることで、人びとが社会に対して、何を課題と感じ、未来に何を求めているのか、大きな潮流のようなものが見えてきます。
本稿で紹介したデータは「クオリティ・オブ・ソサエティ調査」のほんの一部にすぎません。次回以降、個人、家族・コミュニティー、社会の各視点からデータを通じてより詳細に人びとの意識の現在地を捉え、「人」が生きがいを感じられる「社会」の実現に向けた道筋を探っていきます。
次回のテーマは「よりよい人生のために、人びとは前向きで自律的であるか?」です。