こどもの視点ラボ・レポートNo.2
【こどもの視点ラボ】大人の世界は大きすぎる!? 2歳児になって牛乳いれてみた
2021/02/05
赤ちゃんや幼児の“当事者視点”とはどんなものか?を真面目かつ楽しく研究する「こどもの視点ラボ」。前回は4頭身である赤ちゃんの頭の大きさを体感してみました。
今回は引き続き、東京大学・赤ちゃんラボの開一夫先生にお付き合いいただき「こども視点の大きさ」について考えたいと思います。
こどもが飲み物をこぼしたりすると「あぁまた!」とイライラしてしまいがちですが、実際こどもの手でコップや牛乳を持ってみるとどれくらい大きいのでしょうか。
大人が2歳児の手のひらを体感してみた
沓掛:先生、以前にご相談していた「大人が2歳児の手のひらになってみたら?」と考えたコップと牛乳ができました。
開先生(以下、先生):え、こんなに大きいの?ちょっと持ってみていい?けっこう重いねぇ。
沓掛:うちの子の2歳当時の手のひらのサイズが10センチ。日本人男性の手のひらの平均が18.3センチ(※)だったので、そこから1.83倍の大きさで作ってみました。
先生:なるほど。よく小さい子が飲んでる途中でべーってこぼしてるけど、それも分かるよね。これで飲むのは相当大変だ。僕も実際に持ってみて発見というか、実感しました。これ、おもしろいね~。
石田:改めて、こんなに大きかったのかと私も驚きました。今このコップの中身はシリコンなんですけど、実際にはたぷたぷと液体が入ってるわけなので。
先生:これで飲んでみろって言われたらねぇ。お子さんもこぼしてもしょうがないよねぇ(笑)。
石田:ほんとに、そうですね。
沓掛:あと牛乳パックの方なんですけど、実際に液体を半分くらい入れて作ってもらいました。持って入れようとすると、中身の液体の移動がこの大きさだとすごくガツンとくるんですよね。「これはこぼしちゃってもしょうがないな、怒らないようにしないとな」と改めて思いました。
先生:いやーこれは大変だ。しかしこうやって実感してみるっていうのはいいね。本当に大切だね。
石田:制作前に先生にご相談した際に、大きさは単純に比率で作ってみてもいいけど、重さに関しては手の筋力の問題もあるので一概には割り出せないんじゃないか、とおっしゃっていましたね。
先生:そうだね、腕の長さや筋力、手の握力、いろんな条件が大人とは違うから。
石田:新生児はなにかに掴まらせると、ぶら下がることができるほど握力があるっていいますよね。すごく力持ちなのかな、と。それが2歳くらいになると失われてしまうのでしょうか?
先生:筋力と自分の体重の関係じゃないかな、新生児のころは体重が軽いじゃない。そこからだんだん赤ちゃんって太っていくから。
石田:重くなるから支えられなくなると。
先生:そうだね。“原始歩行”って知ってるかな?新生児を立った姿勢にしてあげるとテコテコと歩くように足を前に踏み出すんです。だけど、生後1、2カ月を過ぎるとその反応はなくなっちゃう。もともとリズミックな運動能力があるのになぜ消えちゃうの?ていうと、太っていくからじゃないかと。
筋力との関係もあって、重くてステップが踏めなくなっちゃう。体の重さが原因じゃないかということを調べるために、浮力で体が軽くなる大きな水槽に赤ちゃんを入れてみると、再び歩くような動作が見られたという有名な実験もあります。
石田:へー、おもしろいですね。
(ここで先生の秘書さんのお子さん、ひろみちくん登場)
先生:お、ひろみちくんがきた。この子が今2歳だから。
石田:普通サイズのコップを持ってもらうと、やっぱり彼には大きいですよねぇ。
先生:大人ってたくさんのものを何度も握ってきた経験があって、ものの握り方を知ってるわけじゃない?コップにどの指をどうひっかけるか、サイズやカタチによっても握り方や持ち方ってぜんぶ変えなきゃいけないんですよ。それって意外に複雑でしょ?
石田:たしかに!幼児にとっては、なんでも初めて見るもの、持ったことないものですもんね。私たちも急に見たこともないカタチで変な突起がでた巨大な容器が現れたらどう持っていいか分かりませんよね。
大人がこどもになって、大人に出会ったら?
沓掛:生活用品も相当大きいんですけど、こどもにとっては大人自体もかなり大きいんだろうな、と思ってこんな図も作ってみました。身長75センチのこどもにとって身長180センチの大人は、自分の2.4倍の背丈があります。もし身長180センチの大人をこどもと仮定するなら、大人はなんと432センチ(180×2.4)という計算になりました。
先生:4メートルの人に上から話しかけられたら相当な圧力だね(笑)。
石田:まさに巨人ですよね。立ったまま怒ったりしちゃいけないなーとほんとに思いました。ついやっちゃうんですけど。
先生:ひろみちくんとここにあるイスを見てみると、ほら座るところが胸のあたりにあるじゃない?それによじ登って座るんだからすごいことだよね。
沓掛:階段を上がるのも大変ですよね。
先生:そうだね。膝よりも上にある段を、体全体を使って上がっていくんだから。
石田:私だったらできません。
先生:そういうのも作ってみたら面白いんじゃない?
石田:機会があれば作ってみたいですね「こどもになって階段あがってみた」。ものすごく大変そう!あと、こども視点の家づくりなんかも考えてみたいです。
先生:いいね、こどもにとって危なくない家づくり。でも、やるなら“楽しい”を両立させるってことが大事だと思う。危なくないだけだと、こどもはすごくつまらないよ。
沓掛:こどもが楽しめる、こども視点のデザインですね。
先生:そう。僕が赤ちゃん視点の絵本(※2)を作ったことのテーマもそこにあって。デザインって、なんでも大人の視点で作られているじゃないですか。絵本も大人が良かれと思って考えている。その制作過程に赤ちゃんの思考を入れ込んでみたかった。なんでこのカタチが赤ちゃんに受けるのかは僕も答えられない。説明できない。でもそこがポイント。デザインの良しあしに赤ちゃんを含めるという実験をしてみたかったんです。
沓掛:赤ちゃんの視点を取り入れたデザイン、とても興味があります。僕もやってみたいです。
※2 赤ちゃんの好みを反映した絵本『もいもい』(市原淳 作、開一夫 監修/ディスカヴァー・トゥエンティワン)
今回の研究とインタビューでも、さまざまな発見がありました。
● 幼児は、大人に比べて2倍近い大きさのものを日々扱っている。それだけでも大変!
● 幼児はいろんなものを「持つ」「握る」という経験自体が初めてなのだ、ということを念頭に置いて接したい。(失敗しても怒らないようにしたい。汗)
● 幼児から見上げると大人は4メートル超えの巨人のようなもの。立ったままではなく、目線を合わせて話したい。また、ほとんどすべてのものは大人視点で作られている、というお話もとても印象的でした。そこに、こども視点を入れていくことができれば、ユニバーサルデザインの新しいカタチが見えてきそうです。
それでは最後に、今回の制作物を使って「こどもの視点ラボ」のコンセプトムービーを作ってみました。幼児が牛乳を入れるとどうなるか?沓掛くんの息子、晴太くんの渾身の1テイクをぜひご覧ください。