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こどもの視点ラボ・レポートNo.3

2021/04/27

こどもになって、4メートルの自分に怒られてみた

TOP画像

自分はもっと子育てがうまくできると思ってた。

これは息子のイヤイヤ期真っ盛り、床に転がって泣き散らかす彼に呆然としながら私が感じていたことです。「靴を履こうね」と言っただけで「イヤッ!」と靴を投げられる。歩道橋で電車が通り過ぎるのをただただ眺めるのに2時間つきあわされる。いいかげんに帰ろうと抱っこすると、活きのいい巨大マグロのようにのけぞって暴れる。雨の通園時、機嫌が悪くなって水たまりに座り込んで動かない。

時間がない朝などにはどうしてもイライラして、ついカッとなって大きな声で怒ってしまったことが何度もあります。怒りたくないのに怒ってしまう。泣きたいのはこっちだよ、という気持ち。その後で襲ってくる罪悪感。その無限ループは息子が6歳になった今でも相変わらず続いています(むしろ怒り方がどんどんキツくなっている気が……)。

つい怒ってしまう自分は、息子からどんなふうに見えているんだろう?きっと怖いんだろうな。ということで、今回はこどもになって大人に怒られてみたいと思います。

<目次>
大人がこどもになって、大人に出会ったら?
厳しいしつけで、こどもの脳のカタチが変わってしまう!?
そもそも子育ては、みんなでやるものだった
こどもを叱る時は、60秒以内に。それ以上叱っても意味がない
親はこどもにとっての安全基地

大人がこどもになって、大人に出会ったら?

幼児と大人のスケール図

この図は、前回の研究で作ってみたものです。身長75センチのこどもにとって身長180センチの大人は、自分の2.4倍。身長180センチの大人を子どもと仮定すると、大人はなんと432センチ(180×2.4)という計算になります。

うーん、でかい。幼児からすると大人は驚愕の大きさです。でも4メートルの人間が周りにいるわけではないので、まだいまいちピンときません。そこで生活の中に4メートルのものがないか、いろいろ調べてみました。

キリンスケール図
※息子の1歳4カ月当時の身長/キリンの体長 参考文献:小学館の図鑑NEO+ぷらす『もっとくらべる図鑑』

はい、いました。キリンです。キリンかー。いやだなぁ、キリンに「ほら、はやくして!」「コラ、やめなさい!」とか頭上から言われるの。ちなみに信号機も4メートルくらいのものが多いようです。信号機に怒られる……。うーん、まだ実感が湧きませんね。

そこで、Dentsu Lab Tokyoのテクノロジスト・斧涼之介くんに協力してもらって、仮想空間上で巨大な私を作ってもらうことにしました。

まず訪れたのは、ワントゥーテンさんの東京オフィス。ここにある3Dアバター生成プラットフォーム「ANATOMe TM (アナトミー)」で、まず自分を3Dスキャンしてもらいます。あっという間にできました。すごい!

 
協力:株式会社ワントゥーテン(https://www.1-10.com/
3Dアバター生成プラットフォーム「ANATOMe  TM  (アナトミー)」
※ANATOMeは、VRCとワントゥーテンイマジンの共同開発です。


次にこの3Dデータを3DCGを制作するためのアプリケーションであるBlenderに取り込み、身長165センチの私を75センチのこどもに見立てます。すると大人の私は2.2倍、3メートル63センチという計算に。でかい、でかすぎ。そこに4メートル32センチ(実際は180センチ)のお父さん役、沓掛光宏くんも登場させてみました。う、立っているだけでものすごい威圧感です。

仮想空間イメージ1
仮想空間イメージ2

画面上で見るだけでもなかなかの迫力ですが、ここからが本番。VRゴーグルを装着してこどもになってみます。

仮想家庭に入ってみると、目の前にあるのは大人の足と股あたり。ちょっと目線を上げてもお腹までしか視界に入りません。すると「コラ!やめなさい!やめなさいって言ってるでしょ!」と怒鳴る声。見上げると腕組みをした巨体の自分。真上を見るように首を曲げないと表情までは分かりません。顔はかなり遠いです。表情が見えたと思ったら怒ってる。うわ~嫌な感じ。

さらにお父さんを登場させます。で、でかいっ!!ムリです。立ってるだけなのにめちゃくちゃ怖い。背の高いお父さん、こどもの前での仁王立ちはほんとやめてください。

もう一つ「こどもの前での夫婦げんかってついやっちゃうよね?」という話になり、それも体験してみました。実はこれが衝撃的に怖かったです。目の前にも巨人。振り返っても巨人。その2人が怒鳴りあっている。このまま取っ組み合いにでもなったら、きっと世界が壊れてしまう。そんな絶望的な気分になりました。
怒る自分がこんなに巨大で恐ろしい生き物だったとは……。


 

厳しいしつけで、こどもの脳のカタチが変わってしまう!?

私たちはこの動画をもって、小児神経科医であり福井大学・子どものこころの発達研究センター教授である友田明美先生のもとをオンラインで訪ねました。先生はマルトリートメント(避けたいかかわり)がこどもの脳に与える影響について長年研究されていて、私はその内容に衝撃を受け、以前からお話を伺いたいと思っていたのです。

石田:先生、4メートルの自分に怒られるという体験は、数分でもぐったりしてしまう嫌なものでした。もしこれが日常だったとしたら、とてつもない影響があるんだろうなぁと。実際に、こどもの脳にどんなことが起こってしまうのでしょう?

友田先生(以下、先生):まずは体罰についてお話ししましょうか。私が米国にいた頃にアメリカ人を対象にした研究で分かったことです。日常的に厳しい体罰を受けて育った人たちの脳は、前頭前野の一部が小さくなっていることが分かりました。

沓掛:脳の一部が小さくなるんですか!? 

先生:前頭前野は感情をつかさどる部分。そこが萎縮してしまうと、犯罪抑制力にも影響がでます。素行障害、うつ病にもなりやすく、強い攻撃性が現れることもあります。けんかばかりして手がつけられない、とかね。

石田:それって素行を正そうとして行った行為が、逆に素行を悪くしてしまうということですか?

先生:その通りです。皮肉なことに「愛のむち」といって、悪い行いを正そうと体罰を与えるのですが、望ましくない影響しか与えないことが分かったんです。

昨年の4月から日本でも家庭での体罰が禁止されました。(※1)日本は59カ国目の体罰禁止の国になったわけです。早くから体罰禁止を法律化したスウェーデン、フィンランドなどでは、着々とこども虐待が減っています。親を罰するわけではなく、体罰に代わる育て方を子育て支援者と一緒に考える。苦労している親がどうしたらたたかないで子育てができるか、相談しながら進めていることが実ってきているんです。

※1
令和元年6月に改正児童虐待防止法が成立し、親権者等は児童のしつけに際して、体罰を加えてはならないことが法定化され、令和2年4月から施行に。


石田:59カ国目というのは、先進国としてはとても遅い感じがしますね。

先生:日本はまだスタートポイントですね。いまの親や、とくに祖父母世代になると「体罰は必要だ」と思っている人がまだまだ多い印象です。昭和には、ちゃぶ台をひっくり返してスパルタ教育をする人気アニメがあったくらいですから、それが正しいという意識が根強く残っています。

沓掛:自分が実際に体験すると、頭上から降り注ぐ怒鳴り声がつらかったです。大きな声で怒ってしまう、ということも脳に影響があるんでしょうか?

先生:日常的に繰り返される暴言は、ちょうど耳の脇あたりにある聴覚野を肥大させることが分かりました。聴力に影響がでて、小さな音が入らなくなります。そのためコミュニケーション力も低下しますし、学力低下の原因にもなっていきます。

石田:日常的に「勉強しなさい!」とキツく言えば言うほど学力が低下する、ということも起こってしまいそうですね……。実験をしている中で、夫婦げんかがとても怖いな、と感じました。

先生:目の前で両親の言い争いや暴力を見せることは面前DVと言いますが、その場合は視覚野という部分が小さくなってしまいます。視覚野が萎縮すると、他人の表情が読めず、対人関係がうまくいかなくなります。

脳の図
提供:福井大学・友田明美教授

石田:お話を伺っていると、たたかれても耐えられるように前頭前野が、聞きたくないことを聞かなくて済むように聴覚野が、見たくないものを見ないために視覚野が変わってしまうように感じます。

先生:そうですね。本当に不思議な現象なんですが、何度も何度も同じようなことが起こると、それに耐えるために脳が変わってしまう。「悲しい適応」だと私は考えています。

石田:いま生きるために、自分のこころが折れてしまわないための「適応」なんですね。とても切ないです。

先生:こどもの脳は未成熟で発達途上です。「悲しい適応」をしないためにも「体罰は百害あって一利なし」ということをもっと啓発していかないと。

そもそも子育ては、みんなでやるものだった

先生:お二人も実験されていますけど、親も一生懸命なんですよね。けれど「1回くらいおしりをパチン」というのは、エスカレートすることがあります。とくに親がストレスを抱えている時、余裕がない時ほどね。大人ってストレスがたくさんあるでしょう? 締め切りに間に合わない。職場で嫌なことがあった。リストラされた……。ヒトという生き物はストレスに弱いので、そういう時ほど弱い立場のこどもをはけ口にしてしまうんです。

石田:余裕がない朝ほどイライラするし、声が大きくなります……。耳が痛いです。

沓掛:「いつもじゃないから」は、どんどんエスカレートしてしまうんですね。

先生:必ずします。私はこどもを虐待してしまう親御さんとたくさん接してきましたが「世間にでた時にこどもが恥をかかないように。こどものための“しつけ”だった」とみんな判で押したように、まったく同じせりふをおっしゃいます。最初から虐待しようとしている親なんていないんです。

石田:今はワンオペ育児が問題になるなど、親自身も大変です。ストレスをぶつけず子育てしていくためにはどうすればいいでしょう?

先生:できない時は「できない」と開き直って、誰かに頼ることです。周囲の人、頼れる人がいない場合は子育て支援もあります。そもそも人間のこどもは共同で育てるものなんです。他の動物のこどもは自立が早いですよね?人間だけが歩きだすのに1年もかかる。それだけ子育てのストレスもかかる。だから狩猟民族の頃から共同で子育てをする動物だったんですよ。

石田:みんなで育てるはずのものだったのが、どんどん核家族化が進んで「孤育て」になってきている。

先生:いまは息を抜く時間がないにもかかわらず「完璧な子育て」をやらないといけない、と親御さんたちが思っている。大変な時代です。

友田先生とのオンラインインタビューの様子
友田先生とのオンラインインタビューの様子

こどもを叱る時は、60秒以内に。それ以上叱っても意味がない

石田:親がついカッとなってしまわないための秘訣はありますか?

先生:アンガーコントロールですね。私は親御さんたちに「カッとなったら、こどもから離れてトイレに行きなさい。そこで深呼吸をしてから戻りなさい」と言います。あと「こどもに注意する時は60秒以内にしなさい」と。

沓掛:くどくど長く怒らない方がいいと?

先生:はい。私は60秒以上叱っても効果がないと思います。こどもが泣いている時には何も耳に入りません。こどもが落ち着いてから話してください。それから、親が落ち着いていることが大切です。まずは自分がカムダウンすること。

あとは他の子と比べないこと。「なぜこの子はこんなこともできないんだろう?」ではなく、できたことを認めてあげる習慣をつけてください。こどもには個人差があります。その子なりに、昨日できなかったことが今日できたら拍手。毎日お祝いしてあげればいいんです。

石田:昨日できなかったことが今日できたらお祝い。いいですね!

先生:そうすると、親も肩の荷がおりてラクになるでしょう? そもそも人間は最初から“養育脳”を持ち合わせているわけではありません。妊娠、出産、授乳、抱っこなどによって、赤ちゃんもお母さんも幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンが分泌される。目と目を合わせ、スキンシップを繰り返すことで養育脳になって親になっていくんです。

石田:目と目を合わせることでもオキシトシンが分泌されるんですか?

先生:されます。だから授乳の時などにお母さんが赤ちゃんの顔を見ないでスマホをいじっていると「もったいないなぁ」と思ってしまいます。

沓掛:男性の場合はどうなんでしょう?

先生:男性も赤ちゃんを抱っこしたりスキンシップをすることでオキシトシンなどが分泌され“養育脳”になっていきます。どんどん抱っこしてあげてください。お風呂に入れてあげるのもいいですよ。

親はこどもにとっての安全基地

石田:もう一つ、「愛着障害」についてお伺いできますか。

先生:アタッチメント(愛着、絆)の話ですね。必要な養育をこどもに与えないで放置するネグレクトはとくに愛着障害につながりやすい。愛着障害には「内向き」「外向き」があって、内向きの子は「おどおどしている、集中できない、眠れない、学習の伸びが悪い」などの特徴が。外向きの子は「人見知りしない、暴力的、落ち着きがない、けんかが絶えない、人との距離感が保てない」などの特徴があります。報酬(ご褒美)に対する反応がにぶく、ドーパミンがほとんど出ないことも特徴です。

石田:褒めてもらうはずの時に褒めてもらえなかったからでしょうか?

先生:それもあるでしょうが、ストレスによって脳の働きが落ちてしまってうれしさを感じなくなるんです。親から適切な愛情を与えてもらえないとセルフメディケーションに走ります。自分で自分を癒やそうとして、将来薬物などに手を染めてしまう可能性が高くなります。

沓掛:大人の問題行動や犯罪も、小さい時の経験が原因になってしまう確率がとても高いということでしょうか?

先生:そうですね。例えば「マルトリートメント(避けたいかかわり) を取り除けば、静脈注射の薬物乱用は8割近くなくなる」という研究結果もあるくらいです(※2)。

※2
Dube, S.R., Felitti, V.J., Dong, M., Chapman, D.P., Giles, W.H., and Anda, R.F. (2003) Childhood abuse, neglect, and household dysfunction and the risk of illicit drug use: the adverse childhood experiences study. Pediatrics 111, 564-572


石田:8割!それはすごいですね。

先生:親はこどもにとっての安全基地、もしもの時の避難場所であるべきなんです。それは父親・母親でなくてもいい。おじいちゃん、おばあちゃんでもいい。こどもは親を港として出ていく船です。なにか危険があった時に「港に戻ればいい」と思えるかどうか。船出して大嵐になった時、港も危険だと船は行き場を失って沈没してしまいます。

石田:ほんとにそうですね。

沓掛:最後にお伺いしたいのですが、一度傷ついてしまったこどもの脳は回復しないものなんでしょうか?

先生:昔はそう思っていたんですけどね。実はこどもの脳は可塑性があって回復するんです。親が問題のある行動を改めれば回復していきます。もちろん早ければ早いほどいい。

沓掛:それがお聞きできてよかったです。

先生:まず褒めてあげる習慣をつけてください。例えば、1歳半くらいからお手伝いをさせればいいんです。自分の食べた食器を流しにもっていくだけでいい。それを褒めてあげる。
ポイント制もいいですよ。お手伝いができたらシールやスタンプをポン!それが10個たまったら、あなたが好きなカレーにしよう。100個たまったら回転ずしにしよう!ってね。私たちもマイルを貯めて喜んだりするでしょう?

石田:確かに。お手伝いを増やすと、こどもの自立を促すだけじゃなく自分がやることもどんどん減らせて、イライラも減っていきそうですね。

先生:大人だって何もなしにモチベーションなんて上がらないじゃないですか。給料のベースアップやボーナスが増えるなどがないとね。「認められる」「褒められる」ことがやる気につながるのは、こどもだって同じです。

石田:お手伝い作戦、今日からやります!(笑) 

先生:私も娘が2人いますが、いっぱい失敗してきました。完璧な親なんていないんですよ。とにかくこどもを抱きしめてあげましょう。まずそこからです。

沓掛:本当にそうですね。驚きのあるお話ばかりで、なんだか心臓がドキドキしています。自分もいろいろ反省するところがありました。

石田:貴重なお話、本当にありがとうございました。


親の不適切な行為によって、こどもの脳が変わってしまう。とても衝撃的な内容ですが、それを知っていること自体が抑止力になると強く感じました。今回のまとめです。

●厳しいしつけ、体罰はこどもの脳を変えてしまう。素行を正そうとして、素行をさらに悪くしてしまうなど、百害あって一利なしだということを知っておきたい。

●カッとなってしまったら(こどもの安全は確保しつつ)こどもから一旦離れて、トイレなどで深呼吸。こどもを叱る時は60秒以内に。

●他の子と比べない。その子なりの成長、「昨日できなかったことが今日できたら褒める」という習慣をつけたい。

●人は赤ちゃんとスキンシップをとることで、幸せホルモン・オキシトシンが分泌されて“養育脳”になっていく。お父さんもどんどん抱っこして“養育脳”になってほしい。
どこまでが適切な“しつけ”なのか迷ってしまった時は「自分はこの子にとって安全な港かどうか」を判断基準にすればいいのかな、と思いました。こどもが困った時、例えばおもらししちゃった、服を汚しちゃった、お友達とけんかしちゃったなどを、ちゃんと話してくれるか、怒られるから黙っていたいと思ってしまうか。

……と書きながら、この前トイレを失敗した息子が中から鍵をかけて「なんでもないから!」と言いながら自分で拭き掃除をしていたことを思い出しました。よっぽど怖いんだな……。「安全な港」を意識して、私もアンガーコントロールをがんばりたいと思います!
 

友田先生のプロジェクト「防ごう!まるとり マルトリートメント」でさまざまな情報が無料でダウンロードできます。「marutori.jp」で検索を。  

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