こどもの視点ラボ・レポートNo.9
【こどもの視点ラボ】緊急検証!乳幼児になって真夏を体感してみた。
2024/08/30
ひさびさの、こどもの視点ラボ・レポートです。今新しい「こども研究」をいくつか進行中ですが、今夏のあまりの暑さに急きょ「乳幼児の体感温度」について先行して研究を進めました。今回はウェザーマップさんご協力のもと、前田星平と沓掛光宏がお届けします。
前田:この夏は大人でも危険を感じる暑さ。そんな中でもテンション高く公園で遊ぼうとする娘(6歳)の姿に熱中症にならないかと何度もハラハラしました。大人よりも地面に近いこどもの方が体感温度が高い、という話もよく聞くようになってきましたし。
沓掛:うちも1歳児がいるので、お出かけの時は心配が絶えなかったです。「暑い!」と言葉でうまく訴えられない乳幼児はいったいどんな真夏を過ごしているのか?さっそく検証していきたいと思います。
天気予報の35度は、2歳にとっては39度だった。
まずは猛暑日の空気の温度について、背の高さが違うとどうなるのか、ウェザーマップさん立ち会いのもと測ってみます。
ちなみに気温について調べて初めて知ったのですが、ニュースなどで発表されている気温というのは、一般的に地面から150cmの高さで、日陰で測るのだそうです。一方で、我々の生活環境には日なたもあり、気温以上に暑さを感じていて、さらにこどもの環境は地面にも近いです。熱せられた地面に近いほうが温度が高そうですが、実際はいかに?
実際に、測ってみた結果(日なたでの空中の温度)がこちらです。
なんと!天気予報で「今日の気温は35度です」と言われているとき、5歳児は38度、2歳児は39度の温度になっている可能性があります。
気候や地面の状況によっても温度は変わるので、この数字はあくまで今回の測定による結果ですが、これくらいの温度差があると思った方が、こどもの安全のためにもよさそうです。
遊具の熱さは想像以上。うっかりヤケドに注意!
次にこどもが公園で遊ぶと仮定して、遊具などを測ってみます。こどもの時間の記事でも書いていましたが、大人が見守りをしている間にこどもはいろいろなところで遊んでいます。今は暑さで公園もガランとしていますが、小さい子がうっかりいつもの調子でブランコや滑り台に走っていって触る可能性は大いにあります。
実際にさまざまな遊具の表面温度を測ってみました。
この日測定した中で、一番熱いのは……、砂場で70度でした。滑り台は52度。目玉焼きが焼けそう。これは怖いですね。実際に夏の時期になると遊具でヤケドをして病院を訪れるこどもがいると、ニュースになっていました。夏だから肌を見せる服装をしていることも多いはず。半ズボンでアルミの滑り台をすべったら、一大事になってしまうこともありそうです。ちなみに、大人が見守っている木陰の芝生の上は31度でした。このギャップもすごいですね。
おでかけ5分後、ベビーカーや抱っこひもも測ってみた。
最後に調べたのは移動中の温度。もちろん暑い時はなるべく外に出ない方がいいのですが、ちょっとした外出のときのベビーカーや抱っこひもの温度はどうなっているのでしょうか?
実際に、外出5分後の表面温度を測ってみたのがこちらです。
ベビーカーのほろの中、日陰なのに41度とかなり高い。抱っこひもの側面は48度。光を吸収してしまう黒い頭部はなんと50度超え!ものすごい温度になっています。思ったよりもあっという間に温度が上がっていることに驚きました。帽子や保冷剤の大切さを実感する結果に。
そして駐車中のクルマの中で、冷房を入れずにそのまま測定したチャイルドシートも51度。ちなみに、この時のボンネットの温度は衝撃の74度でした。こちらもこどものうっかりヤケドに注意です。
密閉して温度が上がったクルマの中。早く冷やすには窓を全開にし、車のエアコン(オート)を外気導入、温度設定はLo(最低)にして走行10分後に窓を閉め、エアコンを内気循環にして3分間走行するのがいいそうです。
熱中症予防に詳しい三宅先生に、乳幼児について聞いてみた。
こどものお出かけ時の環境は、大人よりもかなり暑い/熱いということが具体的に分かってきました。そこで、熱中症の予防に詳しい帝京大学医学部の三宅康史先生に、乳幼児は特にどんなことに気をつけるべきかお話を伺いました。
前田:三宅先生、よろしくお願いします。実際にこどもの環境を測ってみたら、暑くてびっくりしました。でもうちの子は、暑い中でもどんどん公園で遊んじゃうんですよね。こどもは、実は暑いのが平気だったりするのでしょうか?
三宅先生(以下、先生):こどもだから耐えられるということはありません。むしろこどもは体が小さいので、体の中の水分量も少ないんです。だからすぐに熱くなるし、すぐに冷える、脱水に陥るのも早い。
沓掛:熱くなるのも脱水に陥るのも早いんですか?
先生:例えば同じ暑い環境の中にいるとします。体重60キロの大人と20キロのこども、どちらも体の6割が水分だとすると、当然20キロのこどもの方が水分量が少ないため、熱の影響を受けて先に体温が上がってしまいます。
前田:そうなんですね!こどもは平気で遊んでたりするから暑さに耐性があるのかと思ってましたが、真逆ですね。こわいこわい。
先生:熱中症のリスクが高いのはお年寄りとこども。ただ実際にはこどもは親が見守っていることもあり、病院に来るまで深刻になるケースは多くありません。逆にいえば、こどもはしっかり見守る必要があるということ。表情などをよく見るといいですね。
沓掛:体の中の水分の絶対量が少ないってことですね。では、水分補給で特に気をつけるべき点はありますか?
先生:タンクの容量が少ないってことだから、大人と違って一気に水を飲んだりできないので、とにかくこまめに水分補給することが大事です。「汗をかいている時は20分おき」と考えておくといいかもしれません。もちろん、どんな環境にいるのかで全然変わるし、そのこどものコンディションにもよります。乾く手前で水分補給ができるように、大人が機会を作ってあげることが大事です。たくさん汗をかいているなって感じたら、その時はもう脱水が始まっている状態なので。
沓掛:「汗をかいている時は20分おき」。その他、どんなタイミングがいいでしょう?
先生:例えば、朝起きた時、出かける前、お風呂の前後など。「乾く前」と「乾いた後」を意識するといいと思います。食事の時は当然きちんと飲むとして。
前田:最近は、出かけるときに保冷剤を首に巻いたり、抱っこひもやベビーカーのシートの中に保冷剤をいれたり、ラボのメンバーもそれぞれ工夫しているんですが、熱中症の予防のためにはどこを冷やせばいいですか?首、脇、太ももの付け根がいいと聞きますが。
先生:そうですね、熱が出て寝ている時などはそれでいいですが、普段こどもが動き回っている時は、脇の下などは冷やせませんよね。太ももの付け根もオムツをしていたらムリ。なので、頭を冷やしてください。首・脇・太ももの付け根、この3カ所は太い静脈が体の表面近くを走っているところで、大量にゆっくり流れる血液を冷やすことができるのですが、実は頭も同じくたくさんの血液が流れています。例えば、濡れタオルで頭を拭いて扇いであげる、フード付きの帽子を冷たい水で少し濡らしてかぶらせるなど。こどもはとにかく冷やしやすいところを冷やしてあげましょう。こまめにやってあげないと効果がないので、それも気をつけてください。
沓掛:赤ちゃんの場合、例えば抱っこひもの時はどうすればいいですか?
先生:これも冷やしやすいところでいいです。例えば首に何かを巻くと絡まる危険がありますし、お腹を冷やしすぎるのも良くない。やはり頭や背中側がおすすめです。
前田:うちの子はものすごく汗をかくんですが、気にすべきことはありますか?
先生:濡れタオルで拭いてあげたり、着替えるのが一番ですね。こどもの服はコットンが多いと思いますが、コットンは濡れるとベタッと体に張り付いて通気性が悪くなる。乾きも遅いので熱がこもってしまいます。こまめに着替えるか、最近増えてきた速乾性の素材にするのもおすすめです。
あと、汗を多くかいている時はとにかく涼しいところで休ませてください。さっきもお伝えした通り、体が小さい分、環境の影響を受けて暑ければすぐに熱くなるので。基本的には「冷やす」「休む」「水分補給」の3つを常に心がけるといいですね。
沓掛:赤ちゃんは汗をかきやすいですが、玉のような汗をポタポタ出すことはあまりないような。
先生:そうですね。赤ちゃんは汗のかき方での判断は難しいので、ぐずっているとか、さっきまで元気だったのに元気がないとか、そんなところが熱中症のサインになります。いつもと違うところがないか、よく見てあげることが大切です。
前田:なるほど。とてもよく分かりました。ありがとうございました。
こどもの温度について知ってもらうために、盆踊り「こどもおんど」を作りました。
今回の測定や三宅先生のお話をベースに、こども視点での暑さ/熱さを伝える新しいコンテンツを作りました。それが「こどもおんど」。大人とこどもの暑さ/熱さのギャップと、その対応策を覚えてもらうための盆踊りです。はい、「温度」と「音頭」がかかっています(笑)。歌は、江州音頭で関東の盆踊りシーンを沸かせる気鋭の唄い手、中西レモンさんです!
1番は、身長の違いによる体周辺の温度の差について
2番は、公園で触れるものの表面温度について
3番は、赤ちゃんの移動について
ふとした瞬間に思い出してほしい熱中症予防のためのTipsとなっています。
今回は、曲と同時に盆踊りの振り付けも作りました。「こどもおんど」を聴いて、自然に子ども視点での温度について意識してもらえたら。ちなみにうちの娘は、開発中のデモ音源を聴きすぎて、もう歌えるようになりました。いつか、夏祭りにみんなで踊りたいです!では、まだまだ残暑が続いていますので、大人もこどもも熱中症には十分お気をつけください。
遊具や抱っこ紐などの素材による違いや、測定する環境の違いによって結果は変動します。あくまで、今回の測定結果としてご承知ください。
では、今回のまとめです。
●天気予報が35度の猛暑日の時、2歳児の高さの温度はなんと39度!?地面に近いほど暑いという意識を持って無理させない。
●真夏日の屋外遊具、例えば滑り台は52度!うっかり触れてのヤケドに注意。
●おでかけ5分後でも、ベビーカーの中や抱っこひも、チャイルドシートの温度は急上昇。黒くて熱を吸収する頭部は、特に温度が高くなるので帽子は必須。
●こどもは体が小さく、体の中の水分量も少ない。すぐに熱くなり、脱水に陥るのも早いので、大人よりもこまめな水分補給を。
●熱中症対策の基本は「冷やす」「休む」「水分補給」の3つ。特に乳幼児は自分から具合の悪さを訴えられないので、ぐずったり元気がないなど、普段と違う様子に気をつけて。