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こどもの視点ラボ・レポートNo.10

【こどもの視点ラボ】育児書には載ってない?親たちが収集した、こどもの生態「裏こどもずかん」。

2024/09/12

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こどもになって世界を見る活動をしている、こどもの視点ラボ。今回は少し趣向を変えて、育児書で予習していても「知らなかった」「聞いてないよ!」と親が思ったこどもの「裏」の生態を収集してみることにしました。今回の研究のメインメンバーは梅田真希子と佐藤日登美、それぞれ女の子2人のママです。

佐藤:うちの下の娘は歩き出すのが早く、ハイハイをすっ飛ばして1歳になる前から歩き始めていました。「すごい!うちの子運動神経いいんじゃない?」と思う半面、ハイハイの期間が短すぎて逆に心配に……。

ネットで「ハイハイしない 1歳」「ハイハイ 期間 短い」などを検索しても、平均的なハイハイ開始時期や、一般的な成長カレンダーが出てくるばかり。当時は悩み、心配し、なるべく気にしないようにしながらもめちゃくちゃ気にしていました。

梅田:ラボ内でも「寝返りする時期にぜんぜん寝返りしなくて焦った」「夜中に検索しまくった」など、成長カレンダーとわが子の発達を比べて心配したという声は多いです。また「新生児が1日に何回もウンチするなんて聞いてないよ!と思った」「ナイアガラの滝ばりにヨダレが出てびっくりした」「食べ物を投げるなんて!とぼうぜんとした(そのうち慣れた)」など、育てる前に知っていたらもう少し心に余裕が持てたかも、という「こどもあるある」がどんどん出てきましたね。

「うちの子だけじゃなかった!」ラボメンバーのこども、合計21人の生態。

現在ラボメンバーは15人。そのこどもたちの数は、0〜10歳までなんと21人!それぞれが子育てするなかで発見した、わが子の思いがけない言葉や行動をヒアリングし「わかる!」「うちもそうだった」など、共感度の高かったものを図鑑形式にしてみました。

この図をこどもの視点ラボ・レポートNo.5でもお世話になった立正大学の岡本依子先生と一緒に見ていきたいと思います。

佐藤:先生、よろしくお願いします。この「裏こどもずかん」を制作するにあたっては、先生が参加された気がかりMAP(子育てするなかで感じるさまざまな「気がかり」をまとめたマップ)も参考にさせていただきました。まずは新生児から生後6カ月まで。

新生児~3カ月ごろ
4カ月~6カ月ごろ

梅田:率直に、ご覧になっていかがですか?

岡本先生(以下、先生):とても面白くて、どれも笑いながら見てしまいました。

佐藤:「退屈なだけで泣く」は、以前に岡本先生から教えていただいたことを入れさせていただきました。他に、特に共感されたものはありますか?

先生:「買ったおもちゃに全然興味を示さない」というのは多くのママパパが経験されていると思います。もちろん個人差はありますが。

佐藤:うちの子も、せっかくかわいいおもちゃを買っても、そのへんにあるペットボトルやリモコンといった身近なもののほうが好きでした。

先生:ふたや電池を誤飲しないように注意が必要ですが、この時期の赤ちゃんはなんでも口に入れて試している時期。口に入れて試すと言えば、2~3カ月ごろから始まる「指しゃぶり」もそうです。6カ月過ぎてくると、今度は足しゃぶりが始まります。赤ちゃんって体は柔らかいんだけど、最初は腹筋が弱いので足が上げられないの。だいたい半年ぐらいしてお座りができるようになってくると、腹筋が発達して足が上がって、足しゃぶりをするんですよ。

佐藤:赤ちゃんは自分の足だと認識しているんでしょうか?

先生:まさに、認識するきっかけになります。実は赤ちゃんって、生まれたときは自分の境界線を知らないんですよね。最初はどこまでが自分で、どこからが他の人かもわからないし、自分で自分の体をうまくコントロールできないんです。でも指しゃぶりをすると、しゃぶっている口と、しゃぶられている手の感覚が同時にありますよね。そこで、「あ、これは自分だ!」と発見するんです。逆に、他の人に触れたときには、触った感覚はするけど触られた感覚はない。そのときに赤ちゃんは「これは自分じゃない、よその人だ」となるわけです。

梅田:面白いですね!自分の手を発見する「ハンドリガード(Hand regard)」というのもありますよね。赤ちゃんが不思議そうに自分のこぶしを見ている様子は面白いしかわいくて印象的でした。

先生:何がそんなに珍しくて一生懸命見てるの?って思いますよね。でも実はただ見ているだけじゃなくて、大体の赤ちゃんは同時に手を動かすんですよ。それによって、手を動かす感覚と、視覚情報を合わせて「あ、自分が脳から動かす信号を送れば手は動かせるんだ」と気づくわけです。

梅田:指しゃぶりをする、手を眺める、また指しゃぶりする、を繰り返すことで、あ、やっぱり自分だ!って過程を踏むわけですね。

先生:そういうことです。今まで足元とか自分でもよく見えなかったし、おなかから下がどうなってるかなんて考えたこともなかった赤ちゃんが、6カ月になってくると足を持ち上げて、口の中に入れるようになって。そして「こんな世界の果てまで自分があったんだ!」という大発見をする。

佐藤:そう考えると、足をしゃぶっているだけで尊いですね。親からすると「やめて〜足を口に入れないで〜」ってなっちゃうんですけど(笑)。

日本の赤ちゃんはハイハイがヘタ?欧米との環境の違い。

梅田:次は7カ月から12カ月ごろを見ていきましょう。

7カ月~12カ月ごろ

佐藤:私自身悩んでいたことなのですが、「ハイハイをすっ飛ばして急に立つ子もいる」というのは、よくあることなんでしょうか?

先生:はい、結構いますよ。日本の赤ちゃんは、欧米と比べてハイハイがヘタな子が多いと感じています。

佐藤:え、ハイハイがヘタ?

先生:日本のおうちが欧米と比べると狭い場合が多いからだと思います。ちょっとした本棚だったり、ローテーブルがすぐそばにあったりと、つかまり立ちがしやすい環境なんですよ。早々につかまり立ちに慣れて、そのままハイハイをせずに歩き出す、というのがよく見られるんです。

梅田:確かに欧米のおうちって広いですもんね。目的地までの距離があると赤ちゃんもハイハイをする機会が多いですけど、すぐに着いてしまうなら「まあそんなに頑張ってハイハイしなくても……」と思ってしまいそうです。

先生:そう、遠距離で移動する機会が少ないので、日本の子たちはハイハイにガツガツしていない。その分、ずりばい・高ばい・片高ばいをする子がよく見られます。ずりばいは、おなかを下に向けず、座った姿勢のままでずっずっずっと進む方式。高ばいは、膝をつけず、足先でおしりをプイッと上げるハイハイ。片高ばいは、名前の通り、片方は足先を床につけて、もう片方は膝をつけて移動するハイハイです。私の感覚では、片高ばいの子が多い印象です。

佐藤:今お話を聞いて初めて名前を知りましたが、うちの子はまさに片高ばいでした!

先生:片高ばいの子って、ママパパに呼ばれると頑張ってそちらの方に進むんですけど、左右の足のバランスが違うので気がつくと曲がっちゃうんですよ。で、曲がったことに途中で気がついて、親の方に向きを変えて一生懸命ハイハイして、でもまた同じことを繰り返す、ということがあります。でも、ある種効率的なんですよね。膝をつけて進むハイハイよりスピードが出るので。

佐藤:確かに、進むスピードは速かったです(笑)あと、友達の子はずりばいタイプでした。

先生:赤ちゃんって、クッションに囲まれたような場所に座っていると結構ご機嫌だったりするじゃないですか。日本であれば、その囲われた場所に座ってちょっと手を伸ばせば目的のものにすぐたどり着いちゃう。ダメでも、おしりをずりずりすれば手が届いて「はい、目的達成」となる。そういう子たちはずりばいを選ぶのかもしれません。高ばいの子たちは姿勢がきついのか、だんだんと膝をつき始めることが多い気がしますね。

佐藤:赤ちゃんは自分のいる環境や気分に合わせてハイハイを最適化しているのかもしれないですね。当時は全然ハイハイしないし、しても他の子とちょっと違うので心配していたのですが……。岡本先生のおかげですごく救われた気持ちになりました。

兄弟げんかになるのは、1歳に「所有の概念」がなく、4歳に「先行所有の概念」があるから。

梅田:次は1歳・2歳ごろです。1歳の「おもちゃは貸せない」というのもラボ内では共感度が高い行動でした。こどもって自分が遊んでいるものを取られそうになるとかたくなに嫌がりますよね。

1歳ごろ
2歳ごろ

先生:こどもの「自分のものだから取られるのが嫌」というのを専門用語で「所有の概念」と言うんですけど、実は1歳の段階ではこの「所有の概念」を持ち合わせていないんです。自分のものという考えがないので「貸す・貸さない」というルールも理解できない状態です。

佐藤:「このおもちゃ、僕の/私のだから貸したくない!」と言っているイメージだったのですが、ちょっと違うんでしょうか?

先生:そうですね、「自分のだから」というよりは「今遊んでいるから」貸したくない、という方が近いです。夢中になって遊んでいたおもちゃだとしても、その後で自分が別のものを手にしていたら取られても気にしません。

例えば、1歳児はペンみたいな細長いものが好きですぐ持っちゃうんですけど、それを取り上げようとするとぎゅーっと握るんです。危ないから、とこっちが必死になればなるほど向こうも取られることそのものが嫌だ、みたいになっちゃう。そこで別のものを「こっちにこれあるよ〜」と見せてあげると新しいものをつかんで、フッとペンから意識が抜ける。まだごまかしがきく年齢です。

梅田:今のお話、「何かに目を奪われるとやっていたことを忘れる」というのにも近いですね。おもちゃが貸せないのは自分のものだから、と思っているわけではなく、触っている時間が長い・短いも関係なく、ただ単純に自分が持っているからで、そこにこだわりはないんですね。

先生:そう、全然欲張りじゃない。でも人のものも同じ状態だから、そこにあれば触ってしまうので兄弟げんかが起こり始めます。上の子は所有の概念が発達しているので「私が使おうと思ったからここに置いたのになんで取るの!」となるんですけど、1歳児としては「いや、そこにあるものはみんなのものでしょ」と思ってる。

4歳ごろになると「先行所有」という先に触ったもの勝ち、という概念が生まれてきます。能動的に触ったら自分のものになる、という考えが徐々に出てきて、下の子とけんかになるんです。「アクティブタッチングセオリー」と呼ぶ人もいます。

梅田:同じ「おもちゃは貸せない」でも、年齢によって意味が違ってくるんですね。

先生:2~3歳だと、よく「かーして」「いーいーよ」と言って自動的におもちゃを貸しちゃったりするじゃないですか。あれはおまじないのような言葉で、実際こどもは意味を理解していないことも多くて、「あ、渡しちゃった。なんでだろう、どうしよう」となっているんです。表面上は貸せたとしても、貸す概念がちゃんとできているわけではありません。

佐藤:支援センターなどで、自分の子が使っているおもちゃを他の子がほしそうにしていると、お母さんが「もう長く使ったんだから貸してあげて、みんなのものだよ」と諭してこどもが大泣きするという光景をよく目にしました。「なんでうちの子、こんなにわがままなのかな。私の言い方が悪かったのかな」と悩んでしまう親御さんもいますよね。

先生:「おもちゃが貸せない」ってネガティブなイメージですけど、ある意味、発達の裏返しでもあるんです。よく考えると「自分のもの」だとわかるってすごくないですか?そのおもちゃに興味があって、自分の持ち物と相手の持ち物を区別している。そしてちゃんと意思表示ができる。親御さんには「貸せなくて当たり前」なので悩まないで、と言ってあげたいですね。

こどもの「なんでなんで?」は正解を知りたいわけじゃなかった!?

梅田:次は3歳以降の「裏」の生態です。

3歳ごろ
5・6歳ごろ

梅田:このころになると「なんでなんで?」攻撃が止まらないですよね。

先生:そう、4歳ごろになると「なんでこうなの?なんであれなの?」と言うんですけど、親が一生懸命答えても聞いていない。すごく質問してくる割に、親が真剣に向き合って説明しても、もう全然興味がないって顔をしませんか?

佐藤:まさにです!そういうときどうすればいいですか?

先生:「あら聞いてないわね、あはは」って笑っちゃうのが正解だと思います。もちろんご自分の言葉で答えてあげることは大事です。でも、こどもって実は正解を聞きたいだけじゃなくて、親とやりとりしたいんですよね。だから同じことを何回も聞いてくる。

佐藤:本当に理由を解明したいと思っているわけじゃないと?

先生:そう。最初のころは理由を解明したいというよりも、まずは理由があるかないかを知りたい。あとはとにかくママやパパとやりとりしたいんです。1歳前後に意味のない言葉をしゃべる宇宙語なんかもそうです。でもそのとき親が必死に聞き取ろうとして「あれなの?これなの?どっち?何がほしい?」ってなっちゃうと、こどもから「ちあう!(違う)」って切り捨てられちゃう。

梅田:こどもとしては、せっかくやりとりしたいと思っていたのに長々と説明されてなんだか楽しくなくなっちゃった、ってなってるんですね。でも親からすると「あなたが質問したんだからちゃんと聞きなさい!」とだんだんイライラしちゃって……。と考えると切ないですね。

岡本先生とのリモートインタビューの様子
岡本先生とのリモートインタビューの様子

先生:4歳の「なんでなんで」は、2歳の「これはこれは」と大体対になっています。2歳児はものの名前を知りたいので、散歩に行くと前に進めないぐらい「これは?」と聞いてきます。絵本を読んでいるときもストーリーはまだどうでもよくて「これは?」と。

佐藤:「これはこれは」も「なんでなんで」も親としゃべりたいから、と思うとかわいいですね。

先生:そう、だから「違う!」と切り捨てられたとしても、ママパパは「自分の説明が下手だから……」と悩む必要は全然ないんです。目の前のお子さんとのやりとりを楽しんでください。

佐藤:うちの子、最近「なんでなんで」が始まっているので、そういうおおらかな気持ちで接していきたいと思います。

梅田:先生、こどもの「裏」の生態を解明するたくさんのお話、本当にありがとうございました!では、今回のまとめです。

●育児書で予習していても、こどもは成長の個人差や想定外の行動で大人を心配させたり困らせたりするもの。実は似た経験をしているママパパも多いので「うちの子だけでは?」と焦りすぎないで。

●こどもの困った行動にも理由がある。例えば、赤ちゃんの指しゃぶりや足しゃぶりは自分と世界との境界線を知るため。「なんで?」と何度も聞くのは、親とやりとりをしたいから。その背景を知ると、困った行動も少し違って見えるかも。
 
  が心配してしまう生態も、実は環境特有のものだったり、発達の証しだったりすることも。例えば「ハイハイをしない」は日本の生活環境では珍しいことではなかったり、「おもちゃを貸せない」も“所有の概念”が育つ過程だったりするので、過度に不安にならなくても大丈夫。
ラボメンバーのこどもたちだけでも「うちの子だけじゃなかった!」が満載だった今回。さらに内容をパワーアップさせるため、現在「ITOCHU SDGs STUDIO こどもの視点カフェ」で「裏こどもずかん」の展示および募集を行っています。お立ち寄りの際はぜひあなたが驚いたり困ったりした「うちの子の生態」を書き加えていただけるとうれしいです!

        
展示画像1
展示②③

【概要】
「裏こどもずかん」展示&募集期間:9月10日(火)〜10月6日(日)
会場:ITOCHU SDGs STUDIO こどもの視点カフェ
(東京都港区北青山2-3-1 Itochu Garden 2F)
営業時間:9:30〜17:30(ラストオーダー 17:00)
休館日:月曜日(月曜日が休日の場合、翌営業日が休館)
アクセス:東京メトロ銀座線「外苑前」駅出口4aより徒歩2分、東京メトロ銀座線・半蔵門線・都営地下鉄大江戸線「青山一丁目」駅出口1(北青山方面)より徒歩5分

※詳しくは公式HPをご覧ください。
※混雑時はお並びいただく可能性があります。1時間以上お並びいただく場合は公式Instagramのストーリーズより混雑状況を配信いたします。
 
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