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こどもの視点ラボ・レポートNo.5

【こどもの視点ラボ】ベイビーボイスを使って、赤ちゃんになって泣いてみた。

2022/09/06

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「なんで泣き止んでくれないの?」赤ちゃんの気持ちがわからない

おっぱいもあげたし、オムツも替えたし、抱っこもしてるのに、いつまでたっても赤ちゃんが泣きやんでくれない。ゆらゆら揺れてみたり、散歩してみてもダメ。親なのに赤ちゃんの気持ちが全然わからなくて、こっちが泣きそう。そんな思いを経験した新米ママパパは多いのではないでしょうか?私は実際「うえーん!」と泣いてしまったことが一度や二度ではありません。

でもこどもが成長して言葉でのコミュニケーションができるようになってくると、ふと思いました。まだ話せない赤ちゃんにとっては、泣くことだけが伝える手段だったんだな、と。オムツが気持ち悪くても、ノドが渇いても、足の裏がかゆくても、泣くしか訴える方法がないってどんな気持ち?大人がこどもになってみることで、こどもへの理解を深めるための活動をしている「こどもの視点ラボ」では、今回赤ちゃんの気持ちを体感するため、話した言葉をすべて泣き声に変換する装置「ベイビーボイス」を作ってみることにしました。

まずはクリエーティブ・テクノロジストの斧涼之介くんに内部の装置を作ってもらいます。エントリーPCレベルのCPUを搭載した、名刺サイズほどのシングルボードコンピューターに小型マイクを取り付け、ユーザーが話す声のボリュームを検知。一定の値を超えると赤ちゃんの声がスピーカーから鳴るようにプログラミングを組んでくれました。

こちらを空間芸術社に持ち込み、赤ちゃんの口元の型にセット。スピーカーの位置や赤ちゃんの泣き声の音量などを調節します。いよいよ完成が見えてきました。

ベイビーボイスの制作風景


しかし進行していくうちにある疑問が。赤ちゃんの泣き声って感情によって変化するのだろうか?聞き分けられるなら、赤ちゃんがしてほしいことがわかって親御さんももっと楽になるのでは?

そこで、こどもの視点ラボの石田文子と沓掛光宏が、親子コミュニケーションについて20年以上研究している立正大学の岡本依子先生にお話を伺うことにしました。

赤ちゃんは「退屈」「つまらない」という理由でも泣く

石田:先生、こちらが制作途中のベイビーボイスです。

岡本先生(以下、先生):すごく面白い試みですね!やってみたい。完成したらぜひ私にも体験させてください。

石田:もちろんです!ところで先生、今感情に合わせて泣き声を変えるべきか、どう作り込んでいこうか悩んでいます。感情によって赤ちゃんの声は聞き分けることができるのでしょうか?ちなみに私はまったくわが子の泣き声を聞き分けられませんでした。

先生:赤ちゃんの泣き声については、分類しようと医学系や音声解析系の研究が行われ、泣きの原因が明確に異なるような状況での音声学的特徴があることはわかっています(※1)。しかし実際には、眠くて空腹など泣きの背景はひとつではなく程度もさまざまなので、「人に聞き取りができるほどの違いはないのではないか」というのが現状だと思います。

※1
文献:荒川薫 (2007). 乳幼児鳴き声の定量的解析と啼泣原因推定. 電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review, 1(2), 21-25.


私が調査等で出会った多くの親御さんたちも、「声だけではわからない」とおっしゃいます。赤ちゃんが泣き出した時、親御さんたちがまず何をするかわかりますか?時計をちらりと見るんです。おなかが減る時間かな?あ、まだ早いからオムツかも。と推測するんですね。

特に生後3カ月までの赤ちゃんは、喉の構造的にも未熟なので、鼻から空気が抜ける鼻腔音のような弱い声ですし、腹筋も未熟で声量もあまりありません。明確に泣き分けることが発達段階的に難しいと思います。なので、私たちの調査(※2)でももう少し成長した生後5、6カ月からを聞き分けの研究対象としています。

※2
岡本依子・菅野幸恵 2008 親と子の発達心理学 新曜社


沓掛:なるほど。別の質問ですが、泣いている理由は月齢によって変わるものですか?

先生:そうですねぇ、変わるとも言えるし変わらないとも言えます。おなかがすいた、眠い、痛い、暑い……あとは「退屈」という理由もありますよ。

沓掛:え、退屈でも泣くんですか?

先生:はい。人間は知的好奇心を持って生まれてきますから、つまらなくても泣くようです。「生後3週間でウソ泣きが始まる」という研究者(※3)もいます。かまってもらうために泣いて人を呼ぶ、と。ただ赤ちゃんの研究って難しくて、それが本当のことかどうか、本人たちに聞くことはできないんですよね。

※3
文献:Wolff, P.H. (1969). The natural history of crying and other vocalizations in early infancy. In Foss, B. M. (Ed). Determinants of infant behavior Ⅳ. London; Methuen.


石田:確かに……。

先生:第一子の時に見落としがちなのは「暑い寒い」です。赤ちゃんは体温が高いですが、赤ちゃんより体温が低く体温調節も得意な大人は、つい心配で着せ過ぎてしまう。第一子の親子を訪問すると、着せ過ぎで赤ちゃんが顔を真っ赤にしている、ということが実は少なくありません。

石田:思い当たります。私も不安でめちゃくちゃ着せていて、数カ月たってから着せ過ぎていたかも?と気づきました。ところでもう一つ、もっと早く知っておきたかったと思ったことがあります。赤ちゃんには何をやっても泣きやんでくれない「泣きのピーク」という時期があるというお話です。

先生:確かに何をやってもダメな時期ってあるんですよね。生まれてからずっとよく寝てくれていたのに、夕方ぐずりやたそがれ泣きが始まってどうして?というお話はよく聞きます。これはデータを取ったわけではありませんが、赤ちゃんのお世話がルーティン化してくると、夕方って「ご飯の準備をしなきゃ」「あれもこれもできてない!」と大人が赤ちゃん以外のことで忙しくなってしまう時間とも重なるので、もっとかまってほしいのかもしれません。また、成長は大人が思っているよりグンと早いので、昨日までちょうどよかったミルクの量が足りなくなっているということもあるかもしれないですね。

沓掛:結局いろいろ推測して対処してみるしかないんですかね。

先生:その通りですね。でも悩めるママパパにまず言いたいのは、泣いている理由は、わからないのが普通だということ。泣く理由がわからないと悩むのは、わかろうとしている証拠です。わが子を理解したいと願っている、良い親の証しだと私は思いますよ。

石田:今のあたたかいお言葉、真夜中に抱っこし続けていた時期に聞いていたら、大泣きしてたと思います。今でもちょっと泣きそうですけど。

岡本先生とのリモートインタビューの様子
岡本先生とのリモートインタビューの様子

赤ちゃんは「白紙」で生まれてこない。それぞれの気質があった!

石田:うちの息子は置くとすぐに泣く、いわゆる「背中スイッチ」がある赤ちゃんだったのですが。コロンと寝かせてもご機嫌な赤ちゃんもいます。生まれながらの性格ってありますよね?

先生:そうですね。赤ちゃんは白紙で生まれてくるわけではなく、生まれながらの気質があります。気質というのは、生まれた時点での個性のことで、そこに発達しながら環境要因が絡んで性格という個性に変化していきます。いろいろな分け方がありますが、有名なところだと3種類あると言われています(※4)。

※4
文献:Thomas, A. & Chess, S. (1986). The New York longitudinal study: From infancy to early adult life. In Plomin, R. & Dunn, J. (Eds.) The study of temperament; Changes, continuities, and challenges. Lawrence Erlbaum Associates, Inc.


まずは、扱いやすい、育てやすい、ミルクが欲しいと泣いて、おなかが膨れると寝てくれるイージーベイビー。2つ目は、扱いにくい子、気難しい子と言われ、おなかがいっぱいになってもぐずっていたり、置いただけで泣いたりと、なにかと敏感なディフィカルトベイビー。3つ目はエンジンのかかりにくい子、のんびり屋さんなどと訳され、刺激に対して反応がゆっくりなスロー・トゥ・ウォームアップベイビー。もちろん気質というだけで、性格はその後の育ち方やさまざまな出会いによって変わっていきます。

石田:そういう気質があると知っているだけでも、親は気持ちが楽になりますね。知っていたら「この子が泣いてばかりなのは自分が悪いのでは……」などと気に病み過ぎずにすんだのにな、と思いました。

先生:赤ちゃんとのつきあい方に困ったら「代弁」(※5)がおすすめですよ。

※5
岡本依子. (2016) . 妊娠期から乳幼児期における親への移行:親子のやりとりを通して発達する親. 新曜社


沓掛:赤ちゃんの気持ちを代弁するんですか?

先生:はい。例えばママが赤ちゃんにおっぱいをあげて「おなかいっぱい?そうね、おなかいっぱいだね」などと言うことがありますよね?赤ちゃんは質問しても答えてくれないのはわかっているのに聞く。ママはその一人二役をすることで「そういうことにしておこう」と区切りが付けられるわけです。そうすることで次の行動に移ることができる。

沓掛:なるほど。自分を納得させるんですね。

先生:そうです。実はこれ、多くの親御さんが自然にやっていることなんです。話せない赤ちゃんと一緒にいることは不安で当然。そもそも赤ちゃんといる時間って間がもたないことも少なくありません。歌を歌うのもいいですよ。時間が埋まるじゃないですか。

石田:たしかに!こどもを抱っこして歩きながら、始終、歌を歌っていましたが、あれは間をもたせるため、自分のためだった気がしてきました。

先生:歌ったり代弁すると、親の気持ちが楽になるんですよね。「抱っこしてほしかった?そうね、揺らしてほしいよね」「眠いねぇ、あぁ眠い眠い」などと推測(あてずっぽう!)でもいいので代弁してみると、なぜだか徐々に赤ちゃんの表情や行動をキャッチするのが上手になって、赤ちゃんへの観察眼も鍛えられていく。そうやって、その子との関わり方がつかめるようになっていきます。

石田:面白いですね〜。赤ちゃんとのコミュニケーションのコツが少しわかってきたように思います。先生、ありがとうございました!

「ベイビーボイス」を、新米ママパパに体験してもらった

赤ちゃんの声を感情に合わせて聞き分けるのは難しいとのことだったので「ベイビーボイス」は話し声に反応してランダムに赤ちゃんの泣き声が出てくる設計にしました。さて完成したこちら。せっかくなので、絶賛、赤ちゃんのお世話中のママパパに体験してもらい、その様子を動画にすることにしました。 

ご協力いただいたのは、松浦さん一家。娘の絃葉(いとは)ちゃんは生後6カ月です。ベイビーボイスの実物を手に「桃みたい〜」と楽しそうなご夫婦。まずは夫の恒大さんに装着した状態で、妻のまりかさんに語りかけてもらいます。気持ちは伝わるでしょうか? 
 
「ほぎゃーほぎゃーほぎゃー!!(暑いからエアコンのリモコンとってきて!)」 
「ん?何か飲みたい?お水、お水飲む?違うか」 
「ほぎゃーほぎゃーほぎゃー!!(違うよ、エアコンのリモコンとってきて!)」 
「これ?これが欲しい?違う?あ、トイレかな?」 
 
夫をトイレに連れて行くも、トイレに行きたかったわけではないようです。まったく伝わらず、泣き声が響きわたる中、時間だけが過ぎていきました。次に妻のまりかさんに装着してもらいます。 
 
「ふんぎゃーふんぎゃー!!(お茶が飲みたい!)」 
「あー、わかった、何か食べたい。食べたいね?あれ、違う?」 
「ふんぎゃ、ふんぎゃ、ふんぎゃー!!(そうじゃない、お茶が欲しいの)」 
 
ティッシュやテレビのリモコンなど、次々いろんなものを持ってきてくれますが違います。なんでわかってくれないの、というムード。あれこれ奮闘してみるものの、どれも違うようです。 
 
「眠い?寝る?ちょっと寝たら?」 
 
こちらも時間だけが過ぎていく中、終盤に差し掛かり、 
 
「あ、お茶!お茶じゃない?」 
 
とコップにお茶を注いで持ってきた恒大さん。止まる泣き声。つ、伝わった!!!と、撮影現場は一種の感動に包まれました。泣くことで伝えようとするコミュニケーションがなんと難しいことか。 
 
「実際に体験してみると、こんなにも伝わらないのかと。やっぱり泣いている理由がわからないからってイライラしちゃいけないな、と思いました。わかってあげる努力というか」 と恒大さん。 

「オムツやミルク、眠いだけじゃなくて、もっといろんな不快があるのかもしれないって今回これを自分でやってみて思いました。これからはもっといろんなことにトライしてみようかな、と思いました」とまりかさん。赤ちゃんは泣くことしかできないけれど、伝えたい気持ちがあることを実感してもらうことができました。 

プレママパパ、1歳児のママパパにもインタビューした3組の体験動画はこちら


では今回の研究での学び、まとめです。

●赤ちゃんが泣いている理由は、わからないのが普通。オムツの不快や空腹、眠気、暑い寒い(服の着せ過ぎ)の他、退屈で泣くこともあることを知っておこう。

●赤ちゃんには生まれながらの「気質」がある。例えば、イージーベイビー、ディフィカルトベイビー、スロー・トゥ・ウォームアップベイビー。扱いにくいと言われるディフィカルトベイビーも多いので、お世話の仕方で悩み過ぎないで。

●赤ちゃんとの時間、間がもたなくて困ったら「おなか減った?おなか減った〜」「眠いの?眠い眠い」など、赤ちゃんの気持ちを「代弁」してみて。様子を観察しながら一人二役をすることで、徐々にその子との関わり方がつかめるようになってきます。

「ベイビーボイス」を装着することで、泣くことしか伝える手段がないもどかしさを実感することができました。赤ちゃんに「泣かないで」と言うことは、大人に「話さないで」と言うことに近いかも?何かを一生懸命伝えようとしているんだと思って、泣かせてはいけないと思い過ぎないようにできればいいな、と感じました。

なお、こどもの視点ラボがプロデュースした体験展示「こどもの視展」が絶賛開催中です。今回制作した「ベイビーボイス」をはじめ、大人がこどもになってみる6つの体験を実際に楽しんでいただけます。ぜひ赤ちゃんになって泣いてみてください!

こどもの視展【「こどもの視展」概要】
主催:ITOCHU SDGs STUDIO
協力:こどもの視点ラボ
期間:7月22日(金)~9月19日(月・祝)11:00~18:00
※休館日:毎週月曜日(月曜日が休日の場合、翌営業日が休館)
会場:ITOCHU SDGs STUDIO(東京都港区北青山2-3-1 Itochu Garden B1F)
料金:入館料無料
※詳しくは公式HPをご覧ください

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