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こどもの視点ラボ・レポートNo.6

【こどもの視点ラボ】大人用ランドセルを作って背負ってみたら、予想よりはるかに重かった!

2022/09/15

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こどもの視点ラボは大人がこどもになってみることで、こどもへの理解を深めるための活動をしています。今までは主に赤ちゃんや幼児について研究してきましたが、息子が小学校に入学したことをきっかけに急浮上したテーマ、それがランドセルでした。重いことが問題になっているとは知っていたけれど、実際本当に重い。小柄な小学1年生がこんな重い荷物を毎日背負って大丈夫なの??というレベル。これは体験するしかないと鼻息荒く、ランドセルを実際に制作している工房に作っていただくことにしました。

こどものランドセル、大人の体感では約19kg!?

平均的なランドセルのデザイン画を描き、実際にランドセルに使われている合皮素材を使用して製作していきます。大きさと重さは大人の男性が小学1年生の女児になって背負ってみたら?という想定で算出しました。小学生の荷物の平均値5.7kg(※1)をもとにすると、なんとその重さは驚愕の18.9kg!え、数字を見ただけでも重すぎますが。

子どもと大人ランドセルの比較図

手書きの設計図
※1
白土健・大正大学教授の調査結果より/2017年、都内の小学1~6年生計91人のランドセルの重さ、全学年平均(サブバック含む)。小学1年生(6歳)の女子の身長&体重の全国平均値(出典:令和2年度 学校保健統計)を、身長180cm 体重70kgの男性に置き換えて大きさ・重さを算出。

さらに、わが子の小学1年生当時の月曜朝の持ち物も改めてリスト化してみます。ランドセルに入りきらない上履き袋、体操着入れ、給食袋、図工バッグ、水筒も手持ちとして大人用を製作してみることにしました。これに音楽バッグ、図書バッグ、給食係のエプロン袋などが追加される日があり、長い休みの前にはお道具箱や防災頭巾、図工で作った作品、アサガオの鉢なども持ち帰ってきます。お、多すぎて切ない!!

小学1年生の持ち物
わが子の小学1年生当時の持ち物をリスト化してみました。

現場の先生、教育委員会の方々に背負ってもらった

出来上がった大人ランドセル&サブバッグ(ぜんぶで18.9kg)。今回はぜひ教育現場の皆さんに実際に背負っていただきたい!ということで、体験を快諾くださった小金井市立南小学校の高橋雅子先生のもとに、こどもの視点ラボの石田文子と沓掛光宏が向かいました。

石田:先生、こちらが大人ランドセルです。

高橋先生:お、大きいですね。

沓掛:とても重いので、支えながら背負っていただきますね。手、離しますよ?

高橋先生:え、こんなに重いんですか?山小屋に物資を届ける登山家レベルというか。 前傾にしていないと後ろにもっていかれますね。ち、ちょっと廊下に出てみます。

果敢にも廊下を何度も歩き「階段も上がってみます!」と、こどもたちの普段の行動に近い形で体感してくださる高橋先生。その姿がけなげな小1女子に見えてきました。

高橋先生:あ、汗が……、10分歩くのも大変ですね。でも学区的に30分歩く子もいますもんね。坂がある子もいるし。しかも歩くだけじゃなくこれを背負ったまま靴を脱いで上履きを履いて階段を上がって……。

沓掛:はい。僕たちも実際に作ってみてその重さに驚きました。

小金井市立南小学校の高橋雅子先生
「想像していたより、かなり重いです」と小金井市立南小学校の高橋雅子先生。

高橋先生:わかっていたつもりだったけれど、体験すると違いますね。モノとして再現されていることの強みを感じました。私は背負って歩いただけですが、こどもたちは背負う以上のアクションを毎日行なっている。相当な負荷をかけながら学校生活を送っているんだと痛感しました。

石田:この問題、どうアプローチしていけばいいと思われますか?

高橋先生:難しい問題ですよね。単純に “荷物を減らす”では片付かない、学習との兼ね合いというか複合的な要素が絡んでいると思うので。

沓掛:複合的な要素ですか?

高橋先生:例えば道具。私が担当している図工だと、低学年ほど一番ベーシックなタイプを扱います。大ぶりの「ポットのり」だったり、ケース付きのハサミ、何度も使えるけれど重量のある油粘土など。高学年になってくるとスティックのりにしたり、紙粘土にしたり、鉛筆をシャーペンに換えたりと軽量化していけますが、低学年だとその道具の基本的な機能や使い方を知るためにもベーシックで大ぶりなものになりがちです。

石田:筆記用具も「Bの鉛筆5本と赤鉛筆1本」と決まっていたりしますよね。

高橋先生:それも鉛筆の基本的な持ち方、筆圧など「字を書く」という行為に慣れるためには発達段階的にちょうどいい量と道具だと思うんですよね。低学年は、まだまだ持ち物の仕分けを自分ですることも難しいですし。

沓掛:確かにいきなり鉛筆1本というわけにはいかないですね。でも体が一番小さい頃が一番道具も大ぶりになりがち、というのはハッとしました。大人が使う道具はどんどん軽量化されてコンパクトになっているのに。

石田:教科書もA4サイズで昔より大判化していますよね。理解しやすいようにビジュアルが増えたり工夫されたりしているけれど、その分ページ数も増えて重くなっている。

高橋先生:そうですね。あと高学年になってくると、必要なものの取捨選択を自分でできるようになりますが、入学したばかりではそれもできません。

石田:確かに!うちの息子が1年生の間、ずっと教科書を全部持ち帰ってきていたんです。つい先日、保護者会で「全部持ち帰るのはおかしくないですか?」と言ったら「宿題に必要のない教科書は置いて帰っていいんですよ。各自、置き勉スペースがあります」と先生から伺って。息子が理解していなくて、とにかく全部持って帰ってきていただけだった、ということがありました。

高橋先生:誤解があったわけですね。学校側も保護者の方々から意見をいただくのはありがたいですし、お互い丁寧にコミュニケーションをとりながら、その学校に合ったベストな方法でこどもたちの負荷を軽減していけるといいですね。すべてを個人持ちにするのではなく、学校で共用で使うものを増やすことも一つかもしれません。

石田:「重すぎます!」とクレームを言うだけでは解決しませんもんね。保護者側も「こうすればどうでしょう?」と学校にアイデアを提案したり、協力する姿勢が大事かもしれません。先生、ありがとうございました。

さて、つぎは教育委員会の方々に背負っていただきたい!ということで横浜市教育委員会の教育政策推進課におそるおそるご相談してみました。すると河瀬靖英指導主事から「それは興味深い!ランドセルなら小学校籍の職員が体験した方がいいですね。うちに在籍しているのは2人なので、他の課にも声がけしてみます」とこちらも快諾いただき、小学校籍の5人の指導主事の方に集まっていただけることになりました。いざ横浜市庁舎へ!

石田:こちらが大人ランドセルです。
(教育委員会の皆さん、その大きさにどよめき)

沓掛:かなり重いので、背負ったらゆっくり立ち上がってくださいね。

「え、うそでしょ?こんなに重いの?」「後ろに持っていかれる感じがあるね」「まるで本格的な山登りのような」「こんな重いもの背負って走るのは……無理だなぁ」「これは、もっとみんな背負った方がいいんじゃないか?他の職員も呼んでこよう!」

背負った方が次々に声がけしてくださり、結局、総勢15人ほどの職員の方に背負っていただけました。改めてお話を伺うと、

横浜市教育委員会の皆さん
横浜市教育委員会の皆さんが、次々に背負ってくださいました。

「想像していたよりも遥かに重かったですね。こんな重いものを担いで毎日坂を登る子もいるのかと」「中学生もかなり重いので、そちらも心配になりました」「改めて児童の立場に立って寄り添っていかなければと思ったし、体感として知ることができてありがたかったです」「荷物の軽減については、引き続き取り組んでいかなければと思いました。貴重な体験をありがとうございます」と、感謝の言葉までいただいてしまいました。こちらこそありがとうございました!

重すぎるランドセルを調査している白土健先生、この問題は解決するのでしょうか?

さて、現場の高橋先生、横浜教育委員会の皆さんとのお話でも出てきたのが、ノートPCやタブレットの存在についてです。今その重さがずっしりとこどもの背中にのしかかっている印象があります。そこで長年「重すぎるランドセル問題」を調査している大正大学の白土健先生に、近年の荷物の動向からこの先の展望までを伺いました。

石田:白土先生が調査された2017年のランドセルのデータ「平均重量5.7kg」を基に大人用ランドセルを作らせていただきましたが、その頃ってまだPCの持参が始まっていませんよね?もしかして今は当時より重いのではないでしょうか?

白土先生:そうですね。実はその調査後、2018年に国から「置き勉」を容認する通達があったことで、学校も対策に乗り出して荷物が減ってきた印象があったんです。しかしコロナがきてしまい、家庭学習のためにもノートPCやタブレットの普及が一気に加速しました。水筒を持参する学校も増えたので、また重くなってしまった。

石田:いや、ほんとに。私の周りの保護者の間でも、タブレットと水筒は“最後の大物”と言われてまして。両巨頭という感じです。

沓掛:そもそも、こどもたちの荷物ってどれくらいが適正なのでしょう?

白土先生:アメリカの研究では背負う荷物は体重の10%が望ましいと言われています。(※2)体重25kgなら2.5kgということですから今はやはり重すぎる。私の調査では荷物の重さが11kgを超えていた子もいたほどです(※3)。

※2
Association of relative backpack weight with reported pain, pain sites, medical utilization, and lost school time in children and adolescents/by Michael J Moore , Gregory L White, Donna L Moore /2007 May/National library of medicine

※3
白土健・大正大学教授の調査結果より。2018年4月、首都圏の小学生58人を対象に2週間にわたって実施。サブバッグの重さも含む。
 

石田:11kg!大人用にすると30kgを超えます!

沓掛:持てませんね……。

白土先生:スクールバスや親の送迎が当たり前の国の人たちと話すと「こどもにそんなに重い荷物を毎日持たせるなんて信じられない!」と言われます。日本には勤勉、努力、我慢などを美徳とする意識が根強いことも関係しているかもしれませんね。

石田:「怠けるな、がんばれ」と言ってしまう親御さんもいるかもしれません。でも自分が体験すると、重いと訴えることが決して怠けているわけではないことがよくわかります。

白土先生:重いランドセルが原因で、肩こりや腰痛が慢性化することもある。その「身体的不調」と、それによって学校に通うことが嫌(通学ブルー)になる「精神的不調」が重なると、いわゆるランドセル症候群(※4)になってしまいます。楽しいはずの学校生活が、荷物のせいで憂鬱になってしまうなんて本末転倒としか言えません。

※4
自分の体に合わない重さや大きさのランドセルを背負って通学することで、心と体に不調をきたすこと。


沓掛:その通りですね。先生、この問題、今後改善されていくと思われますか? 

白土先生:そうですね。PCが一気に普及したものの、教科書や紙の宿題はまだ減っていないので、今は“持ち物の過渡期”と言えると思います。今後、学習内容のデジタル化が追いつけば持ち物は減るはずですから、解決への薄明かりはともっているとは思いますよ。有効なICT教育の普及で、こどもたちの未来が明るくなることを私も期待しています。

昔のランドセルを手に「今はランドセル自体も大型化しています」と白土健先生。
昔のランドセルを手に「今はランドセル自体も大型化しています」と白土健先生。

学習内容のデジタル化はこの問題を軽減していく糸口になりそうですが、まだもう少し時間はかかりそうです。今回の学びをまとめます。

●ランドセルの重さを大人用に換算すると、なんと18.9kgもの重さになる。(※1)

●アメリカの研究では、背負う荷物は体重の10%が望ましいと言われている。日本の小学生が背負っている荷物はそれよりはるかに重いのだ、ということを知っておきたい。(※2)

●重いランドセルが原因で、肩こりや腰痛が慢性化する「身体的不調」と、学校に通うことが嫌(通学ブルー)になる「精神的不調」がランドセル症候群を引き起こす。たかが荷物の問題、と侮らないようにしたい。

毎日、約19kgの荷物を背負って通勤することが義務付けられたら、大人だったら労働組合や会社に改善を求めますよね?「決まりだから仕方ない」と受け入れて通勤するとは思えません。小さな体で一生懸命に通学するこどもたちを思うと、大人はもっと「自分だったら?」と、こどもたちの身になって考えていく必要があると感じました。

さて、今回作った大人ランドセルも公開中の体験型展示「こどもの視展」がいよいよ9月19日で終了です。ご好評をいただき、現時点で1万人を超えるお客様にご来場いただきました。ランドセルの重みを実感してみたい方、ぜひお急ぎください!

また「他府県でも開催してほしい」とのお声もたくさんいただいております。自治体、美術館、商業施設、企業がお持ちの展示スペースなど、巡回展のご依頼もお待ちしておりますので、ぜひ下記の電通ウェブサイト・お問い合わせページまでご連絡いただければと思います。
 

こどもの視展【「こどもの視展」概要】
主催:ITOCHU SDGs STUDIO
協力:こどもの視点ラボ
期間:7月22日(金)~9月19日(月・祝)11:00~18:00
※休館日:毎週月曜日(月曜日が休日の場合、翌営業日が休館)
※混雑状況により入場制限をさせていただく場合がございます。
会場:ITOCHU SDGs STUDIO(東京都港区北青山2-3-1 Itochu Garden B1F)
料金:入館料無料
※詳しくは公式HPをご覧ください

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