【グローバル】加速するサステナビリティ&サーキュラーエコノミーNo.22
6カ国平均で9割が認知していた!?「生物多様性」
―今ビジネスで注目される理由に迫る―
2023/12/20
今、世界で注目されている課題の一つが「生物多様性」です。日本でも企業の取り組み事例がテレビ番組や広告で取り上げられるようになり、ビジネスにどう組み込むかに関心が集まっています。
本記事の前半では生物多様性に関する6カ国(日本、中国、フランス、ドイツ、インドネシア、タイ)の反応を「サステナブル・ライフスタイル意識調査2023」(調査概要はこちら)の結果を踏まえて紹介。後半は、フランス発の「生物多様性ワークショップ」を日本語に翻訳し、2023年から日本で展開するCodo Advisory社の鈴木香織氏とベノア・モルガン氏にインタビューした内容をお伝えします。
<目次>
▼「生物多様性」の認知度は6カ国平均で約9割
▼生物多様性の中でも関心が高まる「水の保全」
▼フランス発の生物多様性ワークショップ
▼意外と知らない生物多様性
▼気候変動対策にもなる生物多様性対策
「生物多様性」の認知度は6カ国平均で約9割
生物多様性という言葉の認知度は6カ国平均で約9割、理解度は約6割です。日本の生物多様性の認知度は、78.7%でした。理解度は43.3%と6カ国平均より低いものの、言葉としては広く浸透していることがわかります。
今回の調査と対象年齢や聴取方法が異なるため参考値となりますが、2022年10月に日本政府が発表した世論調査(日本国籍を保有する18歳以上3,000人が対象)では、生物多様性の認知度(※1)は72.6%、理解度は29.4%でした。この1年で認知度・理解度ともに伸びている可能性があります。
出典:内閣府政府広報室/「生物多様性に関する世論調査」の概要
※1:言葉の意味を知っていた、意味は知らないが言葉は聞いたことがあった、の合計
次に、関心のある社会課題に「絶滅危惧種・生態系の崩壊」を選ぶ割合が高かったのは、フランス(45.2%)、ドイツ(40.1%)でした。
フランスでは「生物多様性、自然および景観の回復のための法律」が2016年に制定されています。この法律では、生態系の保護、生物多様性の回復などが規定されており、国家的に生物多様性に力を入れています。
一方、日本は絶滅危惧種・生態系の崩壊の関心は23.7%で6カ国のうち、最も低い結果でした。生物多様性への認知や理解は高まってきてはいるものの、絶滅危惧種や生態系の崩壊に対する関心はまだ低いようです。
生物多様性の中でも関心が高まる「水の保全」
世界中で1000以上の企業・組織が参画する国際的なイニシアティブTNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務情報開示タスクフォース)に日本からも130以上の組織が参画し、情報開示に積極的な企業が増え続けています。では、人々は企業に具体的にどんな取り組みを期待するのでしょうか。
生物多様性関連の代表的な取り組みを提示し、企業に優先的に取り組んでほしいものを聴取したところ、6カ国すべての国で「水源地の保全・水質管理」が上位となりました。日本を含む世界中で水不足が話題になる中で、生活に直結する「水」に関連する取り組みが、企業にも求められていることがわかります。
日本でも飲料メーカーなどさまざまな企業が水の保全活動に力を入れ、水質源である森林を保全し、生物多様性の損失を抑えるだけではなく、ネイチャーポジティブ(自然再興)を目指すことを情報発信し始めています。また、専門家の協力により、これまでCSR活動として地道に行ってきた自然保全が生態系にもたらす効果を定量的に可視化することで、企業や事業のブランディングに活用するケースも出てきています。
また、企業が保有する森林や里地里山などを「自然共生サイト」(民間の取り組みによって生物多様性の保全が図られている区域)に申請する動きもあり、環境省は2023年10月に122カ所を認定しています。
面積の合計は国土の約0.2%に相当する約7.7万ヘクタールで、東京23区を超える大きさです。それでもまだ、2021年のG7サミットで約束した30by30(2030年までに国土の30%以上を自然環境エリアとして保全する目標)に向けて十分とはいえません。
水の保全にもつながる自然保全活動をこれまで以上に企業・自治体・環境団体が協業して実施し、保全エリアを増やしていくことが、国からも人々からも求められています。水を活用する企業が、CSRや社会貢献の取り組みにとどめず、本業の中に捉えなおして保全しながらビジネスを行い、ブランド価値としても発信していく動きは今後も加速していくでしょう。
フランス発の生物多様性ワークショップ
フランスで生まれた生物多様性ワークショップ「バイオダイバーシティ・コラージュ(正式名称 La Fresque de la Biodiversité)」は、フランス政府の生物多様性局のウェブサイトにも紹介されています。フランスでは、生物多様性ワークショップがフランス公務員の気候教育に選ばれており、2024年末までに高官2万5000人、将来的には560万人の公務員が対象になることが予定されています。
今回は、生物多様性ワークショップの公認ライセンスを持ち、日本でビジネス展開しているCodo Advisory社代表の鈴木香織さんと、日本代表認定ファシリテーターのベノア・モルガンさんに話を伺います。
──「バイオダイバーシティ・コラージュ」はどういったワークショップでしょうか?
鈴木:グローバルで科学的に信頼のあるIPBES(※2)報告書に基づいてつくられたカードとコラージュを用いたワークショップです。特徴としては、楽しく、科学的で、客観的な、生物多様性の基礎知識が身につけられます。
※2=IPBES
2012年4月に設立された政府間組織。生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Servicesの略)。生物多様性と生態系サービスに関する動向を科学的に評価し、科学と政策のつながりを強化する
ベノア:前半はカードを用いて生物多様性崩壊の原因と結果を学びます。具体的には、生物が食物連鎖などにより生態のバランスをとり、維持する関係、「エコシステム」にまつわる問題を出し、参加者全員で考えます。生物多様性の複雑なバランスを理解し、そのエコシステムに人間がどういった影響を及ぼしているか、カードを使って考え、感情をシェアし、エコシステムの構成を体感していただきます。
ベノア:後半では生物多様性の損失を防ぐためのアクションについて議論します。本パートは企業に合わせてカスタマイズが可能で、例として業界のアクション、企業のアクション、個人のアクション等に分けて、それぞれのレイヤーでどういった行動をしていくべきか書き出します。それらを参加者同士で発表し、ディスカッションすることで、主体性を身につけ今後の行動を加速させます。
──ワークショップの参加目的は?
鈴木:企業のサステナビリティ研修や社内での生物多様性への理解促進が主です。生物多様性が何かわからないので体系的に学びたいといった目的が多いですね。自治体や大学からの希望もあります。初心者の方でも専門性の高い部署の方でも参加でき、複雑なツールはなく、大きめのテーブルさえご用意いただければ実施できます。
意外と知らない生物多様性
──私も実際にワークショップに参加して、生物多様性について意外と知らないことが多いと驚きました。
ベノア:最初の自己紹介で参加者のみなさんに「好きな生き物を教えてください」とお願いしていて、ほとんどの方は犬や猫といった哺乳類を答えます。たまに爬虫類と答える方もいらっしゃいますが、植物や菌類を答える方はほとんどいません。生物多様性を知っているつもりでいても、森林や海といった生態系も生物多様性であり、実はあらゆる生物多様性に支えられていることにあまり気づいていません。
──生物多様性というと、絶滅危惧種の保護をイメージしがちですが、本当は、森林保全や水源地の保全など、幅広い。改めてワークショップを通じて、あらゆる生態系のバランスに支えられていることを学び、人間はエコシステムの1つにすぎないと実感しました。
ベノア:ぜひ多くの人に生物多様性と自身の関係性に気づいていただき、小さな行動を積み重ねることで結果につながることを実感いただけるとうれしいです。
鈴木:生物多様性というと難しく捉えられがちですが、このワークショップは感覚的に楽しく学ぶことができます。生物多様性を主体的に捉えていただくための最初の1歩として活用していただければと思います。
気候変動対策にもなる生物多様性対策
──ワークショップ内でも提示されるIPBESとIPCC(※3)が共同で報告した生物多様性保全がいかに気候変動に影響があるかを示すデータについて、少し解説していただけますか。
※3=IPCC
1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)によって設立された政府間組織「Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル)」のこと
ベノア:上の図2は気候変動緩和策による生物多様性保全への影響を示したものです。左側が気候変動で、右側が生物多様性。左のアクションを行うことで、右にどういった影響を与えているのかを示しています。青色は好影響、赤色は悪影響のものです。気候変動緩和・適応のみに焦点を絞った対策は、一部自然や自然の恵みに直接的・間接的な悪影響を及ぼす可能性があると言われています。
下の図3は、生物多様性保全策が気候変動緩和策にどう影響しているのかを示した図です。左が生物多様性、右が気候変動。図2と比較して、ほとんどが青色の好影響になりました。生物多様性の保護と再生にのみ焦点を絞った対策でも、多くの場合、気候変動緩和に波及効果があると報告されています。ただし、どちらかに絞るのではなく、生物多様性と気候の両方を考慮した対策が重要だとも書かれています。
──生物多様性と気候変動は双子の関係と言われていますが、生物多様性保全がいかに重要なのかがよくわかるデータですね。
企業の中には、「自然保全活動として実行しているものの、それが生物多様性につながっている」と気づいていないケースもあるでしょう。自社のアクションを「これって生物多様性かも?」と捉えなおすことが、ネイチャーポジティブへ近づく第一歩になると感じました。本日はありがとうございました!