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【グローバル】加速するサステナビリティ&サーキュラーエコノミーNo.23

紙製品から考えるエシカル消費

2024/03/26

本記事では、2024年2月21日に行われたSustainable Brands OPEN SEMINAR「紙製品から考えるエシカル消費」の模様をリポート。日本製紙太刀川 寛氏×日本製紙クレシア長谷川 敏彦氏×講談社FRaU編集長の関 龍彦氏のパネルディスカッションを、当日ファシリテーターを務めた電通サステナビリティコンサルティング室の田中理絵が、ダイジェストでご紹介します。

太刀川氏、長谷川氏、関氏、田中氏
<目次>
各社の事業におけるエシカルな取り組み

成熟期を過ぎた木はCO2をほとんど吸収しなくなる

日本でも、エシカルは高くても買い続ける理由になるか

回収に足りないワクワクを

エシカル消費を日本に広げる鍵とは?

各社の事業におけるエシカルな取り組み

太刀川氏
太刀川 寛氏(日本製紙)

太刀川:日本製紙グループは、名前の通り、紙を作っています。印刷用紙、ティシューやトイレットロール、紙パックなど。それから発泡スチロールの代わりになる氷を入れても水濡れしないダンボール紙や、雨に強い選挙用ボード、バイオマス製品も作っています。

木材からすごく細かいセルロースだけを取り出してつくるセルロースナノファイバーは、日焼け止めの中に入れると、シャカシャカ振ったあとに分離しにくくなったり、タイヤに使って強度を出したり、さまざまな使い方ができます。牛の餌にすると、消化がゆっくりされるため牛の健康維持に役立ち、牛乳の脂肪分も増えます。他にも、木材を事業基盤とした、バイオマス発電等のエネルギー事業や建材、最近はエリートツリー(花粉が半分以下で、成長が1.5倍以上)の苗の生産事業もしています。

日本製紙グループのスローガンは「木とともに未来を拓く」で、ビジネスモデルとして三つの循環(森林資源の循環、木質資源の循環、製品リサイクル)を掲げています。国内では北海道から九州まで9万ヘクタールほど社有林があり、ブラジルやオーストラリアでも植林をして原材料にしています。森林価値の最大化とバイオマス製品の拡大をすることが企業の成長戦略で、循環型社会構築への貢献につながっています。原材料コストを下げ、カーボンクレジットを作ると同時に、森林保全や生物多様性、脱プラなどの社会のニーズに沿った事業になっています。

日本製紙さま講演資料
日本製紙 講演資料より

長谷川:太刀川さんのお話にあった三つの循環の右側のオレンジの「積極的な製品リサイクル」において、日本製紙クレシアが行う紙パックリサイクルで関わります。スコッティの原料の一部は、牛乳パックに代表される回収された紙パックを使っています。

長谷川 敏彦氏(日本製紙クレシア)
長谷川 敏彦氏(日本製紙クレシア)

長谷川:紙パックには、中を保護するポリフィルムと外を保護するポリフィルムに挟まれた高品質のパルプがあり、実は牛乳などの飲料が入っていても中のパルプは全く濡れないので、ポリフィルムを除去して原料として使っています。昔はバージンパルプと同じ扱いでしたし、お客さまに満足していただける製品品質を保っています。

日本製紙クレシアさま講演資料
日本製紙クレシア 講演資料より

長谷川:2021年からトイレットロールの従来基準の12ロールをやめ、1.5倍から3倍長持ちする仕様にシフトしました。中でも3倍長持ちはサイズ的にも約3分の1で持ち帰りが楽、取り替え回数が減るという消費者のメリットがあり、流通面では、配送や品出しの効率アップ・在庫スペース減などのメリットがあります。当社にとっては、物流コストや在庫スペースや副資材の削減になります。そして地球にとっても、CO2排出量は12ロールに比べて約49%削減(輸送・原材料)、プラスチックフィルムの削減にもつながっていて、「消費者」「流通」「メーカー」「地球」の「四方よし」です。

関 龍彦氏(講談社FRaU編集長)
関 龍彦氏(講談社FRaU編集長)

関:当社は雑誌を作っておりますので、紙は不可欠です。「FRaU」は1991年に創刊したライフスタイルのワンテーママガジンです。2018年に女性誌ではおそらく世界初の「SDGsだけで一冊」を作りました。

2023年の防災の日(9月1日)は関東大震災後百年でしたので、丸ごと一冊防災特集を出しました。その後半年もたたない間に、2024年1月の能登半島地震がありました。「FRaU」としてできることは何か考えまして、電子版の防災特集を3カ月間無償でダウンロードできるようにしました。防災のことは知っているつもりでも、知識を新しくしていく必要がありますから。

講談社FRaUさま講演資料
講談社FRaU 講演資料より

関:次回は木の特集を発行予定です。いまだに「木は切っちゃいけない」と誤解している方も多いので、変えていきたいという気持ちがあります。

成熟期を過ぎた木はCO2をほとんど吸収しなくなる

太刀川:木がCO2を吸って大きくなることはみなさんご存知ですが、永遠に大きくなるわけではなくて、ある程度の大きさになるとそれ以上は育たなくなります。この段階では、光合成の量が減って、呼吸によって使う量とほぼ釣り合うため、事実上CO2をほとんど吸収していないことになります。このため、成長した木を伐って使い、新しい苗を植えてまた森に戻すという循環が、実はその森林でずっとCO2を吸収し続けるには必要ということになります。日本は資源が少ない国ですが、森林はたくさんありますので、木をいかに資源として使いこなしていくのかが、これからの日本の大きな課題になってくると思います。

関:伐採する時期は数十年単位ですか?

太刀川:だいたい40年から50年といわれています。実は現代の日本の森林はこの2000年ぐらいで見て、一番木が多くなっています。戦後に植えたものが成長して、本当はもっと収穫しなきゃいけない。私たちもこうした木をしっかり使って、また新しく森林を植えていく必要があります。

日本でも、エシカルは高くても買い続ける理由になるか

田中:電通のサステナブルライフスタイル意識調査2023では、日本を含む6カ国平均(日本、中国、フランス、ドイツ、インドネシア、タイ)で「日用品はサステナビリティに配慮された商品が適正価格で買える」という結果になりました。スコッティも、手に届く価格のエシカルな商品ですね。

講演資料(電通)
電通 講演資料より

田中:逆に「高くても買う理由」では、フランスやドイツはトップにエシカルな理由がくるのに対し、日本ではエシカルは意識されるけれど買う理由のトップではなく、4、5番目という位置付けです。日本で高くても買う理由は「高品質」。実際に、エシカルだからスコッティを買うのではなく、紙質が良いから、詰め替えが楽だから買う、という方が多いのではないでしょうか?

長谷川:はい、ほとんどの方は利便性だと思います。あとパッケージが好きだという方ですね。回収した紙パックの6割以上を日本製紙クレシアで使っていることはあまり知られてないので、私たちも発信して、これから選択基準の一つにしていただきたいと考えています。

太刀川:プラスチックは手軽で安価だけれども、環境負荷が大きいので、将来莫大なコストをかけないといけない可能性も出てくる、いわゆる外部不経済です。今価格が安いからだけではなくて、エシカルで環境負荷の低い素材で、将来コストを払わなくて済むものを買い続けたいという観点は今後出てくると思います。

関:若い人の方が「高くてもエシカルなものを買う」というデータはありますし、「買った後に使っているものが結果としてエシカルだった、でいいんじゃない」っていう考え方も間違ってはないと思うんです。ただ、その人はずっと気が付かないでいいのかっていう。先ほどのご説明のように実は消費者だけじゃなくて、メーカーとか地球とか流通のことまで考えてエシカルな商品が作られているなら、最初は気がつかなくてもいいけど、どこかで気付いてほしい。一つ一つのエシカル消費が大きなSDGsに関わるという感覚をもち、考えるきっかけになることが大事だと思います。

回収に足りないワクワクを

講演資料(電通)
電通 講演資料より

田中:日本は、詰め替えを買うことは浸透していますが、回収参加はあまり根付いていません。

長谷川:今はソフトパックというビニール入りのティシューを詰め替えで使う方が増えていて、「ごみが少なくなる」という理由で選ぶそうです。でも「ティシューの箱はごみじゃなく資源」で、段ボールなどの材料になります。お菓子の包装はプラスチックから紙包装に切り替えたことが注目されますが、ティシューは昔から紙の箱でできていたからエコが意識されにくい。私たちも「ハコはエコ」マークを製品に載せています。捨てずに畳んで回収に出していただきたいです。

日本製紙クレシア様講演資料より
日本製紙クレシア 講演資料より

会場から:回収は正直、やりたくないです。企業が考えるべき真面目なものまで、消費者に押し付けるのは、負担だなって思います。例えば、日本だと1個10円の卵を40円で売る時に高品質と言って売ると思うのですが、韓国なら「幸せな鳥が生んだ卵」とか、楽しそうなワクワクをつけてくれるでしょう。日本でも、回収に楽しみや喜びを付与できるでしょうか。

長谷川:価値や見返りは人それぞれですが、非常に良い質問ですね。先日スコッティシリーズのご購入金額に応じて懸賞に応募できる「アクションフォースマイルキャンペーン」の中で、「トイレットロールの芯16本か、ティシュー箱10個、または芯8本+箱5個を送ると抽選で当たる」まいにちコツコツコースを作りました。送料はご負担いただきますし、手間がかかるのに応募は想定をはるかに超える件数でした。今後この応募で回収された紙を工場で再生するところもお伝えする予定です。ポイント還元ではなく、社会貢献できるキャンペーンでも応募いただけたことに、今後のヒントがあるように思います。

田中:回収はワクワクしない、おっしゃる通りだと思います。でも、このまいにちコツコツコースを申し込まれた方は、トイレットロールが切れた時に「よしたまった」と思った絵が浮かんできますね。日本は企業も消費者も「やらなきゃ」に行きがちですが、新しいライフスタイル、ワクワクに近づけたいですね。

関:取材したマシンガンズの滝沢秀一さんが「ごみって何種類あると思いますか?」って小学生に聞くと、大体「7、8種類」と答えるのだそうです。でも、正解は2種類。「可燃ごみ」と「不燃ごみ」しかない、それ以外は資源だと。徳島の上勝町のゼロ・ウェイストセンターでは、回収スペースがピシッときれいに40何種類に分かれて並んでいて、くささなんて全くない。ごみなんて誰も思わないでしょう。ごみって決めるのは自分自身ですから、自分たちができる範囲で分別して、ごみじゃない資源を増やそうと思う気持ちが、大事だと思います。

エシカル消費を日本に広げる鍵とは?

セッション会場の様子
セッション会場の様子
来場者に配られたお土産(スコッティ)
来場者に配られたお土産(スコッティ)

会場視聴者からの「企業が考えるべき真面目なものまで、消費者に押し付けるのは負担。回収に楽しみや喜びを付与できるか」というご指摘と、関編集長の「一つ一つのエシカル消費が大きなSDGsに関わる/考えるきっかけになる」「ごみって決めるのは自分自身」。これらの発言は「これからエシカル消費や回収をもっと広げるために何が必要か」の示唆に富んでいます。

本セミナーは日常必需品のティシューやトイレットロールを通して、森林循環や製品輸送によるCO2の吸収や削減を知り、紙製品が木からできていること、紙パックやティシュー箱を資源に活用することに思いをはせる機会でした。ただ意識せずコンパクトサイズを買うだけでは不十分で、商品が自然資源からできていることに気づき、買う時も資源化する時も、すべての製品とすべての暮らしが自然とつながり循環することが、新しい豊かさだと感じます。もっとワクワクする伝え方、巻き込み方をすることが、エシカル消費を日本に広げる鍵になりそうです。

※記事化にあたって、各自の発言の順番を変えたり要約を行ったりしています。

 

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