ツギクル「旅」のかたちは、「目的地起点」から「意義起点」へ
電通若者研究部(以下、電通ワカモン)は、現役大学生と未来の兆し発見プログラム「ツギクル」ワークショップを実施。「次に来る○○のかたち」というテーマで大学生のレポートをもとに仮説の構築をしています(未来の兆し発見プログラム「ツギクル」の記事はこちら)。
今回のテーマは、現役大学生が考える「次に来る“旅”のかたち」です。2022年にもツギクルワークショップで実施をした「旅」というテーマ。そこから4年たった今、どのように学生の「旅」に対する捉え方は変化したのか、新たな価値観の兆しに迫ります。
電通若者研究部「ワカモン」
若者の意識・価値観・行動を継続的に研究し、マーケティング、事業開発、組織・人財領域までをカバーする電通内の専門組織。若者を世代論としてだけではなく、「若者=新しい価値観で行動する人たち」と再定義し、その価値観を「未来の兆し」として読み解くことで、企業や社会の次の方向性を導くサポートをしています。
2022年コロナ禍の旅は、「Where/What」が起点
2022年は、コロナ禍の影響でまだ移動や人との接触に、制約や抵抗感が残っていた時期。そんな社会状況を反映するように、当時学生から挙がったのは、車内やオンラインで楽しむ「非接触型の旅」や、コロナ禍の疲れを癒やす「リフレッシュ・デトックスの旅」、日常を離れて自由や非日常を味わう「開放的な旅」などでした。
振り返ってみると、当時のアイデアの多くは、「どこへ行くか」「そこで何をするか」という、いわば旅の「Where/What」を起点としたものだったように思います。
では、それから4年。コロナ禍による行動制限が過去のものとなった2026年に、若者が旅に求めるものはどう変化しているのでしょうか。
2026年の旅は、「Where/What」から「Why」へ
今回、学生たちとこれからの旅について考えていくなかで見えてきたのは、旅の目的そのものに対する意識の変化でした。2022年に「どこへ行く?」「何をする?」というWhere/Whatに関する提案が多く見られたのに対して、今回は「なぜそこへ行くのか?」「その旅から何を得たいのか?」という「Why」から発想されたアイデアが目立ったのです。
例えば、歩くことや瞑想(めいそう)などを旅程に取り入れ、心身を整える「健康志向型旅行」。あえて正解のない環境に飛び込み、自分の判断力や適応力を試す「自分を試すアドリブ旅」。さらには、一人旅を「自己成長の最後のとりで」と捉え、自分自身の成長を確かめるために旅に出るというアイデアも挙がりました。
そこに共通しているのは、「ここに行きたい」「これをやりたい」という目的地やアクティビティだけを起点に旅を考えているわけではない、ということです。「自分を成長させたい」「心身を整えたい」「今の自分を確かめたい」。まず自分が得たいものがあり、それをかなえる手段として旅を選ぶ。そんな、「Why」から逆算する旅が生まれ始めているのではないでしょうか。
旅は「どこへ行くか」だけでなく「誰と行くか」も重要になった
そして、「Why」から旅を考えるようになると、もうひとつ変化するものがあります。それが「誰と行くか」です。旅を通じて得たいものが明確になればなるほど、「本当にその目的をかなえられる旅にできるか」が重要になります。そのため、行き先や過ごし方だけでなく、一緒に旅をする相手についても、これまで以上に慎重に考えるようになっているようです。
もちろん、これまでも「仲の良さ」は旅行相手を選ぶ大きな基準でした。しかし今回学生たちの話を聞いていると、それだけではなく、「旅行の楽しみ方」「計画の立て方」「旅先で何をしたいか」といった“旅の相性”も重視されていることが見えてきました。
学生レポートの中には、性格タイプ診断の結果を見て、一緒に旅に行くかどうか判断するのが、ツギクル旅行のカタチだと述べたものもありました。「きっちり計画したいのか、その場のノリで動きたいのか」といった違いをあらかじめ把握する。考え方が異なること自体を避けるというよりも、お互いが無理をしたり、どちらかが相手の楽しみ方を制限したりする可能性を事前に考えるのです。つまり、「仲が良いから一緒に行く」だけではなく、「この人となら、自分がしたい旅ができるか」まで考えて同行者を選ぶということです。
「Why思考」の背景にある、“自分ベース”の優先順位
では、なぜ若者の旅にこうした変化が生まれているのでしょうか。今回の学生たちとの議論から見えてきたひとつの仮説が、生活のさまざまな場面で「自分にとってどうか」を基準に選択する意識が強まっていることです。
実際に「サークルアップ(CircleApp)」という大学サークル専用のコミュニケーションアプリを使い、全国の大学生に向けて調査を実施したところ、「数年前と比べて、物事を選ぶ際に『周囲からどう見られるか』よりも『自分自身が納得できるか』を重視するようになったと思うか」を尋ねたところ、「とてもそう思う」が18%、「ややそう思う」が31%となり、約半数が以前よりも「自分自身の納得感」を重視するようになったと回答しました。
では、なぜ「自分自身の納得感」を重視するようになったのでしょうか。
その理由を尋ねると、最も多かったのは、「人に合わせることに疲れを感じることがあるから」(32.0%)でした。一方、「コロナ禍を経験して、時間や人付き合いのあり方を見直したから」は11.2%、「SNSなどを通じてさまざまな価値観に触れるようになったから」は5.6%にとどまりました。
この結果からは、コロナ禍をきっかけに時間や人付き合いを見直したこと以上に、「人に合わせることへの疲れ」が、自分自身の納得感を重視する背景として強く表れていることが分かります。
では、この「人に合わせることへの疲れ」は、どこから来ているのでしょうか。
ここで私たちが注目したのが、若者たちがこれまで過ごしてきた環境です。コロナ禍では、自分自身の感染対策だけでなく、周囲の人に不安を与えない行動など、これまで以上に「他者への配慮」が求められました。またSNSでは、何げない言動が思わぬ批判や炎上につながる場面を目にする機会も特に多かった時期でした。
もちろん、今回の調査からコロナ禍やSNSが直接「人に合わせることへの疲れ」を生んだと断定することはできません。しかし、「自分の行動が誰かを不快にさせないか」「あらゆる方向にきちんと配慮できているか」と考えることが日常化した環境を経験してきたことが、いわば“過配慮”ともいえる状態につながっているのではないでしょうか。
そして、その「過配慮」の反動が、「メンパ(メンタルパフォーマンス)」という言葉も生まれたように「自分が心地よくいられるか」「精神的に満たされるか」を重視する価値観が現在台頭してきている要因なのではないでしょうか。
こうした“自分ベース”の優先順位が、旅においても「どこへ行くか」「何をするか」だけではなく、「その旅は自分にとってどんな意味があるのか」「自分に何が残るのか」というWhyを考えることにつながっているのかもしれません。
これからの旅に求められるのは、「行き先」ではなく「旅の意味」の提案?
これまで旅行サービスでは、「絶景を見る」「おいしいものを食べる」「有名な観光地を巡る」といった、Where/Whatを中心とした提案が多く行われてきました。しかし、若者が「Why」から旅を選ぶようになるのであれば、これから求められる旅行の提案も変わっていくかもしれません。
例えば、「京都へ行く旅」ではなく、「自分自身と向き合うための旅」。「温泉に行く旅」ではなく、「疲れた自分をリセットするための旅」。「一人旅プラン」ではなく、「自分の判断力を試すための旅」。
つまり、目的地やアクティビティを売るだけではなく、「その旅があなたに何をもたらすのか」まで設計し、提示することが、これからの旅行サービスに求められていくのではないでしょうか。
さらには、目的に合わせて同行者との相性を考えるサービスや、「成長」「回復」「挑戦」「自己理解」といった旅の目的から行き先や体験をレコメンドするサービスなど、「Why」を起点とした新しい旅行体験も考えられそうです。
若者にとって旅は、「どこかへ行くこと」から、「なりたい自分に近づくために行くこと」へ。
そんな変化が、これからの旅のあり方を変えていくのかもしれません。
【調査概要】
調査機関:電通若者研究部
調査対象:全国の大学生・大学院生250人
調査時期:2026年9月
※構成比(%)は小数点以下第2位で四捨五入しているため、合計しても必ずしも100%にならない場合があります。2つ目のQ.は複数選択問題のため、合計は100%にはなりません。
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著者

常次 真愛
株式会社電通
第6マーケティング局 マーケティングコンサルティング2部
プランナー








