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主語を小さく語りかけよう。堀潤さんに聞く地域発信の極意

堀 潤

堀 潤

株式会社8bitNews代表取締役/株式会社わたしをことばにする研究所代表取締役

二村 正人

二村 正人

株式会社 電通コンサルティング

(左から)ジャーナリスト堀潤(ほりじゅん)氏、電通コンサルティング二村正人(ふたむらまさと)氏。

さまざまな社会課題の解決に向けて、「情報発信」はどのように役立つのでしょうか。

電通コンサルティングが携わっている社会課題解決支援の活動領域の一つに、広報活動を含めた情報発信があります。生活者や事業者、自治体の方それぞれに「情報発信力」が求められていると捉え、広報を通じた地域活性化・地域課題解決支援に取り組んでいます。

本記事では、自ら立ち上げた公共メディア「8bitNews」で、日本各地で発信者の支援をしているジャーナリストの堀潤氏と、コンサルタントとして長年地域活性化や社会課題解決を支援し、福島をはじめとする地域課題に向き合ってきた電通コンサルティングの二村正人氏が対談。

地域における情報発信の課題と重要性、発信に向き合う心構えについて語り合いました。

誰も取り残されることのないコミュニケーションをつくっていきたい

ジャーナリスト堀潤氏

二村:電通コンサルティングでは、地域の主要企業や自治体と連携しながら、地域の活性化・課題解決につながる「地域共創プラットフォーム」づくりの支援をしています。

その中で、全国各地の地銀・地域メディア等の企業や自治体と関わることが多く、彼らの課題感もよく耳にします。堀さんはNHKを退局後、市民メディア「8bitNews」を運営されていますが、改めて、どのような思いで地域の課題に向き合っているのでしょうか。

堀:8bitNewsは、われわれがニュースバリューを決めるのではなく、「ここにニュースがあります!」と手を挙げた方にわれわれが協力して、一緒になって伝え、解決していくというソリューションジャーナリズム(※知らせるだけではなく、課題の解決まで伴走し、発信するジャーナリズム)を実践するメディアです。

僕は東日本大震災発生当時、NHK職員として現場を訪れました。いろいろな立場の方からたくさん情報をいただけたのですが、尺やタイミングの問題ですぐには取り上げられないことも多く、もどかしさを感じていました。

地域の皆さんのそうした多様な声を伝えるためには「われわれが伝えようと思ったところに取材に行く」のではなく、「SOSがあるところにわれわれが取材に行く」ことも、公共的なメディアの役割の一つなんじゃないかと思ったことが、8bitNewsを構想するきっかけです。

二村:私も、東日本大震災以降、福島県を中心とする東北の被災地に深く関わっており、現在は「福島相双復興推進機構」(以下、相双機構)と一緒に仕事をしています。

相双機構は福島浜通り地域の復興を支援している官民連携の組織で、別名「官民合同チーム」と呼ばれています。福島浜通り12市町村の復興を官民連携によって推進するという大きな取り組みを行っており、電通コンサルティングではその一端を担わせていただいています。

浜通りの自治体に対する幅広いテーマでの課題解決支援(企画系、商工系、移住・観光系、教育系、新規事業、ダイバーシティ等)を行っており、その中の一つに自治体の広報活動や情報発信活動の支援というテーマがあります。

ある意味、われわれは地域における課題解決のジェネラリストであるため、情報発信のテーマに関しては、地域での情報発信に向き合っているスペシャリストにサポートしていただきたいと思い、堀さんにお声がけしました。

堀:僕からもぜひ電通コンサルティングとご一緒したいと思ったのは、広報や情報発信の知見のある企業と組むことで、地域の悩みの解決に向けて一歩近づけるのではないか、と期待したからです。

地域の悩みの具体例として、以前、福島県浜通りの住民の方から聞いた話があります。当時その方は帰還困難区域にお住まいで、震災で故郷を追われていました。避難先で事業を再開され、故郷に戻るために奮闘されている様子を追って、お話を継続的に伺ってきました。

その方が故郷に戻ってから十数年たったあと、僕にふと「もうここ、“私の町”だと思えないんだ」とこぼしたんです。復興は進み、新しい人や企業も入ってきて、宿泊施設や飲食店が再開している。でも景色は変わり、元いた住民もさほど戻ってきていない。「戻るために歯を食いしばって頑張ってきたけれど、これが望んでいた世界なのかと思ったら、むなしくなってしまって」と。

二村:それは、とても重たい言葉ですね……。

堀:「震災から時がたち、町が復興してきた」という分かりやすいストーリーをメディアは報じますが、生き生きした町の姿を伝えれば伝えるほど疎外感を感じてしまう人も、実はいます。地元の人たちのこういう思いを共有するためには、情報発信の機会を作っていかなければなりません。

日本各地で同じような悩みが生まれています。誰も取り残されることなく、疎外感や無用な対立を生まないためのコミュニケーションを、二村さんたちと一緒に考えていきたいと思っています。

地域での情報発信がうまくいかないいくつかの理由

電通コンサルティング 二村正人氏

二村:多くの地域における情報発信の主要な課題として、移住希望者に向けて発信する難しさがあります。一例としては、発信が「点」になってしまっていることが挙げられます。一つの自治体が単体で発信したとしても、どうしても規模が小さいので、情報が不十分だったり、無数にある情報の中に埋もれてしまったりします。

望ましいのは、点ではなく、複数の自治体が連携した「面」での発信です。移住希望者の視点で考えても、生活は一つの市町村だけで完結するものではないから、複数の町の情報が集約されていた方が分かりやすい。住むかどうかを地域全体で判断する、という感覚だと思います。

堀:自治体連携って、共通の「旗」が立っていないと絶対に集えないんですよね。そういう意味では、連携を設計する側が、「なぜわれわれは連携をするのか」「連携をした先にどういったものが新しく生まれるのか」を掲げる必要があります。

二村:おっしゃるとおりです。個人情報保護の壁もあり、自治体同士が連携するのは簡単なことではありません。役所の方や住民の方が、「隣の町」とつい比較してしまうこともよくあります。だけど、移住の例で言うと、移住希望者の比較対象は、実は「隣の町」ではないかもしれませんよね。

たとえば、福島県浜通りに移住しようと思ったとき、比較対象は福岡かもしれないし、沖縄かもしれないし、北海道かもしれない。自治体同士が連携し、地域でまとまって情報発信することで、移住希望者にとってより魅力的な移住先として選んでもらえる可能性がある。その可能性をお伝えすることで、地域での連携を進められるように働きかけています。

堀:連携するためには、自治体同士で利害が一致するポイントを提示することも必要ですね。

二村:そこはまさに、「面」での発信において調整が難しいポイントです。主体者が望んでいなければ進まないし、誰が連携をリードするのかも重要です。

そして地域における情報発信のもう一つの課題に、発信に対する「怖れ」があります。自治体の方は、「炎上リスクがあるなら発信しないほうがよい」と考える人が少なくありません。

加えて、発信を自分ゴトとして考えず、情報発信=広報担当者の仕事と考えるケースもあります。さらには、自治体からの発信は費用対効果が見えづらく、何をKPIとして設定するかも難しいところです。こうした複合的な理由で、発信に積極的になれない地域もあります。

堀:自治体の方々は本当に大変ですよね。発信に限らず、いろんなことをして当たり前だと思われやすいし、何かミスがあると批判も起きるし。だから僕は、公務員の方々に「職責」として何かを語りかけるよりは、あくまでも個人のスキルとして、「安心して発信できる力」を身に付けてもらうところから始めるのがいいと思っています。

その上で、たまたまその力を業務として生かせそうな場面が出てきたらすぐに発信できるように、普段からコンディションを整えておくといいんじゃないかなと。改まって仕事で発信しようと思うと、どうしても強迫観念にかられやすいですからね。例えば「あの町の公式インスタグラムがバズっているから、うちの町でもやったほうがいいんじゃないか」と思ってしまったり。

二村:たしかに、そういうケースはよく目にしますね。

堀:別に「発信をたくさんの人に見てもらうこと」をゴールに置かなくていいと思うんです。僕は公共メディアの目線で、「今あるものをアーカイブとして残しておくこと」「課題が解決されること」に価値があると考えています。むしろ、それこそが自治体の役割かもしれません。

地域にとっての脅威は、忘れられてしまうことです。もし、町が震災によって突然失われてしまったとしても、アーカイブが残されていれば、そこにあった日常を思い出せるし、他の地域の人にも伝えることができますよね。

情報発信で心がけたい3つのポイント

二村:今、何をどう発信したらいいか分からなかったり、発信しているけど届いている実感がなかったりと、悩んでいる自治体の方は多いと感じます。堀さんが考える発信のコツを教えてもらえますか。

堀:発信したい人には「伝えることは、聞くことです」とよくアドバイスしています。人に何かを伝えたいときに、「うちにはこれがあります」「私たちはこれをやっています」と一方的に発信するばかりだと、相手が置き去りになってしまいますよね。まずは発信する側が「相手のことを知りたい」という思いを柱に置くべきです。

例えば移住に関する情報は数多くの発信者がいて、各地でPR合戦が起きています。これは移住希望者からすると、「良い情報ばかり喧伝(けんでん)されているけれど、本当なんだろうか」「行ったら全然違うんじゃないか」と、疑心暗鬼になってしまう状況です。だからこそ自治体側は、あなたときちんと向き合います、という姿勢を見せることが重要です。

北海道の上士幌町(かみしほろちょう)では、役所に若手の人材が登用され、移住希望者や、「地域おこし協力隊」(※1)に関心のある他地域の人たちへのヒアリングを徹底的にしているそうです。どんなことがしたいのか、どうして地域おこし協力隊に関心があるのか、上士幌町にどんなことをサポートしてほしいと思っているのか、徹底的に聞くんです。

※1 地域おこし協力隊=2009年度に開始した総務省所管の制度。人口減少や高齢化などの課題を抱える地域が都市部から「協力隊員」を受け入れ、地域活性化に取り組む。
 

堀:そうやって相手の夢を聞き出し、夢を安心してかなえられるような機会や場所を用意するよう努めるそうです。ここまでエンゲージメントができて初めて、上士幌町に行く決断ができる。そして、ここまで迎え入れてもらって移り住んだ人は、地域のために積極的に活動してくれます。

上士幌町の事例では、若い移住者が地域に住む年配の方々のためにオンデマンド交通のタブレットのUI開発を行っているそうです(※2)。その地域にないスキルを持つ若い移住者ならではの視点で、地域に貢献をしてくれる。

※2 オンデマンド交通=上士幌町などで試験導入されている、予約型の交通機関(バス)。予約がない場合は運行しないなど、乗客の減少に伴う「空白の時間」をなくし、効率化を図っている。
 

二村:なるほど、“恩返し”してくれるんですね。

堀:はい。発信の際に意識してほしい二つ目のポイントは「大きい主語より小さい主語を使う」ことです。例えば「移住したい人」と言うと、ものすごく主語が大きいんですね。同じ移住希望者でも、一人一人背景が違えば夢も違う。だから、小さい主語で相手に向き合う必要があります。「特定多数」の人に向けて、地域のミクロな事象を丁寧に伝えることが大切です。

小さい主語で語るためには、その場に行ったり、誰かと会ったりする必要があり、いわば“コスト”がかかります。今は生成AIで、コストをかけずに動画も写真もコンテンツも簡単に作れる時代ですから、よりコストをかけた“一次情報”の価値が高まっています。

二村:確かに、自治体の方の話を聞いていると、移住希望者の具体イメージを持つことに苦心しているようで、結果として漠然とした発信になってしまっていることもあるかと思います。また、移住の促進という観点では、発信だけでなく、移住候補者個々人に対して、それぞれのお悩みや困りごとに寄り添うことが重要だと感じます。これは「小さい主語」に近い話ですね。

堀:そして三つ目のポイントが「ファクトとオピニオンの割合を調整する」です。今は思わぬ形で批判されたり、意図していない誤解を招いてしまったり、発信の怖さを感じる場面が多いですよね。それはオピニオンの割合の問題なんです。

ファクトが100%の発信は、事実だけなので炎上リスクはありません。でもそこに「美しい」「素晴らしい」「楽しい」など価値に関わる話、つまり発信者のオピニオンが入ってくると、異論反論を呼びやすくなります。

私は地方の方々にニュース記事を書いていただくワークショップを実施しているのですが、その際、一回思い切って100%オピニオンで書いてみてもらいます。次に、反対に100%ファクトでも書いてもらって、最後にうまくミックスして一番いいバランスを探ってみましょう、ということをやっています。

二村:ファクト100%は人の心に刺さりにくいし、オピニオン100%だと説得力がなく飲み込みにくい。そのバランスを身につけるためのワークショップですね。炎上リスクという話がありましたが、自治体の方々は情報発信にオピニオンを入れることに対して懸念があるのも事実です。ワークショップの中でこれを試せるというのは有益ですね。相手に伝わりやすい伝え方という点で、ファクトとオピニオンのバランスが重要であるというのは、私自身とても共感するところです。

堀:そして、意外と「大きい主語」そのものがオピニオンだというケースが多いです。例えば「おじさんってこうだよね」「日本ってこうだから」と言うと、いろんな異論反論を呼びますよね。これは主語が大きいからです。大きい主語はコストを使わずに使えるから便利だし、パワーもある。だからこそ、もっと自分の情報発信にコストをかけましょう、と伝えたいです。

二村:大きい主語で手を抜くコンテンツに疲れているから、小さい主語が求められ始めているのかもしれないですね。

堀:それはすごく実感しますね。今こそ、一次情報として当事者の声が必要だと考えています。いろいろなリスクを知ったうえで、安心して発信できる人が増えればいいなと思います。

一番大切な「発信」とは、自分と対話すること

二村:最後に、堀さんが考える発信の心構えについてお聞かせください。発信力を身に付けた後は、どんなスタンスで、どういったチャレンジをしてほしいと考えますか。

堀:発信と聞くと、誰かに向けて声を届けなきゃ、というイメージがあると思うんですが、一番大事な発信は、自分が自分と対話をすることです。その次に、自分の気持ちを大切な人に伝えることが発信力の大きな役割で、その拡張版が対マスへの発信、というイメージです。

「一番強いのは口コミ」って言いますよね。家族や友人から「すごくおいしいお店があった!」と言われたときのパワーを、皆さん知っていると思います。あの人に自分の気持ちを届ける、という意識がないまま発信してしまうと、すごく遠くの、得体のしれない誰かに向かって、発信力のないものを投げ続けていることになり、徒労に終わってしまう。だから、まずは目の前にいる人と口コミ的な発信ができるといいですよね。

そして、発信の大きな目的は「行動変容を促すこと」です。例えば、突然「この町を良くしよう」と大きな話をされても、どう行動したらいいか分からないですよね。でも「近所のごみ捨て場に虫が出ないよう、一緒に掃除してくれない?」と言われれば「じゃあ手伝おうか」と、行動変容が生まれます。そういう情報発信を担っていた回覧板や町の掲示板、コミュニティFMのようなハイパーローカルメディアの力が、今だんだん弱まってしまっている。僕は「身近なことを伝え、行動変容につながる発信」をもう一度取り戻したいと考えています。

二村:発信する人が自分の目線で魅力的だと感じることを伝えていけば、それが刺さる人はきっといると思います。移住文脈では、どうしても日本国内におけるゼロサムゲームの取り合いの話になってしまいがちですが、海外向けの発信をすれば、海外からの移住やインバウンドの旅行者増加につながるかもしれません。われわれとしても、地域活性化につながる地域からの情報発信をサポートしていきたいと思います。

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著者

堀 潤

堀 潤

株式会社8bitNews代表取締役/株式会社わたしをことばにする研究所代表取締役

ジャーナリスト

立教大学文学部ドイツ文学科卒業後、NHKに入局。「ニュースウォッチ9」リポーター、「Bizスポ」キャスター等を経て、2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、2013年NHK退局。現在、TOKYO MX「堀潤Live Junction」MC、ABEMA「ABEMA Prime」等に出演。2019年から早稲田大学招聘研究員。映画「わたしは分断を許さない」(2020)を監督。著書に「災害とデマ」(集英社インターナショナル新書、2025)。
二村 正人

二村 正人

株式会社 電通コンサルティング

プリンシパル

メガバンク、スタートアップ、グローバルコンサルティングファームを経て電通コンサルティングに参画。新規事業構想、事業計画策定、事業推進等を中心に手掛ける。東日本大震災以降は東北復興支援、地方創生をテーマとして社会課題をビジネスとして解決することに注力。社内外における多様なステークホルダーの利害関係を意識しつつ、目的に向かって事業を推進するための施策導出・実践をハンズオンで支援する。

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