(左から)電通コンサルティング 宮下剛氏、電通総研 吉開正伸氏、電通デジタル 杉尾直高氏、電通 小野剛史氏 AIをはじめ、デジタル化がますます進む現代。事業や組織の構造は従来通りで良いのでしょうか?
電通、電通デジタル、電通コンサルティング、電通総研の4社は、CRM(顧客関係管理)を起点に、顧客体験だけでなく事業や組織の変革を支援するサービス「Biz CRM For Growth 」を提供。“CRMの経営アジェンダ化”を提案しています。
今回は、4社それぞれの担当者による座談会を実施。現代の企業が抱える課題と、その解決方法について、CRMの観点から議論しました。
CRMの経営アジェンダ化における一番の障壁とは?電通コンサルティング 宮下剛氏。大手総合コンサルティングファーム数社で、コンサルティングを30年以上経験。専門のCRM領域では、業界横断的な戦略立案、業務設計、システム導入まで幅広く従事する。 宮下:本座談会のテーマは、「今後CRMはどのような役割を果たすようになっていくか」です。また、電通グループ4社でどのようなCRM支援が可能になるかについても、紹介できればと思います。 今回は4社からそれぞれ「Biz CRM For Growth」に関わるメンバーに来ていただきましたが、皆さんの簡単な自己紹介をお願いします。
小野:電通・第2ビジネス・トランスフォーメーション局の小野です。企業のミッション・ビジョン・バリューや中期経営計画の策定といった戦略領域から、DX起点でのサービスグロース・オペレーション構築まで一貫して企業変革のご支援をしています。 「Biz CRM For Growth」では、チーム全体を俯瞰(ふかん)しながら、各社の強みを生かした最適な進め方を設計する役割を担っています。
吉開:電通総研・コンサルティング本部の吉開です。電通総研は、いわゆるSIerとしての機能を中心に、IT、システム開発に強みを持つ会社です。「Biz CRM For Growth」では、主にシステム構築やコンサルティングの部分を担っています。
杉尾:電通デジタル・データ&エンゲージメント部門の杉尾です。電通デジタルは、デジタルマーケティングの領域を統合的に支援しています。「Biz CRM For Growth」では、データに基づくマーケティング戦略の立案・環境構築・実行など、「顧客体験管理(CXM)」に軸足を置いています。
宮下:前回記事 では、私が一橋大学大学院の阿久津教授と対談し、「CRMが経営アジェンダ化する」という仮説についてお話ししました。その背景にあるのが、急速なAIの進化です。 阿久津先生との対談では、「AIと人間との関係などを俯瞰して捉える目線」と、「日々の技術進化に対応する臨機応変な判断の目線」のふたつが必要であることを確認しました。 また、マーケティング、セールス、サービスといった顧客接点それぞれで、AI活用により業務がアップデートされるからこそ、「顧客体験全体としてのリデザイン」が必要であること。さらに、企業の差別化の源泉が「顧客接点で生まれるデータの分析・活用」であることなどにも、議論が及びました。 まとめると、「AIによって顧客データの高度化をはかる企業には、全社的なCRMのさらなる有効活用が求められている」ということになります。すなわち「CRMの経営アジェンダ化」 が必要というのが、「Biz CRM For Growth」を提供するに至った背景ですね。 電通総研の吉開さんは、普段から企業のCRM環境の構築にも携わっていますね。経営アジェンダ化という観点で、現在のCRMの課題はどこにあるとお考えですか?
吉開:多くの企業が、「全社横断的なデータ統合」に課題を抱えていると思います。それが、CRMの経営アジェンダ化において最も大きな障壁かもしれません。CRMを部門横断で活用し、経営の意思決定に生かすためには、データの統合が不可欠です。部門ごとに“サイロ化”してしまっているデータ活用の仕組みを、いったん解消する必要があります。 一方で、AI技術の導入が“サイロ化”を助長してしまうケースもあります。部門間でデータ連携が十分でないままAIによる個別最適化が進むと、かえって全体最適から遠ざかり、部門間の統合は一層難しくなります。
「何から始めればいいかわからない!」AIにより複雑化する課題電通総研 吉開正伸氏。電通総研では主にマーケティング・CRM領域を軸に、CX戦略や顧客接点の変革を支援している。デザインのアプローチを活用し、新規事業・サービス開発も推進する。 宮下:とはいえ、部門ごとに蓄積した膨大なデータを統合するのは、難度が高いと思います。こうした課題に対して、どういったアプローチが有効なのでしょうか?
吉開:例えば、CDP(Customer Data Platform)などのデータ統合・活用基盤を導入することが考えられます。電通総研でも、AIを用いた横断的な分析が可能なデータ統合・活用基盤サービス「DendroBium 」を提供しています。こうしたサービスは各部門の持つ多様なデータを活用するために有効で、マーケティングや事業の意思決定に寄与できます。 しかし、システム導入だけでは不十分です。システムがあっても、運用ルールやガバナンスの整備も併せて行わなければ、せっかくのデータも十分に生かしきれないからです。例えばKPIなども、社内共通の定義が必要になってきます。 データの統合、分析、活用をするための基盤と、運用ルール・ガバナンスの整理。この両輪があって初めて「CRMの経営アジェンダ化」が実現できます。
宮下:データの分析や活用に多く携っている、電通デジタルの杉尾さんはいかがでしょうか。
杉尾:吉開さんのお話に付け加えると、CRMやMA(Marketing Automation)、CDPのようなシステムは、導入して終わりではなく、実績を見ながら継続的に改善していくことが非常に重要になってきています。電通デジタルのクライアントと接していても、システムは入っているものの、まだ十分に活用できていない企業は多い印象です。 また、AIの登場により、データ分析や施策の自動化、高度化の可能性は大きく広がりました。一方で、選択肢が増えたからこそ、何をどう活用するかは以前よりも複雑になっています。だからこそ、システムを一度導入して終わりではなく、AIの進化や実際の成果に合わせて継続的に見直し、改善していくことが重要だと考えています。
宮下:もともと“サイロ化”で部門ごとに扱うデータがバラバラだった課題があるところに、急速なAI進化の波が加わって、各部門のデータ活用の個別最適化が進み、結果として複雑化してしまっているということですね。 電通の小野さんはクライアントの抱える課題についてはいかがお考えでしょうか?
小野:電通にご相談をくださるクライアントも、まさにそうした「複雑化」への対応に向き合っていることが多いです。変革の必要性は強く認識されている一方で、組織構造やデータ活用の在り方など多様な課題が同時に存在しているため、具体的にどこから着手すべきか判断が難しいケースが多いと感じています。 さらにそこに、AI活用という避けては通れないアジェンダも加わることで、検討すべき論点が一層広がり、課題の整理や優先順位付けがこれまで以上に難しくなっているのではないでしょうか。
杉尾:電通デジタルでも、同じようなご相談は増えています。特に最近は、競合他社や他業界でAI活用や新しいシステム導入が進んでいるという話を聞いて、「自社も何かしなければならない」という危機感を持たれるケースが多いです。 ただ実際には、外から見ると非常にうまく進んでいるように見える企業でも、社内ではデータが分断されていたり、システムを活用しきれていなかったり、AIをどう業務や顧客体験に組み込むかを模索していたりします。 つまり、先進的に見える企業も、内側ではかなり複雑な課題を抱えながら試行錯誤しているんですよね。
クライアントの課題に寄り添う、4社体制の強みとは電通デジタル 杉尾直高氏。データ分析・活用と伴走支援により、マーケティングDXを目指す。CXM領域では、ビジネスアナリストとして顧客エンゲージメント強化に奔走する。 宮下:皆さんのお話で現状の整理ができました。企業はまず自社の課題の解像度を高めていかないと、CRMの企業アジェンダ化に取りかかれないということだと思います。 われわれDentsu Japanの4社は、そういった課題に対し、CRM起点で事業や組織の変革を支援するサービス「Biz CRM for Growth」を提供しています。ここからは、実際にどのような支援ができるのかについてお話しできればと思います。 従来も4社は、それぞれCRM導入のご相談をクライアントから受けて、ソリューションを提供してきました。4社がそろうことで何ができるのかを掘り下げていきたいです。
小野:私のイメージでは、われわれ4社でクライアントの“かかりつけ医“のような存在になれると考えています。CRMを経営アジェンダと捉える以上、特定部門のポイントごとにCRM支援をするのではなく、経営全体を広く見て、伴走型の支援を循環させながら行っていくことが前提です。 その中で、「顧客の一連の体験」と「組織の分断」を同時に設計し直す、立体的なサポートをします。事業の上流から下流まで、得意分野の異なる4社の専門性を掛け合わせる総合力が、このチームの強みです。
宮下:かかりつけ医という表現は、イメージしやすいかもしれないですね。われわれもコンサルティングの仕事を“企業のお医者さま”にたとえることがありますが、電通コンサルティングは主に「診察」の部分を担っていると思います。どこにどんな課題があって、どういった治療法が最適なのかを患者さんに提案する役割です。電通コンサルティングが持つ、本質的な課題の探索力が生かされます。 診察をもとに「治療」を行うのが、電通総研と電通デジタル。患者さんの課題に対し、それぞれの専門性を掛け合わせながら実際に治療をしていきます。システム構築や実際に施策を打つことが、治療にあたるのではないかと思います。また、伴走支援については、例えばプロアスリートの怪我を治療し、そのあとのリハビリや、完治後のトレーニングまで寄り添ったサポートをイメージいただければと。 そして電通の立場は、複数の患者さんと医師を俯瞰して見守る「病院長」です。プロジェクトにおいて最終的にジャッジをする機能を持っています。皆さんのイメージと違いはありますか?
吉開:私も同じ認識です。ただ、各社が決まったタイミングで決まった役割を果たすというよりは、全体を通して必要な部分で適宜介入していくイメージです。患者さんの課題一つ一つに各社がバラバラに向き合うのではなく、チームとして「患者さんそのもの」に向き合っています。
杉尾:CRMの導入やデータ統合では、dentsu Japan以外のSIerやコンサルティング企業会社も、同様のサービスを提供していると思います。その中で、私たちdentsu Japanの強みは、クライアントやそのブランドへの理解の深さにあります。 他のSIerやコンサルティング企業単体でも、CRMの仕組みを作ることはできるでしょう。しかしCRMの設計は、ブランドが顧客とどういう関係を築きたいかによって大きく変わってきます。これまで多くのクライアントのマーケティング課題や顧客接点に向き合ってきた知見を生かし、どんなCRM設計が最適なのかを導き出せるのは、私たちならではです。
宮下:いわばテーラーメードな支援ができる対応力を持っていますよね。私はdentsu Japanならではの価値でいうと、特に「リハビリやその後のトレーニング」にたとえた「伴走支援」の部分が大きいと考えています。 CRM設計という「治療」を終えた後に、それをどのように運用していくのか。それはマイナスを元通りに「治す」リハビリにとどまらず、ブランディングで培った企業の本質的価値をみつめ、プラスをどんどん積み重ねていく価値を提供することができます。 それこそが、CRMが経営アジェンダになるという私たちの提案の根幹です。「Biz CRM For Growth」という名前ですが、CRMはあくまで入り口で、その本質は、「Biz Client For Growth」なんだと私は思っています。
小野:おっしゃる通りです。だからこそ伴走をする際は「課題を解決する」ことにとどまらず、クライアントの目指す姿や成長の方向性から逆算して、長期的な視点でご支援していくことが重要だと考えています。
AI時代に「ビジネスの言葉」もアップデートされていく電通 小野剛史氏。BX・DX領域で企業変革を支援。クライアントの経営層とも向き合いながら、戦略立案から実行まで一貫して伴走している。 宮下:さて、肝心な「CRMが経営のアジェンダとなった場合、企業はどのように変わるのか」について、皆さんの考えをお聞かせください。
小野:一つ挙げられるのは、プロジェクトマネジメントの仕方が変わる点です。これまでCRM領域のプロジェクトは、細かなアプローチの違いはあっても、要件を事前に固めて段階的に進めていく、いわゆるウォーターフォール的な進め方が一般的だった印象です。 しかしAIやデータ活用が進んだ現在では、顧客接点から得られるデータによって、最適な施策が常に変化し続けます。そのため、要件を絶対視せず、顧客データを踏まえて意思決定の精度やスピードを高めていくことが求められています。
宮下:プロジェクトマネジメントの構造が変われば、リーダー職に求められる資質も変わってきそうですね。
小野:そうですね。例えば、プロジェクトの要件を臨機応変に変えていく「勇気」のようなものが必要になってくるでしょう。言い換えると、一度決めた計画でも、ちゃんと疑って変えられるか、という話です。それこそ強いリーダーシップと言い換えてもいいかもしれません。
吉開:CRMの観点では、よく経営指標として重視されるLTVの上げ方が変わるのではないかと予想しています。その背景には、人口減少による市場縮小や、顧客一人あたりの支出の限界といった要因があります。加えて、従来のクロスセルやアップセルといった施策も効果が薄れ、1社単体で顧客価値を最大化することに限界が見え始めていると考えています。 そのため、LTVの捉え方自体を拡張し、自社と顧客に閉じた取引だけでなく、顧客のリアルな生活を軸に関係性を広げていく、いわゆる“エコシステム”型のアプローチが重要になってきています。
宮下:例えば生活者が車を購入したら、旅行に行くとか、保険に入るとか、地続きでさまざまな動きが考えられます。そこまで見据えて設計する視点が必要になってくるという理解でしょうか。
杉尾:私も同感です。これからは、自社の商品やサービスを購入していただいた後も、その「周辺領域」まで含めて価値提供を広げていくことが重要だと思います。そのためには、自社だけで完結するのではなく、異なる領域の企業と連携しながら、新しい顧客体験を共創していく必要があります。 そのときに欠かせないのが、顧客データです。クライアント各社が持つ顧客データを適切に活用できれば、より広い価値提供が可能になりますし、自社内のデータが全社的に統合されていれば、外部企業との連携も進めやすくなります。 私たちが提案するCRMは、単なる顧客管理の仕組みではなく、顧客データをいかにビジネスの中心に据え、事業成長や新たな価値創出につなげていくかという取り組みです。だからこそ、CRMを経営アジェンダとして捉えることには大きな意味があると考えています。
宮下:LTV向上のために取る選択肢の幅を広げる必要があるんですね。今日皆さんのお話を聞いて、私たちも、クライアントも、これまで使ってきたさまざまな言葉や概念の定義を「アップデート」していかなければならない時代なんだという思いを新たにしました。 特にCRMという概念は、セールス部門に閉じたものとして扱うのではなく、より大きな捉え方をする必要が出てきています。いかなる業種であれ、一人一人の顧客との関係性を、ビジネスの中心に据える時代になりつつあります。 クライアントのさまざまな課題に応じたCRMの導入によって、「Biz CRM For Growth」で貢献していけたらと思います。