ネットがもたらす新しい価値No.6
【立石諒×馬郡健 対談】
アスリートとインターネット(後編)
2014/07/08
【後編】アスリートとSNS―情報共有とコミュニケーションツールとして
多くのトップアスリートが、SNSで情報を受発信するようになった。今や友人やファンだけでなく、国内外のライバルたちともSNSでつながる時代だ。国内外を行き来し、時に孤独でもあるアスリートにとって、ツイッターやフェイスブックはどのような存在なのだろう。SNSへの関り方、そして競技や日常生活への影響を聞いてみる。
コミュニケーションツールとしてのSNS
大学卒業後も親交のある2人。対談も終始和やかに行われた。 |
馬郡:ここまで、立石選手のインターネットの活用法について伺いました。アメリカでのトレーニングの予定立案や情報収集に生かされているということでしたね。次はSNSなどを通じたコミュニケーションについてお聞きしていきます。考えてみれば、立石選手は、友人やファンだけでなくライバルともツイッターやフェイスブックでつながっていますよね。立石選手がアメリカで練習している時も、日本で練習している他のトップスイマーや大学生の選手らとつながっていたりする。まず純粋な興味からですが、ロンドンオリンピックで銅メダルを取った時、ツイッターやフェイスブックは、どうなっていたのですか?
立石:メダル獲得のことを速攻で書きました。すると、知人や友人からのメッセージが大量に届いて、知らない人の声もたどり着いてきて、すぐに爆発状態でした。メールに関しては一応全員に返しましたが、フェイスブックやツイッターは多過ぎて返せませんでした。まとめて「ありがとうございます」といったメッセージを出しました。
馬郡:あの日、銅メダルを取った後からはそういう賛辞の言葉もあるだろうけれど、ロンドンオリンピックの200メートル平泳ぎ決勝を迎えるまで、そのプロセスではSNSはプラスになりましたか。
立石:SNSはすごく便利だと思うし、自分から何かを発信するときにも有効な手段だと思います。応援してくれる方々への感謝の気持ちや、「自分はこういう試合に出ますよ」「こういうテレビに出ますよ」という近況も伝えられる。もちろん情報収集もできますが、基本はコミュニケーションツールと思っていて、自分が書き込むことに関してはただの自己満足です。
馬郡:アスリートがメディアを持って情報発信するということでいうと、立石選手は約3年前からと、結構早いうちから始めていましたね。銅メダルを取ったあと、フェイスブックの友だちも5000人を超えたとか。最近はテレビ出演なども増えていますが、既存メディアとツイッターやフェイスブックで、意識して使い分けはしていますか。
立石:そんな器用なことはできないですね。そんなにじっくり考えてやるものではないとも思うし。もちろん公に発信されるものなので、言っていいこと悪いことはありますけれど。そんなストレスを感じながらやるのだったら、最初からやらない方がいいと感じます。
馬郡:練習やレースなど水泳ライフの中でSNSはどんな役割を果たしていますか。
立石:例えば「応援よろしくお願いします」のようなことを書くと、「頑張ってください」と返ってくるのですごく力になります。結果が出なかったなぁと思ったときも、「頑張って」と言ってもらえると頑張りたいと思えてくる。そういう面では、気持ち的に支えてもらっています。例えば、アメリカにいるとどうしても寂しくなる。そのため、海外へ行くと更新が早くなります(笑)。あと、自分の思い通りにいかないとき、SNSを通じてライバルの様子や近況を知ることで自分が正常に戻るという効果もあると思います。
コミュニケーションの手段に加えて、技術にも期待
馬郡:今後、スポーツとりわけ競泳がますます良くなるためには、どのようなコミュニケーションツールや技術があればよいと感じますか。
立石:試合会場のパノラマ映像が欲しいですね。例えば今度パンパシフィック水泳選手権があるのですが、会場となるプールの全体像が検索してもなかなか映像では出てこないんです。場内を、360度見ることができるアプリなどがあれば選手間で情報共有もできて面白いと思います。僕たちは、会場内の動線まで見ておきたいんです。というのも、現場に着いた時に最初にトイレを探したりするので。去年の世界選手権では、場内にすごく階段が多かった。疲労を抑える意味でも、階段を使わなくていい道があったら、そういうのも探したいなと思います。これは競技者の視点からですが。
馬郡:一般のファンの視点や競泳全体、という大きな立場で考えた場合に、こういうツールがあればというのは何かありますか。
立石:常に全体を映している映像視点があってもいいかもしれないですね。トップから遅れてしまった選手の様子だけでなく、各選手の水中も含めた泳ぎの動画がもっと簡単に撮れたらいいと感じます。水中映像はかなり難しくて、一般のプールでも気軽に撮れるような機材があるといいですね。他者と比較もできますし。
馬郡:コーチ陣からすると、トップスイマーの技術はどうしても習得したい技術ですね。
立石:僕とか北島康介さんの泳ぎは、けっこう難しいんです。平泳ぎはみんな独特で、その人の関節の柔らかさや筋力によって異なります。それでも、規模の大きい試合では水中映像が増えました。全日本選手権や全米選手権では、水中映像を詳しく見ることができます。ただ、ヨーロッパなどでも行われるグランプリシリーズでは基本的に水中映像がなく、上からの俯瞰映像しかないですね。
馬郡:陸上から見ているだけでは、泳ぎの良し悪しの2割か3割くらい把握できないと思っています。
立石:やはり水中映像が重要です。水面に出ている動きというのは、結局、慣性で進んでいるだけですから。かなり技術的な話になってしまいましたが、要はSNSなどのコミュニケーションツールにカメラなどの技術がより進化して合わさった時、選手やファンが求めるものがより身近になると思います。今後も、日々の情報収集やコミュニケーションのためにインターネットやSNSを自分流に活用し、2016年のリオオリンピックを目指します。