スポリューションNo.9
スポリューション×ブラインドサッカー
2020年パラリンピックのキーワードは「OFF」!?
2014/07/03
スポーツコンテンツをメディア枠と捉えるだけではなく、ソリューションとしても捉えることで、新しいビジネスチャンスを生み出す ことにトライしているソリューションユニット「SPOLUTION(スポリューション)」チーム。そのチームメンバーたちが、それぞれの視点から、これか らのスポーツ関連のビジネスチャンスについて、リレーコラム形式でご紹介します。
ブラインドサッカー。それは、視覚に頼らずプレーするいわゆる「障がい者スポーツ」です。
ところが、昨今では「みんなのスポーツ」になり始めています。
年間350件ほど学校で体験会が実施され、大人向け体験会も大人気。
何故、このムーブメントは生まれたのでしょうか?
体験プログラムを開発した、日本ブラインドサッカー協会事務局長の松崎英吾さんと、体験プログラム「OFF T!ME」の名付け親である電通スポリューションの澤田智洋さんの対談をお送りします。
なぜ、今「ブラインドサッカー」なのか?
―ブラインドサッカー体験「OFF T!ME」は、目を閉じて、「コミュニケーションで遊ぶ」プログラムとのことですが、具体的にどういう内容なのでしょうか?
松崎:サッカー未経験者の方でも楽しく遊べる、2時間ほどのプログラムです。アイマスクをして、体を使って、時にはボールを使って、自分の五感を取り戻す。コミュニケーションの楽しさを再確認する。他にはない体験ができる場所です。
―元々は小学生向けに始めたプログラムなのですよね?
松崎:そうです。「スポ育」という名のもとに、今では年間350件ほど実施しています。
澤田:平日はほぼ毎日実施している、というのはすごいですね。子どもも、得るものがたくさんあるでしょうね。
松崎:はい。まずファシリテーターが視覚障がい者なので、障がいを持つ方への理解が深まります。「弱みもあるけど、強みだってあるんだ」「なーんだ僕らと一緒じゃないか」と。あとは、目を使わないことで、いかに普段五感を使っていないか、丁寧にコミュニケーションをしていないかなど、参加した人の数だけ発見があります。
―大人向けには、いつ頃から始められたんですか?
松崎:2011年8月からです。今年から本格的に「OFF T!ME」として走りだしています。
―様々なメディアでとりあげられ、問い合わせも殺到しているそうですが、何故今人気なのでしょうか?
澤田:現代はパソコン、スマホ、タブレット、ゲーム機など、身の回りのあらゆる電子機器がONになっている、“OVER ON”状態です。周知の通り、それによってさまざまな弊害が生まれています。私自身、その解決策を模索していたのですが、ブラインドサッカー体験を通じて「目をOFFにすればいいんだ」と気がつきました。目をOFFにすれば、OVER ON状態も一挙に解決します。現代を生きる私たちに足りないものを与えてくれる。だから今、人気なのではないでしょうか。
発見に満ちてる、OFFの世界!
松崎:澤田さんは体験してみて、どんな感想を持ちましたか?
澤田:単純に楽しかったです。知らない世界が目を閉じただけで広がっていく、経験したことのない2 時間でした。上司と後輩の3人で参加しましたが、参加前に比べて関係性が良くなりました。親密になれた気がします。長年かけてできなかったことを、2時間で達成した気分でした。目を閉じるということは危機的な状況に陥るということで、手を取り合わないと生きていけない。それがいいと思いました。
松崎:終わった後の懇親会でも、同じチームのメンバー同士がすごく親しくなっているなと感じること がありますね。時には疑似恋愛のように見えることも…。
澤田:他人と一体化して、身体が拡張するイメージを持ちました。それがチームとしてあるべき姿で しょうね。快感ともいえる体験でした。
松崎:OFFにすることだけに価値があるのではないんです。目をOFFにしたチームワーク体験から、普段大人が忘れがちな感覚や、気づいているけどなかなか踏み込んでいけない領域を再現できたらいいなと思っています。例えばハイタッチや握手から生まれる信頼は皆さんに体験していただきたいですね。
澤田:あと、参加者は自分の人間くささが感じられるし、周りの人間くささも感じられます。それがすごく心地いいですよね。
松崎:「OFF T!ME」は、自分らしく振る舞うとうまくいくというのがあるんですけど、澤田さん、どう思 いましたか? 空気を読み過ぎると自分らしさが出ないと感じませんでしたか?
澤田:自分らしさを出さないとやっていけないです。孤立します。なるベく自分の良さを出して、相手 に認めてもらわないと関係性が成り立たないですよね。松崎さん、自分を出さないで終わってしまう人もいますか?
松崎:その時は、ファシリテーターが介入します。周りを気にし過ぎると、チームに影響してしまいます。物理的な距離の近さから関係性が生まれると思っているので、場合によっては、いきなりファシリテーターが来てハイタッチすることもあります。それは、参加者同士の距離を縮めようとしているんです。
澤田:そのスイッチの入れ方はどこにあるのですか?
松崎:遠慮している人にあえて注目させますね。ある企業研修で、日本語を話せない外国人がいました。それなのに、誰も英語で呼びかけないし、誰も話さないので、孤立してしまっていました。そんな時に、ファシリテーターは見て見ぬふりをしてはいけないんです。「この人孤立してますよね。皆さんは同じ職場で仕事をしていて、英語しか話せないのを知っていて、日本語でしか話をしていませんよね。誰も彼に呼びかけませんよね。誰がリーダーシップを発揮してまとめるんですか?」と、はっきりと強く言いました。
―普段、見えているようで、見えてないことが浮き彫りになるのでしょうね。他にもそういった事例はありましたか?
松崎:別の企業研修では難聴の方がいました。だけど、見た目では分からないので、孤立している理 由が分からなかったんです。その人がふと「普段は声が大きいと思われているかもしれないんですけど、難聴なんです。うまくできないので足を引っ張るようだったら抜けます」と僕に言ってきました。でも、それはこのチームにとって大事なことじゃないですか。難聴であることをみんなの前で言っていいと言われたので、「皆さんは同じ部署で働いていてこの人が難聴であることを知って、どうコラボレーションしていくんですか? それをここでやりましょう」と言いました。そうすると、コミュニケーションに変化が生まれました。見える障がいや見えない障がい、違いをあえて表に出すんです。
澤田:「OFF T!ME」に参加すると、個の力も覚醒しますけど、「違いを認め合う」チームとしても進化する
んですね。
松崎:そうです。そして、それが私のつくろうとしている社会の理想像でもあります。
OFFの世界を、広げていきたい。
―「OFF T!ME」はこれから、どんな進化を遂げるのでしょうか。
松崎:将来的には、サッカー選手対象のプログラムなど、バージョンを分けることも考えています。で きるだけ、一人一人に楽しんでもらえるものにしたい。でも、競技団体である日本ブラインドサッカー協会がやっているからこそ、できることがあるんです。勝利を目指して、必死にコミュニケーションを考えているから、「OFF T!ME」は生まれました。そして、僕ら、日本ブラインドサッカー協会のビジョンは、勝つだけでは達成されません。ブラインドサッカーを体験したら障がい者を見る目が変わった、という導線をしっかりとつくっていきたいと思います。
澤田さんは「OFF T!ME」を世の中の人達にどのように伝えたいですか?
澤田:人と人との間の壁は年々増えていると思います。でも、「OFF T!ME」に参加することで、その壁を壊すことができます。そのためには自主的に参加するしかありません。そして、継続的に参加すると世界が変わるはずです。
―なぜ、「OFF」という言葉を選んだのでしょうか。
澤田:ゲームの潮流と逆行していていいな、と思ったからです。現代のゲームは電源をONにして始め ますが、ブラインドサッカーなど障がい者スポーツは体の機能の一部をOFFにするという視点が、新しい、と率直に感じたので。また、「障がい」を「OFF」と表現すると、ポジティブでいいな、と。
―「OFF T!ME」は、障がい者と接する時間でもありますね。
澤田:そうですね。しかもその場では、障がい者の方が「目をOFFにしている状態」に慣れているから、ある意味では僕らよりも立場が上です。僕は彼ら障がい者のことを、OFFのエキスパート「OFFSPERT(オフスパート)」と呼ぶようにしています。そんな、OFF周辺にある概念をもっと広げたいです。
松崎:僕はいろいろなOFFの時間があって、それぞれに気づきがあると思っています。将来は、他の障 がい者スポーツ、他のOFFともコラボレートしていくべきだと思っていて、それは一人一人の処方せんになるでしょう。それから、2020年の東京オリンピック・パラリンピックのスポーツを理解することにも使っていきたいし、ボランティア研修の機会にもなっていけばいいと思いますね。
澤田:日本ブラインドサッカー協会の目的は、日本代表を世界一にしたいだけではないですものね。健 常者と障がい者が交ざり合う社会をつくる。はじめの一歩はもう踏み出せている気がします。
松崎:2014年11月に東京・渋谷で世界選手権があります。そこが注目されると同時に、できるだけ多くの人にOFFにすることの重要性を感じてもらいたいです。
★「スポリューション」チームとは?
スポーツコンテンツを、「メディア物件」として捉えるだけではなく、事業課題や、プロジェクト課題を解決するための「ソリューション」として捉え、企画する電通社内ユニットです。
チーム内には、スポーツプランニングの実績が豊富な、戦略プランナー、プロモーションプランナー、コピーライター、アートディレクター、テクノロジスト、コンサルタント、プロデューサーなど、多種多様な人材を揃えており、ソリューションディレクター制によって、「表現のアイデア」だけでなく、「解決策のアイデア」を、ワンストップでご提供いたします。