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顧客を動かすデジタル・マーケティングの実践No.3

運用型広告がもたらした広告のパラダイム転換 【前編】

2014/07/24

    購買ファネルの潜在層を拡大するには

    デジタルの世界で広告効果を追求する際に究極のポイントとなるのがPDCA、すなわちPlan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)のプロセスを高速で回しつつパフォーマンスを最大化していく施策だ。電通では昨年5月、このPDCA運用に特化したグループ会社ネクステッジ電通を設立。その背景には、近年話題の運用型広告における、電通グループ独自の進化がある。新しい概念である広告の“運用”は、適切に実践すれば、従来言われていた見込層の顧客化だけではなく潜在顧客の開拓にも効果を発揮し、さらにはマーケティング全体を変革する可能性がある。その概要と効果的な運用手法を同社の杉浦友彦が前後編にわたり解説する。

    広告は“コントロールする”もの―運用型広告の登場

    デジタル広告が浸透し、広告は“買う”ものから“コントロールする”ものへと変化しつつあります。マス広告の場合、出稿した広告がどのように効いたかはあくまで結果として受け止めるものでしたが、デジタル広告、中でも運用型広告はそうではありません。出稿しては成果を分析して改善し、また出稿をすることを非常に細かなスパンで繰り返し、効果を広告主が主体的に高めていくことができます。電通は、昨年5月に新たなグループ会社・ネクステッジ電通を設立しました。部署を設置するのではなく、デジタル広告の成果アップに特化したPDCA運用会社を設立したのは、この新たな潮流にスピーディかつダイナミックに対応するためです。

    昨年は運用型広告の節目の年となりました。大手媒体社による運用型広告商品ラインナップの拡充やテクノロジーやツールの発展により、広告配信を自由にコントロールすることはほぼ当たり前といえるくらいに浸透しました。上に書いた通り広告の意味合いが変化したという点でも、広告業界全体のパラダイム転換が起きたといってもいいでしょう。

    運用型広告の特徴は、大きく2点が挙げられます。ひとつは、自由自在にターゲティングできること。ユーザー属性や興味関心などの人の軸、検索キーワードの軸、また地域やデバイスなど環境の軸によって、精度の高いターゲティングをすることができます。従来の広告ではターゲティングが細かければ細かいほど広告単価も高くなりましたが、運用型広告では広告主が買いたい価格=クリック課金で入札するため、質と効率を両立させることができます。

    もうひとつは表現バリエーションに富んでいる点です。静止画のバナーから、ダイナミック・クリエーティブと呼ばれる、1人1人のユーザーの商品閲覧履歴に応じて訴求商品を出し分けるレコメンドバナー、また最近は動画広告も増えてきています。これらを目的に応じて使い分けることができ、効果もリアルタイムで可視化できることが運用型広告の特徴です。

    運用型広告の変遷を簡単に押さえておくと、まずヤフーやグーグルの検索連動型広告において、入札形式で価格を指定して購入する方法が可能になりました。次に、運用型広告はディスプレー広告にも拡大し、最近ではフェイスブックやツイッターなどソーシャルメディア上の広告も運用型に対応しています。

    この変化の背景には、広告テクノロジーの進化と、生活者の行動の変化があります。生活者がスマートフォンなどを通して常にオンラインに接触するようになり、それに応じて広告も、パソコンやスマートフォンなどへクロスデバイスで配信できる環境が整いました。その結果、生活者の主要なコンタクトポイントのほとんどが運用型広告の仕組みで網羅できるようになりました。

    コントロールが効くほど、戦略とノウハウで成否が分かれる

    マーケティングの領域には日々新しい概念やキーワードが登場していますが、デジタルの運用型広告もそうしたひとつにすぎないのでしょうか。私は、運用型広告は次世代マーケティングの原型だと考えます。マーケター誰しもが夢見たであろう「いつ・誰に・どこで・何を・どれくらい」訴求するかをコントロールできる環境が初めて整うという、ダイナミックで興味深い世界に突入したと感じています。 ただし、広告をコントロールできるようになるほど、実践で成果に大きく差がつくのもまた事実です。同じように運用したつもりでも、戦略とノウハウの有無によって成果に5倍10倍の開きがついてもおかしくありません。より広告主や広告会社の責任が重くなったともいえるでしょう。

    しかし、だからといって構える必要はなく、ごくシンプルに考えることを私は提案します。ネクステッジ電通では、「購買ファネルのどこにいる人にアプローチするのか」で分けた、3つの手法を基本とします。

    購買段階を“じょうご”の形で図示化した購買ファネルでは、生活者を「ニーズ潜在層」「検討層」「見込層」の3つに分けることができます。それらに対応して、ニーズ潜在層を刺激するプッシュ型のディスプレー広告、検討層を誘導するプル型の検索連動型広告、そして見込層を確実に捉えるフォローアップ型のリターゲティング広告、の3種類が中心的な手法となります。

    ダイレクトandブランディングで潜在層を開拓

    現在の運用型広告では、検索連動型広告やリターゲティングによる、検討層から見込層の顧客化が主戦場になっています。しかし私たちの戦略はそこにとどまりません。顧客ファネル全体をターゲットとし、「潜在層を検討層・見込層へ引き上げ、顧客化に結び付ける」という新規開拓の領域に取り組んでいます。

    では、潜在層・検討層に働きかけるには、どのようなアプローチが有効でしょうか。ここはダイレクトレスポンス的な解決と、ブランディング的な解決の2つをご紹介します。たとえダイレクト系の施策であっても、まずはリーチを拡大することが命題です。新規のユーザーに「リーチ」をしない限り、最終的な顧客の獲得は必ず先細ってしまいます。その上で誘導効率を高め、適切なクリエーティブやコンテンツを通じてできるだけ多くのユーザーを潜在層から検討層へ引き上げ、そしてリターゲティングで獲得に結び付けるという方法です。

    一方でブランディング的なアプローチは、これまでデジタル広告ではあまり話題に上るものではありませんでした。しかし、動画などのリッチ広告が普及したことで、実現可能なものになっています。どちらの手法もコスト効率や効果指標の設定の難しさが壁となり、高度なノウハウが必要とされます。

    なお、厳密にはこの2つのアプローチの境界はあいまいになりつつあり、多くの企業で今後は双方の施策を考えざるを得ない状況になると考えています。私たちもこの2つの手法を併用することによって最終的な成果への貢献を追求しています。

    後編では、さらにこの2つのアプローチを掘り下げ、事例を交えて紹介します。