運用型広告がもたらした広告のパラダイム転換【後編】
2014/07/29
究極はPDCAのリアルタイム化へ
広告主サイドが出稿をコントロールして主体的に成果を高めていくという、これまでの広告の常識を覆すパラダイム転換が起きている。しかしその分、運用の戦略やノウハウの有無によって大きな差が生まれているのも現状だ。後編では事例を交えて運用型広告のノウハウを紹介し、次世代マーケティングが目指す境地を提示する。
CPAの再定義でリーチを拡大し誘導効率を高める
デジタル広告は現在、自由自在なターゲティングができ広告の表現バリエーションも広がっています。そうした特徴を最大限に生かし、PDCAを回して主体的に広告の効果を引き上げていくのが、運用型広告の考え方です。前編ではこの点についてご紹介しました。
後編では、顧客ファネルにおける「潜在層」の顧客化に有効なダイレクトレスポンス的なアプローチとブランディング的なアプローチを、事例を交えて解説します。
ネクステッジ電通の考えるダイレクトレスポンス的な解決アプローチとは、ディスプレー広告の積極的な活用で潜在層にまでリーチを広げて誘導効率を高め、その後にリターゲティングで顧客を獲得する方法です。リターゲティング広告自体は広く行われていますが、その前段階のリーチ拡大はCPA(顧客獲得単価)を考えると割に合わないという見方が一般的です。この見方をCPAの再定義によって乗り越えることが、このアプローチのポイントとなります。
具体的にあるEコマース事業者の事例をご紹介します。この企業の課題は、新規顧客を獲得したいものの、プッシュ型のディスプレー広告ではCPAが引き合わないことでした。そこでまず、潜在層の新規顧客化にかけてもいいCPAを、1回の売り上げによる利益ではなくその顧客が長期的にもたらす購買額から算出することで設定し直しました。
次に、広告配信からサイト来訪まで誘導するフェーズと、その後の購買成立までの2ステップに分けてPDCAを実行しました。最後にこれらの効果を掛け合わせ、潜在層へのリーチ段階で設定したセグメントのうち、最も効果が高かったものを最終的に抽出しました。こうしたことができるのは、細かいターゲティングができる運用型広告ならではだといえます。
運用型広告では最初からターゲットを決め込まず、いくつかのターゲティングを試して効果があるセグメントを発掘していく考え方が有効です。効率を改善しながら、見込みのある施策の配信を増やして獲得件数を増やしていく。手軽にできることではないかもしれませんが、チューニングすることで施策を“仕上げていく”のも運用の醍醐味です。
ブランド認知・意向の効果に着目、オフラインの成果も見込む
もうひとつの手法である、ブランディング的なアプローチについて。ここでは、耐久財を扱う家電メーカーを事例に挙げます。この施策の目的は、ニッチ寄りのターゲットを狙う新商品の、ウェブでの検討促進と店舗購入への誘引でした。また課題として、ディスプレー広告では訴求力が弱いが、テレビCMをするには無駄が多いことが挙がっていました。
そこで私たちは、広告の購買以外の効果を明らかにして、無駄なく広告費を使うことを検討しました。具体的には、ウェブ動画広告の視聴を完了した人のその後の動向を把握して、そのビュースルー効果(広告をクリックはせず接触のみした人が、後に検索経由などで商品サイトにアクセスしたかどうか)およびブランド認知効果を可視化しました。
主なウェブ動画広告は現在、ユーチューブや動画サイト上でコンテンツ視聴前に広告が流れるインストリーム動画広告枠、ヤフーの記事内に動画が流れるインスクロール枠、フェイスブックのニュースフィード上の動画広告等があります。どのタイプを利用する場合も、KPI(評価指標)を最初に整理しておくことがその後の判断を迷わないためのポイントです。表示回数や視聴完了数、商品ページ来訪数は管理画面からすぐに分かりますし、ブランド認知や購買意向も視聴完了後に簡単なアンケートを加えることで把握することができます。
最終的な店舗購入も相関ベースではあるものの推定可能です。商材によって異なるものの、耐久財の場合は購入までにウェブで情報収集をすることが多いので、この事例では商品詳細ページの表示回数と店舗での販売数に相関がありました。これらの中間指標を追うことで、デジタル広告の販売貢献を統計的に推定し、妥当性のある運用上の指標を設定することも可能になっています。
その他、Web閲覧後に電話経由でのコンバージョンが多い商材の場合だと、ウェブ上で掲示するコールセンターの電話番号を流入元毎に切り替えて「Web-to-Call」計測をおこなうなど、デジタル広告の効果をリアルでの指標と結びつける手法も複数登場しているので、それらを使うのも有効です。
このような、販促へ貢献した短期効果を捉えることはもちろん、ブランド認知・購買意向も含め、ブランディングに貢献した長期効果の側面も両睨みでウォッチしていくことが重要です。購買の土台となった施策も成果と見なし、ニーズ潜在層から検討層への引き上げを行うのがブランディング的アプローチの特徴です。
リアルタイムPDCAの実現がすなわち競争力に
最後に、運用型広告の究極として、リアルタイムPDCAへの挑戦についてお話しします。
運用型広告の可能性を分かっていても、実際には改善を継続できずに成果に結びつかないことがあります。そうならないためには、レポーティング、コミュニケーション、オペレーションの3つの段階で作業を見直すことが重要です。
レポーティングでは、ダッシュボードツール1つにデータソースを統合することで、可視化、リアルタイム化が可能になります。コミュニケーションにおいても資料作成に時間をかけず、そのダッシュボードを見ながら振り返りと改善アクションを討議していけば進行が早くなります。そしてオペレーションは、勝ちパターンの仕組み化と自動化が重要です。例えばEコマースサイトでは一般的に雨の日の購入率が向上するので、天気情報と連動させて雨が降る地域では入札単価を上げるようなオペレーションにすれば、労力をかけずに成果が得ることができます。このように機械化できる領域はまだまだあるでしょう。
顧客ファネルの全体を捉え、適切なKPIを設定し、セグメントは徐々に狭めていきながらチューニングする。効果はブランディングやリアルへの波及も含めて可視化し、レポートはリアルタイム化、運用は仕組み化・自動化を目指す。こうしてノウハウを積み重ねて、少しずつ進化を続けるのが運用型広告で成果を上げる策です。
あらゆるメディアやチャネルがデータでつながっている今、リアルタイムでPDCAを回すことがすなわち競争力です。ネクステッジ電通は企業を支援する立場として、本来マーケターがやりたかった理想に立ち返って成果を創出し、パートナーシップを築きながら次世代マーケティングの実現を目指したいと考えています。