カンヌが評価した「イノベーション」とは?
皆川治子(クリエイティブデータ部門審査員)×なかのかな(イノベーション部門審査員)
2015/08/07
今年「クリエイティブデータ部門」が新設され、イノベーション部門と共に独立して新たなアワード「ライオンズイノベーション」となった。この新たなアワードでは何が議論され、どんな受賞作が選ばれたのか。審査員のなかのかなさんと皆川治子さんに聞いた。
(本コンテンツは『ブレーン』9月号からの転載です)
「投資に値するか」と「ユニークネス」を同時に見る
――イノベーション部門とクリエイティブデータ部門、それぞれの審査基準を教えてください。
なかの:イノベーション部門の審査基準は「投資に値するか」。つまり「ゲームチェンジャーになりえるか」「社会をよりよい方向に変えるか」。そして「ユニークなアイデアか」です。今年も投資会社の方が審査員に入っていて、「投資に値するか」かは重要な基準となっていました。最後の1つはカンヌらしいところで、スタートアップ系のピッチコンテスト等との違いを挙げるなら、カンヌは「ユニークネス」を非常に大切にしています。
皆川:クリエイティブデータ部門は「継続性があるか」「スケーラブルか」、そして「そのアイデアは自分がやりたかった!という驚きがあるか」「データが誰の目にも生きて見えるか」。こう見ると、同じライオンズイノベーションの部門でもだいぶ様相が違いますね。クリエイティブとデータ、それぞれの専門家が審査員をしているので、両方の視点を満たさないと入賞できません。審査員は皆オープンで好奇心旺盛な人ばかりで、クリエイターがコードをその場で教わってみたり、クリエイティビティって何なの?とデータ側の審査員がクリエイターに質問したり。「審査員で1つのチームをつくれば、ドリームチームがつくれるかもね(笑)」なんていう話をしていました。
満場一致で「グランプリなし」その理由は?
皆川:クリエイティブデータ部門は早々に全員が「今年はグランプリなし」という意見で一致していました。各サブカテゴリで条件を満たすものはあっても、サブカテゴリを超えてはみ出していくパワーを持ったものはなかった印象です。ただ、審査員は「これは前向きな決断だ」と捉えています。クリエイティブとデータを掛け合わせることの可能性は実感できたし、方向性も間違っていない。数年後にはこの部門がカンヌの中心になっていたっておかしくない。だから今年は半端にグランプリを決めるのではなく、来年以降に託そうと話しました。
なかの:イノベーション部門は「自社ビジネス」と「クライアントビジネス」の2つのカテゴリがあり、グランプリの「What3Words」は前者から選ばれました。
これはすんなり決まりましたね。3メートル四方のマップに3つの単語を組み合わせて地名をつけられるというサービスで、最も評価されたのはゲームチェンジャーになりうる点です。「地図を手に入れたものが世界を制する」という定説はそれこそ大航海時代からあって、そこにチャレンジしたことが大きな評価のポイントでした。さらに、アフリカなど成長の余地があり、まだ住所制度の追いついていない地域に、テクノロジーを使ってアプローチした点も重要視されたと思います。イベントやキャンペーンにも使えるというクライアントビジネスへの活用性も評価のポイントでした。
(全文は『ブレーン』9月号にてご覧いただけます)
皆川治子(みながわ・はるこ)
博報堂 TBWA\HAKUHODOタッチポイント エバンジェリスト 兼 ナレッジコンシェルジュ。テクノロジーに精通したジェネラリストとして、全体戦略からKPI開発、PDCA管理まで幅広くマネジメント。効果測定のトレンド分析、システム開発にも携わる。
なかのかな
電通 CDC クリエーティブ・テクノロジスト/コミュニケーション・プランナー。ネット広告代理店を経て2009年より電通。ウェアラブルデバイス「necomimi」「neurocam」、IoTデバイス「mononome」など、新しいテクノロジーから発想した「ちょっと未来のコミュニケーション」を企画・開発している。