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誕生から100年。ラジオは、今……No.1

マスメディアから「コミュニティメディア」へ。今、ラジオは全盛期

2025/03/21

2025年3月22日、日本のラジオは誕生から100年を迎えます。この節目にウェブ電通報では、ラジオの第一線で活躍されている方にお話を伺います。初回のゲストは、オールナイトニッポンの統括プロデューサー・冨山雄一氏。

中学時代からラジオのとりこになり、仕事でラジオ畑を歩んできた冨山氏は、ラジオを「コミュニティメディア」と定義します。冨山氏が体感した21世紀のラジオの変化とこれからについて、電通メディアイノベーションラボの長谷川想氏がお話を伺いました。

日本のラジオ放送が始まったきっかけの一つは、1923年の関東大震災です。東京や横浜が壊滅状態になり、被害状況が共有できない中、いち早く情報を伝えたのが無線局でした。このことがラジオ局設立の気運を高め、1925年3月22日、NHKの前身・社団法人東京放送局が日本初のラジオ放送を開始しました。
ラジオ誕生100年

 

今、21世紀に入って若者が最もラジオを聴いている時代

長谷川:本日はよろしくお願いします。冨山さんはオールナイトニッポンのプロデューサーとしてお名前をご存じの方もいらっしゃると思いますが、改めて自己紹介をお願いします。

冨山:よろしくお願いします。僕は大学卒業後、2004年にNHKに入局して、すぐにラジオの部署に配属になり、NHKラジオ第1のニュースやバラエティ番組のディレクターを務めました。その後、NHK新潟放送局に転勤し、テレビ番組制作に携わりました。

2007年、ニッポン放送に中途入社し、オールナイトニッポンや、朝昼の番組のディレクターを9年間務めた後、イベント部署にて、ナインティナイン岡村隆史さん、ももいろクロ-バーZさんの番組イベントなどのプロデュースに携わりました。2018年からは、オールナイトニッポンのプロデューサーを務め、今はニッポン放送の番組制作全体を統括しています。

長谷川:冨山さんは、キャリアの大部分をラジオとともに歩まれていますが、学生時代からラジオ業界に憧れていたのでしょうか?

冨山:そうです。中学時代からラジオを聴くようになり、オールナイトニッポンも好きな番組の一つでした。ラジオは学校でも塾でもない、日常の中の「逃げ場」みたいな感じで居心地が良かったのです。夜中に2時間も番組を聴いても内容を詳しく覚えているわけではない。でも、勉強や部活、友人関係といった思春期特有の悩みがある中で、ラジオを聴くと心がちょっとだけ軽くなる感じがしました。

長谷川:お仕事で長くラジオに携わる中で、ラジオの変化をどのように捉えていますか?

冨山:自分の学生時代と比べるとラジオは本当に大きく変わりました。僕が2004年にNHKに入局してからの20年間は激動期でした。昔は一家に一台ラジオがあるのが普通でしたが、iPodなどラジオ機能を搭載していないmp3プレーヤーが普及した2000年代は、特に若者とラジオとの接点が少なくなりました。さらに、2006年にニコニコ動画が登場して新しいアーティストやカルチャーの発信源になっていき、若者の目はそちらに向きました。2010年代前半まではラジオにとって本当に厳しい時代でしたね。

長谷川:流れを変えるきっかけは何だったのでしょうか?

冨山:大きく三つあると思っています。一つは、radiko(ラジコ)の登場です。2010年に試験放送がスタートした当初は同時放送機能しかなかったのが、2016年10月に、オンエアから1週間以内ならいつでも番組が聴ける「タイムフリー機能」ができて、ラジオの聴かれ方が劇的に変わりました。

二つ目は、スマホが普及したことです。スマホにradikoのアプリをダウンロードすれば、パソコンで聴くのとは違って、ラジオがいつでも手元にある状態になりましたから。

そして、三つ目は、SNSが盛んになったことです。それまでのラジオはパーソナリティとリスナーの1対1のメディアで、番組は個人で楽しむものでした。それが、Twitter(現・X)で番組の感想などを、ハッシュタグをつけてツイート(ポスト)して、みんなでその楽しさをシェアするものに変わりました。

長谷川:radiko、スマホ、SNSがラジオに大きく影響を与えたわけですね。

冨山:さらに今は音声コンテンツとの接点がどんどん増えています。radikoでのリアルタイム、タイムフリーの他にも、ポッドキャストはもちろん、GERA、stand.fm、Voicy、Radiotalkといった音声配信サービスもあります。音声コンテンツも「ラジオ」と定義することで、僕は、「今は21世紀に入ってから、若者が最もラジオを聞いている時代」とよく言っています。

ラジオ誕生100年


 

オールナイトニッポンは、朝聴く番組!? 

長谷川:「21世紀に入ってから、若者が最もラジオを聴いている時代」とおっしゃいましたが、リスナー、特に若者はラジオをどのように捉えていますか?

冨山:ラジオがアナログからデジタルにアップデートされ、番組を聴けるさまざまな音声サービスが登場したことで、ラジオは「スマホで聴く音声コンテンツ」「自分の好きな人が音声のみでしゃべっているコンテンツ」といった解釈が広がっています。

オールナイトニッポンは、「オールナイトニッポンX(クロス)」「オールナイトニッポン」「オールナイトニッポン0(ZERO)」などいくつかのブランド番組があり、「毎日パーソナリティがリアルタイムでしゃべるリッチな音声コンテンツ」と、リスナーに捉えられている。それが、YouTube、インスタライブ、TikTokなどと勝負できている大きな要因だと考えています。 

長谷川:リスナー像についてはどう捉えていますか?

冨山:オールナイトニッポンは、70~80年代ごろのイメージからか、中学・高校の受験生が眠い目をこすりながら聴いているというイメージが多くの人に刷り込まれています。ところが、radikoの聴取データを見ると、メインのリスナー層は20代中盤で、 30~50代にも同番組を長い間聴いている人が少なくありません。

局側としても、これまでオールナイトニッポンは、中高生が深夜に聴く番組で、リスナーはどんどん入れ替わっていくという考え方でした。しかし、リスナー層が幅広い年代であることが分かったことで、番組によってはパーソナリティも卒業せず、リスナーを積み上げていこうとしています。

例えば、ナインティナインさんは30年、オードリーさんは15年、番組を担当しています。2024年にオードリーのオールナイトニッポン15周年を記念して東京ドームでイベントを行い、会場への来場者と配信で合わせて16万人を集めました。このような大規模なイベントは、リスナーを積み上げてきたからこそであり、2~3年番組を続けた程度ではできなかったでしょうね。

長谷川:なるほど。リスナー像が変わってきた要因をどのように分析していますか?

冨山:大きな要因として、SNSで番組の内容が拡散されるようになったことと、タイムフリー機能が挙げられます。例えば、オールナイトニッポンでは、生放送中に全国で数万人ものリスナーがSNSで感想をつぶやき、面白かったことを分かち合う。さしずめネット上で、番組のオフ会が毎晩繰り広げられているようなものです。その内容がSNSでトレンドとして拡散されて、翌朝、通勤通学の時間帯にたくさんのリスナーを集めます。オールナイトニッポンは、朝の時間帯に、生放送の 6、7倍ものリスナーが聴いているんです。

長谷川:それは驚きです。

冨山:パーソナリティの発言はネットニュースにもなります。パーソナリティが結婚した、子どもが生まれたといった発表から、昨日こんなことがあったという身近なことまで、SNSやネットニュースを通じて、ラジオを聴かない人々にも瞬く間に広がっていく。

僕が学生時代、クラスの数人がコソコソ聴いていて、「秘密基地」のようだったラジオの楽しみ方を思い出すと隔世の感がありますね。僕は、2025年1月に著書「今、ラジオ全盛期。」を出版しましたが、何をもって全盛期かというと、ラジオ番組の中身や内容がこれほど世の中に広がる時代は、ラジオ100年の歴史で初めてだと思ったからです。

ラジオ誕生100年

ラジオはどのように「コミュニティメディア」へと変貌したのか?

長谷川:リスナー像が変わってきて、メディアとしてのラジオの変化をどのように感じますか?

冨山:まず基本的なことですが、ラジオはマスメディアとしての役割があり、1億2000万人に広く浅く情報を届けていく使命があります。このことはずっと変わっていません。例えば、災害時に電気が止まっても乾電池があれば数十時間聴けるラジオは命綱のような役割を果たします。放送の役割である「公共の福祉の追求」という観点から、全国の人にきちんとした情報を届けることはこれからも必要です。

一方で、世の中にあまたのコンテンツがあふれている現状では、1億2000万人を満足させるコンテンツを作るよりも、番組やパーソナリティに興味関心を持ってくれている人に狭く深く届ける志向へと変化している。そういう意味では、ラジオはマスメディアからコミュニティメディアへと変わってきていると感じています。

長谷川:コミュニティメディアなのですね?

冨山:もともとラジオは、受信機から流れてくる番組を聴く「一方通行のメディア」で、その中で自分が興味を持った番組やパーソナリティの熱心なリスナーになっていくものでした。それはあくまでパーソナリティとリスナーが1対1で向き合うものです。それが、今ではみんなで番組内容を共有・共感する。一つの番組を通じて、喜怒哀楽の感情をリスナーたちがSNS上で共有するものになってきています。

長谷川:自分のとなりにも同じようなリスナーがいることが認識できる時代。

冨山:ラジオ文化という点では、例えば、オールナイトニッポンは、パーソナリティのファンの方もいれば、深夜放送がそもそも好きなラジオリスナーもいます。僕はよくパーソナリティに、この両方のリスナーが聴いてくれると、番組がすごく広がっていくと言っています。

長谷川:パーソナリティの熱狂的なファンだけがラジオを聴いているわけではないのですね。

冨山:単にパーソナリティのファンに向けたコンテンツを作るなら、YouTubeやインスタライブ、ファンクラブでいいわけです。ラジオのいいところは、不特定多数の人が聴いていることです。

ラジオ全体を見ると、時計代わりに「ながら聴き」しているケースが多く、SNS投稿や、ハガキ、メールを送らない「サイレントリスナー」が多数なわけです。オールナイトニッポンの時間帯は、その時間に車で移動している方や深夜に働いている方もいらっしゃいます。

そのような状況を踏まえると、ラジオ番組は「ちょっとだけドアが開いている状態」で、初めての人が入ってくる余地がある。そういう人を取り込んで番組のコミュニティを少しずつ広げていった先に、「静かな熱狂」が生まれると考えています。

長谷川:コミュニティという点で、リスナーとパーソナリティ、スタッフの関係性も変わってきていますか?

冨山:以前は、パーソナリティとリスナーが1対1の世界に没入してもらえるように、ディレクターや放送作家がオンエアに登場することは、あまりありませんでした。ところが、今の時代は番組を担当しているディレクター、放送作家、ハガキ職人のようなヘビーリスナーまで、SNSなどで存在が共有されてしまう。

それによって、「この放送作家が好きだから、その作家さんが担当する番組を聴く」というムーブも生まれています。今はスタッフも積極的にSNSで番組を告知したり、番組にも登場します。リスナー、パーソナリティ、スタッフは、みんな仲間という意識が強まっていて、パーソナリティも放送中に作家やスタッフについての話題を出すことも珍しくありません。

長谷川:以前、オードリーさんが「ラジオのスタジオは、高校の時の部室の感覚だ」とおっしゃっていました。そのような感覚が生まれるのは、少人数で番組を作るラジオだからかなと思いました。

冨山:そうだと思います。オールナイトニッポンの場合、番組制作の最小ユニットは、パーソナリティ、ディレクター、ミキサー、AD、メイン作家、サブ作家の6人です。テレビ番組に比べると本当に小規模で、そのぶん、携わる人の間に親近感が湧きます。そこにリスナーも加わって、みんな家族のような近い距離感で、同じ目線でなんでも話し合えるような感じがある。他のメディアにはないラジオ独特の距離感ですね。

ラジオ誕生100年


 

ラジオは、番組の文脈や面白さがじわじわ伝わる「漢方薬」

長谷川:「タイパ世代」の若者が、今どのような感覚や思いがあって、ラジオを2時間も聴き続けていると考えられていますか?

冨山:音声コンテンツや動画を倍速で視聴したり、ショート動画がはやったり、基本的にコンテンツ視聴時間はどんどん短くなっています。ところが、ラジオは真逆で、オールナイトニッポンは1~2時間の番組です。わざわざ深夜にリアルタイムで聴くことが、若者に新鮮に捉えられているのではないでしょうか。オールナイトニッポンに限らず、ラジオの原点は生放送のフロー型で、その瞬間にしか体験できないことをみんなで共有するところに価値があります。

付け加えると、今、ショート系の瞬間的に刺激を求めるコンテンツが多い中で、ラジオは文脈を味わう面白さがあります。例えば、オードリーさんは、番組のオープニングからとても長い時間、その週の出来事などをしゃべるわけです。

長谷川:生放送を聴く場合は倍速モードもないですよね。

冨山:オールナイトニッポンに限らず、ラジオ聴取というのは習慣になりやすく、番組を1年、2年と聴いているうちに番組の文脈や面白さがじわじわと分かってくる「漢方薬」のようなものです。一方、YouTubeなどのショートコンテンツは、その場で一瞬で沸く面白さで、それは「即効薬」と言える。即効薬が多い現代のコンテンツの中で、ラジオは希少な存在ではないでしょうか。

そこにradikoのタイムフリー機能が登場して、番組の楽しみ方が増えました。オールナイトニッポンをフェスにたとえると、生放送で聴いてくれる人は、フェスを最前列で見る熱心なファン、朝にタイムフリーで聴く人は、フェスをちょっとのぞいてみようかなという感じで後ろの方にいるファンと言えます。

ある日の放送で「神回」と呼ばれるようなサプライズがあったりすると、再生数が一気に増えます。それはフェス会場でサプライズが起きてみんなが走ってくる感じに近いのかなと思います。従来のリスナーに加えて、ライトリスナーが非常に増えた印象です。

ラジオ誕生100年


 

リスナーと広告主が一緒に番組を推している

長谷川:少し話は変わりますが、広告主のマーケティングという点において、2010年代からの変化をどのように捉えていますか?

冨山:オールナイトニッポンの広告主の数は、2010年代前半は1番組当たり1桁だったのが、今は大幅に増えていて、番組によっては40社もついていただいています。

長谷川:40社! 

冨山:それだけオールナイトニッポンの価値を広告主に感じていただいているわけですが、それは単に聴取率が良いということだけではありません。近年はリスナーが広告主に対して抱く感情が変わりました。 昔は「CMが流れているな」と思う程度だったのが、今はCMをみんなで 共有、共感するようになってきている。広告主もラジオ番組を支えていることがリスナーに浸透してきて、リスナーと広告主が一緒に番組を推しているような雰囲気が生まれています。

長谷川:先ほど、ラジオはコミュニティメディアとおっしゃいましたが、広告主も仲間みたいな意識がある、と。そのような意識はどうして生まれたのですか?

冨山:そもそもラジオは、番組のスポンサーがリスナーにインプットされやすいんです。毎週聴いていると、佐久間宣行さんの「オールナイトニッポン0(ZERO)」は明治さんが、高橋文哉さんの「オールナイトニッポンX(クロス)」はミツカンさんが提供している、といったことがすぐ頭に浮かぶ。加えて近ごろは、リスナーがSNSでCMや広告主のことをポストしたり、パーソナリティも広告主について語ったりすることが増えました。

長谷川:なるほど。テレビにはない、広告主とリスナーの独特の絆があるわけですね。これからの広告主のニーズへの対応をどう考えていますか?

冨山:現状、多くの広告はすべてのリスナーに届いているものになりますが、アナログからデジタル化が進んでいく中で、聴取データを活用し、広告を届けたいターゲットにピンポイントに訴求していくことが求められていると考えます。radikoのオーディオアドやポッドキャスト上の広告などがそのニーズに対応していくと思われます。

ラジオ誕生100年


 

100年後も、みんなで気持ちを分かち合えるメディアであるように

長谷川:最後に、これからのラジオについてコメントをいただけますか?

冨山:僕は、ラジオはアメーバのようなものだと思っています。他のマスメディアに比べると単体としては強くない。だからいろいろなサービスや媒体を柔軟に取り込むことで、変化を乗り越えこれまで100年間生き延びてきたのだと思います。

長谷川:ラジオは時代に合わせて柔軟に変化していく、と。

冨山:とはいえ、ずっと残していきたいものもあります。令和6年能登半島地震が起きたとき、星野源さんは、正月用に収録済みの番組を流すのをやめて急きょ生放送しました。その番組の中で、リスナーに向けて「一緒に不安になりましょう」と呼びかけたのです。

その言葉に僕は心を打たれました。普通は「頑張りましょう」とか「大丈夫です」と、やや一方的な発言になりそうなのに。改めてラジオは、日常の不安に寄り添い、みんなで気持ちを分かち合えるメディアだと気づかされました。

1923年の関東大震災をきっかけに日本のラジオ放送が始まったわけですが、これから50年、100年後も、ラジオが素早く情報を届け、みんなで気持ちを分かち合えるメディアであり続けられるように努めていきたいと強く思っています。

長谷川:本日はいろいろなお話をありがとうございました。

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