Dentsu Design TalkNo.56
IoTとテレビ(後編)
2015/09/05
IoT(モノのインターネット)という言葉が注目を集め、デジタルクリエーティブがその姿を大きく変えている。
テレビ×インタラクティブをテーマに、4年で20 以上の参加型番組企画を実現してきたバスキュールでは、日本テレビとスマートテレビ、スマートデバイスを事業のメーンフィールドにする合弁会社「HAROiD」を設立。
博報堂からスピンオフして生まれたクリエーティブエージェンシーSIXでは、次世代型スピーカー「リリックスピーカー」を開発し、今年の SXSW エンターテインメント・コンテンツテクノロジー部門で、アジア初の受賞企業に選出された。
インタラクティブ、デジタルを起点にしたクリエーティブを追求してきたPARTY でも、IoTコンテンツの開発が進行中という。
従来のクライアントワークにとらわれず、新しい取り組みを進めるデジタルクリエーティブ3社からバスキュール朴正義氏、SIX野添剛士氏、PARTY中村洋基氏の3名が集まり、IoT 時代のクリエーティブについて話し合った。その内容の後半をお届けする。
テレビを情報端末と捉えて
新しい広告サービスを発想する
中村: HAROiDでは、この先どんな事業を展開していく予定ですか?
朴:今、ネットに接続しているテレビは20~30%といわれていますが、近い将来、50%を超えるのは間違いないと考えています。テレビ番組を見ている時に、子どもが駅にSuicaをかざしたことが表示されたり、宅配便があと10分で届くと表示されたり。テレビがネット接続されていれば、スマートフォンのようにパーソナルな情報をタイムリーに表示することが可能になります。
料理番組とテレビ通販をセットにして「みんなでカレーを食べよう」という企画にすれば、事前に通販で材料を注文してもらい、当日は番組を見ている1000万人が同時にカレーを作って食べる、なんてことも考えられます。テレビをネット接続された大画面情報端末として捉えると、色々なサービスが考えられるんです。
HAROiDではそういった時代を見据えて、ショーケースになるような企画を準備しています。15秒のテレビCMとは違う、インタラクティブな新しい広告サービスを実現できればと考えてます。
中村: バスキュールはこれまでテレビと一緒にやってきた実績があるからこそ、こうやって周りを巻き込めていけるんでしょうね。
野添:こういう座組みを作ったことで、これまでよりも実現の敷居は下がりそうですか?
朴:テレビ番組って、たいてい直前で制作を始めるので、放送2週間前になってもワードかパワーポイントの企画書しか存在しない、ということが多々あります。
当初はそれに本当に驚いて。以前、テレビとスマホを連動させた生放送番組を企画した時は、やりたいことを説明するために、60分のVコンを作ったんですが、逆にテレビ業界の人にびっくりされて、そのVコンが出回ったほどでした(笑)。スケジュールが確保できないと、やりたいと言っても実現できないので、こちらである程度のフレームワークを用意して、「安く」「早く」インタラクティブな企画が実現できるようにする。そうすれば実現可能性も高まり、僕らのようなインタラクティブ業界の人間にもチャンスが増えるんじゃないかと思ってやっています。
ビジネスをスケールさせられる
人材がもっと必要だ
中村: お2人は新規プロジェクトを始める時、どういう準備が必要だと思いますか? 小さなエージェンシーなら「面白そうだからやろうぜ!」でできるけれど。
野添:そういう感じって大事なんじゃないでしょうか。スタートアップが手掛けるIoTは、これまで効率化のためのものが多かったと思うんです。ごみ箱にセンサーをつけることで中身の量を把握できて、無駄な回収を減らせます、とか。
それも必要ですが、僕らは人がワクワクしたり楽しい気持ちになったりするIoTを作ることが大事なんじゃないかと思っています。ただし、それをビジネススケールできる人材が広告界にいるのか。それが大きな問題ですね。
中村: PARTYでは、「OMOTE 3D SHASHIN KAN」(3Dプリンタを使った立体フィギュア制作サービス)を発表して、あっという間に世界中にパクられたという過去がありまして。意匠のことを全然考えていなかったんです。広告の人間は、その辺がすごく甘いというか。
野添:アイデアをスケールさせて、もうかる仕組みを作れる人材が必要ですよね。
朴:そうですね。既存の枠の中でクリエーティブを競うのも楽しいのですが、隙あらば、そのコンテンツフォーマット自体を新しくするようなことをやってみたいですね。同時に数百万人参加とか、家でもどこでも参加できるネット時代の恒例のお祭りのようなものを作ってみたいです。
中村: SIXが今後やっていきたいことは何ですか?
野添:音楽の次はファッションの分野でやってみたいですね。もうひとつは、音楽やスポーツなど、ライブイベントの楽しみ方を追求してみたい。そうやって「カルチャーをアップデートする」視点で考えていけば、可能性が広がっていくんじゃないかと思います。
朴:スポーツ中継は、届ける側にも見る側にもアップデートの余地がたくさんありますよね。
野添:まさに研究が進んでいる分野ですよね。このまま発展すれば、東京オリンピックでは世界一深い中継ができるようになるかもしれない。
朴:今はほぼ全員が高性能ネット端末を持っている時代です。
IoTというより、IoE(Internet of Everything)、つまりコトのインターネット化というような形で、自分がしたいことが瞬時に伝わり、それに対応するサービスがすぐに提供される、という方向に時代は進んでいくと思っています。
中村: ちなみにお2人は、これからどんな人材が欲しいですか?
朴:有無を言わさず欲しいのはエンジニアやプロデューサー。プロトタイプを作れる人材が欲しいですね。
中村: プロトタイプを作れる人間はPARTYでも探しています。ただ、人数が少ないとクライアントワーク優先になってしまうのが悩みです。組織を分けるしかないかもしれないですね。
野添:アイデアはいっぱいある。でも、プロトタイピングを進めるられる人間も、ビジネスを進められる人間も全然足りない。それが僕たちが抱えているジレンマですね。
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企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀