Dentsu Design TalkNo.55
IoTとテレビ(前編)
2015/09/04
IoT(モノのインターネット)という言葉が注目を集め、デジタルクリエーティブがその姿を大きく変えている。
テレビ×インタラクティブをテーマに、4年で20 以上の参加型番組企画を実現してきたバスキュールでは、日本テレビとスマートテレビ、スマートデバイスを事業のメーンフィールドにする合弁会社「HAROiD」を設立。
博報堂からスピンオフして生まれたクリエーティブエージェンシーSIXでは、次世代型スピーカー「リリックスピーカー」を開発し、今年の SXSW エンターテインメント・コンテンツテクノロジー部門で、アジア初の受賞企業に選出された。
インタラクティブ、デジタルを起点にしたクリエーティブを追求してきたPARTY でも、IoTコンテンツの開発が進行中という。
従来のクライアントワークにとらわれず、新しい取り組みを進めるデジタルクリエーティブ3社からバスキュール朴正義氏、SIX野添剛士氏、PARTY中村洋基氏の3名が集まり、IoT 時代のクリエーティブについて話し合った。その内容を2回にわたってお届けする。
なぜエージェンシーがIoTを手がけるのか?
中村:「IoT」って単なるブームではないと僕は思っています。理由は2つあります。
まず、Bluetoothによって非常に低電力でスマホとデータをやりとりできるようになり、計算を全部スマホ側でできるようになって、コストをかけずにモノが作れるようになったこと。
もうひとつは、数行のプログラミングだけでモーターを動かせるような仕組みが整ったこと。この2つのおかげで、誰でもアイデアさえあればプロトタイピングできる環境が整いました。
最近では、広告会社までIoTを手掛けていますよね。PARTYでも、ネットにつながる歯ブラシを開発している最中です。歯磨きをすると端末のゲーム画面でモンスターをやっつけられたり、面白い機能で歯磨きが楽しくなる歯ブラシです。
今日は、エージェンシーがIoTにどうコミットすると面白いのか、テレビはIoTでどう変わるのか、お2人に話を聞いていきたいと思います。
野添: SIXのキーワードは「体験のアップデート」です。僕たちの開発した歌詞が表示されるスピーカー「リリックスピーカー」は、「音楽体験のアップデート」がテーマになっています。
今、定額制のサービスで音楽が身近になったり、ハイレゾ音源で音質もどんどん良くなっている。
では、その次の音楽体験のアップデートは?と考えた時に、デジタル音源で色々と便利になっていく一方で、「歌詞」をじっくり感じと取る聴き方が減っていることに気付いた。歌詞カードを握りしめて音楽を聴いたあの聴き方を、デジタル時代ならではの新しいやり方でアップデートできたらもっと深く音楽を体験できるんじゃないかという思いで作りました。
中村:SIXではこれを売っていくぞ!と考えているんですか?
野添: 1人でも多くの人に体験してもらうために販売する。それはあくまでファーストステップ。
世界中の音楽好きへ体験を広げることがゴールなので、そこから色々なサービスと連携させていくことを考えてます。
中村:リリックスピーカーは、透明なディスプレーもカッコいいですよね。歌詞の出し方も、フォントの選び方や動かし方がすごくエモーショナルだと思います。
野添: 歌詞は、曲調に合わせて、リアルタイムに最適なデザインで表示しているんです。曲調など楽曲を分析する世界最高レベルの技術を日本のある研究所が研究中だったことから実現しました。このデータを使って、サビの瞬間にドーンと大きく出すとか、メローな曲調に合わせて手描きのフォントにするなど、いろんなことができるようになったんです。
今はスピーカーのディスプレー上に表示していますが、もしかしたらテレビに出してもいいし、プロジェクションしてもいいかもしれない。そういうプラットフォームが、ひとつのメディアになるんじゃないかと思って作っています。
中村:なぜエージェンシーであるSIXからIoTが出てきたんでしょうか。
野添: 2013年にカンヌライオンズの審査員をした時に、NIKE+FuelBandを作ったR/GAの社長ボブ・グリーンバーグさんの話を聞いて、めちゃくちゃ衝撃を受けたんです。
「走る行為自体を人とつながる体験にする」と彼は言っていて、エージェンシーもクライアントと組んでリアルを変えていくようなことがドンドンできるんだなと。
それから自分も「日本でもそういう時代が来る!」と言い続けてきたのですが、なかなか変わらない。得意先への提案の中にも必ず1案そういう案を入れてきたのですが、キャンペーン発想の中では採用には至らない。
そのモヤモヤが爆発して、だったら自分たちで作っちゃえ、と開発したのがリリックスピーカーです。
IoT化したテレビでは何ができる?
中村:朴さんが代表を務めるバスキュールはテレビをインタラクティブにするということにずっと取り組んでいて、日本テレビとの合弁会社HAROiDを作ったばかりです。
朴さん、HAROiDって何をする会社なんですか。
朴:HAROiDは、従来のテレビの役割だけではないテレビの時代を見据えた事業をやっていこうという会社です。2000年にバスキュールを立ち上げた時、「テレビをウェブでひっくり返してやる!」と意気込んでいたんですよ。
でも、2007年あたりから「若者はパソコンをやらない」と言われだして…。当社は当時Flash中心だったので、Flashに対応していないスマホの台頭に、大きな危機感を持ちました。
ただ、つまるところバスキュールの目標は、たくさんの人を集めて猛烈なインタラクティブ体験をかましたい!ということ。そこから、パソコンではなくテレビでもすごいことができるかもしれない、と思うようになったんです。
2年前には、参加型テレビの基盤「M.I.E.S.(ミース)」を独自で開発しました。M.I.E.S.はテレビの前にいる全国の視聴者のエモーションという、これまで触れることのできなかった膨大なインタラクティブのデータをテレビ番組と同時進行で処理するためのシステムです。
視聴者参加型のリアルタイムお見合いや、巨大スペースインベーダーを視聴者全員の超連打でやっつける番組など、色々なエンターテインメントが展開できるようになります。
中村:テレビは放映されるものは基本一緒ですから、そこをインタラクティブな体験にするのは大変ですよね。
朴:なかなか想像しづらいと思いますが、大変なのは、実はテレビと全国の視聴者の何百万台のスマホを時間差なく同期させることです。
1秒でもずれると「遅い!」とエンターテインメントとして成り立たなくなってしまいますから。
僕はもっぱらエンタメ系の開発をしてきましたが、うちの別のスタッフは、「JoinTown」という、限界集落と言えるような高齢化の進んだ地域向け福祉サービスを開発しています。ネットに接続したテレビと住民の個人情報をひもづけて、例えば地震が起きると「○○さん、今すぐ避難してください!」というように、個人名と一緒に避難勧告などのメッセージがテレビに表示されるのです。避難したかどうかも、避難先でIDカードをかざすことで登録・共有できるようになっている。
僕が知らないところで、社内でこんな素晴らしいサービスが開発されていた(笑)。
まさにテレビをIoT端末として捉えることで、パブリックなテレビの画面にパーソナル情報も表示できるようになるのだと思います。
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企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀