カテゴリ
テーマ

現在、あらゆる産業の領域で、デジタル化が進みつつあります。

コンサルタントの池田純一氏の言葉を借りれば、メディア、医療、金融、ファッション、農業、通信、政治、そしてわれわれが働く広告業界も含めて、あらゆる分野で、「産業の情報化」や「情報の産業化」が進んでいると言えます。

今、書店に行けば、人工知能が人々のスキルを代替し、多くの人の仕事を奪う未来を予測した、まるでSF小説のような書籍も多く発行されています。すでに、人工知能を使ったサービスもいたるところに出始めていますよね。

となると、当然それらの技術の根幹を支えるための、プログラムを書く能力が、世界中のあちこちで、ますます求められるようになっていくでしょう。

実際、アメリカ合衆国のオバマ大統領は、一貫して子どもたちのプログラミング教育の重要性を呼び掛けていますし、シンガポールのリー・シェンロン首相も自ら書いたプログラムをFacebookで公表し、注目を集めました。日本国内でも、2012年から中学校の「技術・家庭」教科の技術分野でプログラム作成が必修になっています。

プログラミングは、ただの情報処理のための技術なのか?

プログラミングの重要性は、今や、世界中の誰もが認めるものとなっていると思うのですが、ではプログラムを書くことは、今後、産業を発展させ、効率性を上げていくための、ただの手段、ただの技術にとどまるのでしょうか?

僕は、違うと思います。

プログラミングには、教育的な観点からも、大きな可能性があると思うのです。

プログラミングは、「プラグラミング言語」と呼ばれるように、コミュニケーションの手段として、ヒトが情報と接する時の「考え方」や「行動」を規定する特徴を持っていると思います。

例えば日本語が、われわれ日本人に日本的な思想や行動規範という影響を与えているように、プログラミング言語も、プログラマーにとっての仕事観を築くためのベースになっていると思いますし、効率的に仕事を処理することこそが善である、という行動規範にも影響を与えているのだと思います。

ゲーム会社の経営者は、元プログラマー出身の人が多いと言われていますが、彼ら/彼女らが、経営者としても、類いまれな創造性と、合理性を併せ持つことができているのは、プログラミングを書く習慣に根ざしているからだと思います。大げさに言えば、プログラミングとは思想なのかもしれません。

今回紹介する清水亮著『最速の仕事術はプログラマーが知っている』(クロスメディア・パブリッシング)は、まさにプログラミング言語を習得することの、考え方や行動に与える価値を説いた本です。清水氏は株式会社ユビキタスエンターテインメント代表取締役兼CEOで、大学在学中にMicrosoftの家庭用ゲーム機開発や技術動向の研究・教育に携わったり、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)から天才プログラマー/スーパークリエータとして認定された方です。

本書のポイントは、本書は、いわゆる「プログラミングの入門本」ではなく、プログラマー的仕事術、プログラマーのメタファーを使った、仕事の考え方や進め方を指南した本である点です。

それを象徴するかのように、本書の第1章の冒頭に故スティーブ・ジョブズの言葉が引かれています。

アメリカ人は全員、コンピュータのプログラミングを学ぶべきだと思うね。なぜなら、コンピュータ言語を学ぶことによって考え方を学ぶことが出来るからだ。(P.14)

プログラマーの仕事術

本書では、プログラマーらしく、速くてムダのないシンプル仕事術の紹介として、辞書登録の使い方や、議事録の取り方など、ビジネスパーソンの日常作業にもすぐに使えるライフハック的TIPSの紹介から、致命的なミスを防ぐ賢いダンドリの方法、チームの成果を最大化する仕組み、さらにはビジネスの設計の仕方まで、プログラム言語として実際に使われている「マルチスレッディング」や「投機的実行」などの概念をメタファーとしながら、効率がよい仕事の進め方について解説しています。

個人的には、特に「投機的実行」のくだりは、未来を予測する際の構え、リスクをとる時の考え方として非常に面白い考え方だと感じました。

情報処理を行う過程で、最も効率のいい処理方法を実行するのが良きプログラムなのであれば、その考え方を実際のビジネス上での情報処理にも応用してしまおう、ということなのだと思います。

プログラマーとしての自負と責任

本書を通して、清水氏はプログラミング言語の根底にある合理的な考え方と、その考え方の、仕事での応用法を伝えつつ、プログラミングの魅力、プログラマーとして生きることの魅力と責任を一貫して説いています。

冒頭の「はじめに」でも書かれている 電通の役員室で話したという言葉が印象的です。

プログラミングができないというのは、頭の使い方を知らないのに等しい(P.6)

この言葉は、まさに、プログラマーとしての仕事への自負を端的に表した言葉であり、自らのコードに責任を持つ、というプロフェッショナリズムを同時に表した言葉だと思います。

具体的に手を動かすこと、バグへの責任を持つこと、最速を心がけること。一見、「機械的」で冷たく見えるプログラミングの世界にも、 並々ならぬ情熱が流れていることを知るだけでも、非常に面白い本だと思います。

明日から「実行」できるアイデアも満載です。プログラムなんて関係ないと思っているあなたも、プログラマーから学ぶことはたくさんありそうです。

この記事は参考になりましたか?

この記事を共有

著者

廣田 周作

廣田 周作

Henge Inc.

1980年生まれ。放送局でのディレクター職、電通でのマーケティング、新規事業開発・ブランドコンサルティング業務を経て、2018年8月に独立。企業のブランド開発を専門に行うHenge Inc.を設立。英国ロンドンに拠点をもつイノベーション・リサーチ企業「Stylus Media Group」と、米国ニューヨークに拠点をもつ、大企業とスタートアップの協業を加速させるアクセラレーション企業の「TheCurrent」の日本におけるチーフを担当。独自のブランド開発の手法をもち、様々な企業のブランド戦略の立案サポートやイノベーション・プロジェクトに多数参画。また、WIRED日本版の前編集長の若林恵氏と共同で、イノベーション都市・企業を視察するツアープロジェクトのAnother Real Worldのプロデュースも行なっている。自著に『SHARED VISION』(宣伝会議)、『世界のマーケターは、いま何を考えているのか?』(クロスメディア・パブリッシング)など。

あわせて読みたい