セカイメガネNo.48
広告の贖罪か、未来の創造か
2016/09/21
15年前に私が広告業界で仕事を始めて以来、多くの変化が起きてきた。人々は毎週のように更新されるテクノロジーが私たちの生活をどう変えるか、語っている。けれども、コミュニケーションにおける最大の変化は、技術革新の断片やハードウエアの進歩ではないと私は考える。
真実の物語へ、コミュニケーションを人々のために本当に役立つものへ。それが最も大きな変化だ。私たち広告業界で働く人間は、人の感情に影響を与えるだけでなく、実際に人を助けることが可能になった。そうした行動を通じて、過去数十年分の罪滅ぼしをしているように見えることさえある。
こんな想像をしてみよう。毎年ブランドやサービスのために投入される全ての広告予算をテーブルの上に並べてみるのだ。さぞや、大量のお金だろう。このお金を使って、モノやサービスを売る以上のことを実現できたらどうだろう? 広告本来の「売る」使命を忘れることなしに、人々を啓発し、暮らしを心地よいものにできるとしたら? より志の高い目的を持って、「売る」ことが可能になるとしたら?
私がこんな想像をするのは、今、世の中で起きているコミュニケーションの変化と関係あると思うからだ。人々の意識は成熟し、もはや単なる「消費者」ではない。私たちは、より素晴らしい目標を持つブランドをこそ支持したいと変化してきた。
どんな変化が現実に起きるのか。例えば洗剤を売る会社なら、ハリケーンで避難生活を余儀なくされている人たちの衣服を洗濯する活動で支援できる。スポーツ用品の販売会社なら、年間広告予算と同額でスポーツセンターを建設し人々に提供できる。トイレットペーパーの会社なら、市内の公共トイレの場所を検索でき評価が一目で分かるアプリをユーザーに届ければいい。生理用品を扱う会社は、若い女性たちが性差別でくじけぬようエールを送ることができる。
ここ数年のカンヌライオンズの入賞作を見れば、こうした実例が時代の潮流となったことが一目瞭然だ。優れたキャンペーンが次々実現し、人々に影響を与えている。一時の流行にとどまらず、ますます多くの成功事例が生まれてくるだろう。
クライアントのブリーフに取り組むとき、アートや文化の未来を創造する役割までも私たちが担える時代がやって来た。広告は、人々に本当に役立つものを創り出せる。広告は、人々の暮らしをより人間らしいものに変えられる。この時代に広告の仕事ができる自分の幸運に、私は感謝したい。
(監修:電通 グローバル・ビジネス・センター)