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セカイメガネNo.49

着想と混沌の中国で働く

2016/10/26

中国のデジタル環境は広大で、猛スピードで成長している。プラットフォーム、テクノロジーを取り入れる速度は息もつけぬほどだ。その環境を政府の規制が一夜にして激変させる。クライアントは私たちにブリーフした翌日、解答を求める。活気があり、混沌(こんとん)としていて、まるで予測がつかない。

問「広告会社がこの環境で成功するにはどんな特徴が必要か」
答「アンチ脆弱性(ぜいじゃくせい)を持てばいい」

多くの読者にとって「アンチ脆弱性」はまだ耳慣れない言葉かもしれない。ベストセラー『ブラック・スワン』(2007)で知られる作家ナシム・ニコラス・タレブが同名著作(2012、未邦訳)で提唱した概念だ。彼は複雑系そのもののトレーダーの世界で勝負してきたプロフェッショナルだ。激烈なストレスにさらされ続ける国際金融市場で人々は損失を恐れ、堅固な構造を設計しようとする。けれど、そうした構造が一定以上のストレスで壊れて粉々になり、金融破綻を引き起こしたことは歴史が実証している。

タレブは堅固なだけでなく、柔軟なだけでもない「アンチ脆弱性」を持つ構造が必要だと主張する。外部からのストレスに耐えるだけではない。ストレスが加えられることでかえって強靭(きょうじん)さを増す構造がその定義だ。

「アンチ脆弱性」を持つ構造物の一番の特徴は、ネットワーク性にある。ネットワークでは結節点の一つが破壊されても全体は生き残る。失敗や事故を学習することで進化し、さらに強靭になる。インターネットの構造がその代表例だ。国際航空安全システムの例も分かりやすい。各国航空会社が情報共有するのは、起きた事故をネットワークがその都度学習し、空の旅をより安全にできるよう進化し強靭になるからだ。

もうひとつの特徴は柔軟、シンプル、高速だ。堅固な構造ほど、突然ポキッと折れることがある。「アンチ脆弱性」は、しなるような構造を持ち、加えられた力を分散するから壊れない。「世界中どこでも同じ味」で成功するファストフードチェーンもあるが、私たちマーケティングサービス会社はそうはいかない。個々のクライアントに対応できるチームを柔軟に編成し、予測のつかない環境下でも高速で動けるシンプルな組織が必要だ。

私はこの構造を社内に取り入れたくて「アイデア・スプリント」と名付けた手法を試し始めた。シンプルで高速で、参加者全員が楽しみながら協業できるオープンな仕組みを目指している。世界各国で働く仲間たちが参加し改良していけたら、「アンチ脆弱性」を備えた国際ネットワークが誕生すると期待している。

(監修:電通グローバル・ビジネス・センター)

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