早くも話題の「MOVE 生きものになれる展」
2017/08/30
躍動感あふれる写真と大迫力のDVD映像を連動させ、瞬く間に図鑑市場のシェアトップとなった講談社の動く図鑑『MOVE』シリーズ。現在、この図鑑の世界を実際に体験できる前代未聞のイベント「MOVE 生きものになれる展」のプロジェクトが講談社の編集者、NHKのデザイナー、電通クリエーターという異色のコラボの下、日本科学未来館と共同で進行している。動く図鑑の世界を楽しく体感する“エデュテインメント”の最前線を、11月の開催に向け準備を進めるキーマンたちに聞いた。
(進行=電通出版ビジネス・プロデュース局IP・事業開発部 林啓悟氏)
※エデュテインメント=エデュケーション(教育)とエンターテインメント(娯楽)の造語
専門性の異なるディレクターが“はみ出し”ながら企画を推進
林:この体感企画の立ち上げからもう3年目になるのですよね。
森定:そうですね。電通から構想を聞いた当時、ちょうど僕はMOVEをいつか博物館や学校などで立体的な何かにしたいと考えていたので、やってみましょうと話をして。そこで、MOVEのDVD制作をお願いしていたNHKエンタープライズ(NEP)にも話を持ち掛けたのが始まりです。
山田:僕はもともと、NHKで20年近くテレビ美術の仕事をしていて、NEPに出向してからはイベントなどのディレクションを担当していました。当社の役割は映像協力だったらしいのですが、社内でこの企画展の話を聞いてとても引かれ、勝手にアイデアを出しているうちに一緒にやらせていただくことになりました。今回の企画コンセプトを魅力的な空間として具現化し、子どもたちの“なれるスイッチ”を入れたいなあと思っています。
高草木:私は以前、「進撃の巨人展」を講談社と一緒にゼロベースで手掛けていて、そこで可能性を予感してました。スマートフォン以降、コミュニケーションが「効率」一辺倒になる中、逆に「展覧会」という非効率で不自由な手法が今後「重要なメディア」になるだろうと。今回私の役割は、図鑑コンテンツをベースに「未知の体験」をプランニングすることと、その体験から感じてもらいたいこと全体を俯瞰(ふかん)して考えることです。
舩木:高草木と一緒に手掛けた進撃の巨人展でもそうでしたが、具体的にどこにどういう言葉を置いていくか、どういうテンポでどういう気持ちで読み、体験してもらうかということの、シナリオづくりが私の役目です。私にも子どもが3人いるので、彼らのリアルに面白がるポイントを探りながら、そこをなるべく拡大していきたいなと思っています。
森定:今回の企画展はMOVEが原作なので、図鑑同様、子どもたちが毎日見たくなるような驚きや好奇心をかき立てる面白さを、体験を通して伝えたいですね。そこにブレがないか確認するのが僕の立場なのかなと捉えています。
山田:みんながディレクターですが、高草木さんはコミュニケーション、舩木さんはストーリー、僕は空間、そしてそれをまとめる森定さんという感じでしょうか。それぞれの専門性から、ちょっとずつみんな、はみ出しながらやっている感じが面白いですよね。
舩木:作業フローもそれぞれ違いますしね。
山田:フローでいうと、テレビと企画展ではアプローチの仕方が逆だなって思いました。内容やストーリーよりも、まず面白いアイデア、起爆剤になるようなものを考えよう! みたいなところから始めるのが広告流なんですか? 僕にはすごく楽しくて新鮮です。
舩木:広告的なスタンダードではないですけどね。企画展というメディアの特性もありますが、その中でも今回は結構特殊なケースかと。図鑑の中から何を取り出すか、それをどう具現化できるのか、コストは合うのかなど、外的な条件がそろって初めてネタになるので、ネタ探しがどうしても優先されるケースでしたね。
森定:元になるコンテンツがあるといっても、そこから実現まではすごく距離があるから、それがちょっと難しいところでしたね。生き物の決定的瞬間って代えが効かないから、そのシーンに合わせてストーリーをつくるしかない。そういう意味でいうと、今回のやり方は図鑑をつくっているアプローチに近いのかもしれません。
自分が主体となり理解する新しいエデュテインメントの場に
林:MOVEシリーズにはいろいろなラインアップがある中で、「生き物」をテーマに選んだ経緯は。
舩木:やはり子どもたちは生き物が好きなんですよ。企画するにしてもネタの宝庫だし。最初は生き物でしょうと、満場一致でしたね。
高草木:生き物にまつわるアイデアって、無限に近いほどたくさんあります。それをいったん受け入れ、否定せず全て抱えてから、空間・予算・運営の制約をにらみ、悩みながらそぎ落としていく…それを繰り返し今のプランがあります。
山田:最初はかなり荒唐無稽なプランがいくつもありました。会場中を鳥になって飛んでみよう、ヤモリになって壁中をはい上がってみようとか、本当にこんなこと子どもができるの?みたいなことを、真剣に検討してきました。その中では半年かけて積み上げたものが、一夜で変わったりしたこともありましたね(笑)。
林:アイデアはいろいろ出せますが、そのアイデアを着地させることは大変だったのでは?
高草木:これは学びの連続でしたね。広告では、表現の全てを事前に共有し了解されたもので構成しますが、今回は前例のないコンテンツを一緒に開発する事業。ダメだと思っていたアイデアも何かの組み合わせで「最高のアイデア」に豹変(ひょうへん)する、なんてことがある。つまり取捨選択の判断が格段に難しいのです。
森定:編集の仕事と比べると考えるべきことが多過ぎて。面白いかどうかはもちろん、来場した誰もができるのか、一度に何人がこなせるかなど、頭のどこかに入れながら考えていました。そこは難しいところでしたね。
高草木:確か2回目くらいのブレストで、VR(仮想現実)でもAR(拡張現実)でもない、本当に新しくて面白いモノってなんだろう、という議論の中で“自分がなってみる”と全ての体験が新しいエデュテインメントに変わる!という発見がありました。その後はこの新種の“なれる遊び”をチーム全員で延々と続けている感覚です。掘っても掘っても新しいアイデアが出てくる…このコンセプトの耐久性に驚かされます。
会場に入った瞬間から興奮・感動できるものが理想
林:完成に向け、これからはどのような課題がありますか?
高草木:現場を解像度高く想像しながら、最後の取捨選択をしていく段階です。部分と全体を両方見極めて、当初からずっとみんなが大事にしてきた面白さをピッチピチに詰め込んで届けたいと思っています。
森定:同じネタでも磨き方次第で全く変わりますからね。一方で安心しているのはクオリティー的に妥協する人が誰もいないと感じたこと。その意味でこれからの仕上がりが楽しみです。
山田:今は体験の前後にどのように学びや感動を得てもらうか、また全体のストーリーと空間の整合性をどう図っていくかを検討している段階です。大人が意図した通りに子どもたちは受け取ってくれないことも多いので、検証実験などを行いながら軌道修正しつつ結果的に子どもたちの満足度が高いものにすることを考えなくてはなりませんね。
森定:MOVEという図鑑は、勉強はもちろんですが、面白い遊びの図鑑としてつくっています。今回の企画展も、やっぱり会場に入った瞬間に子どもたちが興奮したり感動できるものが、僕の中では理想なんですよね。だから、6歳から8歳ぐらいの子どもたちがメインユーザーでありながら、その子どもたちが楽しいことは大人が体験しても楽しいし、子どもたちを見ていても楽しいという形が目標ですね。
舩木:この企画展は、出来上がった何かを観察しに行くのではなく、自分で自分の中身を動員して感じたり体験するきっかけにしたいんです。出し物の規模は問わず、そこを丁寧に仕上げていくことができれば、これまでにない印象に残る企画展になるだろうなと思っています。
高草木:MOVEで起こした図鑑の革新は、驚きやワクワクが読み手の興味を揺さぶって「知識」をも変えていくところにあります。今回はその驚きや発見をさらに自ら「変身」して体験するわけです。見慣れた風景が全然違って見えてきたら…きっと面白くて忘れられない、骨太な展覧会になるはずです。
動く図鑑『MOVE』とは
子どもたちが毎日でも読みたくなる図鑑を目指した、講談社による新コンセプトの学習図鑑。従来の標本的な一覧レイアウトを一新し、迫力のある写真やイラストを多用。さらに、NHKの膨大なアーカイブから厳選した動画DVDを組み合わせることで、圧倒的な躍動感と印象的な情報を多彩に盛り込んでいる。恐竜や昆虫、植物などの生物、歴史、天体、鉄道など、子どもたちの関心が高いジャンルを網羅し、2011年の創刊以来、累計発行部数250万部を超える大ヒットシリーズとなっている。
例えばスモール・ガーデンではこんな企画が進んでいます
ダンゴムシになって護身術を学ぶ!
普段は何げなく目にしている花や虫の間にも、複雑な相互関係と綿密に分配された役割がある。それを体感する「スモール・ガーデン」では、ダンゴムシのような「よろい」を身に着け丸まることで、ダンゴムシの護身術を体験。生きものたちの生きる知恵と工夫を学べるのだ。
「MOVE 生きものになれる展」は11月29日から
生き物たちは皆、独自の知恵と工夫によって環境に適応し、身を守り、命をつないでいる。子どもたちが好奇心を抱く生き物の姿や習性は、全て彼らが生き抜く過程で得てきた個性とアイデアの実践から生まれたもの。こうしたユニークな生き物たちの成り立ちや生きているさまを、子どもたちが実際に体験し、実感することができるのがこの「MOVE 生きものになれる展」だ。違う生き物の視点に「なってみる」ことで、生物の多様性を直感的に理解する貴重な経験となり、自然界への好奇心と敬意を触発するこれまでにないきっかけとなるだろう。
会場:日本科学未来館(東京・お台場)
会期:2017年11月29日~18年4月8日
主催:日本科学未来館、講談社、電通、読売新聞社、NHKエンタープライズ、電通ライブ、ベクトル
URL:http://nareru.jp/