セミナー「人間とロボットが共生し協働する世界の実現に向けて」レポート
2017/09/14
モノづくり日本会議と日刊工業新聞社は8月30日、特別講演「人間とロボットが共生し協働する世界の実現に向けて~Robotics for Happiness~」を東京・千代田区のイイノホール&カンファレンスセンターで開催した。
本セミナーは、経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2018年と20年に予定する「ワールド・ロボット・サミット」(WRS)へ向けて開催されたもの。WRSは、政府が「ロボット新戦略」で重要な政策の一環として、ものづくり・サービス・災害対応など4分野で計8種類の競技を実施する。
セミナー当日は、WRSのメッセージである「Robotics for Happiness」をテーマに、有識者による最新のロボット技術動向や各自の取り組みについて紹介した。
まず、WRS実行委員会委員長で東京大の佐藤知正名誉教授が開会のあいさつ。「研究者には二つの発表の場がある。一つは学術学会など研究者としての知識と知見の発表の場、もう一つはロボットのパフォーマンスを見せるのに適したコンテスト。その場できちんと動かなければならないのでパフォーマンスは大事。そういった競争がイノベーションを生む」と語った。
次に「ロボット革命の実現に向けて~ロボット政策とWorld Robot Summitについて~」と題し、経済産業省製造産業局産業機械課ロボット政策室の安田篤室長が登壇。現在ニーズが伸びている分野として、介護と社会インフラについて解説した。
「世界的にも高齢化社会を迎えることから、介護ロボットのニーズは日本だけでなく、世界が注目している。また、50年以上経過した道路や河川に架かる橋などの社会インフラは5年に1回点検が必要なため、これからロボットの力が必要になる」と語った。最後に政府のロボット革命実現会議についても触れ、新戦略では2015年からの5年間を集中実行期間と位置付け、官民で1000億円以上の投資を行うとした。
特別講演1は、「Real World Robots: Actors, Helpers and Enhancers」と題し、カーネギーメロン大ワイタカー冠全学教授で、WRS実行委員会諮問会議の金出武雄委員長が登壇。金出氏は現代のロボットがメカニズムという概念から離れ、情報による駆動(インフォメーションドリブンメカニズム)に進展していると語った。また技術進化により、単に顔を認識するだけでなく、人の動きを完全にトラッキングできるようになり、ロボットは人と共に働く機械になってきていると強調した。
特別講演2は、「The future of robotics - challenges and opportunities」と題し、カリフォルニア大サンディエゴ校コンピューター理工学部教授で、状況適応型ロボット技術研究機構ディレクターのヘンリック・クリステンセン氏が登壇し、ロボティクスの未来について語った。
クリステンセン氏は「世界は高齢化で労働人口が減少しており、その問題を解決するのがロボティクス。例えば電気自動車のテスラはロボットが作りやすく設計されている」とし、他にロボットが活躍する分野として流通サービスや病院などを挙げた。また2025年には自動運転が実現し、2030年には無人航空機が主流になる、さらに教育の分野についても触れ、今後はロボットによるパーソナライズ化した教育が増えていくと予想した。
特別講演3「Lessons in Empathy from the DARPA Robotics Challenge」は、トヨタリサーチインスティテュートCEO、前米国防総省国防高等研究計画局(DARPA) プログラムマネージャーのギル・プラットSEOが登壇した。
プラット氏は「深層学習と機械学習により、ロボットは世界を認識できるようになった。これはカンブリア紀に生物に視覚ができ、短時間で進化を遂げたことと同様だ。ロボットの脳であるAIがクラウド化すれば、ロボット同士の情報共有やコミュニケーションが起き、さらに進化していくだろう。私は、これからロボットが社会を構築すると見ている」と説明した。
また、ロボット競技会などで例えばロボットが転倒した際に「かわいそう」と感じる人間の心理が、ロボットが進化する過程で起きる「不気味の谷」を克服すると語った。