Jリーグのデジタルマーケティングを加速する「三方よし」とは?
2017/10/16
本連載では、主に広告領域以外でのデジタルマーケティングを専門とする私が、スポーツ業界に見いだした伸びしろと、それを生かすための戦略を紹介していきます。
前回は電通がJリーグと共同開発したJリーグ公式アプリ「Club J.LEAGUE」を例に、スポーツファン視点に着目したアプリ設計の戦略を紹介しました。今回はよりマクロな視点から、以下の二つのテーマでお話しします。
- Jリーグのデジタル戦略の中でのClub J.LEAGUEの位置付け
- ファン、スポンサー企業、コンテンツホルダーの「三方よし」
「JリーグID」の実用化で進むサービス連携・データ統合
Jリーグは、このたびJリーグの各種サービス共通で使える会員IDサービス「JリーグID」の整備を完了させました。
現在、共通のJリーグIDで下記のデジタルサービスにログインできます。
公式スマホアプリ「Club J.LEAGUE」
チケットECサイト「Jリーグチケット」
物販ECサイト「J.LEAGUE ONLINE STORE」
Jリーグ視点では、あるユーザーの「観戦行動データ」「チケット購買データ」「物品購買データ」を別々に取得した上で、各データをJリーグIDで統合し、それに基づいて適切なマーケティングができる環境が整備されたことになります(さらにDAZNでの「視聴データ」との連携も期待したいところです)。
また、Jリーグ主導で集めたデータを各クラブが活用できるようにすることで、クラブ単位でのマーケティング活動も活性化し、その結果より多くのデータが集まってくることも狙いとしています。
図1:JリーグIDを核としたデジタルサービス
JリーグIDは、Jリーグのデジタル戦略の基礎になるものといえます。
しかし、JリーグIDを中心とした「デジタルサービスのエコシステム」を十分に機能させるためには、データが十分にたまっていることが必要です。それぞれのサービスが小規模で非アクティブなものにとどまっていては、「各サービスの歯抜けのデータがたまっていくだけ」「一部のコアなファンの情報がたまっていくだけ」になってしまいます。
つまり、各サービスを「スケール」(=規模拡大)させていくことが必須条件です。
「公式アプリ」「チケットECサイト」「物販ECサイト」の中では、公式アプリ「Club J.LEAGUE」が最も間口の広いサービスとなるため、“JリーグID取得の入り口”としての役割が期待されています。その意味でも、「Club J.LEAGUE」は十分な規模のサービスになるまでスケールさせていく必要があるのです。
「ファン」「スポンサー企業」「Jリーグ」の三方よしを実現
JリーグIDによるデジタルマーケティングを加速させるために、「Club J.LEAGUE」をどのようにスケールさせるのか。
その解として、私たちは「三方よしのサービス」をつくることを目指しました。
それは、Jリーグを支える「ファン(サポーター)」「スポンサー企業」「Jリーグ(コンテンツホルダー)」という三つのステークホルダー、それぞれにとって「うれしい価値」を提供できるサービスの実現です。
図2:Club J.LEAGUEのサービスコンセプト
本アプリで各ステークホルダーに提供したい「価値」は以下です。
ファン(サポーター)に提供する価値
・スタジアム観戦体験を拡張する情報やコンテンツの提供
・スポンサー企業へのアクティベーションを通したお得な体験の提供
・観戦をし続けることに対しての、特別なインセンティブの提供
Jリーグ(コンテンツホルダー)に提供する価値
・既存ファンの力を通じて潜在ファンを観戦に導き、新規ファンを増やす(連載第2回参照)
・既存ファンの離脱防止とLTV(ライフタイムバリュー)の最大化
・顧客データのリッチ化
スポンサー企業(パートナー)に提供する価値
・Jリーグにスポンサーすることの「投資対効果」算出に寄与
・企業が既に行っているデジタルマーケティングとの連携
・Jリーグを起点とした顧客アクティベーションの効率的な実施
そして「Club J.LEAGUE」では、下記のようなポジティブサイクルを回すことで、サービスをスケールさせることを目指しています。
ファン……ファンを「アンバサダー」と位置付けることで、サービスをスケールさせる担い手とする(連載第2回参照)
Jリーグ……オウンドメディアやコンテンツ力を活用したPRを中心にサービスをスケールさせる
スポンサー企業……通常のマーケティング活動の一環としての位置付けが、潜在ファンに向けてのサービスのスケールにつながる
三方よしというこの「型」は、Jリーグに限らずさまざまなスポーツ組織・競技団体・チームに転用可能な考え方です。もっと言えば、スポーツ以外のコンテンツ産業にも転用可能でしょう。
コンテンツはスポンサー企業のマーケティングにどう貢献できるのか?
今回紹介してきた「三方よし」の実現と、アプリのスケールの鍵を握るのは、スポンサー企業です。
われわれは今回、アプリを通じて「コンテンツホルダーとスポンサー企業との新しい協業の形」をつくることを目指しました。そのために、コンセプト段階からJリーグのスポンサー企業と連携しながら開発を進めてきました。
というわけで、次回は引き続きJリーグ公式アプリ「Club J.LEAGUE」を例に、「コンテンツは、スポンサー企業のマーケティングに対してどういったメリットをもたらすのか」をご紹介します。
今回少し触れたスポンサー企業の「投資対効果測定」や「顧客アクティベーション」といった要素についても解説したいと思います。