コンテンツはスポンサー企業の「マーケティング装置」になり得るか?
2017/11/15
本連載では、主に広告領域以外でのデジタルマーケティングを専門とする私が、スポーツ業界に見いだした伸びしろと、それを生かすための戦略を紹介していきます。
前回は、Jリーグと電通が共同開発したスマホアプリ「Club J.LEAGUE」のサービス開発戦略と、Jリーグのデジタルマーケティング全体におけるアプリの位置付けについて紹介しました。
今回はデジタルマーケティングの視点からさらに深掘りし、
- コンテンツホルダーのデジタルサービスが、スポンサー企業のマーケティング活動にどう貢献しているか?
- Jリーグ公式アプリにおける「スポンサー企業にメリットをもたらす仕組み」をどのように“一般化”できるか?
という、二つのテーマについて解説します。
【目次】
▼「三方よし」の実現にはスポンサー企業と連携したサービス開発が必須!
▼「ロイヤルティープログラム」をスポンサー企業のブランディングに活用する
▼スポンサー企業へのアクティビティーがファンのロイヤルティーに直結する
▼ファンの熱量を起点にスポンサー企業のマーケティングにつなげる
▼「コンテンツにスポンサーすることで得られるベネフィット」が変わる!
「三方よし」の実現にはスポンサー企業と連携したサービス開発が必須!
前回お伝えした通り、「Club J.LEAGUE」のサービス開発ではファン・スポンサー企業・Jリーグの「三方よし」を目指しました。
◆図1:Club J.LEAGUEで目指す「三方よし」(再掲)
この「三方よし」実現の鍵を握るのがスポンサー企業です。
われわれは「Club J.LEAGUE」を通じて「コンテンツホルダーとスポンサー企業との新しい協業の形」を目指し、そのコンセプト段階から、明治安田生命をはじめとするJリーグのパートナー(スポンサー企業)と連携しながら開発を進めました。
その結果完成したサービスが、「スポンサー企業のマーケティング活動」にどのように貢献しているのかを見てみましょう。
「ロイヤルティープログラム」をスポンサー企業のブランディングに活用する
◆図2:明治安田生命Jリーグチャレンジ
図2は「Club J.LEAGUE」のコア機能となるロイヤルティープログラムです。
「Club J.LEAGUE」では、「スタジアムチェックイン」など、Jリーグ観戦・応援に関わるユーザーのアクティビティーに対して“メダル”が付与されます。メダルを3枚ためるごとに、希望する試合のペアチケットを獲得するための“チャレンジ”ができます。
この一連のサービスは「明治安田生命Jリーグチャレンジ」と名付けられており、「リーグ戦のタイトルパートナーである明治安田生命がデジタルサービス上でもJリーグの活性化を応援している」ということをユーザーに強く印象付ける仕様になっています。
こうしたブランディング要素が強い施策に加え、Jリーグの観戦・応援とは異なる形でもメダルがもらえる仕組みも取り入れています。そして、そこにもスポンサー企業の力が存分に活用されています。
スポンサー企業へのアクティビティーがファンのロイヤルティーに直結する
◆図3:「パートナーと共に」メダルの獲得
図3の「パートナーと共に」という項目は、Jリーグのスポンサー企業(※Jリーグではスポンサー企業のことをパートナーと呼ぶ)とユーザーが何らかの形で接点を持つことで、メダルがたまっていく機能です。
例えば、ユーザーは下記のようなアクティビティーによってメダルを獲得できます。
- スポンサー企業の営業職員からコードを受け取ること
- スポンサー企業の店頭に来店すること(※来店を誘発するためのプッシュ通知の仕組みも実装)
この仕組みにより、ファンがJリーグやクラブを応援する中で、日常的にスポンサー企業との接点を持つことを促しているのです。これがきっかけでスポンサー企業のサービスのアクティベーションにつながったりもしています。
「Club J.LEAGUE」のローンチ以来、実際に多くのユーザーがスポンサー企業の店頭へ来店してくれていることがデータで実証されており、アプリがマーケティングツールとして機能していることが分かります。
一方で、スポンサー企業がさまざまなメダル獲得の手段を提供することで、Jリーグとファンの日常的な接点を増やし、Jリーグ側にメリットを与えている側面もあります。
例えば、Jリーグの試合は週末に開催されることが多く、ファンとの平日のコンタクトポイントがどうしても少なくなります。特にライトファンは接触回数が減ることでJリーグへの興味を失ってしまうという恒常的な課題があるのですが、スポンサー企業の力を借りてアプリとユーザーとの接点を豊富に作ることで、離脱や休眠を防ぐことにもつながっています。
つまり、ファンを楽しませるためのロイヤルティープログラムが、Jリーグとスポンサー企業の間にWin-Winの関係を築き始めているといえます。
われわれは「Club J.LEAGUE」をスポンサー企業のマーケティング装置と捉え、上記以外にもいくつかのサービス提供の準備を進めています。今後もさまざまなスポンサー企業と連携することで、ロイヤルティープログラムを利用してもらえる環境をより強化していきます。
現在「Club J.LEAGUE」で準備中のサービス
- 試合結果予想コンテンツに連動したメダルの提供
- DAZNでの動画視聴に連動したメダルの提供
- 各スポンサー企業独自のポイント事業との連動
- スポンサー企業によるアプリを活用した独自キャンペーンの展開
- Jリーグサポーターをスポンサー企業の見込客として捉えたマーケティングの実現
ファンの熱量を起点にスポンサー企業のマーケティングにつなげる
もちろん、今回紹介したような仕組みの活用はスポーツ業界に限定されたものではありません。
メディア企業や映画産業など、現在私が取り組んでいるコンテンツ提供ビジネスに関係した取り組みの状況も併せて一般化すると、コンテンツホルダーとスポンサー企業とがWin-Winとなるためのエコシステムは図4のように表せます。このスパイラルは、①~⑤の五つの要素で循環することを想定しています。
◆図4:コンテンツ提供サービスエコシステム
そして、「スポンサー企業に提供できるマーケティングベネフィット」の種類としては、デジタルサービスの特性上、現時点では下記の四つが相性が良いと考えます。
もちろん上記の四つ以外にも、コンテンツとスポンサー企業の関係性や相性で、さまざまなベネフィットのつくり方があるでしょう。
「コンテンツにスポンサーすることで得られるベネフィット」が変わる!
第1回で述べたように、「スポーツコンテンツに対するスポンサードのROI」がより求められるようになってきています。そうした環境の変化に加え、「コンテンツに集まるファンのデータによる便益は、コンテンツホルダーだけではなくスポンサー企業も享受できてよいはずだ」という思いに端を発し、「Club J.LEAGUE」のアイデアは紡ぎ出されました。
結果として、デジタルマーケティングだからこそ実現できるKPI計測から、部分的ながらROI算出に取り組み始めたスポンサーも現れています。
コンテンツの力でマーケティングベネフィットを十分に得られると分かれば、スポンサー企業も自身のマーケティング活動の一環として、コンテンツ提供サービスを積極的に広めてくれます。例えば明治安田生命では、社員が同社の顧客を誘ってJリーグ観戦に行くことが活発に行われており、それだけで年間22万人もの動員を実現させています。このように、スポンサー企業とその顧客も、サービスの成長を加速させるドライバーを担ってくれる可能性を秘めています。
スポンサー企業とコンテンツホルダー双方にとって、「共にサービスを作り上げていく」ことには大きな可能性があります。従来の「社名とロゴが表示される」という形のスポンサーのあり方とは、また異なった可能性です。
スポンサー、コンテンツホルダー、ファン、地域が一体となってコンテンツを盛り上げることで全てのステークホルダーがベネフィットを受ける「マーケティング共創モデル」。それが、デジタルの力で目に見える形になってきたのです。
スポーツをはじめ、さまざまなコンテンツへのスポンサードを検討するマーケティング担当者は多いと思います。コンテンツ産業にはまだまだ伸びしろがあり、その鍵はスポンサー企業が握っていると私は確信しています。ぜひ、一緒に考えていければと思います。