【特別会談】これからのコンテンツビジネスと、“その先”
2024/12/24
日本のコンテンツは国内だけでなく世界からも注目を集め、今や国を代表する産業の一つとなっています。その市場規模は世界第3位、産業輸出額は4.7兆円に達し、鉄鋼産業や半導体産業に匹敵する規模です(※1)。さまざまな動画プラットフォームが生まれ、データマーケティングも進化もしているなか、改めてコンテンツがもつ価値とは何か、また、コンテンツビジネスの発展に必要なものとは何か。ビデオリサーチの石川社長をモデレーターに、TBSテレビの龍宝社長、dentsu Japanの佐野CEOの両氏が語ります。
この記事は、11月27日(水)に開催されたVR FORUM2024「コンテンツから拡がる“その先”へ」のセッション1をもとに編集しています。
TBSテレビ:「Tele Visionから、Timeless Valueへ」
コンテンツの拡張
石川:コンテンツビジネスというところに焦点を絞って、まずは、各社の取り組みからご紹介いただきたいと思います。まずはTBSテレビの取り組みについて、龍宝さんお願いします。
龍宝:「TVを強くする」。まずこのことを、皆さんとも共有したいと思います。これは今年TBSの社長就任時に社員に送ったメッセージですが、今まで私たちが取り組んできたTVというものではなくなってきている状態に、私たちは直面しているということです。
そんななか、私たちが掲げているキーワードが「Timeless Value」です。TV=Tele Visionにとどまらず、TV=Timeless Value(時代を越えた価値)へ広げていく。このコンテンツは単なるテレビ番組だけでなく、全ての生活体験がコンテンツになると考え、ビジネスを進めていく。そして、時間軸だけでなく、国境も越えてコンテンツを広げていくということを、私たちのTVの解釈にしていきたいと考えています。この発想に基づいた施策をいくつかご紹介します。
映画「ラストマイル」
ドラマ「アンナチュラル」と「MIU404」の制作スタッフがつくった映画です。2つのドラマとは全く別のストーリーでありながら、2つのドラマの出演者が入ってきているという、全く新しいタイプの映画をつくりました。興行収入58億円という大成功を収めただけでなく、アンナチュラルとMIU404が配信でのびており、さらに関連グッズも売れ始めています。まさに、Timeless Valueを具現化するコンテンツになったと思っています。
ライブイベント「ラヴィット!ロック2024」
朝帯のバラエティ番組「ラヴィット!」が、テレビを飛び出して音楽イベントになりました。収容人数1万人強の会場に対して、6万人を越える応募があり、配信も含めると非常に多くの方にご覧いただいた大人気コンテンツとなりました。これまでのバラエティ番組にはない、Timeless Valueの大成功事例だと思っています。
コンテンツのTimeless Valueへの広がりをお話ししてきましたが、その根本にあるのは強いコンテンツ制作力です。今年の東京ドラマアウォードで、ドラマ「VIVANT」がグランプリを受賞しました。VIVANTの最終回は3300万人の方にみていただけたのですが、監督の福澤が授賞式で「面白いものをつくればそれだけの人にみてもらえることが証明できたことがうれしい。ここにいる皆さんで面白いものをつくっていきましょう」と語りました。コンテンツの面白さと強さが一番大事なことであり、私たちの思いを皆で一緒にかなえていきたいと思った瞬間でした。
このコンテンツの強みの元にあるのが、放送局としての圧倒的な信頼です。有事の際は「自分のことよりも、社会に伝えることを優先する使命をもつ」。その使命に本能的に動くことができるのが放送局です。私たちは報道のメディアである、その信頼を忘れてはいけないと思っています。この信頼をベースに、コンテンツを送り届けることで自分たちの使命を果たし、TVを強くしていきたいと思っています。
dentsu Japan: エコシステムをつくり、コンテンツのグロースパートナーへ
石川:次は佐野さんからdentsu Japanの取り組みについて、お願いします。
佐野:私たちは「Integrated Growth partner(以下、IGP)」を目指しています。IGPとはクライアントやメディアの皆さま、パートナーの皆さまの持続的な成長のパートナーとなり、共に社会に活気や活力をご提供していく存在を目指すということです。IGPに向けて取り組んでいる3つの領域があります。広告を中心とした「マーケティング」の領域、近年増えておりますBXやDXといった「トランスフォーメーション」の領域。そして「コンテンツ」です。私たちは、スポーツとエンターテインメントをあわせてコンテンツ領域としていますが、年々成長を続けており、グローバルでみても競合社にはない私たちのユニークネスとなっている大事な領域です。
本日、お伝えしたい大事なポイントが、私たちのコンテンツビジネスの4つの視点です。まずベースにあるのが「①熱狂」の創出・増幅です。コンテンツには人の心を動かし熱狂を生む力があります。そして、それを一瞬のブームで終わらせないために「②社会価値」をつくることや、スポンサーやメディアの皆さまと一緒に「③共創関係」をつくることが大切だと考えています。その結果、きちんと経済が回り、次世代のコンテンツをつくり出す人が生まれ、また新たなコンテンツの創出へと循環していく「④エコシステム」をつくること。持続的な成長と社会の活力のために、この4つの視点を大事にしながらビジネスを進めています。
具体的な事例をご紹介します。
「キングオブコント2024」「M-1グランプリ2024」
番組PRをさまざまな側面から行い、番組の盛り上げを支援しています。また、単に番組協賛をセールスするだけでなく、オリジナルCMの制作などスポンサーさまと共創し、盛り上げていくことで、より強いコンテンツをつくり、日本中に笑いを届ける支援をしています。
「Jリーグ KICK OFF!プロジェクト」
全国の全ての放送エリアで、地域のサッカー応援番組「KICK OFF!」の立ち上げを支援しています。Jリーグの盛り上げはもちろんのこと、地域の放送局の皆さまと一緒に、生活者・企業・行政と連携した盛り上がりをつくり、地域経済の活性化にもつながっている事例です。
「北海道ボールパークFビレッジ」
北海道日本ハムファイターズの新球場であると同時に、周辺エリアも含めた“球場を中心としたまちづくり”を実現した事例です。私たちは出資、ビジョン設計、施設構想、採用支援からローンチコミュニケーションまで、多岐にわたる領域で支援をしています。こちらも、さまざまなステークホルダーの方と共創し地域の活性化につながった事例といえます。
「B.LEAGUE GROWTH PARTNER就任」
従来型の権利セールスにとどまらず、Bリーグの成長にコミットし、その社会価値の最大化に貢献するため、グロースパートナー契約を締結しました。私たちがもつアセットやネットワークを活用して、戦略策定の支援や、経営視点からもBリーグの成長にコミットしていきます。
「House of Creators」
エコシステムを回していくために、コンテンツクリエイターの支援はとても大事なことです。その第一弾として、ソーシャルプラットフォームを運営するRobloxをパートナーに、コンテンツクリエイターの発掘やクリエイター支援プログラムを始めています。
私たちはIGPとして、先ほどの4つの視点でコンテンツビジネスを推進し、社会の活性化に貢献したいと考えています。
コンテンツは、人の心を動かし“熱狂”をつくる
石川:ここからはテーマに沿ってお話を聞かせてください。まず「コンテンツビジネスに注力する意義」について、教えてください。
龍宝:私たちは放送事業をベースとしている会社ですから、コンテンツビジネスに注力する意義というのはそのもの全てだと思います。有事の際は駆けつけて社会に届ける、いいコンテンツをつくって世の中に発信する、それが私たちの生きざまというか本能です。ビジネスとして注力しているというより、それが全てのスタートなのだと思います。
佐野:社会全体に活気や活力をご提供していきたいという私たちのビジョンに対して、コンテンツがもつ熱狂を生み出す力・社会を活性化させる力というのはとても合致しているということが一つ。もう一つ、マーケティング領域においても重要です。データによりマーケティングが高度化し、例えばペルソナがとても精緻に描けてターゲティングできるとしても、最終的に生活者の皆さんの心が動かなければ、商品の売上は上がらないですし、ブランド価値も上がりません。人の心を動かし熱狂をつくるのはやはりコンテンツなんです。この両方の意味でコンテンツは重要だと思います。
石川:人の心を動かし熱狂をつくる、というのはコンテンツのキーワードかもしれないですね。龍宝さんのお話にあった「ラヴィット!」のファンが弊社にもいますが、ファンになるだけでなくファン同士のコミュニティが生まれているんですね。ニッポン放送さんのオードリーの東京ドームライブもそうですが、コンテンツが画面を飛び出してイベントとなり、コミュニティまで生みだしていくのは、まさに人の心を動かす力があるからこその現象なのだと思います。
コンテンツによるスポーツ“文化”の醸成
石川:続いて、「スポーツ“文化”の醸成」というテーマです。龍宝さん、来年国立競技場で行われる世界陸上について、お聞かせください。
龍宝:私たちは1997年から世界陸上の放送を続けているんですが、97年当時は日本人の活躍はほぼなかったんです。ですが、今はメダルを取れそうな選手がこれほど増えてきた。これは少し図々しいかもしれませんが、放送をみたファンが実際に競技をしてみよう、世界を目指してみようと思うムーブメントが生まれ、選手の育成につながった側面があるかもしれない。私たちが無料でずっと放送し続けてきたことの意味が、少なからずあると思っています。
2025年の東京で私たちが目的としているのはフルスタジアムにすることなんです。9日間で約70万人。それだけの人を動員して、東京発で世界中に日本が元気だぞと、こういうコンテンツを発信できるんだぞと、大きな声でアピールしたい。そういう意味で、私たちがスポーツや、その“文化”の醸成に貢献できることがあると信じています。
石川:もちろん、アスリートやその関係者の方の努力が一番ですが、そのみせ方によって熱狂が生まれるんですよね。熱狂によってスポーツの裾野が広がって、そこからまた上を目指す選手がでてくる。この循環を生み出すという意味で、メディアの力というのはこの30年でとても成果が出たと思っています。
コンテンツによる地方創生の可能性
石川:続いてのテーマが「地方創生・地域密着」です。Jリーグや北海道ボールパークはまさに、地域創生につながった事例ですよね。北海道ボールパークの影響で、所在地である北広島市の地価も上がっていると聞きます。
佐野:「協賛から共創へ」を形にした良い事例だと思います。Jリーグは放送局さまはもちろんですが、タイトルパートナーの明治安田さまも単なる協賛ではなく、チームのある地域を元気にしていくという同じビジョンをもって進められています。
北海道ボールパークも、弊社のいろいろな職種の社員が多数関わっていますが、ビジネス的な利益というより、きちんと社会に価値が生み出せていることをメンバーもすごく誇りに思っています。私たちのクリエイティビティやプロデュース力が、こういう形でご提供できること、そして社会や地域の方に貢献できることは、とても幸せなことだと思います。
石川:TBSテレビでは、地方創生・地域密着の取り組みは、いかがでしょうか。
龍宝:「TBS NEWS DIG Powered by JNN」という取り組みを行っています。JNN系列28局のニュースを一つのメディアサイトから発信するもので、全国のネットニュースでは流れないような、ローカルの生き生きとしたニュースをお送りしています。例えば、「通常サイズの2倍以上の巨大イノシシの捕獲に成功した」というローカルニュースがインパクトのある画像と一緒にNEWS DIGで発信されると、拡散されて、いわゆる“バズった”ニュースになりました。このような新しいニュースの展開の仕方を、地方の系列局の皆さんと一緒に広げています。地方創生ではありませんが、系列局のニュースには系列局ロゴをしっかり出し、報酬は還元するビジネスモデルにしています。
さらに、ブルームバーグ・メディアとパートナーシップを組み、世界のニュースも発信するに至りました。逆に日本のコンテンツを世界に届ける可能性もでてきています。NEWS DIGは日本のローカルを元気にしたい、さらにそれを世界に広げていきたいという2つの意志をもって進めています。
さらなるコンテンツの発展へ
石川:最後に「これからのコンテンツビジネスを盛り上げていくには?」について、人材育成の視点もいれながらお話を伺えればと思います。
佐野:一つは、やはりエコシステムをきちんと回していくことです。「House of Creators」のお話をしましたが、次世代の才能をどんどん発掘・育成していくことはコンテンツビジネスを盛り上げていくために欠かせないことです。また、Robloxというソーシャルプラットフォームの優れているところは国境がないことです。日本のコンテンツ産業は拡大していますが、世界の市場シェアでいうと9%。それに対して、アメリカが40%です(※2)。Robloxのように世界中の人が集まるプラットフォームであれば、最初から世界市場を見据えたコンテンツクリエイションをすることができます。
もう一つ、課題に思うのは、コンテンツをつくる皆さまに正当な対価がわたっていないのではないかということです。制作者の皆さまにも十分な対価が還元される仕組みをつくること。そのためにも、コンテンツのマーケティング活用を推進していき、産業全体にきちんと還元される、全体のエコシステムを回していくことが必要だと感じています。
龍宝:私たちは何より強いコンテンツをつくっていくこと、コンテンツの力でムーブメントを起こしていくことを意識してやっていくことだと思います。そして、冒頭に申し上げたTimeless Valueへ広げていくために、コンテンツをつくる力とコンテンツを広げる力、その両方をもつ「両利きのクリエイター人材」を一人でも多くつくっていきたいと思います。
日本を元気にしていくためには、コンテンツの力が非常に重要だと思います。コンテンツというのは私たちがつくるドラマやバラエティだけでなく、皆さんがつくるCMの力も日本を元気にする一助です。ここにお集まりの皆さん全員で日本を元気にしていく。そしてそれをサステナブルにしていくということを、ぜひ、一緒に進めていければうれしいです。
石川:日本経済は「失われた30年」といわれますが、スポーツとエンターテインメントの世界だけは全然違った30年だと私は思っています。そこには、少なからずメディアの力、コンテンツの力があるのだと信じています。コンテンツとテクノロジーと経済、そして関係者のパッションを掛け合わせることで新しい“文化”が醸成されていくのだと、両社長のお話をきいて思いました。ありがとうございました。