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スポーツマーケティングを革新するデジタルのチカラNo.5

Jリーグ公式アプリを半年運営して得た六つの成果と二つの課題

2018/01/26

Jリーグ公式アプリを半年運営して得た六つの成果と二つの課題

本連載では、スポーツマーケティングがデジタル化しつつある世界の潮流を紹介し(第1回)、日本のスポーツマーケットの伸びしろを最大化するための「誘い誘われの仕組み化」を提案。

その実例として、電通がJリーグ、スポンサー企業と共に開発したJリーグ公式アプリ「Club J.LEAGUE」を紹介しました(第2回)。

第1回:日本のスポーツ業界にデジタルマーケティングが必要な五つの理由
第2回:ファンの熱量で新たなファンをつくる! Jリーグ公式アプリの戦略

そしてJリーグ、サポーター、スポンサー企業の三方よしを実現するための鍵はスポンサー企業であることに着目し、実際のサービス開発についても解説してきました(第3回第4回)。

第3回:Jリーグのデジタルマーケティングを加速する「三方よし」とは?
第4回:コンテンツはスポンサー企業の「マーケティング装置」になり得るか?

最終回となる今回は、

・Jリーグ公式アプリを実際に開発/運営してみて得られた成果と課題

について紹介していきます。
 


<目次>
アプリを半年間運営して得られた六つの成果
 ①PR効果のみでランキング1位を獲得
 ②アプリマーケットでの高評価
 ③維持される高アクティブ率
 ④「誘い誘われ」による新規顧客獲得
 ⑤スポンサー企業のリアル店舗への送客を実現
 ⑥アプリ上でスポンサー企業の自社キャンペーン展開
よりサービスをスケールさせるための二つの課題
 ①集客数以上に広がるクラブ間格差の是正
 ②ロイヤルティープログラムに参加しないコアファン
コンテンツにおけるデジタルを生かしたファンマーケティングの可能性


アプリを半年間運営して得られた六つの成果

2017年8月にClub J.LEAGUEをローンチしてから約半年間、サービスを実際に運営してきました。その中で、Club J.LEAGUEの戦略やサービス設計指針の観点から特徴的だった六つの事象を紹介します。

成果①PR効果のみでランキング1位を獲得

Club J.LEAGUEは、17年8月にJリーグ、明治安田生命、電通からそれぞれプレスリリースを出しローンチしました。すると瞬く間にスポーツニュースメディアやSNSで拡散され、広告出稿を行うことなく、AppStoreの「スポーツ」カテゴリー(無料アプリ)でランキング1位を獲得しました。その後も順調にサービス拡大を続け、ローンチ3カ月で10万ダウンロードを達成しました。

普段、企業のデジタルサービスを開発している私の経験からしても、極めて特殊な例です。PRだけでリーチできたユーザーは主にJリーグのコアファン層であると考えられ、いかにコアファンの反応速度が速かったかがうかがえます。 

広告施策なしにAppStoreの「スポーツ」「無料」のカテゴリーでランキング1位を獲得した。
図1 広告施策なしにAppStoreの「スポーツ」「無料」のカテゴリーでランキング1位を獲得した。

成果②アプリマーケットでの高評価

iOS版のClub J.LEAGUEアプリはAppStore上で6000件近いレビューを頂いており、18年1月時点で4.4ポイント(5.0ポイントが満点)の高評価を獲得しています。

アプリマーケットでの評価のみでアプリの出来を評価することはできませんが、「ファンマーケティングを仕組み化する」という開発戦略から生まれたUI/UXが、現時点ではユーザーに受け入れられているといえるでしょう。 

AppStoreでは6000ものレビューを集め、4.4ポイントという高得点を得ている。
図2 AppStoreでは6000ものレビューを集め、4.4ポイントという高得点を得ている。

成果③維持される高アクティブ率

図3は、ローンチ時期である17年8月から始まり、Jリーグシーズン終盤の11月までの期間におけるMAU(月間アクティブユーザー)数/率の推移を表したものです。

アクティブユーザー数は月を追うごとに順調に増えていっていますが、アクティブ率は75%近くで高止まりしていることが見て取れます。 サービス流入してきたユーザー(※主にコアファンと想定)が、継続してこのサービスを使い続けていることが分かります。

インストールしたユーザーの多くがアプリを長期間継続して使用していることが見て取れる。
図3 インストールしたユーザーの多くがアプリを長期間継続して使用していることが見て取れる。

成果④「誘い誘われ」による新規顧客獲得

Club J.LEAGUEでは、「誘い誘われ」(連載第2回参照)を生み出すためのコアコンテンツとして、Jリーグのタイトルパートナーである明治安田生命の協力の下、「明治安田生命Jリーグチャレンジ」(Jチャレ)という機能を搭載しました。

「スタジアム観戦チェックインなどで獲得できるメダルを3枚ためると、Jリーグのペアチケットが当たるチャレンジができ、成功すると新しいユーザーを観戦に誘うことができる」というものです。

17年はチケット数で数千枚規模での実施となりましたが、J1/J2/J3合わせてほぼ全てのチケットが実際に引き替えられるとともに、誘う人は男性、誘われる人は女性という「誘い誘われの構造」が数値として可視化されました。

青系が男性、赤系が女性の各年代のユーザー比率。これまで感覚的だった「誘い誘われ」のデータが蓄積、可視化された。
図4 青系が男性、赤系が女性の各年代のユーザー比率。これまで感覚的だった「誘い誘われ」のデータが蓄積、可視化された。

またウェブアンケートにより、明治安田生命Jリーグチャレンジによるペアチケット獲得ユーザーのうち、約8割が実際にスタジアムに足を運んだことが分かりました。これは一般的な招待券をもらったときの来場率を上回っており、「コアファンから誘われると足を運びやすくなる」ということも数値として実証されてきています。 

成果⑤スポンサー企業のリアル店舗への送客を実現

Club J.LEAGUEでは、ロイヤルティープログラムの指標となるメダルを「スポンサー企業の実店舗」でももらうことができます。この仕組みを搭載した結果、毎月1万人をはるかに超える送客を実現しています。

図5のように、ロイヤルティープログラムのランクが上がるほど実店舗チェックインによるメダル獲得を行っているユーザーの割合は高まり、「アプリのコアユーザーほど実店舗チェックインを多数行っている」ことも分かっています。

「Jリーグファンをお店に呼び込む」という、スポンサー企業の協賛目的のひとつを果たすことができるようになってきました。

ロイヤルティープログラムで高ランクを獲得しているヘビーユーザーは実店舗へのチェックイン利用割合が高い。
ロイヤルティープログラムで高ランクを獲得しているヘビーユーザーは実店舗へのチェックイン利用割合が高い。

成果⑥アプリ上でスポンサー企業の自社キャンペーン展開

Club J.LEAGUEというプラットフォーム上で、「スポンサー企業の自社キャンペーン」も実施されました。

例えば明治安田生命は、DAZNとのタイアップで「DAZN3ケ月無料チケット」が当たるキャンペーンをClub J.LEAGUE上で実施しました。 これはスポンサー企業自身のキャンペーンではあるのですが、明治安田生命の営業職員の方を起点に多くのユーザーにキャンペーン参加してもらった結果として、Club J.LEAGUEの会員増大にも貢献しています。

「Jリーグだけではアプローチしきれない潜在層」にもアプローチしてもらうという、スポンサーとコンテンツホルダーの「マーケティング共創モデル」(連載第4回参照)の新しい取り組みであるともいえます。 

Club J.LEAGUE上でスポンサー企業がキャンペーンを行うことが、アプリの、さらにJリーグの新規顧客獲得にもつながる。
Club J.LEAGUE上でスポンサー企業がキャンペーンを行うことが、アプリの、さらにJリーグの新規顧客獲得にもつながる。

よりサービスをスケールさせるための二つの課題

とても好調にサービスを開始したといえるClub J.LEAGUEですが、より多くのユーザーに使ってもらうための課題も見えてきました。 

課題①集客数以上に広がるクラブ間格差の是正

Club J.LEAGUEには、登録会員ごとの「お気に入りクラブ」登録機能が備わっているのですが、そこではクラブ間の格差が顕著に出ています。スタジアムへの観客動員数では同程度のはずのクラブ同士でも、最大で6倍ほどの「お気に入りクラブ」登録者数の差が発生しています。

J1では同程度の集客力を持つクラブ間でも、最大6倍ほどのお気に入り登録者数の違いが生まれている。
J1では同程度の集客力を持つクラブ間でも、最大6倍ほどのお気に入り登録者数の違いが生まれている。

Club J.LEAGUEを積極的に活用し、キャンペーンやプッシュ通知などを行ってくれているクラブでは順調にお気に入り登録者数が増えており、クラブの取り組む姿勢が結果に表れているといえます。ただ同時に、18年にClub J.LEAGUEをより成長させていくためには、より多くのクラブを巻き込んでいくことが強く必要になってくるともいえます。 

課題②ロイヤルティープログラムに参加しないコアファン

アンケートやグループインタビューにより、「スタジアム観戦も頻繁に行い、Club J.LEAGUEを普段から利用しているが、ロイヤルティープログラムは活用していないコアファン」が一定数存在することが分かりました。 

Jリーグのコアファンの分布を見ると、アプリでのランクと必ずしも正比例しているわけではないことが分かる。
左が理想の分布で、Jリーグのコアファンになるほどロイヤルティープログラムで高ランクになるという想定。しかし実際は右のように、必ずしもコアファン=高ランクとは限らない。

大きくは下記の2点に起因しています。

・モチベーションが足りない
・デジタルリテラシーが足りない

18年はこれらを解決するような新たな企画や、サービスのアップデートを行っていきます。 

コンテンツにおけるデジタルを生かしたファンマーケティングの可能性

全5回、約半年間連載してきましたが、当初から考えていたことに加え、新たな発見やモデル開発がありました。 

スポーツ×デジタルという視点では、デジタル技術を「競技者」に向けて活用していく取り組みについては目標も定めやすく、さまざまなサービスが生まれ活用され始めています。しかし、デジタルのチカラを「ファンにより好きになってもらうために使う」ということについては、未開の領域が多く残されています。 

今後も2020に向けてさまざまなスポーツだったり、また、スポーツに限らないコンテンツビジネスの領域でも取り組みが進んでいくと思います。コンテンツビジネスに関わる人たちは、ぜひこのClub J.LEAGUEのモデルをご自身のビジネス領域で活用することを検討してみてください。

私も引き続き、この未開領域を開拓していきます。