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「Club J.LEAGUE」に見るグロースハックの極意No.2

コアファンの8割が登録する Jリーグ公式アプリ、サービス運営のコツを公開

2022/10/31

100万ダウンロードを突破し、Jリーグのコアファンの8割が登録するサービスに成長した、Jリーグ公式アプリ「Club J.LEAGUE」。

筆者は、電通チームの運営責任者として、サービスの企画・開発段階から携わってきました。

前回の記事では、Club J.LEAGUEがローンチから5年間をかけてスケールしてきたその変遷を主に「サービスが持つ機能」という側面から紹介しました。今回のテーマは「サービス運営」です。

私たちはこのサービスの運営にあたり、

  • 基本思想・スタンスを定め、
  • 運営方法や会議体を最適化し、
  • 毎週数値を見ながら小さな意思決定を繰り返す

というやり方でグロースハックをし続けています。

意思決定、体制構築、運営方法について、それぞれのコツを紹介します。

「良い体験のエコシステム」がサービスをグロースさせる

デジタルサービスを成長させていく際に、資金に余裕があったり、ユーザーインセンティブや広告費を潤沢に投下できたりするケースはめったにありません。なおかつ、そういった状況は社内/社外の環境に大きく左右されてしまいます。

デジタルサービスを成長させ続けるために最も重要なことは、ユーザーに良い体験をサステナブルに提供し続けられる仕組み、つまり「エコシステム」をつくることだと私は考えています。

サービスとしてのエコシステムを構築すること、変遷する状況に応じてエコシステムを維持・強化し続けることが「サービス運営における根源的な理念」です。重要なポイントは下記の2点です。

全体図

Point1:ステークホルダーの意見を傾聴する

エコシステムを円滑に回すために極めて重要なことは、ステークホルダーへの傾聴を行い、明確に課題化することを怠らないことです。

Club J.LEAGUEであれば、日々ファン・サポーターの声に耳を傾けるのはもちろんのこと、「クラブの声に耳を傾ける」「特典を提供してくれているパートナー企業の声に耳を傾ける」そして、時には「Jリーグ内部の声に耳を傾ける」ことで、次に進むべき方策を見つけ出す確率と正確性が格段に上がります。

Club J.LEAGUEではそうした傾聴を通じて、前回ご紹介したクラブ向け機能(先行入場/ハーフタイムキャンペーン機能/アプリPush通知管理画面など)やパートナー企業との共創を実現し、日々の小さなサービスの改善を積み上げてきました。

Point2:リスクテイクはまずサービス運営側から

システムが的確にワークするためには、「最初の一手のリスクを誰が取るのか?」がしばしば問題になります。それは資金的なリスク、労力的なリスク双方の可能性がありますが、その際のリスクはクラブやパートナー企業ではなく、まずは運営側(ここではJリーグのこと)が取ることが肝要であると考えます。

ノーリスクで新しいことはできません。誰かがリスクを取る必要があるならば、まずは運営する自分たちがリスクを取る気概を見せることが重要です。

Club J.LEAGUEで実施してきた運営側のリスクとしては、以下のようなものがあります。

  • サービス初期

⇒サービス規模が小さくクラブの積極活用が進まない中、Jリーグが限られた予算の多くを投下して告知を行うなどのリスクを取りながら一定規模までのスケールを実現した。

  • サービス初期以降~現在

⇒新規機能開発はJリーグが用意し、まずはクラブに無償で利用してもらう。

  • 全期間

⇒Club J.LEAGUEのサービス利用料をクラブには求めず、その代わり積極的にClub J.LEAGUEの機能を利用してもらう。

結果として、クラブがClub J.LEAGUEを使う動機づけを強くし、エコシステムのサイクルができる。

数多くのプロジェクトに携わってきた私の経験上、リソースが限られ、短期KPIの達成、短期レピュテーションの獲得を求められる中では、どうしても自己利益/自己保身が優先されてしまいがちです。しかし「まずは共創する相手の利益や便益を優先する」ことが、結果的にサービスの発展という形でサービス運営者に返ってくるのです。

素早い意思決定を可能にする体制とマネジメント手法

体制づくりのポイントは、下記の2つに集約されます。

Point1:役割分担を明確にすること

サービスリリースに向けた開発期には潤沢な体制を組んでいても、サービス運営期にはそれを維持できないものです。そのため、「効率化されたスリムな体制でいかに運営を行うか?」が重要になります。

Club J.LEAGUEの運営にあたっては役割分担/責任分解を明確にすることで、チームメンバーが各人の役割に集中して取り組めるような環境をつくっています。

また、役割分担を明確にすることは「意思決定を明快に行う」こと、そして「決定した意志をスピーディに伝達する」ことにもつながります。

Point2:統合マネジメントを行うこと

効率化されたスリムな体制で運営を行うためには、「統合マネジメント機能」が必要です。
日々発生する課題や問題をいったんどこかに集約し、「具体的に誰が、どうやって、いつまでに解決するのか?」を切り分けることで、無駄な動きが少ないスピーディな意思決定につながります。

Club J.LEAGUEでは、Jリーグ側と電通側の役割が分かれており、Jリーグは主に「Jリーグ(全体)」と「クラブ」への意思決定マネジメント、電通は「サービス開発・運営」と「パートナー企業」への意思決定マネジメントを行っています。
ビジネス視点での意思決定をJリーグ/電通で役割分担するとともに、電通側で、システム開発、分析、事務局運営、PRを統合マネジメントすることで素早い意思決定が可能になっています。

これによって、意思決定/業務の責任の所在をはっきりさせながら、ステークホルダーの多いプロジェクトを円滑かつスピーディに進めることができます。

攻めのグロースハックを実現する開発思想と運営手法

次に、Club J.LEAGUEのようなデジタルサービス開発での、開発方法と運営方法、それぞれに柔軟性と正確性をどう担保するかについてポイントをお伝えします。

開発スプリント

基本的な開発の思想は

  • ウオーターフォール型ではなく、アジャイル型
  • 機能ベースではなく、メンバーベース

での開発スタイルです。

具体的には1週間ごとに開発進捗をモニタリングし、開発上の課題を確認しながら新規要件を集約し、次の開発行為の優先順位づけをメンバーごとに行う「開発スプリント」を実施しています。これはローンチから5年間、計約250スプリント続けています。

また、開発スプリントの中では、比較的規模が大きくビジネス的にもスケジュールの制約が強い開発案件を優先してベースをつくり、細かな改善要望を隙間に入れながら全体のスケジュールを調整するという形をベースにしています。特にJリーグのシーズン中は新たな改善要望を取り込むタイミングを定期的に設けています。

開発会議/運用会議/個別チーム会議の設計

私の経験上、軽視されがちな部分と感じていますが、効率的・効果的な運営を行うには会議設計は非常に重要です。

Club J.LEAGUEでは、まずプロジェクトのチーム間の討議・調整や物事の優先順位を決めるために、

  • 開発チーム全員参加の開発会議
  • 各チームの責任者は全員参加の運用会議

2つの会議体を設定しています。

また、天変地異をはじめとした緊急の課題が発生する可能性、2つの主な会議の間に重要なトピックが発生する可能性を考慮し、極力半週ずらしで開催されるように会議時間の設定も綿密に設計。調整コストを抑えた形で運営するとともに、各チーム内個別の課題を消化する「個別チーム会」をチームごとに設定しています。

チャットツールの最大限の活用

Club J.LEAGUEは日々多くの人に使っていただいているサービスのため、ユーザーやクラブなどからの問い合わせが数多く入ります。会議体だけではとても消化できる量ではないため、当事者間で解決できる課題はチャットツールを最大限活用しています。結果として、本チーム間でメールのやり取りが行われることはほとんどありません。

マニュアル化・ルール化⇒更新

多くのユーザー、ステークホルダーを抱え、スピーディにPDCAを回すサービスであるからこそ、サービス基準を適切にそろえることが重要です。そして統合マネジメントチームにエスカレーションされることなく、課題解決されることが望ましいと考えています。

そこでClub J.LEAGUEではルール化を基本とし、各所でマニュアル作成を行うとともに、方針が変わった場合にはマニュアルの更新を続けています。短期的には面倒な作業かもしれませんが、結果的に最もローコスト/ローリスクな運営につながります。

Club J.LEAGUEの運営体制は電通ジャパンネットワーク外の会社も交えてチーム編成をしていますが、まさに私たち電通がハブになりつつ、サービス企画・開発・構築のノウハウをためながら運営をしています。

私たち電通ジャパンネットワークでは、クライアント企業の皆さまのDX課題の解決を目指し、より品質の高いサービスを提供するためにワンチーム化と体制の強化を行っています。

詳細をお知りになりたい方はぜひ、下記ページをご確認ください。
https://www.dentsu.co.jp/capabilities/

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