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「Club J.LEAGUE」に見るグロースハックの極意No.1

100万DL突破! Jリーグ公式アプリ、高支持率の仕組みとは?

2022/10/24

Jリーグと電通が共同で開発した、Jリーグ初の公式スマホアプリ「Club J.LEAGUE」をご存知でしょうか?
リリース:https://www.dentsu.co.jp/news/release/2017/0801-009338.html

サービスローンチから5年の歳月をかけて、100万ダウンロード(※新規ダウンロード数)を突破しました。

筆者は「DXプロデューサー」として金融、食品/飲料メーカー、製造メーカー、自動車OEMなどさまざまな業界のDX業務、ならびにIT企業とのアライアンス業務等に従事しています。その取り組みの一つがClub J.LEAGUE。電通チームの運営責任者として、サービスの企画・開発段階から携わってきました。

5年間このサービスをグロースハックし続けてきた立場から、成長プロセスとそれをどう実現したかについて紹介します。

Jリーグと電通による公式アプリ、ファンに完全に定着!

Club J.LEAGUEとは、「スタジアム観戦体験をもっと楽しく」を開発コンセプトに、Jリーグと電通が共同で開発し、運営するJリーグ公式アプリです。より具体的には、

  • コアファンがライトファンを誘うという「誘い誘われ」
  • ファン、Jリーグ、パートナー企業の「三方よし」

というありたき姿があります。それぞれの詳細については、過去の記事をご覧ください。

ファンの熱量で新たなファンをつくる! Jリーグ公式アプリの戦略
Jリーグのデジタルマーケティングを加速する「三方よし」とは?

 
アプリ紹介

サービスローンチから5年がたち、以下のように育てることができました。

まず純粋なユーザー数は……

  • アプリ新規DL数が100万を突破
  • 会員数は約84万人(2022年7月時点)

「アクティブユーザー」という観点では……

  • MAU(Monthly Active Users)が33万人を超える
  • J1の試合が重なる週末にはDAU(Daily Active Users)が20万人を超える

そしてユーザーの評価は……

  • アプリマーケット評価はiOSで4.5pt、Androidで4.2pt

toC向けのデジタルサービス/アプリサービスの運営をされたことがある方には伝わるかと思いますが、このどれもが「うまくいっている」と評価して良いのではないかと思います。

アプリの成長まとめ

ローンチ後の「機能追加」がグロースのポイント

Club J.LEAGUEが、ローンチから5年がたった今でも、いや、今が一番多くの方々にご利用いただいている理由なんでしょうか。

当初のサービス設計やUI/UXが優れていたこともありますが、それに加えて運営期間中の機能追加が大きなポイントとなりました。特に重要だったのは、以下の2つのポイントです。

Point1:クラブの要望を取り入れた機能を実装することで、積極活用を刺激する

Jリーグに所属するクラブは50を超え、1つのクラブでは資金的にも人的にもリソースに限界があります。最近ではクラブが個別にスマホアプリを整備する例も出てきましたが、多くのクラブはそこまでの余裕はありません。

そこで、Club J.LEAGUEを「サービスプラットフォーム」として捉えてもらい、サービスリリース当初から、多くのクラブが使うことができる/使いやすい機能を意見を聞きながら整備していきました。その結果、各クラブが積極的に利用してくれるようになったのです。具体的には以下のような機能です。

クラブ向けサービス①:「先行入場抽選」機能

シーズンチケットを保有するファン・サポーターがスタジアムに先行入場する順番を、アプリのシステム側で抽選するという機能を提供しました。

それまで試合会場で抽選を行っているクラブもあったのですが、Club J.LEAGUEで事前申込をし、抽選できる機能を追加。クラブの試合当日の業務を軽減しつつ、ファン・サポーターの待ち時間を減らすこともできました。
この機能は、J1、J2、J3カテゴリーを問わず、クラブに採用されています。

先行入場

先行入場 画像
ガンバ大阪におけるClub J.LEAGUEの先行入場待機列。多くのファン・サポーターが活用している。(2019年)

クラブ向けサービス②:ハーフタイムキャンペーン機能

クラブとしては、試合当日にはイベントをはじめ、サポーターに対してさまざまなおもてなしを行いたいもの。しかし、どうしても“隙間時間”ができてしまうのがハーフタイムでした。

サポーターたちが前半を振り返ったり、飲食販売へ向かったり、トイレに並んだりという時間を過ごす中で、少しでも盛り上げられないかというクラブからの要望を実現させたのが、「ハーフタイムキャンペーン」機能です。

これは「スタジアム来場後/試合開始までに応募をしてもらうことで、ハーフタイムまでに公平な抽選を行い、ハーフタイム中にスタジアムの放送でプレゼントの当選者を発表する」という仕組み。

試合中のクラブ運営者の業務をひもといた上で汎用化し、手間をかけずに運用できる形で提供しているため、多くのクラブで活用が進んでいます。

ハーフタイムキャンペーン

クラブ向けサービス③:アプリPush通知管理画面

ハーフタイムキャンペーンとともに多くのクラブで積極活用されているのが「アプリPush通知」機能です。

スマホアプリにおいてPush通知は、ユーザーの手元まで情報を届けられる非常に重要な機能です。当然この機能自体はサービスのリリース当初からClub J.LEAGUEにも備わっていたのですが、管理の面でサービスの初期段階では「Jリーグにドキュメントで提出する」という運用方法を取っていました。しかしこれでは手続きが煩雑なうえに、柔軟性にも欠けます。

そこで、50を超えるクラブ担当者の抱えるさまざまな業務、それも試合のあり/なし、ホーム/アウェイによって大きく変わるありようと、それぞれのセキュリティポリシーを考慮した上で、「クラブ担当者が直接、Push通知を投稿予約できる」という機能を追加しました。

全クラブ参加キャンペーン「夏J(なつジェイ)」

こうしてクラブの積極活用が進んだ結果、2019年には大多数のクラブが参加した 「夏J(なつジェイ:https://www.jleague.jp/special/natsuyasumi/2019/natsu-J/)」を開催することができました。

これは、抽選に応募するとペアチケットが当たるというもので、サービスの根幹である“誘い誘われキャンペーン”の代表的な例です。

夏Jは、全クラブから「夏」という特定の季節の招待券を拠出してもらうことに成功した一大キャンペーンとなり、Club J.LEAGUEの活性化にも大きく寄与しました。

この大規模キャンペーンは2022年には「春J」「夏J」と二度にわたり実施されています。

2019年実施夏J
2019年実施夏J

Point2:パートナー企業との共創の増加

「クラブの要望を取り入れた機能実装」に続く2つ目のポイントは、新たなパートナー企業との共創です。

Jリーグの公式スポンサーをはじめとするパートナー企業にアプリに参加してもらい、さまざまな施策が実現しました(詳細は前回連載を参照)。リリース当初からのパートナーとの共創はもちろんですが、どんどんパートナーを増やしていくことでサービスの活性化が実現できました。

totoを展開する日本スポーツ振興センターとの共創

事業としてtotoを展開する日本スポーツ振興センターとは、totoと連動した形での試合予想サービスを共に提供することで、「試合結果を予想しながら、Jリーグを楽しむ」というサービスを展開するようになりました。

totoとの共創

NTTドコモとの共創:dポイントチャレンジ

NTTドコモの事業は多岐にわたりますが、Club J.LEAGUEにおいては、「dポイントが当たる」というサービスを展開しています。

これがどういうものかというと、「夏J」の項でも触れたように、Club J.LEAGUEでは“誘い誘われ”の好循環をつくるべく、「コアファンが誰かを誘いやすいように」というペアチケットを提供しています。しかし、

シーズンシートを持っているコアなファンにとっては、クラブのサポーターであるという役割はありつつも、ペアチケットのみではインセンティブが弱い状態でした。そこを埋めるために、チケットよりも汎用性が高く何に使ってもよい「dポイントが当たる」という機能を付与することになったのです。

当たったdポイントでお得にアウェー戦のチケットを購入してもらうなど、Jリーグ観戦体験の幅の広がりをつくり出すことに大きく寄与しています。

NTTドコモとの共創

これらは一例ですが、時期や年によって発生するパートナー企業のもつ課題と、Jリーグファンの観戦体験の向上という課題を組み合わせることで、ファン・サポーターを活性化する取り組みを進化させています。

やってきたコロナ危機と、観戦体験の拡張

サービスを質/量の両側面で順調にスケールさせてきたかのように説明をしてきましたが、実は全くそんなことはありません。日々発生する問題に直面しながら、一つ一つそれを乗り越えてきたというのが実状です。

中でも大きな問題として立ちはだかったのが「コロナ禍によるリーグ戦の中断とその後の入場制限」でした。

下のグラフは2019年5月以降のClub J.LEAGUEのMAU推移です。

Club J.LEAGUEのMAU推移
Club J.LEAGUEのMAU推移

2017年のリリース以来、着実にサービスを拡充して規模を伸ばし、2019年には前述の全クラブ参加の「夏J」を実施したばかりだったのですが、2020年はシーズン開始早々にコロナ禍でリーグ戦が中断されてしまいました。

その後、リーグ戦は無観客での再開となり、その後もスタジアムの入場制限がかかり続け、スポーツ観戦自体が推奨されない時代の空気すら漂っていました。

このままでは「スタジアム観戦をもっと楽しく」をコンセプトに掲げるClub J.LEAGUEがファン・サポーターに対して、サービスを提供できません。Jリーグにも、パートナー企業にも価値を提供できないものになってしまう。そんな焦りがチーム全体に広がっていました。

そういった危機意識の中、それまでの「スタジアム観戦をもっと楽しく」というサービス開発コンセプトから「スタジアム」という冠を取ろうという決断をします。

コロナ禍でスタジアムに足を運べない、スタジアムに来てくださいとも言いにくい環境下で、Jリーグとして「DAZN観戦でJリーグを楽しむ」
「DAZNでの観戦もスタジアムに引けを取らない同じ観戦体験」
とコンセプトの再定義を行い、「リモートチェックイン」という機能を追加しました。

Club J.LEAGUEには、スタジアムに足を運ぶことでペアチケットやパートナー企業からの特典が手に入る「メダル」というシステムがあります。

「DAZNのリーグ全試合に対して、固有のQRコードを表示してもらう」という業務整理を行うことで、DAZN観戦でもメダルを獲得することが可能になりました。

リモートチェックイン

リモートチェックインを導入し、ファン・サポーターに浸透し始めた2021年以降は再びサービスはグロースの一途をたどり、前述の規模までスケールさせることができました。

How we Scale?

ここまで、100万DL/84万会員/33万MAU/20万DAUという規模までスケールしたClub J.LEAGUEについて、主に「機能」の側面からその変遷をたどりました。

しかし、デジタルマーケティングやDXの部門に所属する皆さんは、デジタルサービスがもつ「機能」だけでなく、その「運営方針」「運営方法」「チームづくり」といった点により興味を持たれるのではないでしょうか?

次回はClub J.LEAGUEをスケールさせ続けてきた、その運営方針/方法/組織についてお伝えします。

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