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セカイメガネNo.70

制約を突破の動力源にしよう

2018/07/25

80年から90年代にかけて成長期だった僕は、いつもチーズばかり食べていた。本物のチーズじゃない。チージー、スラングで安っぽいものの意味だ。安っぽい歌。安っぽいミュージックビデオ。安っぽい映画。安っぽいテレビドラマは言うまでもない。

安物のプロセスチーズ棚にひとつだけ、ラ・マンチャのマンチェゴチーズを思わせる魅惑的なドラマがあった。1985年から92年まで米国で放送されたオリジナル版「冒険野郎マクガイバー」だ(2016年制作リブート版も好評)。リチャード・ディーン・アンダーソン演じる主人公は、秘密機関工作員。厄介な状況を知識とクリエーティビティーの力で切り抜けるのが、毎回見ものだった。

あるエピソードで脱出の必要に迫られ、蜂の巣になった中古ジープを見つける。針金を使ってエンジンをかけるが、ラジエターが穴だらけ。水をたっぷり注いで沸騰させ、近くの鶏小屋からくすねてきた卵の白身を放り込む。白身は凝固し、うまい具合に穴をふさいでくれた。まんまと脱出成功! 別のミッションでは、自動車部品からバズーカ砲を作ったことさえあった。

このシリーズには独創的な装置がいたるところに登場する。マクガイバーは仕掛けの原理を科学的に解説してくれる。どんな制約があろうと困難を回避し、目標を達成する信念があるのだ。持てる知識をフル動員し、それを使いこなすクリエーティビティーがあればいい。

広告業界に足を踏み入れ現在まで、マクガイバー精神に影響を受け、仕事に役立ててきた。僕たちの仕事は、予算も時間もたいがい限られている。課題解決に必要な条件が与えられないことも多い。ピンチに陥るたび、彼の顔を思い浮かべ自分を励ます。いま目の前にあるものをフル活用せよ。誰もやったことのない方法で試してみよ。限界や制約が、素晴らしい仕事を成し遂げる動力源になり得ると信じるのだ。確かに広告業界を見渡せば、既存プラットフォームを創意で転用し成功するマクガイバー流が増えている。

もしあなたが、制約だらけのブリーフを受け取ったら。ほぼゼロに等しい予算を突きつけられたら。制約ではなく、挑戦と考えてみてはどうだろう?「あの冒険野郎なら、このピンチをどう切り抜けるか?」。オリジナル版をまだご覧になっていないのなら、一度見ておくことを強くお勧めする。できれば、あなたが次のピンチに出会う前に。

筆者の会社の受付ロボット。名前はProbbie(プロビー)。超低予算だけど、みんなの人気者。材料は電子回路基板、ごみ箱だったグラスファイバー、焼肉店の排気用アルミニウムチューブ。

(監修:電通 グローバル・ビジネス・センター)