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伝統芸能「歌舞伎」のマインドを現代に。インパクト大のポスターを生んだクリエーターたち

2018/07/30

伝統芸能「歌舞伎」のマインドを現代に。インパクト大のポスターを生んだクリエーターたち

日本の伝統芸能である歌舞伎。400年以上の歴史を持つとされ、今も続く大切な日本の文化ですが、一方で、日本人の中でも歌舞伎を詳しく知らない人、見たことのない人が増えています。

現代の人たちに、歌舞伎の良さや本質を知ってもらいたいー。そんな取り組みが国内で増える中、昨年つくられたポスターが注目を集めました。それは、日本の伝統文化が集まる京都で行われた「歌舞伎のモノコト展」のポスター。受け継がれてきた伝統は崩さず、一方で大胆な色使いや印象の強いデザインを凝縮した作品は、関わったクリエーターが「歌舞伎の本質とは何か」を追求した結果だったといいます。

ポスターは、広告賞のD&ADイエローペンシル、ONESHOWゴールド、NYADCゴールドを受賞。海外にも認められた作品は、どのようにして生まれたのでしょうか。アートディレクターの堤裕紀氏(電通 第4CRプランニング局)と、コピーライターの檀上真里奈氏(電通 第2CRプランニング局)に制作の裏側を聞きました。

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左:檀上さん、右:堤さん

すべての軸は、「歌舞伎」が持っていた、もともとのマインド

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ー「歌舞伎のモノコト展」のポスターは、D&ADを受賞するなど、海外でも高い評価を受けました。制作者として、この反応をどう感じていますか。

檀上:もともとこのポスターは、歌舞伎をあまり知らない人にも興味を持ってもらうことを意識して制作したものなので、その意味でより歌舞伎から遠い海外の方に評価してもらえてうれしいです。狙いが伝わったといえるので。こういった表現に挑戦させてくださったクライアントである南座(京都の歌舞伎劇場、松竹が運営)の皆さんにもとても感謝しています。

堤:海外の方からも、「エモーショナルでパワフル」という声が多く、歌舞伎自体を詳しく知らなくてもポスターに興味を示してくれたり、反応があったことがうれしかったです。

ーそもそも、どんな経緯でポスターが作られたのでしょうか。

檀上:昨年11月〜12月に、京都で「歌舞伎のモノコト展」という展覧会が行われることが決まっていました。歌舞伎に使われる衣装や小道具などを展示したり、体験ワークショップを開いたりというものです。そこで、イベント主催者の南座から「展覧会の告知をしてほしい」というオーダーを頂きました。

堤:お話を聞いていて、歌舞伎の伝統芸能としての格式が大切な一方で、それ故のハードルの高いイメージが新しいお客さんを取り込むネックのひとつにもなっているように感じました。そこで歌舞伎に対して今まで距離の遠かった人にも、新たに興味を持ってもらえるような告知にしたい、と考えました。

今回のポスターは、チームのクリエーティブディレクターである八木義博氏のディレクションの下、僕はデザイン全般を担当しました。檀上はコピーライターなので、もちろんコピーワークは手掛けますが、彼女の場合はそれだけでなく、ビジュアルを含めたポスター全体のコンセプトをまず考えていきました。

檀上:普段から全体の方向性やコンセプトの案を考える役割が多くて、今回もコンセプトの軸を決めて、それを元に堤さんがデザイン制作を行った形です。

コンセプトを決めるとき、どんな案件もまずはそれについて勉強するところから始めます。私も歌舞伎は詳しくなかったので、実際に見に行ったり、本や雑誌を読み込んだり。その中で、「歌舞伎の何を伝えれば、知らない人が興味を持ってくれるか」を考えました。

歌舞伎を勉強する中で、印象に残ったのは「歌舞伎の語源」です。あくまで諸説あるのですが、歌舞伎の語源は「かぶく」から来ているといわれています。「かぶく」とは、「常軌を逸するような、驚かせようとするマインド」といったニュアンス。今でこそ、歌舞伎は伝統芸能の代表で、格式高いイメージですが、始まった頃は、いわば異端な人が派手な服を着て踊ったりしていたエンターテインメントだったのかもしれません。

そういった「かぶく」のマインド、驚かせようとするマインドこそ、歌舞伎の本質ではないかと。これを伝えられれば、新たに多くの人が興味を持ってくれると思ったんです。

堤:歌舞伎が始まった当時は、あの衣装や演技が相当なインパクトだったはずです。それを現代でやってみたらどうかと。このポスターは、それがすべての軸でした。

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ポスターのすべてを「かぶく」に統一

ーコンセプトが定まり、堤さんは、デザイン面でどんなところを工夫しましたか。

堤:歌舞伎は衣装や小道具など、いろいろな要素があり、それを惜しみなく展示するのが今回の展覧会です。ポスターでは一つ一つの要素をアイコン化して、おのおのを組み合わせたデザインとしました。ただその中で、「かぶく」マインドを表現しなければいけない。今まで歌舞伎と距離のあった人たちにも反応してもらえる現代版の「かぶく」とはどんなものか、すごく悩みました。

もちろん歌舞伎のベースは崩さず、でも見ている人にインパクトを与えないといけません。デザインの配色ひとつにしても、アイコンひとつにしても、あるいはその組み合わせにしても、すべてにおいて、パワフルな印象を与えること。特に色合いの出来については、印刷のところで最後まで試行錯誤しました。

アイコンの制作も、例えば「隈取り」(歌舞伎の役者の化粧)はそのまま表現せず、少しデフォルメしてインパクトを出したり。配色の面でも、アイコンはカラフルにして、写真はモノクロにすることでコントラストを出したり。

ーそういった細かな部分の作業も、今回評価されたのかもしれません。

堤:だとしたらうれしいですね。こういった細かな作業の積み重ねは、日本のクリエーティブやクラフトに通じる強みだと思っているので。

檀上:このプロジェクトを通してよかったのは、最初に立てたコンセプトが太くてブレにくかったことです。コピーからビジュアルまで、作る上での指針が明確だったのは大きかったですね。自分自身、仕事をする上で、どの段階でも「そもそも何のためのものか」「誰に向けたものか」という“最初”に立ち返ることを大切にしていて、今回はその最初の時点でブレないものができていました。

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2人が感じる、“決めないスタイル”が作品にもたらすもの

ー最初に立ち返ることを大切にしているのはなぜでしょう。

檀上:クオリティーを上げるためにやるべき作業だと思います。一度突っ走ってしまうと、得てして最初の目的とは違うところに行ってしまうことがあるので。コンセプトなど、その案件の本質が何かを常に意識するために行っています。

制作過程ではいろいろな決断をしなければなりませんが、それも安易に行わず、なるべく意見をもむスタイルを意識していますね。それは、今回のチームリーダーである八木など、先輩たちから学んだことですね。

堤:今回のチームで特徴的だったのは、とにかく“決めない”んですよね。打ち合わせで話し合っても、あえて結論は出さなかったり。僕がデザイン案を提出しても、OKかどうかハッキリせず…。最初はそれが不安だったのですが、やっていくうちに決めない理由が分かってきました。

つまりは、早い段階で決めてしまうと、どこかで違うと気づいても戻れなくなる。逆に、みんなが「いいな」と思うものを浮かせておいて、選択肢をたくさん出した状態で少しずつ固めていく。それで最後の最後にカチッとつなげる方が、コンセプトに合った質の高いものができるというか。これが分かってからは、決めないスタイルが楽しくなりました。

あとは、先ほど話したように、檀上はビジュアルを含めたコンセプトや方向性を提示してくれます。自分でビジュアルのイメージを書いてきたりするので、やりやすかったですね。

檀上:自分自身、こういうデザインがメインの仕事は好きですし、関われるのはうれしいです。純粋にコピーを書く仕事もありますが、美大出身ということもあって、今回のようなデザインメインの案件では、広い意味でのデザインのコンセプトや切り口を考える役割も多いです。

堤:デザインメインの案件は、必然的にテキストが少ないので、コピーライターは評価されにくいケースもあります。ただ、彼女の場合はデザインまでまたいだコンセプトメーキングをしているので、その領域まで含めて評価されるといいと思います。あまり他にいないタイプのコピーライターですね。

ー堤さんにとって、仕事をする上でのこだわりはありますか。

堤:見た人がどんな気持ちになるか、それをきちんと定めて作ることですね。今回は檀上のコンセプトがあって、その上で簡単に言うと、「パワフルな印象を与えよう」と考えました。見た人をどんな気持ちにしたいか、なるべくシンプルな形で明確にする。そうしないと、なかなか届きませんから。

ただし、自分だけの感覚に頼ってはダメで、客観性も大事にしていて、自分以外のチームの引き出しも積極的に吸収します。その方が、自分のアウトプットも広がるし、独り善がりでなくなります。それこそ、檀上が提案したビジュアルイメージの中にも、自分が参考にするものがありました。

ーでは最後に、2人がこれから目指すクリエーター像を教えてください。

堤:僕は「耐久性のあるデザイン」をもっと作れる人間になりたいですね。今はデジタルの影響もあって、SNSで拡散されるような“瞬間最大風速”を起こすのに優れたデザインが注目を集めがちです。ただ、長期的なブランドを築くには、長く愛される、耐久性のあるデザインが求められるはず。

例えば、僕は「dentsu」のロゴが好きなんです。パッと見て一気に話題になるものではないかもしれませんが、細部までこだわって作っているのが分かります。そういうデザインは、長く愛されるのではないかと。今後は、商業施設や建築物のロゴなど、長く残るデザインを作りたいですね。

檀上:私は、今回も含め八木のチームで仕事することが多いのですが、そういうチームを自分が作れたらいいですね。デジタルなどで表現がより複雑になると、それぞれの得意分野を持った人が組む形がよいと思います。自分の知らないことを知っていたり、同じものをいいなと思ったり。そういう人たちでチームを組んで、ある程度は固定メンバーで案件をこなす方が、私は良いものが作れると思うんですね。

実現のためには、まず自分の専門分野を極めること。でないと、他の人に求められる人になりませんから。そうして、大勢のチームを組めるクリエーターになりたいですね。そこでも、やっぱり仕事のスタイルはすぐには決めない形。今回のように、みんなで話し合いながら進めたいです。

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NYADC賞授賞式で(一番左から、檀上さん、堤さん、バウ広告事務所のデザイナー尾谷さん、武さん、保澤さん)