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超高齢社会の課題解決ビジネスNo.4

2020/02/28

心理学とビジネスの視点から考える
超高齢社会の課題解決に必要なこととは?

3回にわたり超高齢社会の課題をビジネスの視点から解決することの意義や重要性、その手法についてひもといてきた当連載。今回は臨床心理士で老年心理学の専門家・黒川由紀子先生と電通シニアプロジェクト代表の斉藤徹氏がそれぞれの立場から意見を交わします。



高齢者の声とビジネス視点をインタラクティブな関係に

斉藤:先生とのお付き合いは、初対面の際に頂いた『いちばん未来のアイデアブック』を拝読し、大変感銘を受けてからのことです。2016年のことでした。あの本をつくられた背景はどんなものでしたか?

黒川:私がシニアに関心を持ち始めた数十年前は、高齢者は心理学の対象ではないとされ、世間から見向きもされていませんでした。社会の高齢化とともにシニア層が注目されるようになり、昨今は政策やビジネスの視点から相談を頂くことが増えました。

しかし、多くの人は高齢者の実態をよく知らず、あまり触れたこともない。何より「当事者である高齢者の声が聞かれていない!」ということに危惧を覚え、出版に至りました。

斉藤:よく知らないまま、ステレオタイプの高齢者像が先行している場合は多いですね。

黒川:私が開いているシニアの方の歌の会では、少し前まで軍歌や昭和以前の歌謡曲がリクエストの中心でしたが、今はシャンソンやビートルズの曲が飛び交っています。世代によってニーズが変わるため、関わる側もバージョンアップしなくては追い付けません。

斉藤: 10年後にはオタクの高齢者が増えるでしょう。シニア層の内実は常に変化していきますね。

黒川由紀子老年学研究所所長・黒川由紀子氏

黒川:ジェネレーションの中でも個々に違いますし、同じ人でも昨日と今日、朝と夜では違います。誰もが抱えている不自由や不具合、不足というものを、日常生活で特に痛感しているのが高齢者だと想定し、「ミクロのリアルな声を聞くことでいろいろなアイデアが生まれるのではないか?」と発想しました。

斉藤:生活者の個人的な悩みごとから導き出したアイデアをまとめたのが『いちばん未来のアイデアブック』というわけですね。

先生の本に対し、高齢者の悩みをビジネスの視点で解決しようとする企業やベンチャーの試みを拾い集めた本が、『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』です。

黒川:私どものいうミクロの声と、斉藤さんのおっしゃるビジネス視点がインタラクティブになれば、課題解決につながるのかもしれません。


どんな社会を目指すのか?哲学を持って超高齢化を考える

斉藤:今後ますます高齢化が進むことで、直近では、団塊世代が75歳以上の後期高齢期に突入する2025年問題が取りざたされています。健康状態の変化による生活や介護の問題、社会保障費の増大など、課題は山積みです。

黒川:この研究所には、事業継承に関わる方からのご相談なども多く寄せられるようになりました。経営者が70歳を超える中小企業の約半数は、後継者が決まっていないのです。

斉藤:そうなると、経済にも影響を及ぼしますね。これまで高齢者の課題は、行政や社会福祉法人の領域だと考えられてきました。しかし今後は、行政と民間が協働して取り組まないと間に合いません。世界ではSDGsのような社会的テーマにビジネスとして取り組む動きも活発化しています。

重要なのは、日本にも行動を起こす若い人たちが出てきたという点です。とはいえ、超高齢化課題に応じたアイデアを市場化することは容易ではありません。なぜなら、世界的に先例がない。

黒川:だからこそ、私たちは今とてもチャレンジングでワクワクするステージに立っていますよね。

また、高齢者の課題を単体で考えていてはダメで、若者世代がこれからどう生きたいのかも知らなければなりません。今の20〜40代の人たちにこそ、超高齢化は切実です。全ての課題はつながっており、生きる哲学も含めて考えていくことが大切です。

斉藤:どんな社会を理想として追求していくのかをベースに、超高齢化を考えていく。

黒川:世代や立場を超え、お互いにリスペクトを持って学び合う姿勢が重要だと認識しています。


原点はたった一人の声を傾聴して考えるN=1の発想

斉藤:超高齢化社会の課題解決ビジネスに必要なことの一つに、傾聴が挙げられると思います。

黒川:私ども臨床心理士のなりわいは、目の前のたった一人の声を継続的に聞くことです。そこで語られるのは、ミクロな世界で起きている個人的な困りごと。マクロの社会に表れている課題は、一人一人の不自由、不具合、不足の集合体です。

何人たりとも当たり前に日々の暮らしがあり、当たり前に幸せを願うもの。相手の生活や思いをリアルに感じるセンスが養われていないと、おかしなことになってしまいます。

斉藤:ところが、実際に自分ごととして捉えるのは難しく、どこか他人ごとに感じてしまう。私はよく「この商品は高齢者に売れますか?」と聞かれるのですが「そのサービスを、自分の祖父母や両親が買うと思えますか?」と返すことが多いです。N=1の重要性というか。

黒川:「どうしたらこの人の役に立てるだろう?」という観点で考え出されたものが、後に広く支持を得た例は多々ありますよね。

電通シニアプロジェクト代表・斉藤徹氏

斉藤:『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』で紹介しているのも、個人の体験に基づいた強い思いがベースとなった商品やサービスがほとんどです。結果的にベンチャーの事例が中心になりました。大企業のシステムでは、なかなか個人の思いを実現するのが難しい面がある。ならばベンチャーを支援する、開発に投資するなど、属性によって役割を分担するという発想もできます。


じっくりと、中長期目線でトライアンドエラーを重ねる

黒川:関わる人全てが自分ごととして捉え、かつ深い理解に基づいてニーズをくみ上げ、細やかに構築していかないと良いサービスはできませんね。

斉藤:そのためには、時間をかけることが不可欠ではないでしょうか?本の中でお話を聞いたベンチャーでも、アイデアがすんなりと軌道に乗ったケースはほぼありません。先例がないことは、知見を蓄積するために時間がかかります。

黒川:まさに、時間をかけることの価値を見直す時期にきています。一定時間内に多くのものをつくってばらまくのではなく、今一度、じっくりと取り組む手仕事的な価値観に立ち返るべきではないでしょうか?

斉藤:確かに、中長期的に取り組んだ方がうまくいっているケースが多い。相手の声に耳を傾けながらリチューニングを繰り返していくことが重要です。

黒川:そのようにゆっくりと学びや仕事を積み重ねていくことが、長い目で自他にとって意味を持つというメッセージを若い人たちに伝えたいですね。

斉藤:社会の課題を解決する試みを後押しし、今後参入したい人たちへのきっかけをつくっていきたいと思います。