Dentsu Lab Tokyo × Dentsu Craft Tokyo テクノロジーとアイデアのおいしい関係No.10
境界をあいまいに
2020/06/02
Dentsu Lab Tokyoに在籍している柴田と申します。
WOWという会社に10年ほど在籍していたのですが、ご縁があって2年ほど前から電通に出向しています。普段テレビ番組や展示、広告やMVなど、映像絡みの企画・演出・制作をしています。今回は“境界をあいまいにする”ということをテーマに、過去の仕事の事例を通してお話しします。
単純化・抽象化というデザインの機能へのアンチテーゼ
以前、NHKEテレの「デザインあ」という番組用に「グラデーション」という歌のコーナーを作りました。
この作品は、情報の単純化・抽象化(例えば、複雑なものを使いやすく、難しいことを易しく伝えることなど)といったデザインの本来の機能とは真逆のことをやってみよう、というアイデアから始まりました。
通常のデザインプロセスからは本来そぎ落とされがちな情報に焦点を当て、そこに多様性や豊かさといったものが見いだせないかと試行錯誤し、今回「グラデーション」という手法を用いて表現しました。
グラデーションとは
ここでいうグラデーションとは、単なる色のグラデーションのことだけを指しているわけではありません。下の図のように、二極化した二つの要素の間をどんどん増やしていくことによって、両者の境界をあいまいにしていくことを指しています。
単純化・抽象化とは逆で、情報を複雑化・具体化していくプロセスです。
「白と黒という色の差を、滑らかに」
「〇と△という形の違いを、なだらかに」
「0から1への変化を、ゆるやかに」
という具合に、グラデーションという魔法をかけることによって、いろんな物事の境界をなめらかにつないでいきます。
以下に本編映像の一部を抜粋します。
色々なものをグラデーションさせていきました。
1.カレーとライスの境界をあいまいに
2.皮膚と髪の境界をなめらかに
3.トイレのピクトグラムの違いをなめらかに
4.野菜の形状・色の違いをなだらかに
このように、いろんな物事をグラデーションさせ、境界をあいまいにすると、そこには確かに複雑性や多様性が生まれ、情報が豊かになるという側面が見受けられました。
あいまいなものをあいまいなままに
また、グラデーションとは少し違いますが、物事をあいまいにすることによって情報を豊かにする手法は古くから多用されてきました。特にアート、映画や小説、アニメ等では、あえて内容を分かりづらくさせたり、エンディングさえあいまいなまま終わるような表現は好んで使われてきました。謎が推測や議論を生み、ストーリーに深みを与えることに寄与しています。
モナリザも笑っているのか悲しんでいるのかわかりませんが、そこにミステリーや魅力が生まれます。
ものごとを線引きしてカテゴライズしてしまうのは、人間の脳が本来持ち得る機能として備わっており、日常的な認知活動において切っても切り離せません。
プリン・ケーキ・チョコレートがあれば「甘いもの」として、りんご・サッカーボール・100円玉があれば「丸いもの」として一括りにできる機能です。そういった機能がないと、目の前にたくさんの種類の猫がいたとしても、あ、猫がいっぱいいるなと認識できず、それぞれが異なる別のものたちとして認識してしまい、脳がパンクしてしまいます。
生きていく上でとっても便利な機能ですが、一方でなんでもかんでもカテゴライズしてしまうことによる弊害もあります。
物事をバイアスがかかった目で見てしまったり、無意識に自分で作ってきたフォルダーに分類してしまうことによって、生じてしまう分断も少なからずあると思います。
世界にはカテゴリーがあいまいな、ジャンルレス・ボーダレスなものであふれています。
大人になればなるほど、知識や経験が増えて、フォルダーの数やフォルダー分けの基準が細分化されてしてしまいます。小さな子どもたちの無垢な瞳でもう一度この世界を見ることができたなら、もっとあいまいなことをあいまいなまま受け入れられるようになれば、多様性に富んだ複雑で豊かな世界が見えてくるのではないかと、このグラデーションを作りながら考えていました。