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Dentsu Lab Tokyo × Dentsu Craft Tokyo テクノロジーとアイデアのおいしい関係No.11

2020/06/25

クライアント共創の「新しいカタチ」

2018年7月から、Dentsu Lab Tokyoで客員主席研究員を兼務しています、木下です。主務は、NTT研究所の主席研究員・研究部長で、最先端技術を東京オリンピック・パラリンピックに活用し、新しいスポーツ観戦や障害者支援、混雑緩和などを目指すプロジェクトを率いています。スポーツに限らず、歌舞伎 [12] や音楽ライブ [3] 、アート [4] へのICT活用プロジェクトも推進してきました。

これまで、Dentsu Lab TokyoとNTT研究所は、共同プロジェクト[5]の一環としてさまざまなプロジェクトを共創してきました。私は、ときにクライアントとして、ときにパートナーとして、ときにその中間的な立場として、さまざまな関わりを持ちました。本記事では、そうした新しい共創のカタチについてご紹介したいと思います。

クライアント共創の新しいカタチ
クライアント共創の新しいカタチ

まず、本文の理解を助けるために、NTTグループの組織構造をご紹介します。
NTTグループは、持ち株会社である日本電信電話株式会社、その配下の主要五事業会社、NTT東・西、ドコモ、コミュニケーションズ、データ、さらにその傘下の900社以上の事業会社から構成されます。私が所属する研究所は持ち株会社に属し、主要五事業会社から預かる研究開発費を基に研究開発を行い、その成果を還元することによってグループに貢献します。すなわち、NTT研究所にとって事業会社は「クライアント」でもあるわけです。電通から見た場合、研究所も含めてNTTグループ全体がクライアントでもありますが、同じクライアントを持つパートナーという見方もできるわけです。

それでは、新しいクライアント共創の実例として、「NTTドコモ FUTURE-EXPERIMENT」をご紹介します。

クライアントの枠を超えた、「パートナー」として

本プロジェクトは、2020年代を見据えたNTTグループの最先端通信テクノロジーを活用し、これまでにない高臨場感や新体験を伴うエンターテインメントに挑戦するプロジェクトです。特徴は、従来のプロモーションとは異なり、先端技術をリアルに活用し、それをライブとして届ける一発本番タイプのプロジェクトであり、観客だけでなく、出演者、制作者全員が、真の意味での臨場感とリアリティーを体感できることです。

それが実現するまでには、さまざまな課題がありました。
まず、世の中のスポーツやライブ体験の概念を刷新するために、ドコモの5Gだけでなく、NTTグループの先端通信技術をどのように活用できるのか?また、それを単なるイメージとしてではなく、リアルに伝えるためには、先端技術を実利用し、ライブで失敗なく届ける必要があります。このリアルなテクノロジーをライブで活用するというDentsu Lab Tokyoのこだわりは、まさに通信会社の研究員である私の最も共感する部分であり、彼らと一緒に仕事をしたいという最大のモチベーションにもつながっています。

NTT研究所は、こうした課題に対し、単なる発注者とクライアントという関係性を超え、Dentsu Lab Tokyoと初期の段階から一緒に企画検討しました。どういった通信技術が使えるのか、それによって体験がどう変わるのか、実証にはどんな実装が必要か、ライブで失敗しないためにはどういったバックアップが必要か、それはNTTのプロモーションとして効果的か、など、単なるプロモーション企画を超えた、大きな共同実験プロジェクトそのものでした。また、その企画を電通と一緒にドコモに提案するなど、あるときはエージェント側の人間としても動きました。

FUTURE-EXPERIMENT 第1弾「Vol.1 距離をなくせ。」
FUTURE-EXPERIMENT 第1弾「Vol.1 距離をなくせ。」

さらに、企画だけでなく、実際のシステム構築や運用など実施面でも協業しました。FUTURE-EXPERIMENT 第1弾「Vol.1 距離をなくせ。」[6] では、Perfumeメンバーが世界3都市に分かれて、同期ライブを行いました。その、東京―ロンドン―ニューヨークの研究用国際ネットワークGEMnet2 [7] や会場アクセスネットワーク、さらに3拠点の完全同期通信を実現するAdvanced MMTシステム [8] の構築と運用は、NTT研究所メンバ自らが、Dentsu Lab Tokyoメンバーと一緒に汗をかきながら取り組んだものです。

特に、国際ネットワークの構築や会場アクセスネットワークの構築は、最短でも半年かかるところを、その半分以下の期間で構築する必要があり、米・欧州の研究用ネットワーク機関や、アクセスネットワーク業者との調整など、かなり苦労がありました。さらに、テスト期間も短く、ネットワーク品質が安定しない時もあり、本番直前のぎりぎりまで、通信パラメーターの調整が続きました。

当時は、「Perfumeのシンクロや通信技術のすごさは伝わるけど、なぜわざわざ3人をばらばらにする必要があるの?」というファンの声も頂きましたが、このコロナ禍で物理的な距離やつながりの大切さを痛感する今となっては、コミュニケーションの本質を体現し、いろいろな意味を含む作品となりました。

FUTURE-EXPERIMENT 第4弾「Vol.4 その瞬間を共有せよ。」
FUTURE-EXPERIMENT 第4弾「Vol.4 その瞬間を共有せよ。」

次に、FUTURE-EXPERIMENT 第4弾「Vol.4 その瞬間を共有せよ。」[9] では、Perfume年越しコンサートで観客1万2000人のWi-Fi同時接続によるファンアンケートを実施しました。

これだけ多人数の観客を同時一斉接続し、安定したWi-Fi通信を実現するためには、多くのWi-Fiアクセスポイント装置の設置が必要となりますが、単純に設置数を増やせばいいというものではありません。設置数が増え過ぎるとそれぞれの電波干渉が増加し、かえって接続が不安定になり、通信速度が低下してしまいます。この課題を解決する技術が、NTT研究所の高効率Wi-Fi技術です。この技術は、それぞれのアクセスポイントからの電波の出力を最適化し、干渉を最小化することによってWi-Fi接続数と通信速度を最適化します。

高効率Wi-Fi技術の適用以外にもさまざまな課題がありました。
まず、スマホを持ってない人や、古い規格のWi-Fi対応スマホしか持っていない人にも参加してもらうために、対応スマホを貸し出す必要がありました。また、Wi-Fi接続と、アンケートウェブサイトにアクセスするための手順を伝え、事前確認してもらう必要もありました。

NTT研究所は、事前に会場図などを用いて最適なWi-Fiアクセスポイントの設置台数や場所をシミュレーションし、コンサート前の数日間で、百数十基のアクセスポイントを設置、調整しました。また、電通は、1000台もの対応スマホの貸し出しや、Wi-Fi接続手順やアンケートサイトへのアクセス手順の通知と確認を徹底しました。その結果、コンサート開始前には、ほぼ1万2000人全員の事前接続が確認できました。本番では、ほとんどの方の同時一斉接続を実現できましたが、一部接続ができない方もいるなど、まだまだ技術面や運用面での改善点が見つかりました。

われわれの知る限りでは、本プロジェクトのWi-Fi同時一斉接続数は世界一だと思います。
今回、NTTの高効率Wi-Fi技術と、電通の対応スマホの準備や接続方法の徹底などの両方が組み合わされて初めて実現した共創でした。

このように、普通であれば、NTT研究所は、クライアントであるドコモの裏に控え、電通からの提案に対して、コメントやアドバイスをするだけの立場だったかもしれませんが、今回は、一緒に企画を検討し、その実装・運用にも責任を持ち、現場で最後までやり遂げました。最終的に無事成功したときの達成感は、クライアントだけのそれでもない、パートナーだけのそれでもない、両方の立場ならではの達成感でした。これこそが、真の意味でのクライアント満足であり、新しいクライアント共創のカタチだと思います。

キーワードは、「シード・クリエイティブ」

「NTTドコモ FUTURE-EXPERIMENT」の他にも、さまざまな共創事例があります。

NTT研究所とDentsu Lab Tokyoの共同展示作品:+3人称電話
NTT研究所とDentsu Lab Tokyoの共同展示作品:+3人称電話

まず、2018年10月に開催した、ICC特別展OPEN STUDIO リサーチ・コンプレックス NTT R&D @ICC「“感じる”インフラストラクチャー 共感と多様性の社会に向けて」[10] において、両組織のメンバーが共同で作品を制作し、展示しました。共同制作を通じて、今の時代のコミュニケーションの本質や限界などを、それぞれの立場で考え、具体的な作品として表現するいい機会となりました。

Dentsu Lab Tokyo岡村氏によるスポーツ観戦の再創造展のビジュアル
Dentsu Lab Tokyo岡村氏によるスポーツ観戦の再創造展のビジュアル

次に、2019年7月に実施した、NTT研究所主催の「スポーツ観戦の再創造展」 [11]では、ビジョン構築、タイトル・ステートメントのコピー制作、ポスターやウェブサイト制作など企画面でDentsu Lab Tokyoに協力いただきました。ディスカッションを通して、NTTの思い描くビジョンやストーリーを、具体的な言葉やビジュアルとして、具体化していただいたおかげで、伝えるべき展示の価値を再認識するいい機会となりました。

新国立競技場オープニングイベント ONE RACE
新国立競技場オープニングイベント ONE RACE

最後に、2019年12月に実施した、新国立競技場オープニングイベント ONE RACE [12] においては、東京―パリ―LA間を結ぶ、国際通信ネットワークと同期通信技術に関しても協力させていただきました。NTT研究所は、Dentsu Lab Tokyoと企画段階から通信技術のフィージビリティーなどを共同検討するとともに、NTTグループ側の総合プロデュース的な立場として、ネットワークサービスを担当するNTTコミュニケーションズとの役割調整や、協賛方法などグループ全体の座組み整理も実施しました。このビッグプロジェクトを効率よく想定通りに実施できたのも、さまざまなプロジェクトを通じて築いてきた「共創」の結果だと思います。両組織には、これまでの共創を通じて、一体感や信頼感といった共創の基礎が築かれており、その上に、それぞれのビジョンや価値、得意・不得意な面、課題が既に共有されていたため、うまくいったのだと思います。

電通は、クライアントと共に事業を育てていく、クリエーションの方法論「シード・クリエイティブ」[13]を提唱しており、トヨタ自動車の「OPEN ROAD PROJECT」でも実績を上げ始めています。

「シード・クリエイティブ」は、最終段階である広告表現の領域だけでなく、初期段階の課題検討、商品企画、製造などさまざまな段階からエージェンシーも参画し、クライアントと共創する方法論です。今回、私が紹介したプロジェクトの共創は、最終段階の広告表現に関するものでしたが、次の段階としては、研究開発の企画段階から共創し、開発からビジネス化、プロモーションに至るまで、「シード・クリエイティブ」をDentsu Lab Tokyoと共創していきたいと思います。

今回、われわれは、「教科書的な共創」ではなく、いくつも実践を積み重ね、「実効的な共創」へと進化させてきました。この経験は、われわれがめざすシード・クリエイティブ的な共創、すなわち、クライアント共創の新しいカタチに必ずつながるものと信じています。


 
【参考文献】

 

[1] 木下, 南, 岡崎, 野間, 横澤, 岩城, “歌舞伎×ICTによるエンターテインメントの進化,” 電子情報通信学会誌 Vol.100 No.11 pp.1169-1175 Nov 2017. 

 

[2] NTTニュースリリース「南座新開場記念「八月南座超歌舞伎」を開催」
2019.3.25

 

[3] NTTニュースリリース「SXSW2017にてイマーシブテレプレゼンス技術Kirari!®による音楽ライブショーケース“CYBER TELEPORTATION TOKYO at SXSW”を実施」2017.3.7

 

[4] NTTニュースリリース「NTTと世界的なメディアアート研究機関アルスエレクトロニカ・フューチャーラボが「ICTとアートの融合」によるユーザ体験の高度化に関する共同研究を開始」2016.9.8

 

[5] 電通ニュースリリース「Dentsu Lab TokyoとNTTの研究所、クリエーティブとテクノロジーの融合で、新たな感動体験を創造する共同プロジェクトを始動」2018.10.11

 

[6] NTTドコモ FUTURE EXPERIMENT vol.1 距離をなくせ。

 

[7] 下村, 半田, 増田, 魚瀬, 井上, 中山, “研究開発用テストベッドネットワーク「GEMnet2」,” NTT技術ジャーナル Aug. 2012

 

[8] 外村, 今中, 田中, 森住, 鈴木, ““超高臨場感ライブ体験(ILE)の標準化活動について,” ITUジャーナル,Vol.47,No.5,pp.14-17, 2017.

 

[9] NTTドコモ FUTURE EXPERIMENT vol.4 その瞬間を共有せよ。

 

[10] ICC特別展OPEN STUDIO リサーチ・コンプレックス NTT R&D @ICC「“感じる”インフラストラクチャー 共感と多様性の社会に向けて」

 

[11] NTT研究所 スポーツ観戦の再創造展

 

[12] ONE RACE – 国立競技場オープニングイベント
 

[13] 志村, 佐々木, “カンヌで世界に発信した“Seed Creativity”とは?” 電通報, 2017.7.21
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