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Dentsu Lab Tokyo × Dentsu Craft Tokyo テクノロジーとアイデアのおいしい関係No.9

スポーツ観戦が苦手なぼくの、フェンシング観戦体験づくり

2020/04/21

写真:竹見脩吾・日本フェンシング協会
写真:竹見脩吾・日本フェンシング協会

どうもこんにちは、Dentsu Lab Tokyoの曽根です。
主に映像ディレクター、時々プランナー、デザイナーをしています。

新型コロナウイルスの影響により、まさに今スポーツの遠隔観戦の必要性が注目されていますが、この記事では改めて会場での観戦体験におけるこれまでの取り組みを振り返ってみました。

僕はスポーツ観戦が苦手です。
スポーツをするのは嫌いではないのですが、観戦となると知識が必要になります。

ルールを知っているスポーツでも、選手や、各チームの戦術や強さ、この試合に到るまでの文脈などを知らなければ、十分に試合を楽しむことはできません。

野球やサッカーなどのメジャーなスポーツであればあるほど、知識のないわれわれは小馬鹿にされてきました。

「八村塁って誰っすか?」とでも言おうものなら、「君ニュース見ない人?」とか言われてすごく恥ずかしい思いをします。見ないんですけど。


スポーツ観戦の残念な記憶

僕の母校はサッカーで有名な藤枝東高校です。
入学と同時にサッカースパイクとサッカーパンツを買わされ、体育の大半はサッカーをして過ごします(という記憶)。

強豪校なのでサッカーの応援にもよく行くのですが、これは素直に楽しかった。
よく知った友達が大きなフィールドを駆け回っているので、応援にも熱が入ります。

「本当に勝ってほしい、勝って喜びを分かち合いたい!」。そんな会場の一体感があり、目の前で起こるドラマを自分ごと化することができました。

これが、Jリーグの観戦になると話は変わってきます。
知らない人たちがボールを追いかけ、広い会場では双眼鏡でもないかぎり選手の顔はおろか、背番号すら見えづらい。さらに友人の解説を聞かないと状況が理解できない。

なんか思ったより風が強くて寒いし…するとこんな考えが頭をよぎります。
「これ、テレビで見た方が良くない??」

フェンシングは激ムズ

そんな僕は、3年ほど前から全日本フェンシング選手権大会の決勝戦で演出のお手伝いをしています。Dentsu Lab TokyoとRhizomatiksによる「フェンシングビジュアライズド」という、新しい試みもすでに公開されていました。

Yuki Ota Fencing Visualized Project - fencing × technology
Yuki Ota Fencing Visualized Project - fencing × technology

当時の僕はフェンシングに対して、北京オリンピックで太田雄貴選手が銀メダルを取ったことをきっかけに、競技を広く認知させるためにさまざまなアプローチをしている、勢いのあるスポーツという印象を持っていました。

早速、勉強のためYouTubeでフェンシングの試合を見てみます。

第72回全日本フェンシング選手権大会(団体戦)
第72回全日本フェンシング選手権大会(団体戦)

本当に何が起こっているか分からない。
どっちが攻めているかすら、分からん。
無の表情で一試合見終えて、そっとブラウザを閉じます。

「広告の使命は、みんなに商品を好きになってもらうことだよ」

と広告の神様が僕につぶやきました。
ありがとう、広告の神様。

ストームトルーパーのマスクを剥がす

写真:竹見脩吾・日本フェンシング協会
写真:竹見脩吾・日本フェンシング協会

ご覧のようにフェンシングはマスクを被って戦います。マジでストームトルーパー並みに人格も体格も分かりません(ていうか一人も知らない)。
なので、まずは試合直前に流すための選手の紹介VTRをつくりました。

撮影に行ってみるとやはり、というか当然、選手の個性が分かってきます。

例えばライバルなのに選手同士の仲がすごくいい。コミュニティー自体が比較的小さいので、日本最高レベルの選手たちは皆仲間で、お互い切磋琢磨しています。同じ学校だったり、兄妹がいたり、夫婦がいたり、コーチとの親子コンビもいたりします。長年の関係値が入り組んでいるので、選手を知るほどにどの対戦カードも魅力的に見えてきました。

サーブル女子決勝/第72回全日本フェンシング選手権大会
サーブル女子決勝/第72回全日本フェンシング選手権大会

試合当日を迎えた頃にはすっかりフェンシングに詳しくなり、試合を楽しく観戦することができました。正直ルールはまだ怪しいのですが、選手を知っているだけでスポーツ観戦は楽しい(そういえばアベンジャーズも人間関係が分かんないと面白くないもんな…)。

そして今後の課題も見えてきました。
僕なりの言葉で言うなれば、こんな感じです。

その1. 選手をよく知らない
その2. 何やってるか分かんない
その3. テレビの方がよくない?

その1. 選手をよく知らない

フェンシング

翌年からは、さらに選手たちの魅力が分かるように、SNS動画をたくさん公開しました。選手をインタビューしたり、練習中の様子、選手の性格が分かるようなオフショット、試合当日までの様子をカウントダウンで盛り上げたりしました。

写真:日本フェンシング協会
写真:日本フェンシング協会

会場では、試合中も選手の顔や情報(心拍数まで!)が見えるようにデザインしモニターを設置。無機質なアイアンマンのマスクの奥に、真剣なまなざしのロバートダウニーJr.が見える、という構造です。

その2. 何やってるか分かんない

難しいルールについては動画で、ウェブで、そして会場で何度も丁寧に解説します。

しかし、ルールを理解しても、フェンシングの剣さばきは本当に速く、30fpsのテレビカメラのフレームに収まらないことが多々あるほどです。フェンシングビジュアライズドによって剣先の軌跡が見えると、選手同士の刹那の戦略や攻防が見えてきます。

フェンシング
Takamadomiya Cup JAL PRESENTS FENCING WORLD CUP 2019
”Fencing tracking and visualization system" Rhizomatiks
 

フェンシングビジュアライズドは進化し続け、昨年からは実試合に導入されました。剣先の動きだけでなく選手自体をキャプチャーし、3Dで動きを表現できるようにまでなっています。

その3. テレビの方がよくない?

他にも「会場だからこそ楽しい」と思ってもらえるように、以下のようなエンタメ施策をモリモリに盛り込みました。

・LEDやDJによる空間演出
・レーザーや透過スクリーンを利用したダンスパフォーマンス
・拍手や歓声を集音しビジュアライズドすることで盛り上がりを可視化
・超重低音スピーカーによる得点時の空間振動
・休憩時間に客席で楽しめるインタラクティブゲーム

イメージつきにくい方は、こちらにある程度まとまっております!

Fencing Visualized for 2020
Fencing Visualized for 2020

結局スポーツがおもしろいからおもしろい

元々フェンシングはあまり歓声が飛び交うようなスポーツではありませんが、さまざまな施策の効果もあってか、後半になるにつれて会場中の声援も大きくなり、熱気に溢れていきました。

TwitterやAbemaTVには、フェンシングらしい試みを面白がっていただける人がたくさん見受けられました。特に「初めて見るけどハマる!」「ルール分かんないけどすごい!」など、にわかファンの反応に、同じにわかファンとしてとてもうれしくなりました。

しかし結局のところ、フェンシングを魅力的に拡張するためにさまざまなコンテンツを作って分かったことは「フェンシング自体が超絶おもしろい!!!」ということでした。

やはり本物のドラマは無敵です。選手の歴史や長年の努力は、コンテンツをブチ飛び越えて、見ている人のハートを鷲掴みにします。

スポーツすごい!(そんなのは、みんな知っている)

皆さん、これからもフェンシングをよろしくお願いいたします!!