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Dentsu Lab Tokyo × Dentsu Craft Tokyo テクノロジーとアイデアのおいしい関係No.8

ウェブと寿司

2020/02/28

はじめまして。

2019年の頭にスタートしたDentsu Craft TokyoでHead of Design / Chief Art Director / Web Designerをやらせてもらっている傍ら、spfdesign Inc.というウェブの制作会社を営んでいる、鎌田と申します。

もうかれこれ22年ほどウェブサイトを作り続けていますし、寿司も好きです。
こんなに長いことウェブサイトを作り続けていると、その作り方も移ろいゆくわけですし、人によって作り方もさぞかし違うことでしょう。

今回は、ここ数年の私のウェブサイトの作り方を、寿司づくりになぞらえながら書いてみようと思います。


ホムペ野郎時代

デザインというものに興味を持ち始めていた、私がまだ学生だったころ、街で見かけたカッコいいフライヤーやなんかを見よう見まねでデザインし、アイロン転写紙でオリジナルデザインTシャツを作り、それを友達や後輩に売りつけていました。

そんな折、「インターネットというものを使うと世界中の人にTシャツが売れるかもよ」と、Tシャツ押し売り被害者による被害回避とも取れる情報を耳にし、『一週間でできるホームページ』みたいなタイトルの本を買ってきた時が、私の初めてのインターネットとの接触でした。ピーーヒョロロ〜〜ぶわんっぶわんっぶわんっです。

鼻息荒めに、かっこいいホームページとやらをつくろうと本を開いてみたら、そこにはデザインのことは書かれておらず、技術的なことのみが書かれていました。寿司職人見習いは寿司を握る前に、“握る”以外のあらゆることを覚えないといけないわけです。

URLというものや、サーバーというものの意味を理解したふりをしながら、四苦八苦した末、自分がつくった画像が初めてインターネット越しにブラウザに表示された時、インターネットという大海原の途方もない広大さを、言語化すらできないまま、武者震いしていたような気がします。ちょうど、俵状にした米の上に刺身を乗せてみたら思いのほか寿司っぽくなって思わずにんまりしてしまうようなものでしょうか。

そうこうしながら、それはそれはダサい初めてのホムペ(Welcome to Takashi's Home Page!)を立ち上げたり、またすぐに次のホムペ(訪問者数カウンター付き)を作るなど、度重なるホムペ制作の中で、ウェブサイトにおける、デザイン的側面と技術的側面を同時に経験していく、というスタイルに、必然的になっていたわけです。


職域の越境

そこから時を経て、プロのウェブクリエーターとして活動し始めた時、デザイナーかディベロッパーかの選択を余儀なくされるのです。おまえは寿司を握りたいのか、米を炊きたいのかどちらか選べと。

さすがプロの世界。領域ごとに特化した人間がいることに戸惑いながらも、デザイナーとして活動していくことを選択しました。当時はFlash全盛期でした。若い方の中にはFlashを知らない人もそろそろいるかもしれないので補足しておくと、いわゆる過剰にびよんびよん動くウェブサイトです。

こういったウェブサイトを作ろうとすると必然的に、びよんびよん具合をデザインしたくなるわけですが、悲しいかな、びよんびよんさせるのはディベロッパーなのです。「そのびよんびよんはちょっと違くて、もっとこういうふうにびよんびよんさせたいんだよね」「こう?」「違う、それはびよんびよんじゃなくてビョンビョンだよね」とかしているうちに、「オレにやらせてくれ!」と、自らびよんびよんさせる作業に手を出し始めるのです。自分で納得のいく寿司を握るためには、自分が理想とする米の状態に炊きあがっていてほしいわけです。

こうやって、一度は分業化された構造を、かつてのホムペ野郎時代の、デザイン的側面と技術的側面の両方を担うスタイルへ戻すことになりました。デザインとディベロップの境界線をひとたび取り払うと、他のいろんな要素も芋づる式に領域を越境しはじめます。

ドメインはこうしたほうがもっとオシャレだとか、ファイル・ディレクトリ名など、データ整理の構造、全角・半角の使い分けなんかもそうだし、バックエンドのデータベース設計までも気になってくる。それだけにとどまらず、より効率的な制作の進め方や、情報整理の仕方までも。

完璧にさばいた最高の魚を、完璧に炊き上げた米と、完璧な温度・力・分量配分で握り、完璧なタイミングでお客さまに楽しんでいただく、ということを目指すとするならば、魚の仕入れも自分でしたいし、包丁も完璧に研いでおきたいし、季節に応じた米の炊き具合にしたいし、カウンターと椅子の高さにもこだわりたいし、カウンターに座ったときの視界にも気を配っておきたいわけです。知りませんが、たぶんそうです。

美味しい一貫の寿司には、途方もない量の“握る手前のあれやこれや”が一緒に握り込まれているわけで、つまり、そのあれやこれや全てが寿司づくりと言えるのでしょう。

それに近しいニュアンスで、私はウェブデザイナーと名乗りながら、一領域として確立されている、ディレクションやディベロップパートまでズカズカと立ち入っていくケースが増えてきました。そんななか、超少人数完結型がもつメリットというものが確かにあるなぁというのをこの2〜3年強く思うようになってきました。

一方領域ごとにスペシャリストが集結した方がいい(しないと成立しない)ケースも当然あり、そういう座組みでのプロジェクトに参加することもあります。

ウェブと寿司


超少人数完結型はなぜいいのか

数あるウェブ制作における職域の中でも、主な私の動き方でもあるデザインとディベロップを兼業することによるメリットを五つほど挙げてみます。

メリット その1

実現したい表現の完成ビジュアルをイメージしながら、それをどうやって実装するかを同時に検討することができます。市場で魚を見ている時点で皿の上に置いた状態をイメージしながら、下ごしらえの仕方、それに必要な時間まで計算できるので、20時に予約されているお客さまに提供できるかどうかの判断がその場で下せるわけです。

メリット その2 

企画フェーズでモックアップをスピーディーに作ることができます。案件のタイプにもよりますが、企画フェーズでディベロッパーが同席することはあまりない印象ですがどうでしょう?

Dentsu Craft Tokyo準備期間中、ロゴ開発を進めている際、私はそのロゴ案にモーションが加わった状態を妄想しながら見ていました。最終的にロゴが決定された後の最初の打ち合わせで、下図を持っていきました。まだウェブサイトのデザインはおろか、ワイヤーフレームも存在していない時点で、モーションロゴを完成させることができていたわけです。あら汁にするにはこんな魚がいい、あんな魚がいいと想像するだけでなく、実際に作ってみて味見しながら検討できるというわけです。


メリット その3

ウェブ制作の基本的な流れとして、デザインが完成してから実装に移っていきます。デザイナーは各ページ細かくデザインし、仕様策定し、それをディベロッパーに伝えなければなりません。それらを正確に伝える作業には膨大な時間を要します。そこへきて昨今はPC以外に、スマホやタブレットなど、ウェブサイトが閲覧されるデバイスが増えており、デザイン量がかつての2〜3倍に増えています。当然伝えるための時間も比例して増えるわけです。

しかし、デザインとディベロップを1人で行うと、全ての仕様はデザイナーの頭の中にあると同時にディベロッパーの頭の中にもあることになります。伝える時間0秒です。つまり、魚をさばかずして寿司を握り終えているようなものなのです。寿司の喩えに無理が生じていることは自覚しています。

メリット その4 

デザイナーとディベロッパーが分業された場合、丁寧で真面目なデザイナーほど、綿密に仕様策定しようとします。しかし、実際に作ってみると想定していなかった問題に直面することが往々にしてあります。そうなると、当然想定していなかった差し戻し対応の時間がスケジュールを圧迫することになりますし、申し訳ないという気持ちが生産性を萎縮させることになりかねません。

一方、デザインとディベロップを兼業することにより、実際に実装してみて検証を繰り返しながら仕様策定することができるので、想定外の差し戻しが発生しにくくなります。作ってみたらあんまりおいしくなかったので、また明日お越しください、という寿司屋さんが存在しないのと一緒ということでいいですか?

メリット その5 

先述の通り、デザイナーはPC・スマホ・タブレットなどの各デバイスに最適化されたデザインを作る必要があるのですが、ディベロッパーを兼業すると、“実装をもちましてデザインに代えさせていただきます”ができます。PC用デザインと、少しのスマホ用デザインで承認を取った後は、スマホ・タブレットでの見え方は実装しながら整えていきます。デザインフェーズなのに、実装がまぁまぁ進んじゃってるということになるわけで、これは、はかどります。お品書きを見てもらった時点で寿司の提供を終えたようなもの、ということで!

ウェブと寿司
 というわけで、いかがでしょう?

それなりにメリットがあることが伝わっていればなぁと思います。

ウェブ作りが複雑化し、専門性が細かく分類されることを免れられない中でも、可能な限り広く、そしてもちろん深く探求しつつ、明日もマウスを握っていければなぁと思います。

寿司に例える必要もなければ、そもそもその例えが破綻しつづけているのにもかかわらず最後まで読んでくださりありがとうございました。寿司づくりのことは何も知らないので、正しい情報が知りたい方はウェブデザイナー兼寿司職の人に聞いてください。

Dentsu Craft Tokyoは、組織・立場・肩書などの壁を越え、着想力・制作力・実行力が同居する“クリエイティブハウス”です。名刺に書かれた肩書によって自分のフィールドを制限せず、職域の壁を越えて、自由に作り続けられる場所を探している方は、ぜひご一報ください。