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Dentsu Lab Tokyo × Dentsu Craft Tokyo テクノロジーとアイデアのおいしい関係No.3

シリコンバレー式、イノベーションを生み出すアプローチとは?

2019/11/15

今回の記事を担当するDentsu Craft Tokyoに所属するカワシマです。恐らくほとんどの方がはじめましてだと思うので少しだけ自己紹介をさせてください。

僕は2004年から今年の春先まで約15年間をアメリカ、カリフォルニア北部のシリコンバレーで過ごし、またキャリアの多くをテック企業に身を置き働いてきました。

深い霧で覆われたサンフランシスコ湾。
深い霧で覆われたサンフランシスコ湾。

渡米当初のアメリカでは、携帯電話といえば NOKIA が主流。i-mode のようなネット機能はなく、通話以外の機能といえば SMS と言われるショートメールだけでした。すでに日本ではカラー液晶でカメラ付き(いわゆる写メですね)が主流で、なけなしの生活資金からわざわざ旧型の NOKIA に買い換えることに違和感を感じたのを覚えています。ともあれ、それが当時のアメリカのスタンダードでしたので、周りの友人に日本から持ってきた高性能の携帯電話を見せると ”Wow!” とびっくりされたものでした。

しかし、皆さんご存じの通り、それからの10年でシリコンバレーの立ち位置は大きく変わります。NOKIA の携帯電話が主流だった3年後、同じマーケットから iPhone が発売されました。またその2年後には Google から Android が発表され、今では世界のスマートフォン市場の大部分をシリコンバレー発のプロダクトが占めています。

振り返ってみれば、当時はもしかしたら日本発の携帯電話をグローバルに展開できる大きなビジネスチャンスだったかもしれない。逆に言えば、こうして Apple や Google などの新参者が新たに市場を Disrupt (破壊) し、ひっくり返すことができる機会が潜在していたわけです。

もちろん、これはスマホに限った話ではありません。この20年足らずの間に数多くの新たなテック製品やサービスがシリコンバレーから誕生してきました。どうしてこんなにも速いスピードでイノベーションが起こったのか、その根底となる考え方やアプローチの姿勢について、その現場で揉まれながら僕なりに体験し、学んだことをご紹介したいと思います。


“Do it first” or “Do it better”

「誰が最初にやったのか?」

よく議論になるトピックです。
最初に思いついた人、最初に発明した人。

もちろん、特許で守られている技術や知的財産は、尊重され、保護されるべきです。ただ知識がネットワーク化された現在、誰かが思いついたアイデアのほとんどは、実は世界のどこかでも同じように考えられていることが簡単に証明できる世の中になりました。

人のアイデアを単純にまねする姿勢は、決して賛成できるものではありません。しかしながら、たとえすでにあるものであったとしても、そこに何かしらの問題が潜んでいることが発見でき、さらにそれを解決する方法を見いだし、実際に実装する技術力があれば(それも少しではなく、圧倒的に良くすることができれば)、それは大きな効果をもたらします。

今、世の中でイノベーティブと呼ばれる製品を生み出してきたシリコンバレーの名だたる企業の製品開発は、まさにこのアプローチが原点です。

ピカソの名言
ピカソの名言
「平凡なアーティストは模倣にとどまるが、偉大なアーティストは盗んで応用する」

例えば、インターネットの「検索エンジン」を初めて開発したのは Google ではありません。むしろ既存の検索エンジンはもっと良くなるはずという仮説のもと、2人の学生による学術研究のプロジェクトとして始まりました。mixi が日本で流行していた頃、アメリカの SNS 市場は MySpace が独占し、Facebook は「後発の二番煎じ」と当初は受け止められていました。電気自動車を最初に開発したもの Tesla でなければ、Amazon もオンライン通販のパイオニアではありません。オリジナル映像コンテンツをつくって独自に配信することは Netflix が発明したビジネスではありません。スティーブ・ジョブズも「良いものは恥を忍んで積極的に盗んで取り入れる」と公言しています。

誰が最初にやるかよりも、誰が一番良いものをつくるか。オリジナルを生むことももちろん大事ですが、ベイエリアにおいてのイノベーションとは、むしろこうした問題解決のアプローチと、それを実現化する技術力、そしてその開発サイクル(イテレーション)のスピードだということを学びました。それらのコンビネーションによって新しい「バリュー」を創出していく。それがまず一つ目のアプローチです。


10x Thinking

では、どうやってより良いものをつくっていくのか。それも、圧倒的に良くするためにはどうするべきか。アメリカの Google ではこうしたアプローチを「10x Thinking」と呼んでいます。

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今の状態をより良くしようとすると、どうしてもその目線は近くに落ちがちです。すでに見えている問題や解決策が明らかなもの、そうしたところにまず手を伸ばそうとするのは当たり前の行為です。

ただ、それでは圧倒的な効果を生み出すことは難しいでしょう。そうではなく、全く違う視点から問題を観察し解決策を考える。「10%良くするのではなく、10倍良くするためにはどうしたらいいか?」そこを基準に設定すると、今まで見てきた視野の枠を飛び出したアプローチや解決方法が見えてきます。

「そんなのおかしいよ」って言われたらそれはチャンスかもしれません。そこには他の人には見えていない10xの解決法が埋まっているかもしれないのです。また逆説的に言うならば、そうした一見「おかしい」と思わされるジャンプしたアイデアを気兼ねせずに自由に発言できる、そんなインクルーシブな環境をつくっていくことが、実はイノベーションへの第一歩なのだと思います。