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ビジネスをグロースさせるUXNo.1

UXデザインのリーディングカンパニーに聞く、UXの本質的な役割

2021/01/25

近年あらゆる分野でニーズが急増しているUX(ユーザーエクスペリエンス)。経営戦略や事業開発、DXなどの領域にもUXに基づいたデザインが求められ、デザイン会社を買収する企業や、経営層にデザイン人材を迎え入れる動きも増えています。

電通は、日本におけるUI/UX領域のリーディングカンパニーであり、デザイン会社として初の東証マザーズ上場を果たしたグッドパッチと協業。UXを起点としたサービスデザインと、事業成長に向けたマーケティング戦略を一気通貫で提供する「X Design Partner」を立ち上げました。

x design partner

本連載ではグッドパッチのメンバーに、ビジネスにUXを取り入れる重要性や、UXでビジネス課題を解決する方法を解説してもらいます。

第1回は、グッドパッチ社長/CEOの土屋尚史氏にインタビュー。電通クリエイティブ・ストラテジストの筧将英が、ビジネスにおけるUXの本質的な役割や、最近のマーケット動向を改めて聞きました。

土屋尚史×筧将英
【グッドパッチとは?】
デザインの力でビジネスを前進させるグローバルデザインカンパニー。新規事業の立ち上げ、既存事業のリニューアル、企業のデザイン戦略立案、デザイン組織構築支援などを行い、大企業からスタートアップまで企業が持つビジネス課題をデザインで解決する。プロトタイピングツール「Prott」、デザイナー特化型キャリア支援サービス「ReDesigner」、フルリモートデザイン組織「Goodpatch Anywhere」などを展開。2020年6月、デザイン会社として初の東証マザーズ上場。

 

【電通とグッドパッチ】
2020年11月に共同プロジェクト「X Design Partner」を開始。デジタル領域の新事業・プロダクト開発において、顧客の体験価値を起点としたサービスデザインと、事業成長に向けたマーケティング戦略を、両社の強みを掛け合わせて一気通貫で提供する。(詳しくは広報リリースを参照)

 


UI時代の到来を確信した、iPhoneとシリコンバレー体験

 

筧:まずは改めて、グッドパッチ設立の経緯や現在までの変遷を教えていただけますか?

土屋:グッドパッチは2011年9月に、UI/UX領域に特化したデザイン会社として創業しました。まだウェブサイト制作を主軸としたデザイン会社が多い中、ソフトウエアのUI/UX領域を専門としたのは日本で当社が初めてだったと思います。

最初はスタートアップや大企業の新規事業支援を行いながら、今では東京、ベルリン、ミュンヘンにオフィスを構え、デザイン人材は約170人。フルリモートデザイン組織「Goodpatch Anywhere」の人材を合わせると、約300人のデザイン人材を抱えていることになります。

筧:デジタル系のデザイナーが集まる会社としては日本最大級ですよね。いち早くUI/UX 領域に目をつけたところがすごいですが、どんな経緯があったのでしょうか?

土屋:2007年、Appleが初代iPhoneを発表しました。スティーブ・ジョブズはiPhoneのことを「Revolutionary UI(レボリューショナリー・ユーザーインターフェース)」と表現していたのですが、実際に使ってみると、まさに革命という感じ。明らかに今までとはインターフェースが違い、これは確実に世界が変わると思いました。

筧:その頃から土屋さんはUIで起業しようと考えていたのですか?

土屋:いえ、当時は自分がUIを専門にビジネスをやるとは考えたこともありませんでした。でも、とにかくiPhoneにほれ込んでしまい、アプリもUIが優れた海外のものばかりを使っていたので、潜在的には興味があったんだと思います。

その後、起業を目指してシリコンバレーに行き、創業間もないInstagramやUber、Airbnbなどのスタートアップに出合って衝撃を受けました。なぜなら、彼らがつくるデジタルプロダクトのUIの質が、日本とは明らかに違っていたからです。そのとき、これからのビジネスでUIは当たり前に欠かせないものになると確信し、帰国してグッドパッチを立ち上げたのです。

グッドパッチ秋葉原オフィス
グッドパッチ創業当時のオフィス

 
UIが成熟し、UXありきのUIへ

筧:グッドパッチ創業の2011年前後、ようやく日本でもUIやUXという言葉が使われ始めたと記憶しています。ずっとUI/UXに携わってきた中で、マーケットの変化や成長をどう捉えていますか?

土屋:当時、アカデミックな分野ではUXの概念や定義に関する論争が繰り広げられていましたが、一般的にはUI/UXはまだ浸透していない時代です。ただ、言葉自体は認知されていなくてもプロダクトの使いやすさは重要な指標であり、使いやすいもの、つまりUIが優れているものが残り続けていることは間違いありませんでした。

だから、UIは成果物として非常に分かりやすいんです。一方で、UXは成果物や納品物が分かりにくい。「UXが得意です」といっても、クライアントからすると「何をしてくれるの?」という状態でした。僕たちもいったんUXを前面に打ち出すことはやめて、UIに注力していました。

筧:なるほど。UIだけで差別化できる時代だったのですね。

土屋:はい。それからマーケットにおけるプロダクト・サービスのUIのレベル感が上がり、UIだけでは差別化が難しくなってきました。そして、UIのみならずプロダクトやサービス全体のユーザー体験が重要視されるようになりました。ビジネスモデル的にもユーザー体験を考えたデジタルプロダクトをつくらないといけない状況に変わっていったのです。

筧:今では、UXを考えないビジネスは成立しない状況にまでなっています。

土屋:昔からユーザー体験を大事にしていた企業は当然あったと思いますが、この10年で大きく変わったのは、生活者と企業(提供側)の力関係が逆転したこと。モノをつくれば勝手に売れた時代が終わり、生活者が本当に求めているものをつくらないと、明らかにビジネスはうまくいかなくなっています。

ユーザーのことを考える優先順位が格段に上がった10年間だったのではないでしょうか。


新規事業をグロースさせるのは、オーナーの意志と覚悟

 

筧:グッドパッチは大企業からスタートアップまでさまざまな企業の課題解決をデザインの力で実現していますが、ビジネスにUI/UXデザインを取り入れる上でのポイントを教えてください。

土屋:大企業とスタートアップで要点は少し異なります。まずスタートアップに関しては、創業者が非言語領域で感覚的にユーザーニーズを捉えているケースがよくあります。

その感覚知が当たっているからこそ、ある程度ビジネスが成長しているわけですが、その先さらに成長するためには、「このプロダクト/サービスの本当の価値は何か?」を言語化・構造化することが大切です。

なぜなら、ユーザーに提供価値を理解してもらうことはもちろん、社内のメンバーが共通認識を持たないまま事業を進めてしまうと、物事の優先順位が決められない、チームがうまく機能しないなど、会社全体の成長スピードが遅くなってしまうからです。

創業者が感覚的に捉えていたユーザーニーズや提供価値を可視化して、みんなが共通認識を持てる状態に導いていく。この作業が非常に重要になります。

筧:UIを設計する以前に、事業のビジョンや価値定義付けの部分からデザインの力を生かすわけですね。

土屋:そうです。大企業の場合は新規事業プロジェクトに携わることが多いのですが、つくり切ることも成功させることもすごく大変です。なぜかというと、スタートアップは創業者が感覚的にニーズを捉え、強い意志と覚悟を持っているのに対し、大企業のプロジェクト担当者は必ずしも、初めからそうとは限りません。

なので、担当者と一緒にニーズマインニングを行うだけでなく、そのプロセスの中で担当者に当事者意識を持っていただけるように導く必要があります。

筧:面白いポイントです。例えば企業でDXを推進する際もつい手法論やツールの選定に注力しがちですが、それよりもプロジェクトオーナーが意志を持つことが重要なんですね。

土屋:精神論に聞こえてしまうかもしれませんが、事業成長の鍵を握るのは、最終的には事業のオーナーシップを持っている人の意志なんです。

さまざまな企業を支援させていただいた中で、スタートアップに関しては8社が上場しているのですが、共通しているのは創業者が事業に対して強い意志を持っていることです。失敗しても、周りから否定されたり馬鹿にされたりしても、必ず事業を成功させるんだという気持ちでやり続けた人が成功しています。


事業に魂を乗せるためには、「共創」が欠かせない

筧:創業者ならまだしも、会社から事業を任された人が意志を持つのは簡単ではないはずです。グッドパッチではどのようにファシリテーションしているのでしょうか?

土屋:まず、当事者意識を持っていただくことが重要です。方法は状況に応じてさまざまですが、例えばユーザーインタビューに担当者も同席してもらい、ユーザーの生の声を聞いていただく機会を設けるなどです。市場調査やユーザーニーズをパワポにまとめて説明するだけでは、残念ながら事業に魂は乗りません。事業の責任を持つ人がユーザー側に身を置き、ニーズを肌で感じたからこそ、可視化・構造化された資料にも腹落ちできるのです。

グッドパッチのユーザーインタビュー
ユーザーインタビューの様子

筧:自分で体感したニーズに加えて、情報として整理されたニーズが積み上がると納得感が得られますし、事業をやる意義をジブンゴトとして捉えられるようになりますよね。

土屋:はい。そのためには、僕たちもプロジェクトにフルコミットし、膝を突き合わせて議論を交わさないといけません。単なる受注請負ではなく、課題に併走するデザインパートナーとしてコミットするからこそ、事業の設計段階からデザイナーを参加させたり、ユーザー起点で事業を設計・デザインしたりする文化を根付かせることができるのだと思います。

筧:確かに、グッドパッチの仕事は請負というより「共創」というイメージです。

土屋:サントリー食品インターナショナルの新規事業プロジェクト「SUNTORY+」も、最初は「ヘルスケア領域でサントリーのアセットを生かしたサービスをつくる」といった大枠しか決まっていませんでした。

でも、そこから先方と一緒にビジョン/ミッション/バリュー/プリンシパルを策定し、ユーザーニーズを掘り起こしていき、われわれもサントリーのアセットを学びながらプロトタイプを何度もつくり直して試行錯誤を重ねていきました。

必ず成功する保証はない中で、責任者の皆さんが事業をやり続ける覚悟を持ってくださったからこそ、素晴らしいプロダクトになったと思っています。そして、経営陣の方々がこのプロジェクトを信じて1年半以上も投資を続けてくださったことも非常に大きな支えとなりました。

SUNTORY+
「SUNTORY+(サントリープラス)」は、企業の「健康経営」のため、従業員の健康行動を習慣化するサントリー食品インターナショナルによるヘルスケアサービスアプリ。グッドパッチは構想段階からデザインパートナーとして0→1のアイデア創出、プロダクト開発とグロースなどを一緒に手がけた。2020年グッドデザイン賞受賞。

 筧:企業でDXや新規事業が実現しない要因のひとつに、短期的な事業成果を求めてしまうところがあると思います。社会的インパクトと事業的インパクトを長期的な視点で検討し、投資を実行する。これが社会に新しい価値を創出するためには必要ではないでしょうか。


2社で大きな社会インパクトを起こしたい

 

筧:これまで述べてきたように、ビジネスの潮流はUXなしでは成立し得ない状況です。そんな中、UXを起点としたサービスデザインと、事業成長のマーケティング戦略を一気通貫で提供する、電通とグッドパッチの共同プロジェクト「X Design Partner」がスタートしました。土屋さんはどのような期待を抱いていますか?

土屋:当社が得意とするUI/UXデザインやサービス開発の領域と、電通が得意とする広告PRやグロース戦略の領域。これらを掛け合わせることで新たな可能性が開けると思っています。 Goodpatch X Dentsu

筧:まだ始まったばかりですが、両社の強みを一気通貫で提供することに、大きなニーズがあると感じています。対等な関係でシナジーを生みながらプロジェクトを発展させていけたらうれしいです。

土屋:僕らのような会社をイコールパートナーとして認めていただけるなんて、ひと昔前は考えられませんでした。今までとは違うことが起こりそうだとワクワクしています。

同時に、両社が提携したことの意義は、マーケットからも問われると思っています。電通とグッドパッチが組んだことでどんな価値が生まれるのか、目に見える成果で証明しなくてはなりません。たとえ大成功でなくても、社会の学びになるような大きな波を起こしていきたいですよね。

筧:ものすごく大きなプレッシャーを受けたつもりでいます(笑)。世の中がアッと驚くような代表事例をクライアントと共につくれるように頑張ります。本日はありがとうございました!