frogが手掛けるデザインとイノベーションの現在・未来No.35
直観力とデータ解析が交わるところ
2023/01/18
この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BXクリエーティブセンター、岡田憲明氏の監修でお届けします。
「クリエイティビティ」と聞いて、何を思い浮かべますか?カラフル?直観的?遊び心のあるビジュアルやアート?では、「データ」という単語はどうでしょう?おそらくパソコンの画面や、ケーブルの束、グラフやスプレッドシートなどが思い浮かぶのではないでしょうか。
マーケティングという視点から見た時、クリエイティビティとデータは、一見、まったく関連性がない要素のように見えるかもしれません。しかし、左右の脳がそうであるように、クリエイティビティとデータも、私たちが考えるよりはるかに密接なつながりを持っています。
未来のマーケティングは「データ」と「直観力」の融合が鍵
frogの業務においても、価値・統一感・満足感の高いカスタマーエクスペリエンスを提供し、さらにビジネスとしても成果を達成できるよう、ブランディングやマーケティングにおいてこの2つを組み合わせることがよくあります。
私は最近、Capgemini Research Institute (CRI) が発行した季刊誌「Conversations for Tomorrow」第4号に寄稿しました。「The New Face of Marketing 」(マーケティングの新たな姿)と題された今号では、変わりつつあるCMO(チーフマーケティングオフィサー)の役割について、いろいろな業界のトップリーダーが意見を述べています。
マーケティングの未来は、確かなデータの分析・解釈と、そうしたデータを、オーディエンスが自分に関連するものとして受け止められるようクリエイティブな形で提示すること、すなわち、データとクリエイティブな直観力とをいかに融合していくかにかかっています。感情に訴え、共感を生むことでお客さまの信頼を高めることができ、それがそのブランドに対する信頼度の向上につながります。
データを活用したクリエイティブな手法
現在、データドリブン(※)なリアルタイムマーケティングを手がけている方も、これまでとは違うデータの使い方を模索し、ブランド戦略やブランドアイデンティティの新しい手法を考案するために、クリエイティビティを高めていくことが必須になってきます。また、クリエイティビティを活用することで、 データが重要な業務のスピードや柔軟性を高めることにもなります。 それをはっきり示しているのが、CRIが最近行ったアンケート調査です。
※ =データドリブン
経験や勘だけでなく、収集したデータをもとに意思決定をする手法。
データドリブンマーケターの79%が、他のマーケターよりもお客さまや市場のニーズに対してアジャイルな対応が可能と回答 しています。「The New Face of Marketing」リポートにも、クリエイティブを活用したデータドリブンマーケティングの利点として、
「変化のスピードが速いトレンドにうまく対応できる」
「お客さまに合わせたパーソナルなアイデアを生み出せる」
「高度にターゲティングされたお客さまのエンゲージメントを可能にする新たなパラダイムにつながる」
等が挙げられています。
このように、クリエイティビティとデータがしっかりと融合されている事例の一つが「ダイナミックバーチャル広告」という革新的な手法です。これは、AR(拡張現実)技術を使って放送チャンネルや視聴者のいる場所に合わせてターゲティングされたコンテンツを表示するというもので、それにはクリエイティブの力とデータを扱うデジタルスキルが同じくらい必要 とされます。
可能な限り多くのオーディエンスにリーチするためには、クリエイティブなコンテンツとそれを発信するために必要なテクノロジー を融合する必要があるのです。さらには、消費者を取り巻くデジタル環境の中で、その広告をどこに配置すれば最も効果的なのかを検討するためにも、データを的確に分析することが必要になります。
この技術はすでに現実の世界で活用されています。実際にどのように行われているか説明しましょう。あなたは今、サッカーの試合を見ているとしましょう。試合が行われているフィールドの後ろには電光掲示板があり広告が表示されています。しかし、テレビで試合を見ている人には、視聴している地域やチャンネルごとに異なる広告が映るようになっているのです。
つまりテレビ局は、ダイナミックバーチャル広告技術 を使って、視聴者に一切気づかれることなく、スタジアムの観客が見ているものとは違うバーチャル広告を実際の広告の画像上に重ねて放送しているのです。この技術により、広告出稿のスケジュールを、ターゲットとする視聴者に合わせてより的確に調整できるようになります。
メタバースやその他の技術を視野に入れて、直観力を強化する
データドリブンなクリエイティブの制作者も、コンテンツの制作にあたって本能的な感覚だけに頼るやり方を変えていく必要があります。協働によるクリエイティブプロセス と確実なデータを得るためのリサーチとの組み合わせを有効に活用すべきです。そして、お客さまの変化に対して、リアルタイムに、しかもお客さまの共感を生み出すような形で対応するためには、クリエイティブな直観力とデータドリブンなリサーチのどちらも同じぐらい重要なのです。
今後さらにメタバースの技術が進んでいくことを考えると、お客さまとブランドをより密接に結びつける、そして真の感動があり、感覚を重視したバーチャル体験を創造していくためには、データを利用する際にクリエイティブの力を活用することが不可欠になっていくでしょう。
リアルタイムのデータを積極的に活用し、そこからインスピレーションを得て、新しいデジタルリアリティーを構築するには、個人の周辺環境を解き明かす必要があります。そのためには、人がどこにいて、誰と、どんな状況でかかわり合っているかを理解した上でメタバース内の世界を構築することが必要です。この新たな領域への探求をリードする優位なマーケティングチームには、説得力のあるストーリーを語れるデータサイエンティストと、リアルタイムなインサイトを活用できるマーケターがメンバーとして含まれていることでしょう。
クリエイティビティとデータとは、もはや対立するものでもなければ、二者択一するものでもありません。これまでもその必要はなかったのです。この2つをどちらも活用できるのがマーケティングの新しい姿です。広告およびメディア の新しい領域での成果を求める企業や組織のために、私たちマーケターはクリエイティビティとデータが融合する地点に到達することができるし、到達すべきなのです。
クリエイティビティとデータの融合やCMOの新たな役割についてさらに知りたい方は、キャップジェミニ・リサーチ・インスティテュートのリポートをダウンロード してください。