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サステナブル時代をつくる、「連携」のヒント─Sustainable d Actions─No.11

中小企業が目指す未来とは?SDGsの取り組みを始めた企業に本音を聞いてみよう

2023/06/07

    「SDGsといっても、取り組めるのは結局大企業だけなのでは?」

    収益性や、事業としての継続性。中小企業がSDGsに取り組みたいと考えたときに、実際に始めるには従来の事業を見直すなど、さまざまなフローや経営判断が必要になります。そのようなハードルと向き合い、地方の中小企業がまずできることを共に考え、SDGsへのアプローチを支援する目的で地方銀行・地元メディア・電通グループが共創型のSDGsプロジェクトを発足。各地の企業が「チーム」となってSDGsに取り組める場、さらには多くのプレーヤーを巻き込み推進していく上で重要な、「発信」の場となるプラットフォームを開設しました。

    前回の記事では、企画の背景や各地の課題とクリエイティブのポイント、中小企業ならではのSDGsへのアプローチのヒントなどについてご紹介しました。今回は、同プロジェクトでクリエイティブディレクションを担当した電通の外崎郁美が、広島と福岡、それぞれの地域で実際にプロジェクトに参加した企業の方に、SDGsに取り組む意義や、実際に参加して見えてきたことを伺いました。

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    社会貢献につながる事業モデルで躍進を続ける
     


    広島発の介護・人材サービス会社 「シューペルブリアン」

    外崎:まずは「変わるけん。」をスローガンにした広島のSDGsプロジェクトに参加されたシューペルブリアンの取締役執行役員、亀井隆幸さんにお話を伺います。シューペルブリアンは、事業そのものがダイレクトに、今の日本が抱える課題解決につながっていますね。改めて御社の事業についてお聞かせください。

    亀井:弊社では、代表が社会課題を解決したいという哲学を持って事業を進めています。たとえば障がい者の就労支援や、地域を支える介護サービスの提供など、時代の変化に合わせて社会のニーズに応えています。少子高齢化の課題にも新しい形で応えて豊かな介護サービスが提供できるように、DX化なども進めています。

    地銀地元メディア共創SDGs#2_写真01

    外崎:はじめから社会貢献につながる事業を進められている中で、SDGsを意識するようになったきっかけはありましたか?

    亀井:「SDGs」という概念を意識することで、社会から求められていることに、より明確に応えることができると考えました。地域のみなさんに評価され、選ばれ、根本的に喜ばれる事業をするにはどうしたらいいかを常に考えているので、必然的に事業のアイデアは「社会の役に立つか、社会課題の解決につながるか」という発想になります。SDGsに取り組むことは、さらに地球規模で定義された枠組みに対して、私たちに何ができるか?ということを考えられるチャンスになると思いました。

    外崎:「変わるけん。」プロジェクトでは、御社の事業がSDGsの何番の目標に当てはまるか、広島銀行のサポートによるすり合わせがありましたね。そこでの気づきはありましたか?

    亀井:客観的に事業を見てもらい、点数をつけてもらったことには大きな意味がありました。また社員も改めて自社事業を振り返ることができ、社会とわれわれの感覚をそろえることができました。一方で、当社が目指していることと、現状にはギャップがあるのだと実感しました。特に課題を感じたのは目標5の「ジェンダー平等を実現しよう」です。われわれがいかに「男社会」にいるか気づかされ、社の実態を認識できたので女性の積極的な採用や、新たなポストへの配置など意識的に取り組むようになりました。

    外崎:多くの企業が課題を感じている分野ですね。ほかに御社の事業に直結するものはありましたか?

    亀井:目標11の「住み続けられるまちづくりを」についても、介護などの産業の基盤をつくる上で貢献できる事業があるのではと考え、具体的な目標を再設定するきっかけとなりました。どうしても目先の利益を出すことに必死になってしまいますが、実態として至らないところを認識して考え直すきっかけになり、当社が取り組む事業の価値に気づけました。

    SDGsロゴ05-11

    心に届けられる“情緒的アプローチ”の重要性

    外崎:今回、「変わるけん。」プロジェクトへの参加を決めた理由を教えてください。

    亀井:社会にとって存在意義がある企業が選ばれることを考えると、SDGsに貢献し、それをちゃんと伝えていくことはマーケティングの視点でも合理的です。われわれのような中小企業は、大量に広告費を投下してコミュニケーションすることはできません。一方で、SDGsは学生にも共感を持ってもらいやすいテーマです。地元である広島でSDGsの取り組みを促進でき、それを伝えていくプロジェクトが始まったということで、覚悟を持って進めようと代表が決断しました。

    外崎:まさに地元でひとつのチームになることで、各企業のコミュニケーションを後押ししているプロジェクトなので、ご参加いただけてうれしいです。実際に参加されて気づいたことや反響はありましたか?

    亀井:弊社でテレビCMを出稿するのは初めてでしたが、このような形で公に意思表明できたことで、社としての覚悟を示せたと思います。その意識が社内にもじわじわと浸透したのか、社員がクライアントからSDGsに関する質問を受けたときに、スラスラと答えられているのを見たときはとてもうれしかったです。

    社員一人ひとりの意識や言動が、社会に対する姿勢そのものだと思うので、こうした形で広がっていくのは理想です。社内の雑談用のチャットでも、ゴミを出さない工夫や、リサイクルの話など、個人的なSDGsの気づきについて投稿されることもあります。社外への発信と社内の意識が結びついたと実感できました。

    地銀×メディア共創SDGs#2_写真02
    画像をクリックすると、実際のウェブサイトが表示されます。

    外崎:初めてのテレビCM制作はいかがでしたか?

    亀井:テレビCMと「変わるけん。」プロジェクトのウェブサイト共通で「すべての人に、居場所はある。」というコピーをいただいたことがとても良かったです。もともと弊社が持っていた信念や想いを、情緒面も含めて世の中に届けられる形で言語化していただきました。SDGsの宣言書だけだと形式的なもので終わってしまいますが、感性で表現して届ける情緒的アプローチがとても大事だと気づけました。

    外崎:クリエイティブ担当としても、事業を誰もが分かる形に“言語化”する意義は大きいと感じています。情緒的アプローチが大事だと思われる理由はどういうところですか? 

    亀井:広島の中小企業のテレビCMを見ると、事業の告知に終始するものが多いですが、単に事業を行っているという事実だけでなく、「思考」や「目的」を伝えるアプローチに大きな意味があると思いました。「人材サービスをやっています」「介護サービスをやっています」だけだと、事実の羅列なので想いを伝えることはできないですが、「すべての人に、居場所はある。」という弊社が目指す世界を見せられたのは、新しい体験でした。

    外崎:事業やサービスの内容だけでなく、どんな「想い」や「目的」を持っているかは、生活者にとっても企業やサービスを選ぶ理由になっているのを感じますね。最後に、「変わるけん。」プロジェクトに求めることや、伝えたいことはありますか?

    亀井:現在、特に目指しているのは地域との連携です。介護事業にとどまらず、たとえば保育や障がい者支援に関する事業を組み合わせて、連携しながら地域が抱える課題に取り組みたいと思っています。企業だけでなく、広島の若い方とつながれる機会が持てたらうれしいです。これからの介護業界には、いろんな新しい仕組みやビジネスモデル、アイデアを考えるチャンスがあると思っています。社会課題を自分ごと化して社会を変えていきたいという意思のある方と、アイデアを持ち寄りたい。世の中を変えられるわくわくすることを、ぜひ一緒にできたらうれしいです。

    職人の想いもリスペクトしたい


    福岡でカステラの切れ端を商品化した「福砂屋」

    外崎:九州を代表する老舗製菓店であり、いち早く食品ロスへの取り組みを始めた「カステラ本家 福砂屋(ふくさや)」の取締役、殿村祐美子さんにもお話を伺います。福砂屋では、2019年に日本で食品ロス削減推進法が施行される以前の2018年に、製造工程で生まれる「カステラの切れ端」を加工して商品化した「ビスコチョ」を発売されていますね。以前は廃棄されていた切れ端を活用するサステナブルな取り組みは大きく評価されています。

    殿村:「ビスコチョ」がきっかけとなり、2021年 に福岡県知事賞、2022年 に環境大臣賞をいただきました。受賞理由は、ビスコチョを通じて食品ロスに取り組んでいることに加え、商品販売の収益の一部をフードバンクに寄付していることと、3R活動の推進に貢献していることでした。ビスコチョの取り組みを始めた当初は小さくスタートしたつもりでしたが、反響が大きく栄えある賞を2つもいただけるなんて想像もしていなかったです。

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    カステラの切れ端を商品化することで食品ロスの課題に取り組む「ビスコチョ」。

    外崎:SDGs目標12「つくる責任つかう責任」の食品ロスの削減に貢献されていますね。なぜ食品ロスに注目するようになったのでしょうか?

    殿村:もともと、カステラの製造工程で生まれる切れ端を廃棄していたことが気になっていたんです。高齢者施設にお渡ししたり、社員に還元したりしていた時期もあったのですが、コンプライアンスの観点から廃棄せざるを得なくなりました。

    福砂屋のカステラは1624年の創業時から変わらず、職人による「手わざ」で製造しているので、端の部分にまで職人のこだわりが込められています。職人へのリスペクトを持ちながら廃棄せざるをえなかったカステラの端の部分を商品化する方法はないか、と模索し続けていたところ、2017年に当時高校生だった娘が学校の授業で世界の食品ロス問題に触れていたことをきっかけに、「この問題を解決するために福砂屋ができることは?」と具体的に考え始めたんです。
     
    外崎:娘さんとの会話がきっかけだったのですね!

    殿村:ちょうど福岡の街でもSDGsのピンバッジをつけて歩く人が出始めていたころでした。それから福岡県に点在していたフードバンクに片端から電話をかけて、フードバンクが今どんな活動をしていて、どういうことに困っているのかをヒアリングして、福砂屋として何ができるかを模索しました。そこで考案したのが「ビスコチョ」です。 

    切れ端をそのまま焼いて「ラスクです」と言っても新しさがなかったので、老舗のカステラメーカーらしい独自のコンセプトを探しました。ビスコチョ(bizcocho)は実は、カステラ発祥の地のスペインではカステラのルーツともいわれており、「biz=二度」「cocho=料理する」という二度焼きの食品を意味します。

    外崎:SDGsにも貢献しながら、カステラだからこそ実現できて、長い歴史もたどれる商品になったのですね。
     
    殿村:福砂屋の創業400年の節目が近づいていたので、長きにわたって商売を続けてこられた感謝の想いを社会に少しでも還元できる取り組みにしたいと思っていたんです。

    商品に「コンセプト」をつけて、企業の想いを届ける

    外崎:「ビスコチョ」の取り組みは御社の事業とSDGsへの貢献をとてもいい形で両立されていますが、「収益につながるのか?」という懸念でSDGsの取り組みにハードルを感じている企業も多い状況です。福砂屋の場合は、事業として成立させるためにどのような工夫をされたのでしょうか? 

    殿村:SDGsは「ボランティア」と思われたり、「収益」の話をするのは良くないイメージがありますよね。ですが企業としての継続性や社員の労働力を考えると、企業として収益を確保するのは必須です。そこで廃棄部分をそのまま安価な値段で売るということではなく、新たにひと手間、ふた手間加えることで商品に付加価値をつけました。さらにフードバンクに寄付するというコンセプトを加えて、「食品ロス」と「フードバンク支援」の二重の意味づけをし、それをちゃんと伝えることで、お客さまに共感していただけるものを目指しました。これまでこのように「コンセプト」をつけた商品を発売したことはなかったので、完全に新しい取り組みでした。もし何もいわずに単にパッケージに入れて販売しただけでは、売れなかったかもしれないと思います。

    外崎:「伝えること」が事業の可能性を伸ばすことにもつながったのですね。
     
    殿村:実は福砂屋はこれまで、新商品を出すときにもあえてプロモーションをしない企業でした。けれど今回のビスコチョで、いいことに取り組んだときは、知ってもらうために動くことも大事なのだと実感しました。

    外崎:「いいことをしてもあえて言わない」「言う必要はない」と考えられている日本の企業が多いのは、なぜだと思いますか?

    殿村:「言わないこと」が美徳とされる文化があると思います。謙虚さを大事にする日本らしい部分ではあると思いますが、言わないから知ってもらえなくて続かない、というところはあるなと。いい形で伝える方法は実はたくさんあるのだと今、学んでいるところです。

    プロジェクトで出会った子どもたちの質問をきっかけに、


    「循環型社会」への取り組みを開始

    外崎:「伝えること」の重要性を感じられていた中で、「未来をつくろう」をスローガンにした本プロジェクトにもご参加いただけたのですね。他に決め手はありましたか?

    殿村:福岡でこのプロジェクトができたと聞いて即決しましたが、理由は「未来リーダーズ(=地元の子どもたち)」が取材に来るというコンセプトです。企業にとっていろんな方のご意見は貴重ですが、子どもの意見を聞ける機会はあまりありません。さまざまなお菓子があふれる時代に、子どものみなさんがカステラをどう捉えるか?安全安心なお菓子だからこそ、子どもたちに知ってほしいと思っていたので、直接対話できるのは大変貴重でした。

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    「未来をつくろう」カステラ本家 福砂屋の取り組み。画像をクリックすると、実際のウェブサイトが表示されます。

    外崎:未来リーダーズが福砂屋に来て、工場を見学し御社のみなさんに取材して書いた原稿がそのまま新聞広告にもなりました。実際に地元の子どもたちと会話したり、原稿をご覧になったりしていかがでしたか?

    殿村:大人は難しい言葉を使いがちですが、相手が子どもということで、取材を受けた副社長や工場長も、いかに分かりやすく説明するかを考えて準備して、いつになく緊張していました(笑)。子どもの意見はストレートで、「大人はこういう見方をしない」と思える独自の言葉がちりばめられていて新鮮でした。子どものリアルな声は企業にとって宝です。

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    未来リーダーズが福砂屋を取材した原稿が新聞広告に。

    外崎:未来リーダーズが楽しそうにビスコチョを試食していたのも印象的でしたね。地元の子どもたちのこのような原体験は、大人になってからも生きてくるものだと思います。「未来をつくろう」プロジェクトに参加されて、御社に変化はありましたか?

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    福砂屋を取材した地元の子どもたち「未来リーダーズ」。新聞広告やウェブサイトに使用する写真も未来リーダーズによる撮影。

    殿村:実は、カステラの製造には卵をたくさん使用しているため、廃棄する「卵の殻(から)」も大量です。この殻を何かに使えないかとずっと考えていたのですが、取材に来てくれた未来リーダーズのひとりから、「卵の殻のリサイクルは考えていないんですか?」と聞かれまして、今動き始めているんです。

    外崎:なんと、未来リーダーズの質問がきっかけだったのですか?

    殿村:卵の殻についても長らく悩みつつ止まっていたのですが、このプロジェクトで子どもたちに「リサイクルにもぜひ取り組みたい」と約束したことを、嘘にしたくないと思って具体的に動き出しました。

    卵の殻をリサイクルし、それを利用した堆肥(たいひ)でお茶を育ててもらう取り組みです。福砂屋には一番茶を使ったカステラもあるので、カステラ製造に使う卵の殻でお茶を育てるという「循環型社会」の推進に踏み出しています。彼らとの対話は、子どもを裏切らない企業であり続けたいという思いを持たせてくれて、わが社のモチベーションにもつながっています。 

    外崎:さらに素晴らしい取り組みが生まれているのですね。もし今後「未来をつくろう」プロジェクトに求めることがあれば教えてください。

    殿村:異業種との交流の機会はあまりないので、参加企業のみなさんとオンラインでもリアルでも意見交換の場があったり、雑談ができるだけでもつながれるとうれしいです。卵の殻を堆肥にする取り組みも、お茶農園の方との雑談の中で「卵の殻がお茶の栽培に適している」というお話を聞いて生まれたものでした。ヒントを得るためには交流の場はとても大事ですね。

    外崎:貴重なお話ありがとうございます。私も客観的な立場から企業のみなさんの交流の場をつくったり、コミュニケーションのサポートができたらと改めて思いました。