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サステナブル時代をつくる、「連携」のヒント─Sustainable d Actions─No.10

地元の“共創”でチャンスが広がる、中小企業のSDGs

2023/05/30

「SDGsといっても、取り組めるのは結局大企業だけなのでは?」

生活者にも企業にも、SDGsが広く認知される時代。しかし、実際に達成に向けた取り組みをスタートするにあたり、ハードルの高さを感じている中小企業はまだ多くあります。

そのハードルを越えるきっかけをつくり、地方の中小企業による取り組みを支援するため、電通グループは地方銀行、地元メディアとともに新たなプロジェクトを発足。各地の企業が「チーム」となってSDGsに取り組める場、さらには多くのプレーヤーを巻き込み推進していく上で重要な、「発信」の場となるプラットフォームを開設しました。

同プロジェクトは、2021年広島でのローンチを皮切りに、岡山、福岡ほか全国7地域(2023年4月4日現在)で展開中。本記事では、この仕組みを考案し、広島をはじめ西日本エリアでのローンチを手掛ける電通西日本の頼本高成氏、福岡でプロジェクトを推進する電通九州の吉田考貴氏、3地域においてクリエイティブディレクションを担当する電通の外崎郁美氏が鼎談しました。企画の背景や各地の課題とクリエイティブのポイント、中小企業によるSDGsのアプローチのヒントなどについてお伝えします。

地銀×メディア共創SDGs_メインカット

複数の企業がチームとなることで、SDGsへの取り組み意識を高めて発信できる“場”をつくる 

──まずは皆さまの普段の業務内容と、本プロジェクトでの役割についてご紹介ください。

頼本:電通西日本の広島支社でビジネスプロデュース(BP)部と、広告領域にとらわれず新たなビジネスモデルを模索していくプロジェクト推進部を兼務しています。本プロジェクトでは、企画・立案から広島・岡山・他中四国エリア全域のローンチを手掛け、現在も全体の統括プロデューサーとして、新たな展開や他県での立ち上げ時のサポートなどを行っています。

吉田:電通九州で統合ソリューションチームのプロデューサー、プランナーを務めています。所属する「グロースマーケティング部」は、クライアントのパートナーとして各社の伸びしろを見つけ、成長を後押しすることを使命に戦略の立案からアウトプットまでを幅広く手掛けており、本プロジェクトでは福岡の統括プロデューサーを担当しています。

外崎:電通でコピーライター・プランナーとして、複数企業との合同プロジェクトの立ち上げや、商品開発から広告のアウトプットまで、幅広い領域で案件に関わることが多いです。本プロジェクトでは、立ち上げ時のコンセプト設計から全体のクリエイティブディレクションを行っています。

──このプロジェクトの背景として、各自の立場から地方の中小企業によるSDGs推進にどのような課題があると感じていたかお聞かせください。

頼本:現在SDGsという言葉は広く認知され、企業による取り組みも当たり前のようにいわれていますが、ほんの3~4年前までは、大手企業では進んでいたものの、地方の中小企業にとってはコストやノウハウ面などで、アプローチ自体のハードルが非常に高い状況でした。

私が担当する広島銀行にも、当時取引先の企業から「SDGsには取り組んだ方がいいのか?」という相談が多くあったそうです。中小企業の経営者は、関心があっても何から始めたらいいのか分からない状況。そこで、各企業の実情をご存じかつ、地域の経済を担っている銀行と私たちが一緒になれば、中小企業のSDGs推進におけるハードルを壊して、一歩を踏み出せるようなプロジェクトができるのではないかと考えました。

吉田:私が感じていたのは、SDGsの「発信」にまつわる課題です。すでにSDGs推進に取り組んでいても、わざわざ広告やホームページなどでお金をかけて発信する必要性を感じている企業は少なく、「そもそも発信するほど取り組めていない」といった声もよくお聞きします。

しかし、まず取り組みを始めている組織がしっかりメッセージを発信し、周りを巻き込んでいくことが大切です。SDGsへの関心が高い若年層が、そうした取り組みを進める企業の商品やサービスを選択する意向があることも分かっています。活動している実態があるのならば、積極的に発信をしていかないと、今や生活者から選ばれなくなる可能性もあるため、発信するための“場”をつくることは重要だと感じていました。

外崎:日本企業には「わざわざ発信しないことが美徳」という考え方もまだ残っているように感じますが、目標を共有したり、企業同士が連携することでたくさんのヒントが得られ、さらにSDGsを推進していく力になると考えています。そのため、クリエイティブの立場でSDGsに携わるとき、地域の皆さんが“乗りやすい・乗りたくなる”表現や場をつくることが重要です。

頼本:SDGsに取り組むだけで終わらず、それを発信することは、従業員のインナーモチベーション上げることにもつながります。自分の働いている会社が世の中に貢献していて、それを周囲も知っていることは社員の満足度に大きく寄与します。そこで、内外に対してきちんと発信をするために、地方銀行に加えて、発信をする上で欠かせない地元のメディアとともにこのプロジェクトを始めました。

「地方銀行」と「地元メディア」は、地元企業との連携に欠かせない存在

──地方銀行および地元メディアと一緒にプロジェクトを推進する意義や利点は、どのようなところにあるのでしょうか?

頼本:本プロジェクトの目的は、地域の中小企業によるSDGsを推進し、さらにはそれを事業に活かしていただいて各地の経済に貢献することです。この目的を果たすためには、多くの地元企業にご参加いただく必要があります。そうした企業との連携のために、地域に根ざした銀行は欠かせない存在だと感じていました。

地方銀行は、地元企業との間につながりが多く、特に企業経営陣との強い接点をお持ちです。銀行と一緒に企画を進めることで多くの企業と出合えると思いましたし、プロジェクトをより加速させられると考え、真っ先に提案をしました。

また、地域に特化したプロジェクトでの情報発信となると、やはり地元放送局の周知力が圧倒的に強い。地元メディアは、地元企業への貢献を図りながら、地域の未来を見据えた新たな活動を模索していたので、事業共創のお声がけをしました。地元への投資を積極的に行っていくという点からも1県1放送局とタッグを組んでいます。

吉田:このプロジェクトにおける地方銀行の影響力はとても大きいと実感しており、プロジェクトの提案や話をしている時に、地方銀行が地元の中小企業を全力で支えている姿勢を目の当たりにして驚くことも多いです。九州では、銀行、テレビ局、新聞社、電通が参画していますが、この4社がいて初めて成立する取り組みだと感じています。

──プロジェクトの中で、参加企業に対してはどのようなサポートが行われるのでしょうか?

頼本:地域ごとに地元企業のSDGsを推進するためのプラットフォーム(ウェブサイト)を構築し、そこをベースとして各社の取り組みを伝えたり、新たなSDGsに取り組む上でのサポートをしています。

ポイントとなるのは、放送局など各地域のメディアが参画しているため、これまでコスト面などでマスメディアへの出稿が難しかった中小企業も、数社がチームとなることで広告を出せる点です。広告出稿をきっかけとして、自社のビジネスをSDGsの視点で見直すこともできますし、プロジェクトへの参加を通して自社にとって始めやすいSDGsに気づけたり、他企業とタッグを組んでの挑戦を始めることもあります。

外崎:地方の中小企業にとって、普段広告にかけられる費用は多くないため、これまで新しい取り組みを始めたときに発信する手段が限られることが大きな課題でした。ですので、このプロジェクトでSDGsにチャレンジして発信をしていきたいと思ったときに、通常では難しいテレビCMや新聞広告にチームとして出稿できるメリットはとても大きいと思います。また、参加企業の皆さんの取り組みを言語化し、映像や紙面などの形にすることで資産にもなるので、クリエイティブ面でのサポートもメリットと感じていただけているようです。

事例1:広島では「方言」に乗せて、県民全体に“新たな平和”への意識を届ける

──実際の事例についてお聞きします。まずは第一弾のローンチとなった広島で、プラットフォームの構築や取り組みのポイントになった点を教えてください。

頼本:地域に向けたプラットフォームを考える際、各地独自の文化や特性をつかむことが非常に大事になります。同じ言い回しをしても、伝わるニュアンスが変わってくるからです。そこで、その土地をよく知る内部の人間と、外から客観的に見られる人間を集めたチーム編成にしました。

他県でも言えることではありますが、広島は「人口流出」と、それに付随する「後継者不足」が県をあげての大きな課題になっています。そうした背景から、県民だけでなく、県外の学生や社会人にも、広島の魅力や、地元にこんな良い企業があるということをきちんと伝えられるものとして、外崎さん率いるクリエイティブチームに考えてもらった企画が「変わるけん。」です。

地銀×メディア共創SDGs_広島事例1画像をクリックすると実際のウェブサイトが表示されます。

外崎:県民の気持ちが分かる人がスタッフにいた方がいいと思い、広島出身のコピーライターにチームに入ってもらい、考えてもらったのがこのスローガンです。広島が長年向き合っている「平和」というテーマも意識しながら、“自分ごと”として捉えてもらえるものを目指しました。

平和を守る取り組みもSDGsも、国や大きな企業がやるものと思ってしまいがちですが、小さな企業でも、個人レベルでも取り組めることはあります。「みんなでつくっていく」ために、企業だけではなく県民みんなにとっての宣言になるようなスローガンにしました。「県」に掛けて方言を使ったところがポイントで、「○○が変わるけん。」といった形でさまざまな展開ができます。

頼本:ほかにも広島では、参加企業と地域との接点をつくるために、リアルイベントを年に3~4回開催しています。既に取り組んでいる企業の発信に加え、さらに取り組みを発展させるための場を提供しています。例えばコピーをつくることで企業側の意識が高まり、「せっかくいいコピーをもらったのだから、もっと推進したい」と、追加のご相談をいただくこともあり、そうした企業の状況や相談内容に合わせて、幅広くサポートを行っています。

地銀×メディアSDGs_広島事例2

事例2:遠慮がちな県民を「あえて前に出す」企画で、ハードルを越えた岡山

──続いてローンチされた岡山についてはいかがでしょうか?

頼本:基本的な課題は広島と同じでしたが、岡山でよく使われる「桃太郎」や「晴れの国」などの既存のイメージに埋もれないように、かつ岡山らしいモチーフを探すのに苦労しました。

地銀×メディア共創SDGs_岡山事例1
画像をクリックすると実際のウェブサイトが表示されます。

外崎:そこで考えたのが「未来へどんぶらこ」というスローガンで、未来に向けていろんな果実が流れていくイメージのクリエイティブです。担当アートディレクターと相談して、既に県民にとって愛着のある桃太郎や桃のイメージを少し発展させて、シンプルで汎用性のあるモチーフにしました。青い3本のラインは、岡山の三大河川をイメージしています。

企画を考える上でヒントになったのが、岡山の皆さんから“とても遠慮がちな県民性”だとお聞きしたことです。皆さんが共通しておっしゃっていたのが「でしゃばりたくない」ということでした。また、恵まれた土地で災害が少なく、気候も良いため農産物などの特産品も多い。だからこそ、あえて自分から前に出て何かをしようという雰囲気になりにくく、SDGsにまつわる課題も自分ごと化されにくいのでは?という意見が出ました。そこで、岡山では逆に県民を“前面に出す”企画にしました。

「未来へどんぶらこ」というスローガンは、「どんぶらこ」に“Let’go”の意味を込めて、県民の皆さんに楽しく参加してほしいという想いを込めています。参加企業の方に、この言葉を誰もが知る「桃太郎」の替え歌で必ず歌ってもらうフレームを作って、セリフを言うのが恥ずかしいなら、いっそ歌いましょうという企画にしました(笑)。結果的に撮影の場も盛り上がりました。

頼本:ローンチ時には、まず「県民篇」という形でテレビCMの出演者を一般募集しました。全然集まらなかったら、プロジェクトの関係者に協力してもらわないと……とドキドキしていましたが、ふたを開けてみたら予想以上の応募がありましたよね。

地銀×メディア共創SDGs_岡山事例2
画像をクリックすると実際のCMが見られます。

外崎:おそらく一歩を踏み出すところにハードルがあるだけで、それを越えるきっかけは意外とシンプルなんだと実感しました。岡山ではラジオ放送局にもご協力いただき、ラジオCMも一般の方のリアルなコメントでつくりました。「SDGsに向けて自分にできることは?」と取材した内容をつないでいます。そんなふうに、いかに自分ごと化をしてもらうかがポイントになりました。

事例3:2030年に大人になる子どもたちの参加が、福岡の未来を変える

──福岡では、また違う視点から企画したそうですね。

吉田:福岡は人口が増えている印象を持たれがちです。確かに、増え続けている地域もありますが、県全体で見るとやはり大学進学と同時に県外へ流出しているのは同じです。そうした課題を念頭に、県内の子どもたちを「未来リーダーズ」という形で主役に立てたのが福岡の最大の特徴です。SDGsの達成期限とされている2030年に大人になっている今の子どもたち自身が、企業の取り組みを取材し記事にして発信していくこと自体に意味があると考えての企画です。

地銀×メディア共創SDGs_福岡事例1
画像をクリックすると実際のウェブサイトが表示されます。

吉田:子どものうちに福岡の好きなところや地元について考えたり、向き合う場をつくることは非常に大切だと思います。参加企業側も、子どもと一緒に活動できることへの反応はとてもいいです。

実際の取材では、子どもたちが企業の担当者に対して深く突っ込んだ質問をすることもあります。そうすると、企業側も「きちんと向き合って答えよう」「SDGsについてもっと考えよう」と再認識して、発展的な会話が生まれる。彼らの参加は、今回のプロジェクトにおいて非常にプラスになっていると感じます。

地銀×メディア共創SDGs_福岡事例2
「未来リーダーズ」が書いた記事を西日本新聞に掲載。

外崎:SDGsでは「誰一人取り残さない」ことを誓っています。そこには当然子どもも含まれますし、未来を生きる子どもにとっていい世界にできなければ、目標は達成できません。大人になって就職などを機に県外に出ると接点がなくなるので、子どものうちから地元企業と関わりを持ち、地元のことを知って絆づくりをしておく意義はとても大きいと思います。企業側の人たちにとっても、小学生にも分かる説明を考えることで新たな気づきを得るなど、相互にいい作用が生まれていると感じます。

中小企業こそ、“SDGsで収益を生む”取り組みを!今後は全国的なプロジェクトへと発展させたい

──これまでの取り組みをふまえて、中小企業がSDGsにアプローチする上でのポイントと感じていることがあれば教えてください。

頼本:地方の中小企業にとって、新たな取り組みをする際に資金力は大きなハードルとなるため、SDGsにおいても、社会に貢献しながらきちんと収益につなげていく形が一番取り組みやすいはずです。

事業で収益が上がらなければ持続可能にはならないので、収益を生むやり方を考えるのは非常に重要ですが、現実にはなかなか難しく「SDGsでもうけていいのか」「SDGsでは収益につながらないのでは」といった懸念を払しょくできていない状況です。地元のそうした企業に対して、社会課題に取り組みながら事業として収益を上げていくことの重要性をしっかりお伝えし、一緒にアクションを起こしていくことが大事だと思います。

──今後の展望についてお聞かせください。

頼本:現在、北海道、広島、岡山、山口、高知、愛媛、福岡の7道県でプラットフォームをローンチしています。実施エリアの拡大はプロジェクトの第1段階で、今広島では第2段階としてローンチしたウェブサイト自体の価値強化に取り組んでいます。

「このサイトを見に来れば、県内の最新のSDGs情報が常に分かる」と、企業だけでなく生活者の皆さんにも信頼して使ってもらえるサイトにしたい。さらに、最終的には全エリアのウェブサイトをつなげ、全国的な取り組みとしてこのプロジェクトを推進していければと考えています。

外崎:クリエイティブとしては、まずは各企業の強みや特徴を見つけ、コピーやスローガンをつくるなどコミュニケーションをサポートすることから始めたいと思っています。言語化することで、企業としての目標を“可視化”するのは事業を進める上でも重要だからです。今後は、さらに一般の方が参加していけるような企画を考えたい。参加者が増えれば、企業だけではなく市民もチームになれます。本プロジェクトは「共創」が大きなテーマなので、枠組みを越えた場づくりに取り組み、各地域を盛り上げていきたいですね。

この取り組みについては、「Transformation SHOWCASE」にも関連記事 が掲載されています。
・広島事例の関連記事はこちら
・福岡事例の関連記事はこちら

 

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